Fallout archive   作:Rockjaw

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人生はできることに集中することであり、できないことを悔やむことではない
―――理論物理学者『スティーヴン・ホーキング』


Encounter with Omniscience

突如現れたエイミに連れられネイトはしばしミレニアム校舎内を歩き…

 

「部長、ネイトさんが来てくれたよ。」

 

「ほぉ、これはこれは…。」

 

ある一室に通された。

 

そこはいくつものモニターが並びコンソールやデジタル計器などが所狭しと詰まったまるでオペレーションルームのような場所だった。

 

ハイテクさでいえばマサチューセッツのCICの上を行っているだろう。

 

そんな風に室内を見回しているとモーターの駆動音が鳴り響き…

 

「ありがとう、エイミ。そして…初めまして、『ロンギヌス』のネイトさん。」

 

車椅子に乗った全身を白でコーディネートされた白髪で耳の高い儚げな生徒がやってきた。

 

「私の名前は明星ヒマリ。このミレニアムサイエンススクールにおける天才ハッカーです。」

 

「…ん?ヒマリって君のことか?」

 

なんとも自信満々な名乗りを上げる彼女『明星ヒマリ』にネイトは少々目を見開き見つめる。

 

「えぇそうですよ。私はそこそこミレニアムでは有名人なので一度くらいは噂など聞いたことがあるではないでしょうか?」

 

そんなネイトの反応に気を良くしたか鼻高々にヒマリは自分のことをどう聞いているか尋ねる。

 

が…

 

「いいや、噂はからっきし。」

 

「あらぁー!?」

 

まさかの回答に車椅子の上で盛大にずっこけた。

 

「き、聞いたことないって本当ですか!?『正体不明なヴェリタスの超美人部長』ですとか『病弱美少女のお手本のような存在』ですとか『ミレニアムに咲く1輪の花』ですとか一つくらいあるんじゃないですか!?」

 

「いやぁ、ミレニアムによっても大概セミナーやエンジニア部にゲーム開発部しか行かないから本当に初耳だ。」

 

「そ、そんなぁー!」

 

「これでも本拠地はアビドスなんだ。他所の学校の異名事情まではさすがに精通していない。」

 

「エイミー!アナタからも何とか言ってくださいよー!」

 

取りつく島がないとはこの事か。

 

ピンとも来ていないネイトへエイミも使って抗議しようとするが…

 

「おぉ~初見で部長からペースを奪った人はめったにいないよ。さすがだね。」

 

「エイミー!?」

 

むしろヒマリをここまでかき乱したネイトを称賛するのであった。

 

「まぁ、そこらへんは一度置いておいて…。」

 

と、ネイトはひとまず姿勢を正し…

 

「…先日の戦争での協力、W.G.T.C.総指揮官として感謝する。ありがとう。」

 

ヒマリに向かって敬礼の姿勢をとり感謝を述べた。

 

「…いえ、モモイさんの熱意と貴方への興味。それが『全知』たるこの私を動かしたにすぎませんわ。」

 

ヒマリも落ち着きを取り戻し凛とした態度でその感謝を受け止める。

 

『全知』とはこのミレニアムサイエンススクールにおける最高学位で…史上3人しか取得していない。

 

つまりヒマリは…掛け値なしの天才に他ならない。

 

「それで、一体何の要件で俺をここに?」

 

「はい、私は先日この『特異現象捜査部』の部長に任命されました。本来所属していた『ヴェリタス』は一旦副部長のチーちゃんにすべて任せています。」

 

「『ヴェリタス』はモモイやユウカからどういった部活かは聞いているが…『特異現象捜査部』?エイリアンやUMAでも研究するのか?」

 

聞いた言葉の第一印象でネイトはどんな部活か尋ねる。

 

やはりアメリカ人、特異現象と聞くとその手のことを連想してしまうが…

 

「それはどちらかというと『疑似科学研究部』の領分ですね。」

 

生憎、その手の活動は別の部活がやっている。

 

「第一、宇宙人の存在は私も認めているところですがこの星までやってくる技術力を持つ存在はまだいないという計算です。」

 

「UMAはこのキヴォトスにもいるかもね。」

 

「え?俺はどっちも生で見たことあるぞ、エイリアンもUMAも。どっちも仕留めたし。」

 

「「…え?」」

 

