Fallout archive   作:Rockjaw

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長く生きられたかどうかは関係ない。大切なのはいま、どう生きるかだ。
―――登山家『栗城史多』


Beginning of a New Adventure

ある晩のことだ。

 

ネイトは愛用のハンドガンの一挺であるウェスタンリボルバーの整備を行っていた。

 

このアビドスもいかに平和になったとはいえキヴォトスであることに変わりはない。

 

たまに起こる銃撃戦などに備え装備のメンテナンスは欠かせない。

 

シリンダーやバレル内部の煤を拭い過不足なくオイルを塗りなめらかな動作を確認する。

 

他にも各所のがたつきやネジの緩みなども確認し…

 

「………よし。」

 

手慣れたもので瞬く間に新品同然の状態までメンテナンスを終えた。

 

そして、シリンダーを元の位置に戻し…

 

「………。」

 

ネイトは銃口を自らに向け…

 

カチリッ

 

「…うん、『平気』だな。」

 

その時のネイトの目は…一切の恐れも躊躇もなかった。

―――――――――――――

 

―――――――

 

―――

 

「では、よろしく頼む。」

 

「今回はわが校をお引き立ていただきありがとうございます。」

 

この日、ネイトはアビドスを離れD.U.にある『ある学校』の出先機関に赴いていた。

 

どうやら商談がまとまったようで担当の生徒と硬い握手を交わす。

 

「ネイト社長、この後のご予定は?もしなければお食事でも…。」

 

「お気遣いありがとう。だが、この後に寄りたい場所があるから大丈夫だ。」

 

「そうですか。ではお気をつけて。ご依頼の物は近日中には完成する予定です。」

 

「楽しみにしておく。じゃあ、失礼する。」

 

話もまとまりネイトはその建物を後にする。

 

「さて…と、顔を見せに行くか。」

 

そう言い、ネイトはある場所に連絡を取りアポイントメントをとった。

 

数十分後、一天号を操りネイトが向かった先には…

 

「こちら一天号、シャーレ執務室応答願う。オーバー。」

 

《お待ちしていました。ヘリポートへ進んでください。どうぞ。》

 

「了解、着陸許可感謝する。アウト。」

 

眼下には広大な敷地を持つ白亜の施設が広がっていた。

 

(しかし、こんな広いところ一人で任されている先生も大変だな。)

 

そう、ここは連邦捜査部『S.C.H.A.L.E』が保有する施設だ。

 

先ほどの通信の相手、つまるところこの場所の主である『先生』の指示の元に敷地内のヘリポートに着陸。

 

エンジンを止め一天号から降りると、

 

「シャーレへようこそ、ネイトさん。」

 

「ご無沙汰しているな、先生。」

 

出迎えてくれた先生と硬い握手を交わす。

 

「いやぁ話に聞いていたがかなり充実した設備じゃないか。」

 

「この場所を任されただけの私には身に余るものですよ。」

 

「いいじゃないか。一城の主になれるなんて早々ないもんだぞ。」

 

「またまた、そう言う貴方だって。ともかくどうぞ、中を案内しますよ。」

 

「よろしく頼む。」

 

先生の案内の元、シャーレ施設内を案内され…

 

「ここが私の執務室です。どうぞおかけになってください。」

 

「お邪魔するよ。」

 

先生が普段からよく使っている執務室に入った。

 

そこには…

 

「マスター、いらっしゃいませ。」

 

「やぁ、『ピペット』。『フラシェドイツ語でフラスコ』に『ラゲンゼドイツ語で試験管』も健在だな。」

 

「はい、先生にはいつもよくしてもらっています。」

 

「ネイトさん、飲み物は何か?」

 

「コーヒーを貰えるか?」

 

「ラゲンゼ、頼めるかい?」

 

「畏まりました、先生。」

 

三機のMr,ハンディーとMs,ナニーが書類を纏めたりPCで作業していた。

 

