「くそっ、襲撃に行ったやつら遅いな…。」
「連絡も寄越さずどこで何してるんすかねぇ。」
アビドス高等学校があるブロックからさらに砂漠化が進んだ場所にある3階建ての廃墟ビル。
そこに今回の襲撃で人員を出していた『カタカタヘルメット団』の一派のアジトがあった。
「まさか…対策委員会の連中にやられたんじゃ…?」
「バカ言うな、本部肝いりで発案された複数支部合同の作戦だったんだぞ?」
そう、いつにもまして襲撃が大人数だったのはこれが理由である。
どこの支部も人員と物資を出し合い、兵力を集中投入。
実行部隊を指揮する幹部も本部で養成された手練れだと聞いている。
そうそう失敗するような作戦ではない。
…少なくとも、彼女たちはそう思っていた。
「まぁ、ひょっとしたら作戦成功して浮かれてパーティでも開いてるんじゃないすか?」
「…かもな。よし、朝になったらアビドス高等学校へ確認しに行くぞ。」
あくまで作戦の成功を疑わない、楽観的なヘルメット団のメンバー。
しかし…彼女たちにそんな朝は訪れないだろう。
「うぅ…やっぱ砂漠の夜は冷えるなぁ…。」
「今日は特にな…。夜の見張りに付かされるなんてついてないぜ。」
廃ビルの入り口、二人のヘルメット団が立ち番をしていた。
昼間と打って変わって気温が急低下したので早く交代の時間にならないかと愚痴りあっていた。
そんな二人の様子を…
《セリカ、右をやれ。左は俺がやる。タイミングは任せる。》
「任せなさい。外しはしないわ。」
少し離れた砂丘の峰からポンチョを纏ったセリカが暗視スコープで覗いていた。
無線でネイトからの指示を受け…
「すぅ~…ふぅ~…。」
軽く息を吸い込んで吐き出し、引き金を落とした。
狙撃仕様に高精度化、隠密性を上げるため今はマズルブレーキをサプレッサーに換装した得物ベレッタAR70『シンシアリティ』から放たれた弾丸は…
「~ッ!!?」
狂いなく見張りの一人の頭を撃ち抜いた。
さらに、もう片方の見張りが反応するより早く、
「がっ…!?」
今度は横から衝撃が襲い掛かりどちらも瞬く間に昏倒。
《ナイスショット、あいつらに労災が下りるといいな。》
「フフッ、ヘルメット団にそんなのあるわけないじゃない。」
《確かに。…これからビル内に侵入する。適宜支援狙撃を頼む》
「了解、安心していってきなさい。」
そんな軽口を無線でかわしあいながら暗視スコープを覗くと背中に識別用の蛍光マーカーを提げたネイトたちが一列でビル内に侵入していくのであった。
「よし、一先ず第一段階は成功だ。」
侵入し、入り口近くの部屋を確保。
「ん…改めて作戦内容を確認したい、ネイトさん。」
「よし、基本は一階ずつ素早くクリアリングしてヘルメット団を一掃していく。速度勝負だ、連携が重要だぞ。」
そこで改めてこのヘルメット団のアジトを制圧していく作戦会議を行う。
今回ネイトが所持しているのはコンバットライフル。
.308口径徹甲レシーバー、ショートポーテッドバレル、反動吸収ストックに短距離スコープという近接戦仕様だ。
背中には近接用にマチェットを背負い、腰のホルスターにはデリバラーを挿してある。
「ホシノ、お前が『ポイントマン』だ。真正面の敵だけに集中しろ。」
「りょ~かい、前は任せてぇ。しっかり皆を護ってくよぉ。」
いつものような穏やかな表情だがその目には気合が満ち満ちているホシノ。
既に盾を展開し相棒のベレッタ1301『Eye of Horus』も準備万端だ。
「その背後に俺、シロコがついて両翼の敵を排除しながら行進。俺らが作戦の鍵だ。気合入れていくぞ。」
「ん…分かった。どんどんヘルメット団を倒していく。」
シロコもいつものように無表情ながらもすでに生まれ変わった『WHITE FANG 465』を使いたくてうずうずしているようだ。
背中にはサイドアームとして『M870ブリーチャー』を背負っている。
「ノノミは火力支援とブリーチング担当だから基本は一番後ろだ。だが、制圧射撃の時は柔軟にポジションを切り替えてくれ。」