なお、この男は連邦とアパラチアでエイリアンをしばき倒し、アパラチアでUMAをぶちのめした経験を持つ。

 

「まぁそれはまた置いておいて…。」

 

「またですか!?置いておくには大きすぎますよ!?」

 

「一体どんな部活なんだ?」

 

終始ネイトにペースを握られっぱなしのヒマリだがようやく会話のボールが彼女たちに回ってきた。

 

「オホン!…この『特異現象捜査部』はミレニアムの生徒会長である『リオ』が作った特務組織なのですが…うーん…エイミ、説明してもらえますか?」

 

「科学的には解明しがたいとされる現象を追跡・研究することを目的としたセミナー傘下にある部活。」

 

「特務組織でセミナー傘下の部活…。」

 

「リオ先輩の命令で結成されたけど今まではずっと構成メンバーは私だけだった。明確な活動内容もなかったし。」

 

「…予算確保のペーパー部活とかじゃないよな?俺がいた軍でもよくやらかしてたぞ。」

 

「失敬な…と言いたいですが怪しい部活には変わりありませんね…。そんな部活に私が部長としてヴェリタスから引き抜かれるなんて…。」

 

「それからはヒマリ先輩も入れて二人で活動してるよ。」

 

「えぇそうですね。健康的路線のエイミと病弱警備少女の私で素敵なコンビになりそうです。」

 

彼女たちがどのような部活をやっているかのあらましはネイトも理解できた…が、

 

「健康的路線ならせめてちゃんと服位は着せてくれ。今はまだ3月だぞ、見てるこっちが寒い。」

 

それにしたってエイミの恰好は季節外れもいいところだ。

 

「私も常々そう言ってはいるんですが…エイミ、彼と握手してみてください。」

 

「分かったよ。はい、ネイトさん。」

 

「こうか?」

 

ヒマリの指示でエイミが差し出した手を取ってみると…

 

「熱ッつ!?え、熱めの風呂くらいあるんじゃないのか!?」

 

少女の新陳代謝を想定してみても異常なほどの高い体温だった。

 

「私はとても体温が高くて暑がりなの。だから厚着なんかしたら倒れちゃう。」

 

「…神秘の特異体質か。」

 

「そう言うことです。」

 

心当たりはある。

 

ゲヘナの空崎ヒナ、彼女はキヴォトス人換算でもすさまじい肉体強度を有している。

 

エイミのこれもその一種なのだろう。

 

「…それにしてもここちょっと暑くない?」

 

「いえ、私にとっては今もむしろ寒気がするほどですのでエアコンのリモコンは置いてください、エイミ。」

 

「…ヒマリはヒマリで冷え性なのか?」

 

「寒がりと言ってもらえませんか?」

 

「………。」

 

「あっあの代わりに無言で服を脱ぐのもやめてください。今日は殿方もいらっしゃって…ハイ?ファスナー?何を言って…いえ、理解しました。絶対にやめてください。」

 

「…まぁ、いいコンビなんじゃないか。うん。」

 

「その生暖かい感想は何ですか。」

 

ネイトがいるというのにスッポンポンになろうとするエイミを必死に止めるヒマリ。

 

なんだかんだバランスはとれているようだ。

 

「で、俺をここに呼んだのは一体何の目的があるんだ?」

 

「あぁ、そうですね。そろそろ本題に入りましょう。」

 

ようやくネイトが此処に招かれた理由が聞かされ始めた。

 

ヒマリとミレニアムの生徒会長である『リオ』という人物。

 

この二人は長きにわたって対立関係だった。

 

アンチセミナーのヴェリタスが結成されたのもこういう背景があったからである。

 

全てを統制しようとするリオと全ての統制に反対するヒマリ、まさに水と油という相いれない関係だ。

 

「同じ水でも例えるとするとリオが下水道を流れる水だとするならば私は澄みきった純正のミネラルウォーター…それとも浄化槽に浮かぶ腐った水と言ったほうがよろしいでしょうか。私は万年雪の結晶、といったあたりで…あら?」

 

と、リオと自分の関係を色々と例えているうちに…

 

「どうだ?急拵えだがそれで結構涼しいだろ?」

 

「わぁ…すごい…!体が冷えてきた感じがするよ…!」

 

「なにしてるんですか、二人とも!?」

 