「どうだい?三人とも役に立ってくれてるかい?」

 

「それはもう。何時も業務で助けてもらっていますよ。」

 

この三機のロボットはアビドス独立戦争時から先生の従卒として彼を手助けし続けてきたロボット達だ。

 

D.U.に戻る際にせっかくだからと先生にそのまま託して現在に至る。

 

「おかげ様で当番の生徒の負担も軽くなって私も以前より残業しなくて済んでます。」

 

「それはよかった。うん、残業は悪だ。業務は定時で終わらせなければな。」

 

「ふふっ残業嫌いなネイトさんらしい言葉ですね。」

 

「どうぞ、マスター。」

 

「おぉ、ありがとう。…とっそうそう…。」

 

コーヒーを受け取るとネイトはテーブルの上にあったメモ紙を一枚とりそこにこう書き記した。

 

〈自然に話を続けろ〉と。

 

「最近のこっちの様子はどうだ?」

 

「え…えぇ、アビドスと比べるとトラブルは多いですけど何とかやっていけてます。」

 

メモ紙を置き席から立ち上がってPip-Boyをラジオモードに切り替え執務室内を探り始めた。

 

「あの戦争の前と後で何か変わったことは?」

 

「そうですねぇ…。ヘルメット団の活動が少し大人しくなった気がしますね。」

 

「ゲヘナとアビドスの勢力が消滅したから無理もないか。」

 

「アビドスはどうですか?」

 

「あぁ、解体事業の契約をセイント・ネフティス社が引き継いでくれてな。今でも雇用を創生できてるから助かってるよ。」

 

「なんだかほかの事業展開も生徒発で始まってるって聞きましたよ?」

 

「あぁ、アビドスの砂で作った『アビドシアングラス』を使ったアクセサリーショップだ。」

 

「へぇ、アクセサリーショップですか!」

 

「カイザーPMCの基地跡地を整備中に砲撃で砂が溶けた彩り豊かなガラスが大量に出てきてな。」

 

そんな風に互いの近況を報告しつつ部屋の様々な場所にPip-Boyをかざすネイト。

 

すると、書棚の一つのファイルでPip-Boyが反応。

 

探ると…

 

(と、盗聴器…!?)

 

巧妙に隠された小型盗聴器が見つかった。

 

その後もPip-Boyを使うことで部屋中から10以上の盗聴器を発見。

 

あらかた探し終えネイトは再びメモ紙に…

 

〈あったらでいいからプラスチックの薄いザルと金属のボウルを用意してくれ〉、とロボット達に頼む。

 

ロボットも察したか無言で言われたものを用意しザルの中に盗聴器を入れボウルをかぶせ…

 

「しばらく叩き続けろ。」

 

『イエッサー。』

 

ピペットたちがボウルを連打し始めた。

 

その頃…

 

『にぎゃああああああああああああ!!!?」

 

キヴォトス各地で何人もの生徒が悲鳴を上げたという。

 

「これで盗み聞きはいなくなったはずだ。」

 

「い、いつの間にあんなに…!?」

 

「そりゃキヴォトス中で注目される先生だからな。有利な情報探ろうとこういうことする奴もいるさ。」

 

「というか…よく分かりましたね。」

 

「超冷戦を生き抜いてきた年の功ってやつさ。」

 

盗聴犯へのお仕置きを任せ席に着きコーヒーを飲んで一息つくネイトだが、

 

「そうそう、今日は先生に渡す物があったんだ。」

 

「渡す物?」

 

思い出したようにネイトはPip-Boyを操作しあるものを取り出した。

 

「それは…コート?」

 

「バリスティックウィーブで強化した『アーマードコート』だ。ライフル弾も防ぎきるぞ。全部で3着ある。」

 

「おぉ…それが…!」

 

「俺みたいに弾丸一発で瀕死になるからな。戦闘が起きるような場所に行くときは着ていくといい。」

 