「分かりました。張り切っちゃいますよぉ~。」
ノノミも朗らかに答えるがこの中では唯一普段の装備ではない。
今回は室内戦、ミニガン『リトルマシンガンⅤ』では取り回しが悪すぎる。
そこで昼間にヘルメット団から失敬した『M249 MINIMI』をネイトが短縮軽量タイプの『パラトルーパー』にカスタマイズしたものを渡している。
フォアグリップとドットサイトも装着しているので制御と命中精度は十分だろう。
そこへさらに背中にはネイト特製の弾薬バックパックとブリーチング用のスレッジハンマーも背負うという重装備。
それでもケロッとしている当たり、やはりキヴォトス人の身体能力は驚異の一言に尽きる。
「よし、打ち合わせはこれくらいにして…行くぞ。」
手早くポジションと各々の役割を再確認、一階のドアの前に分かれて集結。
その際、階段にあるものを撒いておくネイト。
「ネイトさん、それは?」
「フラグ地雷、裏どりされないように封鎖するのさ。」
「うへ~徹底してるなぁ。」
「ん…でも効果的。」
「爆発しなかったら帰りに回収するさ。…アヤネ、室内の様子は分かるか?」
《そちらから見て手前に六人、奥のほうに八人。一人が窓から外を覗いています。》
「了解。セリカ、合図をしたら窓の奴を排除しろ。中が騒がしくなったらドアをぶち抜いてフラッシュバンを投げ込んで突入する。ホシノ、ノノミ準備しろ。シロコはフラッシュバンを。」
「「「《了解。》」」」
「…撃て。」
ネイトの合図でセリカが窓のヘルメット団を狙撃。
「がっ!?」
「なっ!?敵襲ッ、敵襲だ!」
俄かに騒がしくなり移動する足音が聞こえる室内。
そして、ネイトがホシノの肩を軽くタッチし彼女が素早くドアの蝶番を撃ち抜き破壊、
「いっきますよぉ!」
矢継ぎ早にノノミがスレッジハンマーをフルスイングしドアに叩きこみ吹き飛ばす。
「「ぎゃふん!?」」
不幸にも室外に出ようとしていたヘルメット団の二人がそのドアの巻き添えを食らった。
「フラッシュ。」
さらにおまけと言わんばかりに部屋の中ほどにシロコがフラッシュバンを投入。
『ギャアアア!?』
完全に虚を突かれたヘルメット団はまともにそれを浴び悲鳴を上げる。
「Move In!」
それを合図にホシノを先頭に一気に流れ込んだ。
「サイドクリア!突っ込め、ホシノ!」
素早く部屋の角を確認、
「そらそらぁ~!売られた喧嘩買いに来たよぉ!」
「がっ!?」
「ぐあ!?」
奇襲の心配がなくなったホシノはバリスティックシールドを構えながらOOバックを前方のヘルメット団に撃ち込んでいく。
「や、奴ら対さ…!」
乱入者の正体に気が付き声を上げるヘルメット団だが、
「遅い。」
ネイトがコンバットライフルを構えAIMすると…
「ぁぁぁくぅぅ…!」
周囲のスピードが鈍化、声も非常に間延びしたように聞こえる。
レジェンダリー効果、『デッドアイ』。
AIM姿勢をとると体感時間で三秒、周囲がスローモーションになったような錯覚を得るほどの猛烈な集中力が得られる。
その隙を見逃さず、
「「「あがぁ!?」」」
実際の時間では一秒も満たない間に三人のヘルメット団を撃ち抜く。
スローモーションが解けても次々と.308口径弾をヘルメット団目掛け撃ち込んでいく。
「ん…負けてられない。」
シロコもネイトとは逆サイドのヘルメット団に向かい銃撃。
「ギャン!?」
「グハッ!?」
前方と反対側の心配はしなくていいので落ち着いてスコープにマウントされたドットサイトで素早く狙い次々と撃ち抜く。
「ん…ノノミ、援護を。」
「お任せください!」
そこへさらにノノミがMINIMIを掃射。
分隊支援火器の火力はアサルトライフルの10倍ともいわれている。
「「「ぎゃああああ!?」」」
その弾幕にからめとられていくヘルメット団。
「くそ、なんて奴ら…!」
それでも奥のほうにいたヘルメット団の一人は何とか柱の陰に退避。
反撃の機会をうかがっていると…
《柱の陰にいる、任せて。》
「あぐ!?」
外からセリカの援護狙撃で撃ち抜かれ気絶してしまった。
