Fallout archive   作:Rockjaw

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悪魔のように細心に、天使のように大胆に
―――映画監督『黒澤明』


Delightful Devil's Work

アビドス郊外のビル街。

 

そこの路地裏にある雑居ビルの一回にひっそりと居を構える純喫茶風カフェがある。

 

「いらっしゃいませ、お好きなお席にどうぞ。」

 

ドアベルの音を聞き少し型の古いオートマタのマスターがお客を迎え入れる。

 

店内はすいているのにその客はマスターの前のカウンター席に着く。

 

「ご注文は?」

 

「サンドイッチを…。」

 

「具材は?」

 

「ベーコンとトマトに…スクランブルエッグで頼む…。」

 

お客からの注文を聞いて行くマスター。

 

そして、

 

「お飲み物は?」

 

「コーヒーで…。」

 

「ミルクと砂糖は?」

 

「いらないが代わりに…『アブサン』を頼む…。」

 

そのお客はおおよそコーヒーには入れられないであろう物の名前を口にする。

 

『アブサン』、ニガヨモギなど複数のハーブを用いたリキュールでゴッホをはじめ多くの芸術家が愛し…身を滅ぼしていた。

 

そこからついた別名は…『悪魔の酒』。

 

そして、今では多くの酒造メーカーが作る中で本家の醸造所が作るこの酒の度数は…『68度』。

 

「…かしこまりました。では、あちらへお進みください。」

 

注文を聞きマスターは…カウンターの中のスイッチを押し込む。

 

すると、カウンターの傍らの壁がタイルに沿って開き階段に続く道が開かれた。

 

客は席から立ちその扉を潜って階段を上っていき、二階にあったドアの前に立つ。

 

ドアを開けると…

 

「よくいらっしゃったわね、依頼人さん。」

 

その者はデスクに腰掛けこちらを測るように見つめている。

 

「ここだと金さえ払えばどんな依頼でも受けると聞いたのだが…。」

 

「えぇそうよ。金さえ払えば…私たちの矜持に反しない限り何でもやる何でも屋よ。」

 

「…では、頼みたいことがある。」

 

「どうぞおかけになって。改めて…ようこそ、『便利屋68』へ。」

 

今日もまた、『Cafe Franklin』のある雑居ビルの二階『便利屋68』に新たな仕事が舞い込むのであった。

――――――――――――――

 

―――――――

 

―――

「カヨコ課長、様子はどう?」

 

《調査通り警備が何人かいるくらいでほとんど出払ってるよ、社長。》

 

「了解よ、これから合流するわ。…行きましょう、ハルカ。」

 

「はっはい社長…!」

 

この日、アル達はアビドスを離れとある山中に分け入っていた。

 

しばし進んで行くと…そこには大きな屋敷があった。

 

「カヨコ、変化はあった?」

 

「まだ私たちに勘付いた様子はないね。」

 

「こ、このままなら楽に取り返せそうですね…!」

 

「油断は禁物よ、ハルカ平社員。」

 

今回、便利屋68が受けた依頼内容は奪還任務。

 

依頼主はD.Uに居を構えるこじんまりとした古美術商。

 

先日、この店があるカルテルの襲撃に遭いある物が奪われた。

 

その名も『ネブラディスク』、キヴォトスにおいていまだ謎の多い物品『オーパーツ』の一種だ。

 

滅多に手に入る代物ではなくオークションに出品されるととんでもない高値が付く。

 

この古美術商がもつこれは代々受け継がれてきたものだが…

 

「あの戦争で裏社会の勢力図や動きもだいぶ変化したものね…。」

 

「裏社会の大物がその座から陥落して権力の真空が生まれたから無理もないよ。」

 

『アビドス独立戦争』の余波を受けたのは何も学校組織だけではない。

 

カイザーコーポレーションは表でも、そして裏でも非常に大きな力を持っていた巨大組織だ。

 

そんなカイザーが独占していた市場・利益などが一気に所有者がいなくなりキヴォトス中の様々な裏社会の組織がその確保に奔走し始めた。

 

さらにそのどさくさにまぎれた犯罪行為も多発。

 

今回の件もその一つだ。

 

「あ、アビドスはとても平和なのが嘘みたいですね…。」

 

