―――歴史家『トゥキュディデス』
Reactions of the Powers
「グヌヌヌ…おのれぇ…!」
ゲヘナ学園『万魔殿』の執務室でこの組織の頭目である『羽沼マコト』は悔しそうに身体をよじりながら苦悶の表情を浮かべていた。
「おぉ!あの角度は相当悔しいときのものですね!」
書記のチアキはそんなマコトの様子をいいネタを見つけたと言わんばかりに写真に収め、
「はぁ~…マコト議長、いい加減に機嫌直してくださいよ。」
万魔殿戦車長のイロハは呆れながらマコトに声をかける。
ゲヘナはあの戦争でほとんど無干渉を貫いていた。
事実、ゲヘナの損害としてはカクカクヘルメット団のアジトとしていた廃墟の倒壊くらいとさして気にするようなことではない。
そんな中で美味しい所を頂こうと暗躍、カイザーから決して安くはない『口止め料』もせしめることができた。
結果、ほとんど痛手をこうむることなく万魔殿は大金を得ることができたのだが…
「おのれぇ…!アビドスのみならずミレニアムまでぇ…!」
問題は自分たちが独占していたと思っていた情報をアビドスとミレニアムも所有。
自分たち以上に有効に使いゲヘナ以上の大金を『合法的』に奪い去った。
しかも、調査しか行っておらず自分たち以上に無関係だったミレニアムも自分たち以上に美味しい思いをしているではないか。
「なんだというのだ…!?300億以上など万魔殿何年分の予算なのだ…!?」
「イロハちゃん、それだけあれば虎丸何両揃えられますかね?」
「そうですね…。ざっと1個連隊は軽く揃えられるでしょう。」
虎丸、詰まるところティーガーⅠは万魔殿の財力をもってしても配備数は少ない。
それを一個連隊軽く揃えられるほどの大金をW.G.T.C.は契約というだけでポンとミレニアムに渡したのだ。
ミレニアムが早々に軍拡に走るとは思えないが悩みの種には変わりない。
「グアアアアア!!!これなら我々もアビドスにもっと与していればああああああ!!!」
「だから落ち着いてくださいよ、議長。後悔先に立たずって言うじゃないですか。」
「それもこれもイロハにチアキィッ!貴様らが対処しなかったばかりにぃッ!!!」
気だるげに諫めるイロハに対しマコトは目をかっ開き二人を怒鳴りつける。
もし、あの時ミレニアムの調査隊を妨害できていれば情報はゲヘナが独占できていた。
それを取り締まるどころかあろうことか仲良く協力し合って調査し情報は折半したというではないか。
当然マコトはそのことを責めるが…
「だったら、ちゃんとそう指示してくださいよ。」
「そこは臨機応変に対応するのが普通だろ!?」
「でも、ミレニアムの調査があったからこそ我々もおこぼれに与れたのでは?」
「ぐ、ぐぅ…!」
のらりくらりと追及をかわすイロハ。
彼女の言うことにも一理ある。
ミレニアムの地質データがあったからこそカイザーは焦ったというのは決して間違いではないのだから。
「それにあの場でもめ事を起こしたとしてもあちらにはW.G.T.C.の戦車一個小隊がいたんですよ?」
「何のために貴様に虎丸を二個小隊与えたと思って…!」
「…フフッ、その倍あったとしても逆立ちしても勝てないでしょうね。」
「…なんだと?」
自嘲的に語るイロハを見てマコトにも冷静さが戻る。
棗イロハ、彼女の戦車乗りとしての技量はゲヘナの頂点と言ってもいいだろう。
そんな彼女だからこそ…アビドスの戦車の異常性が理解できる。
「速度は虎丸の倍、榴弾砲クラスの滑腔砲、虎丸をはるかに凌駕する射撃管制システムに未知の材質の軍用戦車主砲すら寄せ付けない装甲…。どこであんな代物を手に入れたのか…。」
「…質問だが、アビドスの戦車隊に我々の…。」
「勝てませんね、確実に。たとえ倍の数を揃えてもこちらが回復不能の打撃を受けることを想定して勝率は2割がいい所です。」
配備数こそゲヘナはアビドスを圧倒している。
戦いの基本は物量だが…こうも『質』に隔絶した差があると物量など意味をなさなくなる。
さらに、
「もっとも、アビドスとゲヘナが戦争になったら真っ先にネイト社長が強襲を仕掛けてくるでしょう。」
「ぞっとすることを言うんじゃない…!」
それらの戦力を凌駕するのが…ネイトだ。
風紀委員どころか『ゲヘナ最強』の空崎ヒナや1個師団以上の戦力であっても手も足も出ない強さ。
さらに圧倒的戦力差を物ともしない指揮能力にそこまでの戦力を鍛え上げた教育力。
まさに『特異点』というよりほかない。
そんなネイトが…万魔殿に襲い掛かる。
いかに傲慢な性格をしているマコトであっても…そんな事態など考えたくもない。
そして…
「奴だけではない…!アビドス…いや、W.G.T.C.は一体どんな兵器を…?!」
マコトの頭を最も悩ませているのはアレだ。
キヴォトス各地に降り注いだ…『破壊の流星』。
あの流星がゲヘナに容赦なく叩きこまれる。
あんな代物、長くキヴォトスの裏を見てきたマコトであっても存在を知らな…いや、
(まさか…『アイツ』と接触して…!)