「ワンフロア、クリア!」
30秒にも満たない時間で素早く一階を制圧。
そのまま前進し対面にある非常階段に向かう一行。
「ノノミ、ドアを開けたら短連射で踊り場に向け制圧射撃!」
「はい!」
そして素早くネイトがドアを開けノノミも指定の場所に制圧射撃開始。
「ま、待て、とまれ!」
一階の異常を聞きつけ二階から駆け付けようとしていたヘルメット団。
その制圧射撃を受けノノミからの死角に固まり制圧射撃が途切れるのを待つ。
だが、動きを止めて固まってしまうということは…
「グレネード!」
ネイトがフラググレネードを取り出しピンを抜きレバーを飛ばす。
そのまま3秒数えてから階段の死角に飛び込むように投げ込んだ。
「しゅ、しゅりゅ・・・!」
飛んできた手榴弾に気付き逃げようとするも…
『うあわああああ!!?』
起爆時間を調整されていたので逃げる間もなく全員炸裂したフラググレネードの餌食となってしまった。
「よし、壁に沿って移動!」
脅威も排除でき再び進軍再開。
が、踊り場に差し掛かった時、
「これでもくらえ!」
今度は室内にいるヘルメット団から手榴弾が投げ込まれた。
が、
「うりゃあっ!」
ホシノがバリスティックシールドを振るい小気味いい音を立てて打ち返し、
「…え?」
「「「のぉわああああ!!?」」」
部屋の中に戻ってきた手榴弾によって逆に自分たちが吹き飛ばされることとなった。
「ナイスバッティング!」
「へへぇ~おじさんもやるもんでしょ♪」
ネイトの称賛に得意満面で答えるホシノ
と、その時建物が震えるような振動と爆音が聞こえてきた。
「ん…あっちに行ったヘルメット団が地雷踏んだ。」
「あらら…ご愁傷様ですねぇ。」
「これで後ろを心配する必要はなくなったにぇ~。」
「油断するなよ、ホシノ。行くぞ。」
《こちらアヤネです!二階の柱の陰に左右それぞれ五人ずつ固まっています!》
《こちらセリカ!ごめん、ここからだと死角で右の半分しか狙えないわ!》
「了解、スモークを使い接近戦を仕掛ける。シロコお前は右を。俺は左を片付ける。」
「ん…分かった。ようやくこれが使える。」
「ホシノとノノミは炙り出された奴を排除しろ。」
「気を付けてねぇ、二人とも~。」
「でも大丈夫なんですか、ネイトさん?」
確かにネイトは腕っぷしも強いが正直キヴォトス人基準でいうとそこまででもない。
それなのに接近戦を仕掛けて大丈夫なのかと心配になるノノミだが、
「なぁに…キヴォトス人より怪力も相手にしたことがある。」
そういうと一瞬のうちに全身にアーマーを纏うネイト。
『ヘビーコンバットアーマー』物理、エネルギーと双方に高い耐性を持つ軍用アーマーだ。
無論これもレジェンダリー効果があり、両腕はStrength、Enduranceを強化。
両脚はPerception、Agility強化、胴体はAP回復速度向上、ヘルメットにもV.A.T.S.強化の効果が乗っている。
「んじゃ、行くぞ。」
「ん…いつでも。」
「スモーク!」
そういい、ネイトは目くらましのスモークグレネードを投入。
「くそ、煙幕だ!」
「構えろ!奴等は盾を持ってるからな!」
煙が展張していく中、盾を構えて突っ込んでくることを警戒するヘルメット団たち。
が、
「ん…。」
「それは…」
「「外れ(だ)。」」
『んな!?』
煙幕を突き破り部屋の両サイドからネイトとシロコが飛び出し完全に虚を突かれてしまった。
「あぐッ!」
シロコは『WHITE FANG 465』を連射しながら柱に向け疾走、ヘルメット団の一人がそれを食らう。
途中で弾切れになるが再装填せずそのまま…
「この!」
「遅い。」
「ぐぇ!?」
懐に飛び込みサプレッサーに取り付けられたスパイクで喉を刺突。
「とりゃ。」
「がはッ!?」
流れるように回し蹴りを放ち柱に叩きつけ、
「ふん。」
「わばっ!?」
続けざまにストックで側頭部を殴打し、
「ラスト。」
「ぶへぇ!?」
流れるようにサイドアームの『M870ブリーチャー』を引き抜き最後のヘルメット団にぶっ放した。