「カイザーが全域を仕切ってたって上に今や兄さんやホシノのお膝元だもの。利口な連中は絶対に手出ししないわ。」

 

ちなみに、アビドスでそんなことが起こった場合はW.G.T.C.部隊が出動しその組織を撃滅することになっている。

 

「それで詳しい様子は?」

 

「警備は分かっている限りで8人、屋敷内を含めると10人少々といったところだろうね。」

 

「タイムリミットは…あと90分です、社長。」

 

ここの家主であるマフィアのボスはこの曜日はいつもお供を連れて出掛けていることが事前調査で判明している。

 

侵入するには絶好のタイミングだ。

 

「了解よ、二人とも。それじゃ、行きましょう。」

 

アルの号令の下、三人は身を潜めつつ屋敷に接近していく。

 

警備の者がいるが、

 

「う゛ッ…!?」

 

「おやすみなさい…。」

 

サプレッサーを装着したアルの『ワインレッド・アドマイアー』の狙撃、

 

「油断大敵だよ。」

 

「グハッ…!?」

 

気配を殺し接近したカヨコの『デモンズロア』のコロラド撃ち、

 

「ぐへぇッ!?」

 

「排除、完了です…!」

 

ハルカの『ブローアウェイ』によるバッシュ攻撃と言った様に次々に無力化。

 

さらに、

 

「あった、監視カメラのプラグ。」

 

カヨコが監視カメラのプラグに自身のパソコンを接続し、

 

「…よし、これで警備システムもダウンしたよ。」

 

「ナイスよ、カヨコ課長。」

 

警備システムの掌握にも成功。

 

「ここからは屋内よ。ハルカ平社員、あなたもサプレッサーを装着しなさい。」

 

「はっはい…!」

 

「人数は多くないはずだけど気を付けてね、二人とも。」

 

ハルカが銃口にサプレッサーを装着しアルもサプレッサーにマズルモジュールを変更した10㎜ピストル『グラスシルバー・ヴィジランス』を抜き放ち屋敷内に侵入。

 

「グハッ!?」

 

「な、なんだおまぶへっ!?」

 

「こっちは二人排除したわ。」

 

元よりスナイパーのアルだがネイトからこの銃を贈られた後も独自に訓練を行い熟達度を上げている。

 

「し、侵入しバガッ!?」

 

「このがギャがっ!?」

 

「悪いけど本職ハンドガンナーとしちゃ負けてられないんだよね。」

 

「や、やめうがっ!?」

 

負けじとカヨコも『デモンズロア』を巧みに操り次々に警備要員を排除。

 

「アル様の障害になるなら消えてください消えてください消えてくださいぃ…!」

 

「うんヌッ?!」

 

「たわばっ!?」

 

ハルカはまるでネコ科の猛獣のような素早さで散弾を叩きこみ館内部を制圧。

 

「クリア、ね。」

 

「これでゆっくりと依頼の品を探せるね、社長。」

 

「でものんびりし過ぎてられないわ。ハルカ平社員、証拠を何も残さないようにして来てちょうだい。」

 

「りょっ了解しました、社長。」

 

ハルカに処理を命じアルとカヨコで依頼人が強奪された品を探す。

 

その代物はおそらくこの屋敷の主の部屋であろう豪華な場所にあった。

 

「これが『ネブラディスク』…。」

 

「うん、依頼人の情報と合致している。」

 

二人の手元にはまるでカセットテープのように見たことのないような材質の容器に収められたディスクがあった。

 

「じゃあこれを持って帰れば任務達成ね!」

 

「よし、準備するから社長は外で警戒してて。」

 

「任せたわよ、カヨコ課長!」

 

カヨコに荷物の梱包を任せ、アルは警戒のため屋敷内を見回る。

 

(フフフッ、久しぶりのアウトローな依頼をこんなに完ぺきに遂行できるなんて♪)

 

その足取りは非常に軽く上機嫌なことがすぐに分かる。

 

普段はアビドスの地域住民の依頼を遂行している便利屋68。

 

それも決して悪くはない。

 

住民との触れ合いは楽しかったし収入も安定して家賃も食事も困ることはなかった。

 

だが…やはりたまにはこういったダークな依頼も受けてみたいものだ。

 

(それに兄さんや皆との訓練で社員達の実力も付いて来ていいことづくめだわ♪)

 