あんな代物を生み出すことができる存在を知っている。
しかし、そいつはすでにキヴォトスにはいない。
「…いずれにしても話を聞く必要があるな…。」
「議長?」
「何でもない。」
鋭くした眼差しで窓の外を眺めるマコト。
「…いいか、今後はアビドスと敵対するような真似は絶対に避けろ。」
「了解しましたっ!」
「言われなくても。もし喧嘩売ろうと言い出したら議長ふん縛ってアビドスに引き渡すつもりです。」
マコトの指示に皮肉交じりで答えるイロハだが、
「あぁ、その意気だ。」
「…え?」
「もし、私が血迷った時はぜひそうしてくれ。」
何時もならツッコミの一つでも飛んでくるはずだがマコトはイロハの言葉をすんなり受け入れた。
「アビドスとW.G.T.C.はキヴォトスではかなり穏健な組織だ。上手くいけば友好関係を結べるだろう。サツキに命じて調査も進めている。」
そう言い、マコトは向き直り…
「今後アビドスとW.G.T.C.は『エデン条約』以上の『最重要案件』として扱う。全てはゲヘナ繁栄のため、うてる策はすべて打つぞ。」
その目に鋭い光を宿しイロハとチアキに命じる。
あまりの貫禄に二人はザッと姿勢を正す。
そこにいたのは先ほどまで悔しさに悶えていた変わり者ではない。
ゲヘナの頂点に君臨する『議長』羽沼マコトの姿だった。
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正しくアビドスとW.G.T.C.、そしてネイトを理解し始めているゲヘナの一方…
「それでは調査報告をお願いします。」
場所は変わりゲヘナと長年対立関係である『トリニティ総合学園』、その生徒会組織である『ティーパーティー』。
三大宗派の長から構成されるこの組織で『ホスト』、つまるところまとめ役を務める生徒…フィリウス分派のリーダー『桐藤ナギサ』は情報部からの報告を受けていた。
だが…
「申し訳ありません、ナギサ様…!」
開口一番、情報部の生徒は深々とナギサに向かって頭を下げる。
「派遣された諜報員は全て…撃退されてしまいました…!」
「な、なんですって…!?」
生徒の告白にナギサは衝撃を受ける。
あの戦争勃発後、トリニティにおけるアビドスの評価は180°変わった。
最早廃校寸前の弱小校と思っている生徒は誰一人いない。
むしろ、その戦力は三大校と比肩してもそん色ないだろう。
だが…トリニティはあまりにもアビドスに関して『無知』過ぎた。
捨ておいても構わない学校と断じていたのだ、無理もない。
そんな学校の情報を得ようと諜報員を差し向けるのは当然の帰結だが…
「報告ではアビドス学区に侵入した直後にロボットの襲撃に会い…全員負傷し撤退を余儀なくされました…!」
「そんな…選りすぐりのエージェントを派遣したのですよ…!?」
トリニティ自慢の諜報部をもってしてもアビドスの『砂塵のベール』を突破するに至らなかった。
「…分かりました。負傷された方々には後程私がお見舞いに向かいます。下がってもらって構いませんよ。」
「ハイ、失礼します…!」
ナギサは報告に来ていた部下を下がらせ…
「…はぁぁぁなぜこんなことに…!」
両手で顔を覆い深くため息をついた。
すると、
「ねぇねぇナギちゃん。」
「なんですか、ミカさん…?」
「トリニティの生徒が襲われたんでしょう?だったらそのことをネタにしてアビドスに抗議しちゃえばいいんじゃないかな?」
同じ席についていた桃色の髪をし飾り立てられた羽と惑星のような煌びやかなヘイローを持つ少女がそんな提案をしてきた。
『聖園ミカ』、トリニティの宗教派閥きっての武闘派とされる『パテル分派』の首長にしてティーパーティーのメンバーだ。
