ネイトが不良たちを雇い始めて数か月たったころの話だ。
「なんとまぁ…街自体が砂漠に沈んだとは聞いていたが…。」
「すっげぇ…まるで昨日まで営業してたみたいだ…。」
この日、ネイトたちは少々足を延ばしかつてのアビドスの中心地にほど近い廃墟群にやってきていた。
何分、この地域は数十年前に砂嵐に埋もれた場所。
とりあえず目についた大きな廃墟に気を付けながら進入したがそこで想定外の物を目の当たりにしていた。
「なんつー古いゲーム機だ…。今時はフルダイブも珍しくないってのに…。」
「おいおい、これうちらが生まれる前のゲームだぜ…?!こんなのもうどこにも置いてねぇよ…!」
そこに広がるのは何台ものアーケードゲーム機、
「UFOキャッチャーの中身そのままだぜ。普通こんなの回収するんじゃないのか?」
「たぶん、夜中の内に砂嵐にあったんじゃねぇか?閉店中ならそのままもぬけの殻になってるだろうしよ。」
景品がそのままになっているUFOキャッチャーと様々なゲームの筐体が並んでいる。
さらには…
「おい、ボウリング場まであるぞ!」
「ダーツ盤までとはより取り見取りだな…!」
他のアミューズメント設備まで勢ぞろいだ。
「どうやらここは相当大規模な娯楽施設だったようだな。」
「数十年前ってぇとアビドスがまだ栄えてた頃っすからねぇ…。」
「それが今や砂の下でタイムカプセルとは…。」
時が停まったようなアミューズメント施設を眺め今は無きアビドスの繁栄の残渣を感じる一同。
かつてはここも多くの生徒が遊びにやってきていたのだろう。
しばし郷愁に浸っていたが…
「さて…これはこれで面倒なことになったな…。」
ネイトは少々頭に手を当てて考える。
何時もなら廃墟や引っ越す際に放置された家具家電はそのまま持ち出すが…ここはアミューズメント施設。
筐体は元より景品も個々の企業の所有物だった物でおそらくこの状況はあちらも望んだものではない。
勝手に手を付けると後々問題になるやもしれない。
「一旦作業中止、確認の連絡を取って来るからここの物に手を触れるなよ。」
『うぃーす。』
何はともあれこの施設をかつて所有していた企業に筋を通さなければならない。
連絡を付けるため一旦その場を後にするネイト。
その後無線を通じて連絡を付けてもらい…
「…了解、確認に感謝する。ネイト、アウト。」
「どうでしたか、アニキ?」
「一応ここの親会社に連絡がついたが…。」
「が?」
「さすがに数十年前の代物だ。今更回収しても利益にはならないからウチに処分してほしいってさ。」
元の会社からの処分の許可を得ることができた。
「ってことは…!」
「景品も欲しいのは持ってっていいぞ。俺に任せたら布やプラスチックにしかならないからな。」
『ぃやったー!』
つまり、大手を振ってここの物を貰えることができるというわけである。
数十年前の代物とはいえやはり学生の彼ら彼女らのテンションは上がる。
すると…
「あ…あのぉアニキ…。」
「なんだ?」
「アタシ…ボウリングってやった事なくて…。」
一人の生徒がおずおずとそんなことをネイトに言ってきた。
ネイトの元に集った元不良たちは元から貧困にあえいでいた。
日々を生きるのに精いっぱいでこんな遊技場に来る余裕もなかったのだろう。
みると、同じような眼差しを向けてくる生徒が何人もいる。
「…よし、分かった。明日は休みだ、今日中にここを整備して明日だけはここで遊んで結構!」
働いてくれているが遊び盛りの生徒たちだ。
娯楽の提供も雇用主の大事な務めということでネイトはこの施設で遊び倒すことを許可、
「フウウウウッアニキ分かってるぅ!」
「そうときまりゃ掃除に整備、ビシッとやんぞ!!!」
「よぉし、整備の連中にも声かけようぜ!」
歓喜に沸き立つ生徒たち、一斉に施設の整備に向け走り出すのであった。
「…フフッ、やたら銃振り回すとしても中身はやっぱり子供だな。」
久々に子供らしい生徒たちの姿を見て微笑ましそうにしながらネイトも整備に向かう。
そんなこんなで電気系統や機械に環境の整備を行っていると…
「おぉ、これは…!」
一人の生徒が裏から持ってきた段ボールの中身を見て目を輝かせていた。
「どうかしたのか?」
「あッアニキ、これ見てください!」
近くを通ったネイトが声をかけると中身を見せてくれた。
中にあったのは…キャラクターのグッズだ。
なんというか…
「…味があるキャラクターたちだな。」
最大限言葉を選んだネイトの言葉であった。
「え、アニキ知らないんすか?」