一方、
「くそ、なんてレートで撃ってきやがるんだ!?」
ネイトは左手に持ち替えたコンバットライフルを速射。
デッドアイの効果によりセミオートでありながらフルオート顔負けの制圧射撃でヘルメット団を釘付けにする。
そして、柱に近づくため全力疾走している最中、
(これを送ってくれるとは…ユメも分かってるな。)
開けた右手で背中のマチェットを引き抜いた。
その刀身は曲がりくねり刃も波打ち一見してボロボロだった。
だが、どこか禍々しい気配を放っている。
その名も『クレンヴの歯』、廃坑の奥地で手に入れたマチェットの倍の威力、出血、毒という強力な刀身だ。
それをレジェ効果『扇動』、万全の相手の初撃の威力を倍加するマチェットに装着している。
そのままシロコのようにヘルメット団の懐に飛び込み、
「そぉら!」
物陰に隠れていたヘルメット団にそのマチェットを叩きこむと、
「ギャンッ!?」
一撃で地面に叩きつけられ沈黙。
「ぬん!」
「ぐへっ!?」
さらにもう一振るいで二人目も撃破。
「「「ひ、ひぃいいいい!!?」」」
突然仲間が巨大な刃物を持った男に叩きのめされる。
治安最悪のキヴォトスであっても中々見れない衝撃的光景に残りのヘルメット団のメンバーは完全に恐怖し柱から飛び出したが、
「ヘルメット団さん、いらっしゃぁ~い♪」
「お待ちしてましたぁ~♪」
「「「ギャン!?」」」
そこへ待ち構えていたホシノとノノミが容赦なく弾丸で迎えたのであった。
「クリア!」
「ん…でも剣術で二人倒したのはすごい。」
「うへ~…あんなの見せられちゃ夢に見ちゃいそうだよ~。」
「ヘルメット団の皆さんはトラウマ物でしょうねぇ…。」
「それなら襲ってこなくなるから一石二鳥!次行くぞ!」
軽口をたたきあいながらも素早く隊形を取り最上階の3階への階段を上るネイトたち。
だが、今度はあちらはドアをロックし完全に引きこもっている。
「地雷が効果的だったんでしょうね…。」
「アヤネ、敵の配置は?」
《全部で20名で部屋中央に廃材で銃座を設置、非常階段側も警戒しています。扉はどちらもバリケードで塞がれています。》
「フム、完全に籠城体制か…。」
「うへ~どうするの、ネイトさん?」
部屋の内部の状況を整理し作戦を考えるネイト。
すると、
「ん…私に任せてほしい、ネイトさん。」
「シロコ?何か案があるのか?」
「今まではネイトさんの戦い方を体験させてもらった。だから、今度は『キヴォトス』の戦い方を見てほしい。」
―――――――――――
―――――
―――
――
「な、なんて奴らだ…!五分と経たずに下の連中が…!?」
最上階に立てこもるヘルメット団の生き残り達。
今回、襲ってきたのはアビドス高等学校の廃校対策委員会だというのはすでに伝わっている。
だが…いつもと勝手が全然違う。
連携も戦闘スタイルも凶暴さも何もかも今までの彼女らとは隔絶の洗練さだ。
その結果、わずか五分足らずで全滅の危機だ。
しかも、退路を地雷で封じるという徹底ぶり。
何かが変わったと確信するには十分すぎた。
ここにいる他の団員も恐怖で今にも逃げ出しそうなのをこらえてバリケードに隠れている。
「く、来るなら来やがれ…!ここに来たことを後悔させてやる…!」
そんな団員を鼓舞するようにこのアジトの幹部が息巻く。
すると…
「お、オイ…あれって…。」
一人の団員が窓の外に何かがあることに気が付いた。
全員がそちらを向くと…それはドローンだった。
ただ、そのドローンの下部には…ロケット弾の投射器が吊り下げられていた。
「や、ヤバ…!」
次に起こることを反射的に気付きヘルメット団は逃げようとするもそれより早く、
『ぎゃああああああああ!?』
ドローンからロケット弾が発射、銃座もろともヘルメット団を吹き飛ばした
さらにうち一発が…ネイトたちが待つドアの前のバリケードを除去し、
「Charge!!!」
最後の突入が敢行された。
…………その前のこと、
「…ということでこのドローンなら外から奴らを攻撃できる。」