なんとも気楽な調子でそんなことを言うミカだが…
「それはできませんよ、ミカさん…。」
「えぇ~どうしてぇ~?」
「どうしてもなにも…他学区に諜報員を送り込んだのを連邦生徒会に通報されたらどうなると思いますか?」
ナギサは眉間を抑えながらその意見を否定する。
確かに今回トリニティの生徒が負傷した。
だが、キヴォトスでは基本的に他学区での部活動は禁止されている。
もし、今回の件を抗議すればトリニティが逆にアビドスに訴えられるのだ。
それもよりによって諜報部員を送り込んでしまったのだ。
確実にこちらが悪くなる。
「幸い、アビドスはこの事を表沙汰にするつもりはないようです。でしたら…我々もなかったようにふるまうのが得策です。」
と、抗議するリスクと沈黙するメリットを説明するナギサだが…
「ブーブー、あんな学校にそんな気を使う必要なんかないのに。」
「レディがはしたないですよ、ミカさん…。」
それが気に喰わないのかミカはぶー垂れてしまった。
確かにかつてのアビドスであるならそんな強引な手段もできたかもしれない。
だが…
(今やアビドスの戦力も政治力も決して侮っていい物ではありません…。)
アビドスは自分たちが関知しないうちに大化けしていた。
戦力は戦争の際見せつけられたが目を見張るのはその政治力だ。
カイザーがキヴォトス全土に向け仕掛けたプロパガンダ。
並の学校ならそれを単独で跳ね返すのは至難の業だろう。
だが、アビドスは単独…いや、ほぼ『一人』の力でそれを撥ね退けた。
カイザーと同じようにキヴォトス全土に向け報じられたあの激烈なメッセージは記憶に新しい。
彼だけではない。
アビドス生徒もカイザーの急所を突き圧倒的な講和を捥ぎ取った。
そんな場所に政治闘争を仕掛けるのは得策ではない。
特に…
(今はエデン条約の締結間近…。今ここでゲヘナに弱みを見せるわけには…!)
今はタイミングが悪すぎる。
『エデン条約』、トリニティとゲヘナの間で結ばれる予定の不可侵条約である。
細かい仕組みは省略するとして締結理由は長年いがみ合ってきた両校が全面戦争を避けるためというものだ。
発案者は連邦生徒会長だが現在は失踪、空中分解しかけたところをナギサの尽力で何とか締結目前までもっていくことができた。
が、相手方のゲヘナ…特に万魔殿はこの条約締結に消極的だ。
下手をすると白紙に戻しかねないというのに…そこに政治的ウィークポイントを見せれば確実にこの条約は御破算となる。
いや、むしろそれだけで済むのはまだいい方だ。
(しかもアビドスは私たちよりもゲヘナと友好的…!万魔殿の思惑次第では…ゲヘナとアビドスが手を組むやも…!)
最悪の想定としてエデン条約を放り捨てアビドスと同盟を組む可能性すらある。
キヴォトス屈指のマンモス校とカイザーを完膚なきまで痛めつけたかつての最強校…この二校が手を組めばこのキヴォトスで手出しできる学校は存在しないだろう。
連邦生徒会すら相手にもならないはず。
(どうすれば…?!せめてアビドスの新しい情報があれば…!)
その事態だけは避けなくてはならないが…トリニティには打つ手がない状況。
アビドスとの接点は一切ない状況、それどころか今回の一件で悪印象しか抱いていないはず。
己の非力さを憂うナギサ、
(クッ…こんな時に『セイア』さんがいてくれれば…!)
その脳裏に…かつて同じくこの席についていた友の姿を想起する。
だが…彼女はもういない。
(…いいえ、何とかしなければ…!アビドスとの関係も…エデン条約締結も…!)
その目に強い覚悟を宿しナギサは…
「あ、今日の紅茶はまた銘柄変えたの?」
(そして…ミカさんも守らなくては…!)