「ありがとうございます、ネイトさん。」

 

この先生、戦闘の際は指揮をするというのに普段から防弾ベストなどは着ていないどころか拳銃の一丁も身に帯びていない。

 

彼が生徒相手に銃を撃てるとは思えないが身を護る手札はあって困らない。

 

「ただ過信はするなよ。貫かれはしないが…相当痛いぞ。」

 

「あ、アハハ…善処します…。」

 

「ということで…。」

 

「…え?」

 

先生に片手を差し出すネイトだが…

 

「制作料、いただこうか?」

 

「えぇッ!?」

 

まさかの料金を取られるとは思っておらず先生は驚く。

 

だが、確かにこんな高性能なコートをタダでもらえるというのは虫が良すぎる。

 

「…おいくらですか?」

 

覚悟を決めてネイトに尋ねると…

 

「そうだな…。一着につき10円でどうだ?」

 

「…え、10円?」

 

「そう10円。」

 

「…10万ではなく?」

 

冗談みたいな安さに聞き返す先生なのであったが、

 

「タダで渡すと『賄賂』と思われかねないからな。先生が『買った』ってことにすれば大丈夫だろ?」

 

潔白を示すための手段だと説明するネイト。

 

「そ、そんな大げさな…。」

 

「立場を考えろ、馬鹿弟子。俺は一企業の社長でアンタは公的捜査機関のトップだ。痛くない腹を探られるのは互いにいやだろ?」

 

そう、かなり砕けた様子で話し合っているが互いに立場がある身だ。

 

二人にそんなつもりがなくても周りが不審な目を向ける恐れもある。

 

「…それもそうですね。」

 

「だから、特別価格で卸す。そう言うことで合計30円頂こうか?」

 

「分かりました、では…ハイ30円。」

 

だから、格安でも料金を取り『売買』という形で潔白を証明するのだ。

 

30円を受け取りコートを先生に受け渡すのであった。

 

と、その時…

 

「失礼します、先生。」

 

執務室のドアが開き…リンが書類を抱えた複数人の連邦生徒会の職員を引き連れてやってきた。

 

「やぁリン。いらっしゃい。」

 

先生は普段通りの様子で迎えるが…

 

「本日の委託業務を…ッ!」

 

「…少し席を外そうか。」

 

ネイトの姿を見たリンは固まりネイトからも柔らかな雰囲気が消え席を立ち扉へと向かう。

 

シャーレや連邦生徒会の業務は機密を含む物も多い。

 

部外者のネイトが聞くわけにはいかないので当然の対応だ。

 

が、

 

「待ってください。」

 

「…なんだ?」

 

「貴方が…ネイト社長、ですね?」

 

リンが立ちふさがり相対してきた。

 

「だったらどうなんだ?」

 

「なぜ、あなたが此処に…?」

 

「D.U.に用があって愛弟子の顔も見ておこうかと思ってな。どうやらお邪魔のようだし俺は少し退席…。」

 

そう言い、彼女のわきを通り部屋を出ようとするが…

 

「…少々我々と連邦生徒会まで同行を求めてもよろしいでしょうか?」

 

行く手を遮り任意同行を求めてきた。

 

「ちょ、ちょっとリン…!?」

 

リンを諫めようとする先生だが彼女に同調するように職員も書類を机においてネイトを取り囲む。

 

「一体どういった権限で?」

 

「…貴方が抵抗するのであれば公務執行妨害として拘束することもできます。」

 

「ほぉ?」

 

どうやっても逃がさないと言わんばかりに目力で睨むリンを面白そうなものを見るような目で眺めるネイト。

 

「やめて、リン!いったいどういうつもり…!」

 

「まぁ待て、先生。俺は平気だ。さて…行政官のお嬢ちゃん。」

 

「お、お嬢ちゃん…!?」

 

「断る。どうしても連れて行きたきゃ令状持って来い、令状。」

 