「はぁ~進んでんだな、キヴォトス…。」
シロコの持つこの爆撃ドローンともいうべき機材の説明を受けしげしげと眺めるネイト。
「じゃあそれで行こう。シロコ、一発はこのドアのバリケードに向けて撃てるか?」
「ん…任せて。」
「よし、爆撃だからちょっと距離をとるぞ。ホシノ、防御を…。」
作戦が決まりその準備を始めようとすると…
「…ネイトさん、お願いがあります。」
「…どうかしたか?」
いつになく真剣な…鋭さを覚えるような雰囲気を纏うホシノ。
そして…
「これを…貴方に使ってほしいんです。」
自らの腕から愛用のバリスティックシールドを外しネイトに差し出した。
「ほ、ホシノ先輩…その盾は…。」
「ん…今まで誰にも預けなかったのに。」
そう、このバリスティックシールドはホシノにとっての梔子ユメの形見だ。
普段はあんな軽い雰囲気だがこの盾に関してだけは誰にも託そうとはしなかった。
それを…今ネイトに託そうとしているのだ。
「…理由を聞いても?」
「はい、貴方には…ユメ先輩と似たものを感じます。」
「ユメに似たものを?」
「戦い方はまるで違います。あの人は…この盾で皆を護ること以外からっきしでしたから…。」
「…彼女らしいな。」
「えぇ、とても…。私も先輩の姿を見てこの盾を使ってきました。今回みたいな守るだけでなくこの盾を武器にもしてきました。」
「確かに、ホシノはその盾の使い方が上手いな。」
「でも、まだこの盾をうまく扱えると思うんです。ユメ先輩にも私にもまだできない…そんな使い方が。」
「………。」
「ネイトさん、貴方にだからこの盾を託したい。ユメ先輩の優しさと…彼女や私を超える『経験』を持つ貴方を見て…私は学びたいんです。」
ホシノは今日…自らの呪縛から解き放たれた。
ユメのようになるのではなく、ユメを超えて皆を護れるようになろうと。
だが、それにはどうしたらいいかが分からなかった。
だから、この盾をネイトに託しその戦い方を見て学ぼうというのだ。
この場の誰よりも『大人』で…誰よりも優しい彼の戦いを。
「…俺は盾を使った戦闘はやったことがないが…。」
そんな思いをネイトはしっかりと受け止めた。
ホシノからユメの盾を受け取り…
「俺なりの…ネイトとしての…この盾の戦い方を見せよう。」
力強く自らの左腕に装着する。
目の前の『子供』が成長しようとしている。
その手本となり背中を見せることこそ…『大人』である自分の役目である。
そして場面は突入時に戻る。
真っ先に飛び込んだのは盾を左手に装着し右手にデリバラーを持ったネイト。
その背後を姿勢を低くしホシノが追従する。
「ゲホゲホッ…!」
いまだ爆発の衝撃で混乱状態にあるヘルメット団に向け、
「ふん!」
「がぎゃ!?」
盾の底面を勢いよく叩きつけ意識を刈り取る。
「後ろは任せた!ホシノ、暴れるぞ!」
「はい!」
ホシノもすぐさま『Eye of Horus』を発砲、
「あギャ!?」
「ぐあ!?」
次々と敵を打倒していく。
「この!」
背後からヘルメット団が襲い掛かるも、
「ッ!」
「き、消え!」
「遅い!」
「あギャ!?」
一瞬にして宙に飛び宙返りしながら発砲し撃退。
さらに、
「フッ!」
「あばばばッ!?」
着地の際にさらに足のばねを活かし突撃、装着されたスタンバヨネットによりけいれんを起こすヘルメット団に対し、
「まだだ!」
「ぐぇ!?」
躊躇することなく発砲、
そこでちょうど弾切れ、銃を押し付けたまま逆さまにしネイトに用意してもらったスピードローダーですぐさま完全装填、
「そこ!」
「がっ!?」
そのまま片膝をつき身を翻し背後に迫る団員に発砲する。
その小柄な体躯を遺憾なく発揮し縦横無尽に跳ね回り敵を蹂躙する。
いつにもまして非常に攻撃的な戦闘スタイルのホシノ。
かつて…キヴォトス中の学校に恐れられた危険人物が存在した。
戦闘におけるどう猛さ、鋭さはまさに『ハヤブサ』。
よってつけられた異名は…『暁のホルス』。
(先輩、見ていてください…!私…また翔けられます!)