同僚であり幼馴染のミカを守り抜く決意を固める。
だが…盲目的になりすぎたナギサは知る由もなかった。
「あ!見てください、アズサちゃん!ネイトさん、スカルマンの初期の限定グッズ見つけたそうですよ!」
「なに!?それは本当か!?早くッ早く見に行こう、ヒフミ!」
「ちょっと!またウチの押収品持ち出すのは禁止だからね!」
「あらあら♪では今度のお休みに皆さん一緒にネイトさんに会いに行きましょう♪」
突破口というものは意外と身近に開いているということを。
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―――
「はぁ~…。」
「どうしたんですか、ユウカちゃん?」
三大校最後の一角、ミレニアムサイエンススクール。
そのセミナーの執務室でユウカが書類を眺めながら物憂げなため息をついていた。
「…ネイト社長がウチに出したテストの話あったでしょ?」
「はい、確か繊維の複製を頼みたいという物でしたね。」
「新素材開発部にそのことを説明して解析をお願いしたんだけど…。」
「ですけど?」
「…実際に見たほうがいいわ。」
ユウカはそう言い、自分が見ていた書類をノアに差し出した。
「拝見します。」
それを受け取って中身を一読すると…
「…ほ、本当なんですか…?!」
普段冷静な彼女が目を見開いた。
そこにはネイトが託した『耐衝撃ファイバー』の解析結果が記されていたのだが…
「強度に関しては同じ重さの鋼鉄の10倍以上…!高い耐熱性に耐食性も備えている…!」
まずもって素材そのものの各種強度がずば抜けている。
キヴォトス人の耐久性もあって普及は限定的だが防弾繊維自体はキヴォトスにも存在している。
その中の最上級のランクの代物と比べても『耐衝撃ファイバー』の性能は凌駕している。
さらに特筆すべき点では…
「せ、繊維そのものが自己修復に近しい機能を持っているんですか…!?」
「えぇ…空気中の水分を吸収すれば繊維の損傷を塞いでしまうらしいわ。まるで繊維そのものが生きているみたいにね…。」
普通、この手の防弾繊維は耐用年数が短いのが相場だ。
一例を上げるが現実の防弾繊維を用いたアーマーの寿命はほんの2~3年とされている。
だが、耐衝撃ファイバーは実質その寿命が尽きないといっても過言ではない。
「しかも、洗濯洗剤にもビクともしないから普通に洗濯機に詰め込んでも大丈夫っていうメンテナンスのやりやすさ…。」
「ネイト社長は…一体どこでこんな繊維を…!?」
科学の総本山であるミレニアムをもってしてなお…こんなとんでもない性能の繊維は見たことがない。
「新素材開発部も初めて見た時に幽霊でも見たみたいな顔してたわ…。」
新素材開発部、日々ユニークな素材を開発しているミレニアムを代表する部活の一つである。
ミレニアムにおける最大級の品評コンテストである『ミレニアムプライス』でも最優秀賞を獲得したことがある。
そんな部活をもってして…『耐衝撃ファイバー』は頭を抱えざるを得ない代物だった。
「読み終えたのなら返してもらえるかしら、ノア?」
「はい。」
返してもらった書類をユウカは…マイクロクロスカットのシュレッダーにかけた。
セミナー特注の超高セキュリティレベルを誇る代物でこれに書類がかけられたら最後、復元は不可能とされる代物だ。
「いい?今の内容、絶対に口外しちゃだめよ?」
「分かってますよ。すべて私の記憶の中に留めておきます。」
そう、このテストはミレニアムのセキュリティのテストでもある。
このデジタルのご時世、耐衝撃ファイバーに関するデータのやり取りはすべて紙媒体。
電子機器もハッキング対策にスタンドアロン型の物を使用。
『耐衝撃ファイバー』の存在を知っているのはセミナーの二人と新素材開発部の限られたメンバーのみだ。
「でも、こんなもの見せられたら新素材開発部の皆さん愕然としてるんじゃ…。」
データを見ただけでこの衝撃だ。
実物を目の当たりにした新素材開発部の衝撃たるや…とノアは懸念するが…
「逆よ、逆。是が非でも再現して見せるって躍起になってるわ。」
ここは技術の総本山ミレニアム。
未知の技術を見せつけられて…燃えない者はいない。
「現に繊維の分子構造は解析済み、後は実証をする段階だそうよ。」