「俺がそう言うファンシーなのに詳しいと思うか?」
「…それもそっすね。でも兄貴も知ってるはずのキャラクターっすよ?」
「俺も知ってる?」
「これ、『モモグループ』のキャラクターで『モモフレンズ』っていうシリーズのグッズです。」
「…あぁ~モモトークとかモモッターの会社の?」
「そっすそっす!こっちがペロロでこっちがスカルマンていうんすよ。」
名前を聞いてネイトも思い当たった。
『モモグループ』、キヴォトスでエンターテインメント方面で事業展開している一大企業だ。
ネイトも街中で広告などを見かける。
記憶をたどるとデザインこそ違うが同じようなキャラクターを見かけたことがある。
「…つまりこれは…。」
「モモフレンズの初期も初期、今となっちゃマニアの間じゃ垂涎の激レアグッズっすね!」
なんせ息の長い企業だ、生徒たちが生まれる前のグッズがあってもおかしくない。
「アニキ、これも持ってっていいのか?」
「好きにしたらいい。コレクションするもよしプレゼントするもよし売るもよしだ。」
「へへッサンキュー!」
「物色もいいけど程々にな。」
喜ぶ生徒に軽く釘を刺しネイトも作業に戻っていった。
すると、残された生徒は…
「…あとで自慢しちゃお。」
これまた子供のサガというべきか、珍しいものをみんなに見せびらかせたいと思うのも不思議ではない。
自身が登録しているモモッターのアカウントにこの写真と『レアものゲット!』という一文を添えて投稿。
………これがすべての始まりだった。
この生徒のアカウントのフォロワーは正直多くはない。
せいぜい不良の仲間内くらいの人数だ。
だが、彼女は甘く見ていた。
『マニア』という存在の嗅覚の鋭さを。
場所は変わり…トリニティ総合学園。
「さぁて…今日はどんなペロロ様グッズの情報があるかなぁ?」
その廊下を一つ目の『起爆材』、阿慈谷ヒフミが歩きながらスマホを操作していた。
今日も今日とてモモッターで彼女の愛する『ペロロ』グッズの情報収集中である。
その時だった。
「……………えぇッ!?これって!?」
ある投稿を発見し驚きの声を上げた。
だが、歩きスマホにその驚愕のため周囲への注意が疎かになっていたのか…
「む?」
「えッ!?キャッ!?」
曲がり角から出てきたその生徒に気付くのが遅れぶつかってしまった。
「イタタタ…。」
「すまない。怪我はないかな?」
「わ、私の方こそすみません…。」
尻もちをついてしまったヒフミに手を差し出し立ち上がらせる生徒。
「ごめんなさい、歩きスマホしてたせいで…。」
「気にしていない。私も注意すべきだった。」
「いえいえ、私が悪いんです!それで…えぇっと…。」
「あぁ、初めましてだったかな?私は『白洲アズサ』、最近転校してきたんだ。」
「初めまして、私は阿慈谷ヒフミです。よろしくお願いしますね。」
その生徒、『白洲アズサ』は差し伸べた手を掴んだままヒフミと握手を交わす。
「それで何を驚いていたんだ?」
「あッ!そうそう、これ!これ見てくださいよ!」
歩きスマホをしていた理由をアズサに問われるとヒフミは興奮気味にスマホの画面を彼女に見せる。
「こっこれは…?」
「アズサちゃん、モモフレンズを知らないんですか!?」
「も、モモフレンズ…?」
「良いですか?!モモフレンズとは…!」
困惑気味のアズサにヒフミは懇切丁寧にモモフレンズの魅力をキャラクター紹介も交え説明。
マニア特有のディープで早口な説明だったが…
「ふむふむ…!」
このようなものに触れたことがなかったのか、アズサは目を輝かせながら彼女の話に聞き入っていた。
「アズサちゃんはどの子が気に入りましたか?!」
「私は…『スカルマン』が可愛いと思う…!」
「良いですね!キュートですけどダークな感じもあって!」
「でも、ヒフミの写真のスカルマンは少し図鑑と違うような…。」
アズサの言うようにヒフミが見ていた写真と見せてくれた図鑑の絵とはデザインが少々違いがある。
「そうなんです!このモモッターの画像のペロロ様とスカルマン、モモフレンズが世に出た頃のアミューズメント限定の幻のグッズなんですよ!」
「なんだとッそんな貴重なものなのか!?」
「それが段ボールいっぱい!他のモモフレンズのキャラクターまでこんな最高の状態で揃ってるなんて奇跡なんですよ!」
生粋のモモフレンズマニアのヒフミ、その嗅覚は伊達ではなく星の数ほどある投稿の中から…あの生徒の短い呟きを見つけ出したのだ。