部屋の隅にある作業台でネイトが何かをクラフトしエイミがそれを装着し目を輝かせていた。

 

見るとアームカバーや太ももカバーやチョーカーを付けそこに背部から何かのチューブがついた装置に繋がっている。

 

「…それはなんですか?」

 

「バックパックモジュールを改造して超低温ガスをカバーとチョーカーに通して血流を使って全身を冷やす代物だ。」

 

「超低温ガス?そんなものはどこにも…。」

 

「これさ。」

 

そう言いネイトが取り出したのは先ほどネイトが飲んでいた缶コーヒーほどの大きさの青い物体。

 

見ると同じような物がエイミが背負うユニットにも数本挿入されている。

 

「『クライオ・セル』、高圧の超低温のガスを封入したボンベみたいなものさ。」

 

「…それも貴方の持つ技術の一つですか?」

 

「おっと解析するなよ?俺以外がセルやネジ一本でも外すと大変なことになるぞ?」

 

「抜け目ないですね…。」

 

「部長、凄い…!コート着てても暑くない…!」

 

「…まぁ、エイミがきちんとお洋服を着てくれるようなのでお約束は守りますよ。」

 

何時も開けているコートも着こんで嬉しそうなエイミを見てヒマリは微笑んでいた。

 

技術者としても一級品の腕前を持つ彼女、目の前のこの技術に興味がわくが…気をもむ案件が一つ減る方がよっぽどメリットがある。

 

「セルの交換なら一声かけてくれ。…さて、話を切ってすまなかったな。」

 

「いえ、私も脱線し過ぎたようですのでお相子です。では本題に…。」

 

色々あったがようやくネイトがここに来た理由が語られ始める。

 

「元はリオの頼みなど『何でも』『絶対』断るつもりでいたのですが…少々込み入った事情で断れないようなお願いをされてしまいまして…。」

 

「それでこの部活にヘッドハンティングされた、と。」

 

「そしてその『お願い』を果たすためには…貴方方W.G.T.C.と『シャーレ』の協力が必要不可欠でして。そう言った理由でネイトさんには今日お越しいただきました。」

 

「ウチもだがシャーレにも協力を仰ぐとは随分豪勢だな。またぞろ戦争でも起こすのか?」

 

「…ある意味近いと言えましょうか?」

 

「…それでその『お願い』というのは?」

 

戦争と聞きネイトはさらに一段階背筋を伸ばしヒマリの答えを待つ。

 

そして…

 

「…ケテル。」

 

「ッ!」

 

「聞き覚えはあるでしょう?」

 

ヒマリの口から語られる…あのロボットの名前。

 

「…あぁ、忘れるわけがない。」

 

ミレニアム郊外は廃墟区画水没地帯。

 

その地を鎮護していた…ヘイローを持つ多脚戦車の名前だ。

 

「考えてもみてください。このキヴォトスには多くのロボットの市民がいらっしゃいます。だというのに…。」

 

「…あぁ、オートマタにはヘイローがない。」

 

「そうです。原因は不明ですがそれが私たちの常識でした。」

 

ヘイローを持つのは生身の…それも『ヒト』の特徴を多く持つものばかり。

 

ロボットや獣人と呼ばれる種族のキヴォトス人にはヘイローは一切ない。

 

…その例外ともいえるのがケテルだ。

 

「私の仮説ですが…ヘイローとは『神秘の発露』です。だから神秘という不思議な力を持たないロボットや獣人の方々にはヘイローはなく我々にはある…という仮説です。」

 

「その仮説でいうとロボットでヘイローを持つ奴は…さながら『機械仕掛けの神deus ex machina』といったところか?」

 

「科学的考察に演出技法を用いるのはあまり好みませんがズバリそれになります。何者かが『人工物に神秘を宿した結果の産物』…それがケテル、というのが私の推測です。」

 

「…なるほど、これは確かに『特異現象』だな。」

 

人工物に神秘を宿すなど常識外れの行いだ。

 

ミレニアムでもそんな研究を行ったデータすらない。

 

「…だが、それが俺が呼ばれた理由に何の関係がある?データは少ないとはいえ…奴の存在は知られていたはずだろ?」

 

そうだ、確かにヘイローを持つロボットはそうそういない。

 

だが…一部とはいえ存在は知られている。

 

それこそ、かつてケテルに大軍団で挑み敗北した『カイザーPMC』。

 