と、そんな風に若干浮かれながら屋敷内を警戒していると…

 

「…あれ?」

 

微かな違和感に気付いたアル。

 

「あ、社長。どうかされたんですか?」

 

ちょうど合流したハルカがアルに尋ねると…

 

「…ねぇ、ハルカ平社員。なにか…匂わない?」

 

鼻をスンスン言わせながらアルはしきりに周囲を探る。

 

「匂う…ですか?」

 

「そう、なんというかこう…薬品くさいというか…。」

 

「…そういえばなんだかシンナー臭いような…。」

 

アルに言われてハルカも気付く。

 

屋敷の中にシンナー系の薬品のにおいが充満しているのだ。

 

見たところ補修作業が行われたような形跡はない。

 

「…少し探ってみましょう。」

 

二人はその匂いが強まる方へ進み…

 

「この部屋ね。」

 

この屋敷には似つかわしくない何もない殺風景な部屋にたどり着いた。

 

「社長、壁のペンキがまだ乾いてませんよ。」

 

「増築された様子がなくて他の部屋とも同じ色の壁なのに…?」

 

壁の塗装以外造られた時期は他所の部屋と変わらないのに壁の塗装だけ…それも一部だけではなく壁全体のペンキが乾いていないのか真新しいテカリを放っている。

 

「…少し調べてみましょうか。」

 

「はっはい!」

 

見るからに怪しい、アルとハルカがこの部屋を調べ始めた。

 

「…よし、これでちょっとやそっとじゃ壊れ…。」

 

「…なななな、なっ、なによこれーーーーーー!!!???」

 

「ッ!?アルッハルカっ!!!なにがあったの!!?」

 

ウレタンフォームや耐衝撃ケースなどに厳重に梱包し終えたタイミングで屋敷中に響き渡るアルの叫び声。

 

荷物を持ちカヨコは駆けだし…

 

「大丈夫、二人ともッ!?」

 

二人の声がした部屋に到着すると…

 

「か、カヨコ…これ…!」

 

「え…!?」

 

そこで目にした光景に彼女も言葉を失った。

 

部屋の壁の一部は無残にはがされていた。

 

そして、その内側には…

 

「お、お金…!?」

 

壁に変わり一面の札束がその空間を埋めていた。

 

「こ、こっちの壁にも中にびっしりですよ!」

 

ここだけではない。

 

他の面の壁も剥いでみると同じように札束が詰まっていた。

 

「これは…奴らの隠し資産…!?」

 

「でも、どうしてこんな…!?」

 

「多分、兄さんのせいね…。」

 

「ネイト兄の?」

 

「えぇ…ネイト兄さんったら闇銀行の金庫室焼き払っちゃったじゃない。」

 

『あぁ…。』

 

アルの予想に納得するカヨコとハルカ。

 

先の戦争だけでなくアビドスの闇銀行襲撃も裏社会に大きな影響を与えた。

 

何せキヴォトスの犯罪組織の資産の1割以上があの日に灰と化したのだ。

 

対策を講じるのも無理はないが…犯罪組織が堂々と銀行に口座など作れるわけもない。

 

だから自分の手元にこうやって隠匿することにしたのだろう。

 

「…どうするの、これ?」

 

つまり、ここにある金はこの組織も表に出せない…持ち出しても堂々とは被害届も出せないような代物。

 

ということは…

 

「ハルカ平社員、タイムリミットは?」

 

「あ、あと60分と少しです!」

 

「ま、まさか社長…?」

 

「決まってる、カヨコ課長!こいつらは『大物』、分捕ったってアウトローの名に傷はつかないわ!!!」

 

ボーナス獲得の大チャンスである。

 

「ハルカ平社員、手あたり次第壁をはがしなさい!」

 

「りょ、了解しましたっ!」

 

「カヨコはこの屋敷からバッグでも袋でもシーツでもいいからとにかく入れ物もって来てちょうだい!」

 

「…はぁ~分かったよ。でも残り20分までだからね。」

 

大喜びで壁の中の札束を持っていたバッグの中へ詰め込んでいくアル。

 

ハルカはストックで壁を壊してまわりカヨコも急いで札束を入れるためのものを探しに屋敷内を走る。

 

余程あくどく儲けていたのだろう…

 

「こ、こっちの部屋の壁の中もですよ!」

 