「こうしちゃいられません!早くこの人にコンタクトをとって私たちもゲットしなくては…!」
善は急げと言わんばかりにヒフミはその生徒のアカウントにアクセスした瞬間に固まり…
「どうかしたのか、ヒフミ?」
「ま…まずいまずいまずぅい!!!このままじゃ!このままじゃペロロ様たちが粉々にぃ!!!」
一気に慌て始めた。
「なっなぜだ!?なぜスカルマンがそんな目に!?」
「こ、この人『解体業者』さんにお勤めでペロロ様たちもその現場で見つけたそうなんです!このままではペロロ様達がゴミ捨て場かリサイクル工場に!!!」
そう、そのアカウントにはその生徒の普段の仕事内容などが投稿されていた。
こんな現場に行ったとか、こんな物見つけたとか、更地になったとか…。
つまり…この写真のモモフレンズグッズたちの結末は…
「こんな…!こんな奇跡の出会いが失われるだなんて…!そんな暗くて残酷なお話、私は嫌なんです!!!」
「ヒフミ…!」
「平凡で、大した個性もない私ですが…自分が好きなものについては、絶対に譲れません!!!」
そう慟哭するように叫ぶヒフミ。
…ここがトリニティの往来ということを忘れてはいけない。
そんなヒフミに…
「…Vanitas vanitatum et omnia vanitas.」
「アズサちゃん、それは…?」
「『虚しい、すべてはただただ虚しい』、という意味だ。それもスカルマンやペロロの運命だったのだろう…。」
どこか達観したような様子でそう呟く。
「そんな…!だからあきらめろと…!?」
目を見開いてアズサに詰め寄ろうとするヒフミだが。
「…でも、私はヒフミの話を聞いてこうも思った。」
「え…?」
「たとえすべてが虚しくとも…好きなことを諦める理由にはならないと…!」
アズサの目に『諦め』の色は一切ない。
「まだ間に合うかもしれない!行こう、ヒフミ!」
「い、行こうってどこへ…?!」
「このアカウントの持ち主のいる、スカルマンたちが見つかった場所まで!」
「~!!!」
そうだ、まだ終わっていない。
幸い、この投稿は先ほど送られた物。
時間からして…まだ無事な可能性がある。
「…そうですね、行きましょう!」
「あぁ!」
ヒフミも一気に元気になりすぐさま詳細な場所の調査を開始。
こうなったときのヒフミの行動力はすさまじく…
「分かりました!この人たち、アビドスの旧市街地で作業中です!」
瞬く間にW.G.T.C.の存在、そして写真と図書館で見つけた古い地図を照合し…この写真が撮影された場所を割り当てた。
「…でもここからだととても遠い場所です…。」
「し、しかもアビドスも広いし電車を降りてからもかなりある…!」
が、問題は廃墟の場所だ。
アビドスの学区自体が相当広く砂漠化の影響で鉄道網も交通網も壊滅的。
例えアビドス学区に入れたとしてもそこに向かうには相当時間がかかる。
「どうすれば…タクシーを使うにしても砂漠に入ると…!」
ともかく行動しようと図書館を後にしてどうするか考える二人。
行き先は広大なアビドス砂漠、タクシーがそこまで行ってくれるとも限らない。
いや、普通の乗用車程度で砂漠が渡れるわけがない。
「もっとパワーがあって砂もものともしない車が…!」
「でもヒフミ、そんな車どこに…。」
二人して手段を巡らせていた、その時だった。
目の前をある物を載せたトレーラーが通った。
そのトレーラーにはこう描かれていた。
『Justice Task Force』。
その名も『正義実現委員会』、トリニティにおける治安維持を担う組織である。
そのトレーラーはしばし進んで行き…
「はい、これヘルメット団から押収してきた物品ね。燃料も十分に入ってるから記録後に所定の場所にしまっておいてね~。」
正義実現委員会の拠点でその積み荷を降ろし再び仕事に戻っていった。
「なんでヘルメット団がこんなの持ってるのよ…。」
その積み荷を一人の生徒が書類に記載しながら見て回っている。
正義実現委員会の象徴的な黒い制服に身を包み腰と頭部から黒い羽が生えた生徒。
名前を『下江コハル』、一年生で正義実現委員会の新入りだ。
今は現場ではなく実働部隊が回収した『押収品管理室』を担当している。
普段は殆ど一人で業務しているが…今日はもう一人『懲罰』として手伝いが来ている。
「えぇッと…Klusedar一両っと…。」
と、たどたどしい様子で書類に押収品について記録していると…
「うふふ…綴り間違ってますよ、コハルちゃん?」
「ひゃあっ!?」
「正解は『Crusader』ですよ~?」