カイザー経由でミレニアムもケテル自体の存在自体は把握していた。

 

つまり、ケテルは『知る人ぞ知る』といった知名度の存在だ。

 

「えぇ確かに。ノアもユウカも資料を見つけた時は目を疑っていましたが。」

 

「だよな。それなのになぜ俺をここに呼んだ…。」

 

「問題はそれを『討ち取った』ことです。」

 

「………。」

 

「モモイさんから聞いていますよ。カイザーの大部隊を一蹴したケテルを一人で撃破していた、と。そしてカイザーコンストラクション支社の監視カメラには確かに鉄骨が突き立てられたケテルの残骸が映ってました。」

 

「なるほど…だから『ロンギヌス』、神殺しの百人隊長の名を俺に付けたのか。」

 

人造の神秘を持つ存在を討ち取った人間にこれ以上相応しい異名はないだろう。

 

「ちなみにあの残骸は今は?」

 

「装甲板の材質や内部機構の調査で今はもうバラバラだ。元から損傷も酷いから情報はあまり得られなかったがな。」

 

「そうですか、それは残念ですね。」

 

残念そうにするヒマリだが…全知である彼女をもってしても把握できていなかった。

 

アビドスは…未だ稼働状態のケテルを保有し戦力化に成功させているということを。

 

「…それでうちやシャーレに何を協力してほしいんだ?」

 

「ヘイローを持つ強大な未知の存在…それはキヴォトス各地に存在しています。」

 

「話の始まりは本当に自然発生した都市伝説の類だけど…それがいつしか実体化して被害も出しているという情報もあるよ。」

 

「…それはなんともぞっとしない話だな。」

 

眉唾な話だが…ネイト自身ケテルという存在を目の当たりにしている。

 

しかもここはキヴォトス、何らかの神秘が作用し具現化したというのは十分あり得る話だ。

 

ケテルの強さは確かに一般的なキヴォトス人ではどうにもできないようなもの。

 

そんな存在が廃墟区画のような無人地帯だけではなくキヴォトス各地にいるというのはいささか問題である。

 

「貴方が日々カイザーから大金をせしめている廃墟区画には無人兵器を生産している未発見の軍需工場があるといううわさも…。」

 

「道理でロボット兵が倒しても倒してもわいてくるわけだ…。だが、そう言うのを調べるのがヒマリ達『特異現象捜査部』の仕事だろう?」

 

「貴方も人が悪いですね、ネイトさん。キヴォトスにおける原則…ゲヘナ風紀委員会の部隊を単身壊滅させたあなたなら重々承知のはずでは?」

 

「そう言うとこまで把握してるのか…。『他学区での部活動は厳禁』ということだろ?」

 

そう、『特異現象捜査部』の活動のネックがこれだ。

 

ケテルのような存在がキヴォトス中に存在しているというのに自分たちが十全に活動できるのはミレニアム学区内のみ。

 

これでは活動に必要なデータ収集に支障をきたしてしまう。

 

「そこで…キヴォトスを制限なく行動できるW.G.T.C.のような企業に『シャーレ』のような存在の協力が我々には欠かせないのです。」

 

「…その手の噂があったら調査、もしくは対処に協力してほしいということか?」

 

「本来なら連邦生徒会が動くべき事案なのですが現在生徒会長も失踪し彼の組織は弱体化が著しく頼りになりません。」

 

ここでも連邦生徒会の弱体化は影を落としている。

 

「なので…我々独自に対処できる体制を整えねばならないんです。」

 

「なんとも悲しい話だ。統治組織が役立たずで自警団を結成しなきゃとはな…。」

 

口では嘆いているが…

 

「…なんだか口で言うほど嫌がっていませんね、ネイトさん?」

 

「…まぁ、懐かしさを覚えてな。」

 

ネイトの表情はノスタルジックを覚える物だった。

 

そう、あの場所と同じだ。

 

最初は二人から始まり、人が増え砦を奪還し砲兵隊を組織し…連邦を復活させたあの仲間たちと。

 

「…ネイトさん?」

 

「あぁすまない。それで要は…そういう現象を発見した場合の協力体制の確立をしたいといったところか?」

 

「はい、むろんこれには追々『シャーレ』にも協力を仰ぐつもりです。ですが一先ず…実績の十二分にある貴方方と話を…と思いまして。」

 