「構わないわ!!!どんどん壁を破りなさい!」

 

どの壁を破ってもみっちりと札束が押し込まれていた。

 

「これは…ちょっとテンション上がるね…!」

 

「その意気よ、カヨコ課長!持ってけるだけ持ってくわよ!」

 

瞬く間に積みあがっていく札束で膨れ上がったバックの山。

 

これには普段クールなカヨコも目を見開いてテンションが上がっていた。

 

その後しばし壁をはがしては札束をバッグに移すのを繰り返し…

 

「そろそろリミットね…。カヨコ課長、脱出用の車を用意してちょうだい。」

 

「分かったよ。そっちも運び出す準備に入ってね。」

 

時間もそろそろなので脱出準備に入る。

 

「お、大きなバンを持っててよかったですね。」

 

「えぇ、これでいくら儲けられたのかしら?」

 

キヴォトス人特有のパワフルさで入れ物をどんどん運び…

 

「もうこれ以上つめないね。」

 

「上々よ!さぁ、速く脱出…。」

 

大型バンにこれ以上積めないというほど乗せ込みいざ脱出…といったその時だ。

 

《アルちゃ~ん、今大丈夫~?》

 

別行動中のムツキから通信が入った。

 

「ちょっと今は仕事中よ、ムツキ室長?社長と呼んで…。」

 

《ごめんごめん。でもね~ちょ~ッと状況が変わったかも。》

 

「状況が変わったって何が…。」

 

詳細を尋ねようと聞き返したのだが、まるで見計らった様に屋敷の門が大きく開け放たれ…

 

「急げ!早く証拠を隠すん…。」

 

ゾロゾロとこの屋敷の主であるカルテルのボスと取り巻きが帰ってきた。

 

「えッ!?まだ時間はたっぷり…!」

 

想定外の事態に固まるアルだが…

 

「テメェらなにもん…!」

 

カルテル側は待ってくれるわけもなくアル達に詰め寄ろうとする。

 

しかし、想定外の事態は続く。

 

続けて遠くからパトカーのサイレン音が響いてきた。

 

「ヴァ、ヴァルキューレまで!?」

 

「あぁもう何でこうもトラブルが続くの…!?」

 

キヴォトスにおける警察組織であるヴァルキューレ警察学校までここに迫っているではないか。

 

《もしも~し、アルちゃ~ん?聞こえてる~?》

 

「ーッ!脱出よ!」

 

固まっていたアルだがムツキからの通信で我に返りハルカを押し込むようにバンに飛び乗り、

 

「出して、カヨコ!」

 

「了解…!」

 

カヨコに命じバンを発進させる。

 

幸い脱出ルートは正面ではなく裏手だ。

 

「追え、奴らを逃がすなっ!!!」

 

カルテルも大急ぎでアル達を追おうとするが…

 

「ヴァルキューレ公安部だ、全員動…ってどこへ行く!?」

 

「くそっ、足止めしろ!!!」

 

ちょうどヴァルキューレの部隊も到着、カルテルの一部の構成員と銃撃戦が発生。

 

「む、ムツキどうなってるの!?」

 

《あちゃー間に合わなかったかぁ~。いやね、どうも今日がヴァルキューレのガサ入れがある日だったらしくて…。》

 

「なんてタイミングでッ!?」

 

《さっきから無線傍受してたらちょうどそんな感じのが入ってきてねぇ~。》

 

先述したように先の戦争で裏社会の動きも変わってきている。

 

それはつまりそれを取り締まる警察組織たるヴァルキューレの動きも活発になるということとイコールである。

 

アル達にとって最悪のタイミングでそれが今日起こったということだ。

 

「ふ、フフフッ!でも大丈夫!ハルカ平社員、証拠隠滅はばっちりよね?!」

 

だが、アル達は対策をとっていた。

 

こんな事もあろうかとハルカに証拠隠滅を頼んでいたのだ。

 

「はっはい社長!準備万端です!」

 

「さっすがハルカ!証拠の回しゅ…え?」

 

今、ハルカの言葉がおかしかった。

 

隠滅を頼んだのに…準備万端とは?