「し、知ってるわよ!あ、アンタがちゃんとわかってるか試しただけなんだからね!」
突然背後に現れた生徒に指摘されムキになるコハル。
そう、彼女たちの目の前に鎮座しているのは巡航戦車『クルセイダーⅠ型』。
トリニティでは旧式化し更新された代物だがどこからか闇市場に流れそれをヘルメット団が入手。
今回、押収品という形で里帰りを果たしたのだ。
「それにしてもなんて『硬く』て『大きい』んでしょう…。『中』に入ったらどんな感じなんでしょうか…?」
「ちょっと、何変なこと言ってんのよ!?エッチなのは駄目、死刑!!!」
「あら?私はこの戦車の装甲と大きさを誉めて乗り心地はどんなのかなと言っただけですよ~?」
「~ッ!」
と、コハルをからかうように思わせぶりなことを笑顔で言い放つ生徒。
「そッそんなことばっかり言ってるからここに連れてこられたってわかんないの、『ハナコ』!」
名を『浦和ハナコ』、高校生離れしたプロポーションと美貌を持つ十人中十人が美少女と断言する生徒だが…
「私はそう言うつもりはなかったんですが周りの方が想像力豊かだったもので…。ただ私は■■■や■◆■■といっただけで…。」
「なっ何言ってんのよ!!!しかも同じこと朝のミサの時に言ってたって聞いたわよ!?」
と、この容姿で口から出るのは思わせぶりな言葉かド直球な奴ばかり。
TPOを弁えすぎなかったので今回この押収品管理室の手伝いを処罰で言い渡されたのであった。
「そんなこと言ってないで早くこの戦車しまいに行くわよ!」
気を取り直しコハルがクルセイダーに向き直った…その時。
突如、クルセイダーのエンジンが唸りを上げ地面を削り飛ばしながら走り始めた。
「ちょ、ちょっとぉ!?」
「あらぁ随分とこらえ性の無い戦車ですねぇ。」
「そんなこと言ってる場合じゃないわよ!!!追いかけるわよ!!!」
「はいはぁ~い♪」
なにはともあれ戦車が奪われたのは確実、急いで二人は追いかけ始めた。
さて、誰がこのクルセイダーを奪ったかというと…
「やったぞ、ヒフミ!!!上手くいった!!!」
「えぇっとえぇっとABC,ABC…!」
アビドスに向かうための足を探していたヒフミとアズサだった。
操縦はヒフミがやっているが何分戦車の操縦は初めて。
マニュアル車の基礎の基礎を呟きながら操縦するも…
「わぁ!エンストしちゃった!」
クラッチの操作になれずエンストを起こしてしまった。
「えぇっとえぇっと…!」
「落ち着け、ヒフミ!クラッチを踏んでエンジンスイッチを押すんだ!」
「クラッチを踏んでエンジンスイッチを…!」
すぐに再始動させようと操作していると…
「待ちなさい、アンタたち!これどこに持ってくつもりよ!?」
「あらぁ、お二人でランデブーですかぁ?」
コハルとハナコが戦車に追いつき飛びついてきた。
「邪魔をしないでくれ!!!これは奇跡の出会いを成し遂げるために必要なんだ!!!」
「何訳分かんないこと言ってんのよ!?これ押収品だからあんた達あとで怒られるわよ!?黙っててあげるから早く元の場所に戻しなさいよ!!!」
「それはできない!たとえ後で怒られようとも諦める理由にはならない!!!」
「あらぁとっても情熱的な方ですね。ぜひ、私とも熱いひと時を…。」
「ハナコォッ!!!アンタもこの二人止めなさ…!」
そんな感じでわちゃわちゃとアズサとコハルが揉み合いになりハナコが愉快そうに眺めていると…
「えぇッと…やった、動きましたよ!!!」
ヒフミがエンジンの再始動に成功。
…したのだが、今度はエンジンを吹かしまくりギアをいきなりトップに入れたせいで…
「わああああああああ!!!?」
「やった、これなら早く到着できるぞ!!!」
「わぁ~こんな激しく突き上げられるようなの初めてですぅ~!」
「言ってる場合じゃないわよおおおおおお!!!!」
『巡航戦車』たるその性能が一気に解き放たれ爆走開始。
しかもかなり無理な運転だったからか調速機が故障しクルセイダーの最高速度が…時速60㎞まで上昇。
「アハハハッ!すごい、私戦車操縦できてますよ~!」
先ほどまで四苦八苦していたというのに思うように操作でき始めヒフミのテンションは爆上げ。
「待っててください、ペロロ様に激レアモモフレンズグッズの皆!!!今迎えに行きますよぉー!!!」
「いいから止まりなさいよおおおおおおおお!!!」
こうしてヒフミとアズサに制止するコハルとこの状況を楽しむハナコとの四人組は一路アビドスのネイトがいる場所を目指すのであった。
続きはなるはやで書きます