「もうそこまでいっているんですね。」
「再現すればネイト社長の持つ技術を一つ提供してもらえる…!そうなったらミレニアムはもっと発展…!」
捕らぬ狸の皮算用はユウカは嫌うが手に入れられるとされる技術をどう活用しようかと考えを巡らすが…
「それでユウカちゃん。」
「どうかしたの?」
「ネイト社長からどんな技術を提供してもらう予定なんですか?」
ノアの問いかけに…
「…グヌヌヌ~…!より取り見取りすぎるのよ、ネイト社長の技術~…!」
再びユウカは頭を抱える。
ライブ配信でネイトの技術はいくつも目の当たりにすることができた。
レーザー兵器、プラズマ兵器、ガウスライフルにロボット、未知の照準システム、パワーアーマーもその代表格だ。
そのどれもこれもミレニアムですら再現不能といった代物ばかり。
それを好きに選べ、と言われると逆に困る。
贅沢な悩みだが…深刻な悩みでもある。
「あぁ~もう!一体アナタはどこから来たのよ、ネイト社長~!」
あまりにも未知数過ぎる存在に叫ぶユウカ。
また…そんなネイトに『挑戦』する者たちもいる。
「だっ駄目です、部長!オーバーヒートを起こしてます!」
「電力供給にもエラー発生、このままだと発電機が吹っ飛ぶよ!」
「…実験中止、直ぐに電力供給を止めてくれ。」
エンジニア部部室、そこでは大型の機械が赤熱し警報音が鳴り響いていた。
実験が終わり煙を上げる機材をしり目に三人は反省会を開始する。
「第15回テスト失敗…発電量も威力も使用時間もまるで足りない…。」
「触媒を固体に変えてみる?それならオーバーヒートもしにくく…」
「いいや…エネルギー効率が悪くなるからだめだね、『ヒビキ』。」
かなり派手な格好をしている垂れた犬耳を持つ生徒、『猫塚ヒビキ』。
1年生にしてエンジニア部の中では工学に関する頭脳は学園1で様々な発明品を生み出している。
「では、電力の増加を!そうすれば威力は確保でき…。」
今度は特徴的なメガネをかけた金髪の生徒が案を出す。
『豊見コトリ』、ヒビキと同じくエンジニア部所属の一年生。
機械工学だけでなく史学や天文学についても相当な知識量を誇っている。
そんな彼女の案を…
「すると今度は機材の大型化を招くよ、コトリ。」
ウタハは一蹴。
「良いかい、私たちはこの機械をせめて携行可能になるまで小型化しなければならない。」
そう言い、ウタハが机に置いた端末にはネイトのライブ配信の一幕が移っていた。
そこに映し出されていたのは…ネイト愛用のガトリングレーザー。
そう、エンジニア部は現在…独力でネイトのレーザーウェポンの再現を試みているのだ。
だが、ミレニアムきっての技術者集団をもってしても難航している。
「電源、発振触媒に材質…未知のことが多すぎます…。」
「しかもオートマタが一瞬で溶解するほどのエネルギーのレーザー…。」
「それをせいぜいミニガンサイズまで小型化してそれらを全て実現しなければならない…!あぁ、本当に無茶苦茶もいいところだね…!」
今作り上げたのは大きさは大型バイク、電源は大型発電機と携行性など一切ない。
それでも威力は低くオーバーヒートを起こすため使用時間も限りがある。
「フフッあなたは一体どうやってこの難題を解決したんだい、ネイトさん…?」
ウタハは微笑みながら端末をスライドする。
映し出されたのは…X-02を纏い戦場でガトリングレーザーを発砲するネイトの姿だ。
「この『X-02』っていうパワーアーマーもとんでもない代物だね…。『歩兵戦車』、その名に遜色ない…。」
「50口径を受けても傷一つつかず走行速度は時速100㎞近くトラックを容易に押しのけるほどの馬力…一体どんな仕組みで…。」
「あぁ、本当にどうしようもないほど滅茶苦茶な代物だ…!モモイ達の廃墟区画での話が一切の誇張なしだったとは…!」
X-02ですらエンジニア部からすれば脅威の産物だ。
同じ部類の機械はパワーローダーなどが存在しているが比べ物にならない。
それどころか自分たちの頭脳をもってしても一切分からない。
…だからこそ、『燃える』というものだ。
「さぁ、実験再開だ…!今度は触媒を少し変えよう…!」
「外装も変えるね、部長。もっと耐熱性が高いものを…!」