小鳥遊ホシノ、新たな決意を胸に捲土重来の復活である。
(なるほど、これが本来の小鳥遊ホシノの…梔子ユメがいたころの戦闘スタイルか。)
そう分析しつつもネイトもホシノにおのれの戦いを見せねばならない。
「コイツ!」
なんとか立て直したヘルメット団がネイトに向け発砲、
それを姿勢を低く盾を傾斜させながら滑り込むように間合いを詰め、
「むん!」
「ガボ!?」
間合いに入り次第大きく盾を振り上げあごに撃ち込みカチ上げ、
「ふん!」
「ぐばぁ!?」
伸びあがった横っ腹に回し蹴りを叩きこんだ。
そのまま腕を倒し盾を水平に戻し、
「らぁ!」
「「だぁ!?」」
近くにいた団員の脚部を殴打し転倒させ、そこへデリバラーを乱射しきっちりとどめも刺す。
「こ、コイツ!」
そこへいつもよりも遠い間合いで銃を構えるヘルメット団だが…
「『近すぎる』。」
「な!?」
V.A.T.S.を使い一瞬で間合いを潰し、
「ぜぇああ!」
「ギュッ!?」
盾上面をその喉に突き立てる。
「次!」
「のわっ!?」
再び近場のヘルメット団にV.A.T.S.を実行、
「足元がお留守だぞ!」
「きゃあ!?」
盾を足元に滑り込ませ転倒させたところで、
「ジャッ!」
「ぐへ!?」
立ち上がりざまに全体重を盾にかけて喉に降り下ろしながら立ち上がった。
とそこへ、
「馬鹿め、挟み撃ちだ!」
「食らいやがれ!」
左右からヘルメット団が接近。
だが、ネイトは焦らない。
「銃をっ!」
「ギャッ!?」
「持ってんなら!」
「づぅ!?」
盾の側面でそれぞれの膝を打ち据え、
「離れて!」
「ごッ!?」
「撃て!」
「がはッ!?」
「間抜けが!」
体勢を崩したところにそのまま顔面を盾で殴打しノックアウト。
「う、うわあああああ!」
銃をほぼ使わず本来防御のためのバリスティックシールドで次々と仲間を打倒していく光景にとうとう恐慌状態となったヘルメット団が銃を乱射。
先んじて防御態勢を取り防御体制のままV.A.T.S.を起動し、
「ぶぅっ!?」
シールドバッシュをぶちかまし転倒させる。
そのままネイトは背中からクレンヴの歯を抜き放ち、
「い、いやっ!?いやあああああ!」
「フンッ!」
悲鳴を上げる彼女の脳天目掛け降り下ろした。
と、その時、
「て、てめぇら・・・!?」
先ほどの爆撃でいささか気絶していたヘルメット団幹部が目を覚まし室内の惨状に絶句していた。
20人いたはずの仲間はすべて意識を失いもはやここには味方は自分の身。
代わりに立っているのは…
「お前が最後だ。」
「逃げ出すなら構わないぞ。」
『Eye of Horus』を肩に担ぐホシノと、アーマーを纏いバリスティックシールドとマチェットというキヴォトスには似つかわしくない姿のネイトだった。
今目の前にいるのは自分たちの標的で仲間たちの仇だ。
最早ヘルメット団幹部に、
「く、くそったれがあああああ!」
撤退の二文字は残されていなかった。
手には分隊支援火器『RPD』、
「くたばりやがれええええええ!」
「ホシノ、後ろへ!」
「了解!」
発砲されるよりも早くホシノを自らの背後に隠し、
「ははッ!昼間と逆転だな!」
「私にはとても懐かしいポジションです!」
飛来する7.62×39㎜弾の弾幕を受けきる。
「まだ走れるか!?」
「もちろん、いつでも!」
「よし、突っ込むぞ!」
盾に当たる弾丸の衝撃も何のその、ダッシュで瞬く間にヘルメット団幹部に近づき、
「肩、お借りします!」
「オウ!」
速度を上げホシノがネイトの肩を踏み切りヘルメット団幹部に飛び掛かり、
「ゴハッ!?」
「ラスト!」
「ぐぎゅ!?」
顔面に銃口を突き立てそのまま発砲、幹部のマスクが粉々に砕け散り気絶。
「クリア!」
「クリア!」
「ルームクリア!」
たった二人、人数は先ほどよりも増加しているにもかかわらず突入から一分と経たずに完全制圧。
「ナイスムーブ。」
「はい!」
初コンビながら『攻撃は最大の防御』を地で行ったネイトとホシノ。
初陣の勝利をハイタッチでたたえあうのであった。
――――――――――――――――
―――――――――
――――
――
制圧まで10分未満、これまでの戦闘ではこうはいかないだろう。
が、
《アヤネ。迎えを頼む。》
「了解しました。今向かいますね。」
「ちょっと、30分も何やってたのよ?」
外で待機していたアヤネとセリカに迎えの要請があったのはそれからしばらくしてのことだった。
最年少ながらヘリの操縦まで収めているアヤネが運転するバギーでアジトのもとまで向かうと…