 

「ちょ、ちょっとどういう…!?」

 

いやな予感が…した。

 

「え、えへへ…私たちがいたことを…消しちゃえばいいんですよね?」

 

そう言い、ハルカが取り出したのは起爆装置だ。

 

「ちょ、ちょっと待ってハルっ…!」

 

アルが制止するよりも早く…

 

「きっ起爆…!」

 

ハルカが起爆装置を二回押し込んだ。

 

次の瞬間、今までいた屋敷のいたるところで爆発が発生。

 

ペシャンコに潰れただけでなく時間差で二回目の爆発が発生し瞬く間に屋敷が炎に包まれた。

 

「え、えへへ…発破の要領で爆薬を仕掛けて第二陣で起爆するようにテルミットを仕掛けたんです…!」

 

伊草ハルカ、今日も爆破技術が冴え渡っている。

 

「…やややや、やっ、やりすぎよーーーーーー!!!???」

 

「ふぇ!?だ、ダメだったんですか!?ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいッ!わ、私が今度は消え…!」

 

想像以上の強引すぎる証拠隠滅手段にアルは白目を剥き絶叫。

 

「そう言うのいいから全員掴まってよ!」

 

何はともあれこれで自分たちがいた証拠は見つかることはないだろう。

 

アクセルを踏み込みバンは撤退経路を進む。

 

が…

 

「ちょ、追いついて来てるわよ!?」

 

「お金が重すぎるんだよ、そっちで何とかして…!」

 

欲張りすぎたかバンをもってしても過積載気味でスピードが出ずカルテルの車との距離が詰まっていく。

 

「ハルカ平社員、応戦よ!」

 

「はっはい!」

 

追いつかれたらただでは済まない。

 

アルとハルカが身を乗り出し後続車を攻撃しようとした。

 

「逃がすな、あいつらただじゃ置かねぇぞ!!!」

 

対するカルテルの追跡者からも多くの構成員が銃を構えた。

 

次の瞬間、カルテルの車両に『横』から夥しい量の弾丸が叩き込まれ爆発炎上した。

 

「来てくれたのね、ムツキ室長!」

 

《いえ~す!ムツキちゃん、ただいま参上だよ~♪》

 

さらに続いてアル達の上空を駆け抜ける一機のヘリコプター。

 

ムツキが操る汎用ヘリ『UH-1 イロコイ』の航空支援だ。

 

先の戦争でアビドスとW.G.T.C.側に立ち活躍した便利屋68。

 

その際に多額の報奨金(アルだけでなく便利屋全員が白目を剝くほど)が支払われたのだがその際にネイトが…

 

『現金をそのまま持っとくのもいいが機材とか『資産』にできる奴も持っておいた方がいいぞ。』

 

とアドバイスしていた。

 

言われると、以前銀行から融資を受けられなかったのもこれといった資産がなかったからだ。

 

ならばと、アルは大きな収入が入ったのでアビドスからこのイロコイや車両をいくつか購入。

 

元はカイザーからの鹵獲品かつ機体数も結構あり友情価格で譲ってくれた。

 

そして、初陣としてこの依頼に投入されたのだ。

 

「もぉ、アルちゃんに夢中だからって迷惑な追っかけはご法度だよ~♪」

 

ムツキはなおもアル達のバンに迫るカルテルの車両に行く手に向けロケット弾を発射。

 

着弾した瞬間、爆炎ではなく白い物体が周囲に撒き散らされ…

 

「ぬああああ!?なんだ!?なんだ、これは!?」

 

「と、鳥もちだ!?タイヤにくっついて進まねぇ!」

 

窓やタイヤにへばりつきカルテルの車両の走行を妨害する。

 

《ぃやったー!追っかけはこれで足止めできたよぉー!》

 

「ナイスよ、ムツキ室長!そのままランディングゾーンに向かって!」

 

これで相当時間が稼げた。

 

そのままアル達が乗るバンは山道を進んで行き…

 

「到着!」

 

「アルちゃ~ん、頼まれたから一応貨物ネット用意してるけどどうし…。」

 

「ムツキも手伝って!これ全部持って帰るわよ!」

 

「って何これ!?」

 

予定していた脱出地点に到着、急いで荷物を貨物ネットや機内に積み込む。

 

「これ全部でいくらくらいあるの?」

 

「分かんないわよ!二部屋くらいの壁はがして持ってきたんだから!」

 

「軽く100億以上はありそうだよ…!」

 