次の瞬間…リンたちの目の前から消えた。

 

『~ッ!?』

 

「んじゃ、先生。終わったらまた呼んでくれ。」

 

「はっはい!」

 

「それから…先生ならまだしも他所の大人には敬意を少しは払いな、お嬢ちゃん。」

 

「まっ待ってくだっ…!」

 

リンが振り向くと部屋の外から手を軽く振りネイトがその場を後にして行こうとしている。

 

慌てて呼び止めようとするリンだが…

 

「…………。」

 

「ひっ…!」

 

振り返ることなく発せられたその気迫だけで…短い悲鳴を上げた。

 

周りの職員に至っては…腰を抜かしたものもいる。

 

身長は自分の方がはるかに高いはずなのに…まるでネイトが自分を飲み込もうとする化け物に思えた。

 

「………フン、このキヴォトスのトップと統治する連中はどんなものかと思ったが…ただのガキと腰抜けとはな。」

 

その様子に落胆の色をにじませ…

 

「ホルスターに名刺を入れておいた。用があるならテメェで出向いてこい。仕事も受け付けるぞ、割高でな。」

 

そう伝え、ネイトは去っていくのであった。

 

そのままネイトはベルチバード付近まで歩いてきた。

 

また絡まれると面倒なのでいつでも退散できるようにするためである。

 

(しかし…あの鉄面皮の頭でっかちをかつて従えていたんだよな…。)

 

ネイトは思考を巡らす。

 

リンはあくまで仮のキヴォトスの統治者だ。

 

そんな彼女も…以前は連邦生徒会長の部下だった。

 

(余程カリスマがあるか…人誑しかのどっちかだったんだろうな。少なくとも業務の能力は相当だろう。)

 

一目見ただけで融通が利かない堅物だと分かるリンを従えていた

 

それだけで今はいない連邦生徒会長の人柄が察せられる。

 

(…ま、俺には何も関係ないんだけどな。)

 

と言っても、ネイトも現状は連邦生徒会の助けを借りる予定もつもりもない。

 

今やアビドスは完全に自活できている。

 

終戦後から徐々にではあるが住人も増えてきている。

 

また、カイザーの地上げもなくなったことにより商業も回復中だ。

 

それによりアビドス高等学校も自治区の運営による利益が増加、W.G.T.C.の手を借りなくても運営が可能となってきている。

 

(復興の前準備も今日できた。後は輸送手段を…。)

 

と、脳内で考えを巡らせていると懐のスマホが震えた。

 

「ッと、誰から…ミドリ?」

 

画面を見ると電話の相手はミドリであった。

 

《あ、ネイトさん。》

 

「もしもし、どうかしたのか?」

 

《あのちょっとお願いがあって…次にミレニアムに来るのはいつになりますか?》

 

「ミレニアム?それならこの後向かう予定だが…。」

 

《よかった!じゃあ時間があったらゲーム開発部の部室に来てくれませんか?》

 

「あぁ、構わない。じゃあ到着しそうになったらまた連絡する。」

 

《分かりました。お待ちしていますね。それでは。》

 

「…じゃあ、向かうとするか。」

 

先生には悪いがこのまま失礼しようかと思いモモトークを立ち上げると…

 

先生

申し訳ありません、ネイトさん

ゲーム開発部のモモイから要請が来まして

出動しなくてはならなくなりました。

 

「…え?」

 

というトークが飛んできた。

 

「………。」

 

Nate

いや、俺も今しがたミドリにゲーム開発部

に呼ばれたんだが…

 

先生

え?

 

ネイトのその返信に先生も驚いているようだ。

 

奇しくも目的地は一致。

 

Nate

………乗っていくか?

 

先生

よろしくお願いします。

 

こうしてネイトと先生、大人二人でのゲーム開発部訪問が決定したのであった。




一瞬一瞬が新たな始まりだ
―――詩人『T・S・エリオット』
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