「お~い、迎えご苦労さん。セリカ、いい狙撃だったぞ。」
「ちょッネイトさんや先輩たち!?なんなの、その大荷物!?」
両腕や背中に武器ケースや弾薬箱を一杯に抱えほくほく顔のネイトたちが出迎えた。
「いやぁ、さすがにヘルメット団のアジト。弾も武器も手榴弾も大量だにぇ~。」
「ん…使った分差し引いても余裕で黒字。これでもっと余裕ができた。」
「拠点は潰せましたし、これでヘルメット団も少しはおとなしくなるでしょう。」
「あ、アハハ…すっかりネイトさんに染まっちゃいましたね…。」
「全く…今日だけで物資問題が軽減されるとは思わなかったわ。」
「よし、獲るモノ獲ったし帰るか。」
行きは空だった荷台を満杯にしネイトたちはアビドス高校への帰路に着いた。
その道中、
「…なぁ、行きでもツッコみたかったんだが…ホシノよ。」
「ん~なぁにぃ~?」
「座る場所が俺の膝の上でいいのか?」
「かたいこと言いっこなしだよぉ、ネイトさぁん。後ろは3人乗りだからしょうがないよぉ~♪」
ネイトは自分の膝の上、しかも自分に抱き着く形で座るホシノに静かにツッコミを入れた。
行きもそうだが何ならネイトは荷台で野ざらしでもよかったのだがホシノに強引に引っ張りこまれて現在に至る。
「あらあら~、今日のホシノ先輩はいつもより甘えん坊ですねぇ♪」
「ん…つぎは私がネイトさんの膝に座りたい。」
「人の足を座席扱いしないでくれ…。」
「とか言っちゃってネイトさんも内心嬉しいんでしょ?そんなかわいい子に抱きつかれちゃって。」
と、そんな様子を助手席からからかい交じりで尋ねるセリカだが…
「セリカよ、見かけはともかく俺が今朝がたに老衰でくたばったばかりの爺さんだっての忘れてないか?」
「じゃあ嬉しくないんですか?」
「ひ孫に囲まれているようなものだ。嬉しいのは嬉しい。」
「…どうしてかしら。聞いといてなんだけどすっごく微妙な気持ちだわ…。」
相手は300歳の超高齢者だったネイトだ。
性欲など現状はとうの昔に枯れてしまっている。
全く厭らしさがないどころか見かけは壮年男性とは思えない切り替えし逆に沈められてしまった。
と、
「んじゃネイトおじいちゃ~ん。何かお歌聞かせてぇ~♪」
「歌ぁ?」
「夜のドライブにはやっぱBGMは欲しいじゃ~ん♪」
そのネイトの答えをいじるためかホシノが何か歌うように要求してきた。
「と言っても俺が歌える曲がみんな知ってるとは限らないぞ?」
「まぁまぁいいじゃ~ん。ねぇ聞かせてぇ~。」
「あら~良いですねぇ。私も聞いてみたいです。」
「ん…ネイトさんの故郷の歌、聞かせて。」
「へぇいいじゃない。音痴でも構わないから歌ってよ。」
「私も興味あります。よろしければ一曲お願いします。」
と他の対策委員会もホシノに乗ってネイトの歌を聞きたそうだ。
「フム…じゃあ、一曲だけだぞ。」
『わーい!』
沸き立つ車内の声援を受けてネイトは咳ばらいをし、朗々と歌い始める
『~Oh well I'm the type of guy who will never settle down.』
かつて、自らに与えられたコードネームと同じタイトルの曲である。
『Where pretty girls are, well, you know that I'm around.』
この歌詞の登場人物のようにネイトもあっちへ行ったりそっちへ行ったりの人生だった。
ホシノ達も初めて聞く曲に聞き入っている。
聞いたこともないしアカペラだが…不思議と夜の砂漠を進む自分たちにあっているような気がした。
『They call me the wanderer.Yeah the wanderer.I roam around, around, around.』
こうして…アビドス高等学校の新たな一歩を踏み出した激動の一日は幕を閉じていくのであった。
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ホシノside
いや~今日は疲れたねぇ。
しっかし、学校に戻った後でネイトさんたら約束通り縛ってたヘルメット団を解放してたけど…
「ガアアアアアア!!!」
『ぎゃああああああああああ!!?』
あんなベタな驚かし方でヘルメット団を追っ払うなんて思わなかったよぉ。
よっぽど怖かったのかヘルメット団もしっぽ撒いて逃げちゃったけどねぇ。
そのあとはぁ、みんな一緒に奪ってきた物資を倉庫にしまった。
多分、皆が来てからだと一番充実してるんじゃないかなぁ?