「ひゃっ100億円!?も、もうご飯を抜かなくて済みますね!」

 

「それどころか本当に私達だけのためのビルだって建てられるわ!未来が明るいわよー!」

 

とそんな風に話しながら積み込んでいると遠くからサイレンとエンジン音が聞こえてき始めた。

 

「うわぁヴァルキューレも追っかけてきてるのかぁ…。」

 

「どうやら悠長にしてられないね…!」

 

「こっこれで最後です!」

 

「了解、じゃあさっさと退散するわよー!」

 

4人がかりであったため積むときより早く下ろし終え急いでヘリに乗り込み、

 

「エンジン始動、捕まっててよぉ!」

 

エンジンが唸りを上げて始動しプロペラが勢いよく回転するが…

 

「おぉっ重んもぉイィィィ…!」

 

先ほどと打って変わって思うように機体が浮かび上がらない。

 

無理もない。

 

来るときにはなかったアル達という乗員だけでなくおよそ100億超えの紙幣とバッグ諸々を機内に持ち込んだり吊り下げているのだ。

 

おそらく最大離陸重量ギリギリだろう。

 

それでも…

 

「が、頑張れええええええ!!!」

 

必死に操縦桿を引っ張ると何とか浮き上がった。

 

「やったわ、さすがムツキ室長!」

 

「わ、悪いけど今話しかけないでぇ!少しでも気を抜くと落っこちるからぁ!」

 

が、ムツキの普段のおふざけな態度が引っ込む程の操縦難度のようである。

 

ゆっくりではあるがそれでも確実にヘリは飛行し…

 

「や、やりました!離脱できましたよ!」

 

「ふぅ~…一時はどうなるかと思ったけど…。」

 

ランディングポイントからかなり距離をとることができ一息つくことができた。

 

「ふっふっふっいつになく完璧な仕事っぷり!これが新生便利屋68の実力よ!」

 

依頼品も回収できまさかの臨時収入にありつけたことに気をよくしたアル。

 

「どんなもんよー!これが私たちの実力よ、覚えてらっしゃーい!」

 

気を良くしハッチから身を乗り出して後ろに向かって声を張り上げる。

 

…これが幸運だった。

 

その時、ランディングゾーンに集まっていたカルテルの車両の近くから煙が勢いよく噴き上がった。

 

「ッ!?ハルカ、テルミット!!!」

 

「はっはい!」

 

即座にハルカに命じテルミットを受け取り機外に投げ捨て…

 

「クッ!」

 

ワインレッド・アドマイアーで撃ち抜く。

 

銃弾によりテルミットは発火、火花を散らしながら落下していく。

 

そこに向かって…ミサイルが飛翔し爆発した。

 

「なっ何!?なにがあったの、アルちゃん!?」

 

「奴等携SAM使ってきたわよ!全速力で離脱して!」

 

爆発の衝撃で揺れる機内で必死の形相で指示を飛ばすアル。

 

「ハルカ、もう一個テルミットを!もう一発来るはずよ!」

 

「も、もうありません!」

 

「ムツキ、フレアは?!」

 

「そ、そんなの積んでないよ?!」

 

なんとか一発は躱せたがもう回避する有効な手立てはない。

 

やはり財力のあるカルテル、一発で済むはずがない。

 

「くそっ!軌道をそらしやがった!」

 

「もう一発だ!」

 

事実、構成員は新たな携帯型地対空ミサイル『9K34 ストレラ-3』を構える。

 

「動くな、貴様らッ!!!」

 

ちょうどその時、追跡してきたヴァルキューレ部隊も到着し他の構成員を捕縛に動くが…

 

「落ちろ、盗人どもぉ!」

 

あと一歩届かず無情にもミサイルが放たれた。

 

このまま無残に撃ち落とされるのを待つしかないのか…?!

 

否、

 

「ムツキ、機体をまっすぐ飛ばしなさい!」

 

アルは自らのベルトにフックを取り付け機外に身を乗り出しワインレッド・アドマイアーを構える。

 

(弾速的にスティンガーじゃない!弾丸より遅いのなら…!)