「では私は電力系統の設計を見直しますね!」
その背中は遠い。
だが、若き技術者たちの足並みに乱れ無くはるか先を行く彼の背中を追いかけていくのであった。
そして…
「ネイトさん、ずっと戦い通しだったのに元気そうでよかったね!」
「ライブ配信であんな無茶苦茶な戦いしてたとは思えなかったよ。」
「お髭生えてたお顔、写真撮っておけば、よかったなぁ。」
おそらくミレニアムにおいてネイトの技術に最も多くの指をかけている者たち、ゲーム開発部。
講和会議でネイトとの再会を果たし健在を確認してからモモイもしっかりと立ち直ることができた。
それにしても彼女はご機嫌だが…
「それにあのトトカルチョでも大勝ちしたからね!これで部費もウハウハだよ!」
「全く…私たちに相談なしでそんなことしないでよ、お姉ちゃん。」
「で、でもネイトさん達が勝つことなんて、分かり切ってたし…。」
それもそのはず、ゲーム開発部は過去最高に懐が分厚いのだ。
あの日、ミレニアム生の間では戦争の趨勢でトトカルチョが開かれていた。
始めは少数の生徒間で行われていたがいつのまにか規模が拡大しまとめ役の胴元まで出現するほどになっていた。
大半の生徒が『カイザーの勝利』にベッドしている中…モモイだけが『アビドスとW.G.T.C.の勝利』にベッド。
それもネイトからもらった報酬の残金を全額突っ込んだのだ。
結果は御存じの通り。
大穴も大穴をブチ当てたことで…賭け金は爆増し返ってきた。
ちなみにこのトトカルチョの胴元は破産したとかしなかったとか。
「さぁーて!ど派手な映像資料がたくさん手に入ったんだしまた新作作りがんばろ!」
「だね。あんな躍動感のある場面なんかお金出しても貰えないもんね。」
「でも、アレをプログラミングするの、大変そうだなぁ。」
と、賑やかに今日もゲーム作りに勤しむため部室のドアを開ける三人。
すると…
『え…ッ?!』
三人が一斉に固まった。
昨日までいた部室…その様相が激変していたのだ。
いや、荒らされているというものではない。
「なっナニコレーッ!?」
「これは…自販機…!?」
「あ、アーケードゲームの筐体も…!?」
部室の中に昨日まで無かった設備が設置されていたのだ。
見るからに旧式のアーケードゲームの筐体に非常にレトロな自動販売機。
さらにはニキシー管の置時計にレトロチックな椅子やテーブル。
見かけだけではない。
「こ、これッ!初代スチューデントファイター!もうどこにも出回ってないはずなのに!」
「見て!いろんなアーケードゲームの基盤がシリーズごとに入ってるよ!」
「初代『渇虎伝説』に『THE QUEEN OF FITERS』に『ポヨポヨ』まで!?」
今はほとんど見られない、それこそモモイ達が生まれるずっと前に流行した傑作まで遊べるではないか。
「自販機も本物だよ!ちゃんと中身冷えてる!」
「一体誰がこんなものを…!?」
レトロゲームやレトロな代物を愛する三人にとっては心沸き立つ代物ばかりだがこれほどまであると…正直心配の方が勝つ。
すると…
「…あれ?これって…。」
夢中になって気が付かなかったがテーブルの上に封筒が置かれていた。
「なんだろう…?」
「なんて書いてあるの、お姉ちゃん?」
「ゆ、ユウカからの請求書じゃないよね…?」
「ま、まっさかー。…開けるよ。」
モモイが手に取り中を改めると…こうしたためてあった。
三人の小さき勇敢な友へ
「ネイトさんが…。」
「これ全部私たちに…。」
「こんな貴重なものを…!」
このレトロな贈り物は…全てネイトが送ってくれたのだ。
「ありがとう、ネイトさん…。」
「大事にしますね、あなたの贈り物…。」
「貴方は…最高の、友達です…。」
手紙を通じモモイ達はネイトの暖かな優しさを確かに感じることができた。
静かに遠くにいる彼に感謝の想いを伝える。
「……よ~し予定変更!今日はこのゲームで思いっきり遊んじゃお!」
「そうだね。こんな貴重なゲーム、遊ばないと勿体ないもんね。」
「初めて触るレトロゲーム…!た、楽しみ…!」
こうして、その日一日中…ゲーム開発部の部室から愉快な声が絶えることはなかったという。
友情はもとより聖なる絆なれど、苦境にあえばさらに神聖となる。
―――詩人『ジョン・ドライデン』