今朝はどうしよーどうしよーとか思ってたけどまさか一日でほぼ解決しちゃうとはねぇ。
そのあとはみんな遅いから急いで帰宅。
え、ネイトさん?
「俺?そこら辺の廃屋の中にでも潜り込んで寝るさ。」
とか何とかいっちゃったからとりあえず技術室を貸してあげたよぉ。
なんかあそこが落ち着くんだってぇ。
……………
「ユメ先輩、ただいま。」
帰宅していつもの日課でもあるユメ先輩の写真に挨拶することも忘れない。
思い出のままにニコニコしているユメ先輩とムスッとしている昔の自分の写真だ。
「ユメ先輩…ずっと見ててくれたんですね。」
ユメ先輩は…ずっとアビドスのことを考えてくれていたんですね。
生きている間も…あの日の後も。
昔、アビドスのオアシス跡に超高価な鉱物が埋まってるって言って一緒に掘りに行きましたね。
水が出るかもーってなんでか水着で途中でどっちも詰んだことに気付きながら掘ってましたね。
そのあともいろいろ二人で何とかアビドスを復興しようと頑張りましたね…。
「ユメ先輩…私…貴方みたいに上手くやろうとばかり頑張ってました。」
あの人の代わりになろう。
あの人みたいに皆を護ろう。
そう、今日までずっと頑張ってきました。
「でも…明日からは少しだけ『私』で生きていってもいいですか…?」
そして…貴方は違う世界から『ネイトさん』を遣わしてくれました。
『人間』の『男』の『大人』…。
そんな貴方とは全く違う人のはずなんです。
戦い方も…ひょっとしたら私が負けるかもしれない、そう思えるほどの強さです。
でも…あの人は貴方と同じくらい『優しい』人でした。
大人なんて嫌悪感しかなかったのに…
「まるで…先輩が生まれ変わったかと思っちゃいましたよ。」
カタカタヘルメット団の機銃掃射から抱きかかえられて護られたとき、はっきりと先輩を感じました。
幻覚だと思いましたけど…ある意味、あの人は貴方の生まれ変わりだったんですね…。
「不思議ですね。まだ来たばかりなのに…彼ならこのアビドスを救ってしまう、そんな風に思っちゃいました。」
砂漠化が進み、膨大な借金という負の要素しかないアビドス高等学校。
誰がどう見ても不良債権の塊だというのに…。
そんな現状を見ても彼は言ってくれました。
『元の姿のままとはいかない。だが、絶対よくすることはできる。』
初対面なのに…そう断言しちゃったんです。
傍から見たら馬鹿みたいですよね。
誰も彼も『あり得ない』と一笑に伏すでしょうね。
でも…本当にどうにかできそうと感じちゃいました。
「先輩、人に騙され続けてきて…最後に大当たり引けたんですね。」
だから、私ももう少し頑張ってみようと思います。
彼のためなら…かつての自分のように戦うことを厭いません。
彼とともに…『暁のホルス』として力を振るうことを躊躇しません。
そして…彼の戦いから学びさらなる高みを目指します。
だから先輩…
「見ていてくださいね。貴方の夢を…ネイトさんとみんなと一緒に叶えて見せます。」
…今日はちょっと疲れたなぁ。
おやすみなさい、先輩…。
私は今日…久しぶりに朝まで熟睡できた。