 

それでも弾着まで10秒もないが…アルにとってはそれだけでも十分だった。

 

「すぅ―…ふぅー。」

 

軽く呼吸をし息を止め…引き金を落とした。

 

弾丸は空を裂き飛翔し…ヘリまであと数百mの所で着弾。

 

シーカー部分を砕きミサイルは目を失い僅かに飛翔したのち爆発した。

 

「ムッムツキ、機体は!?」

 

「大丈夫、これなら全然飛び続けられるよ!」

 

破片こそ僅かに届きはしたもののヘリの飛行には一切支障はない。

 

「ま、まだ飛んでくるんじゃ…!?」

 

「大丈夫だよ、ハルカ。もう携帯式のミサイルの射程範囲から抜けたから。」

 

「はぁ~…上手く行ってよかったわぁ…。」

 

「いやぁまさかミサイルを狙撃で落としちゃうだなんて腕を上げたね、アルちゃん♪」

 

距離が取れたのでもう追撃の心配がないので胸をなでおろすアル達。

 

ちょうど山間地も抜け市街地上空に入ったので逃走も上手く行くだろう。

 

「いろいろあったけどこれで後は帰るだけね…。」

 

機内に座り込み改めて一息つくアル。

 

すると…

 

「あ!なんかエンジンの調子が良くなってきたかも!」

 

ムツキがそんなことを言い始めた。

 

「これなら燃料も余裕を持って帰れるね、アルちゃん!」

 

「え?そんな機能積んでたかしら?」

 

「さぁ?でもなんだか飛んだ時より操縦桿が軽くなってるよ♪」

 

「え、エンジンが壊れるよりもずっといいですね。」

 

「この子の初陣も相当キツイ目に合わせちゃったから終わりくらい…。」

 

『………あれ?』

 

ここで全員気付いた。

 

普通、機体の操縦の感覚は早々変わらないはずだ。

 

それがこんな短時間で変わるとは思えない。

 

そしてムツキはこういった、『操縦桿が軽くなった』と。

 

「…ねぇムツキ、今操縦桿の重さはどんな感じ?」

 

「え、えぇっと…きっ気持ち軽くなってるかなぁ…?」

 

しかも現在進行形で軽くなっているというではないか。

 

「…まさかッ!?」

 

機体の操縦の難易度には重量も大きく関わっている。

 

…あるではないか。

 

このヘリの操縦難易度に直結する大重量の物体が。

 

アルだけではない、カヨコもハルカも機体の下をのぞき込む。

 

そこに広がっていた光景に…

 

「いぃやああああああああああああああああああーーーーーー!!!???」

 

アルは今日何度目かの絶叫を上げるのであった。

 

――――――――――――――

 

―――――――

 

―――

「フフッ、まったく…見てて飽きないよ、兄妹。」

 

翌日、ネイトは新聞の一面を見て微笑を浮かべていた。

 

そこには…

 

季節外れのサンタクロース来訪!?

白昼の街に降り注いだのは雪ではなく大量の紙幣!?

 

と、なんとも愉快なニュースが一面を飾っていた。

 

ちょうどその時、ネイトのスマホが震える。

 

「もしもし?やぁ、兄妹。活躍は新聞で見たよ。」

 

相手はアル。

 

「なに?ミサイル撃ち落としたのはいいけど破片がネットや荷物を引き裂いた?それは不運だったな。」

 

そう、あのミサイル…撃ち落としたはいいがいかんせん近すぎた。

 

ヘリにはダメージこそ与えられなかったもののヘリよりも脆いネットや吊り下げていた荷物には大ダメージ。

 

破片がそれらを引き裂いて…というのがこの一件の真相である。

 

「まぁいいじゃないか。依頼は完璧に遂行、カルテルも壊滅。いい事ばかり…え?経費がかさんで今月また苦しいって?」

 

どうやら機内に持ち込んだ金と依頼報酬だけではヘリまで導入したこの作戦の出費を賄うにはかなり厳しいようだ。

 

「あぁ…あぁ…分かった。じゃあまたウチにこい。ちょうど都市区画の解体に入るから人手が欲しかったところだ。…あぁ~もう泣くな、今度柴関ラーメン奢ってやるから。あぁ、じゃあ三日後に。」

 

こうしていつものようなドタバタの中…便利屋68の依頼は終わりまたアビドスでの生活が始まるのであった。




兄弟にほほえみかけ、助けの手を差し伸べるたびに、それがクリスマスなのです。
―――修道女『マザー・テレサ』
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