「フム…。」

 

話は理解できる。

 

ネイトとしても…アビドスにそんな存在がいられたのであっては計画に支障をきたす。

 

W.G.T.C.単体であってもどうにかなるだろうが…ミレニアム、それもセミナー肝入りの部活の協力を得られるのは心強い。

 

「…それでうちが得られるメリットは?」

 

「協力の対価として…作戦遂行の経費と報酬にミレニアム各部活への開発依頼の優先権をセミナーに取りつけています。」

 

「それは魅力的な提案だな。」

 

ミレニアムの技術はネイトも舌を巻く部分がある。

 

そんな学校の部活に開発を依頼し優先されるのはかなりメリットが大きい。

 

すると…

 

「だがいいのか?いい武器というのは…高いぞ?」

 

ネイトは試すようにヒマリにこの言葉を投げかける。

 

確かにアビドスの戦力は強大だ。

 

だが…それは『高性能ゆえの高コスト』という問題も抱えている。

 

製造こそ問題ないが運用コストに関しては先の戦争でアビドスが火の車になりかけたことからも察しが付くだろう。

 

だが…

 

「優れた道具には資金を惜しまない、探求者たるミレニアムにその質問は愚門ですよ?」

 

ヒマリも胸に手を当て堂々と返す。

 

資金さえ払えばキヴォトス屈指の戦力を味方に付けられる。

 

逃がす手はない。

 

「…フフッ、いいね。ヒマリ、ますます気に入った。最初にミレニアム生で会ったのが君だったら俺は『しくじって』いたかもしれない。」

 

優れた知能だけではなく精細且つ堂々とした交渉姿勢。

 

そしてW.G.T.C.すら手札に加えようとする大胆不敵さ。

 

これが『全知』、これが明星ヒマリという生徒。

 

そんな生徒に『想定上の敗北宣言』という今できる最大の称賛をネイトは送るのであった。

 

「あら、あなたもこのミレニアム最高の天才清楚系病弱美少女ハッカーの魅力にようやく気付きましたか?」

 

「あぁ、ハンディキャップなんか物ともしないそのポジティブさとアクティブさは見習わなきゃな。」

 

「では…W.G.T.C.は戦力を、ミレニアムはアビドスの復興の支援を。以上をもって…如何でしょうか?」

 

「分かった。今ここで回答は出せないから一度持ち帰っても?」

 

手を組む価値は十二分にある、ネイトはそう判断するのであった。

 

「ありがとうございます、ネイトさん。これで『特異現象捜査部』の役目を果たせるようになりそうです。」

 

「まだそうなると決まったわけじゃないが皆を説得できるように努めるさ。だがまぁ、俺個人的には手を組むのは構わないと思っている。」

 

「では…色よい返事を期待していますね?シャーレとも協力体制が構築できた暁には報告しますよ。」

 

「そっちもあまり弟子を揶揄ってくれるなよ?じゃあ、俺はそろそろ戻る。」

 

「ごきげんよう、ネイトさん。」

 

「ネイトさん、こんな良いものをありがとうね。」

 

「セルのガスが切れたらいつでも連絡してくれ、エイミ。格安で交換するからな。」

 

こうして、ミレニアムの夜に秘密裏に開かれた会合は静かに幕を閉じるのであった。

 

――――――――――――――――

 

――――――――――

 

―――

「ただいまぁ~…。」

 

話していて楽しい相手との会話は時間を忘れさせてしまう。

 

そのうえ、アビドスへの報告業務なども重なりネイトがゲーム開発部の部室に戻った頃には…

 

「「「「Zzz………。」」」」

 

モモイ・ミドリ・ユズ・先生はすでに夢の中で…

 

「おぉ、戦士よ。戻ったか。」

 

暗い室内で唯一明るいテレビの前でゲームをプレイし続けるアリスだけが起きていた。

 

何やら随分偏ったワードだが出ていく前よりもスムーズに会話できている。

 

「アリス、まだやってたのか…。」

 

学習熱心なのは結構だがこうもぶっ続けでやっているとやはり心配になる。

 

音を一切立てずに彼女の隣に座り、

 

「疲れを覚えたりしていないか?」

 

「疲れ?新しい魔法ですか?」

 

「…その様子だと大丈夫そうだな。」

 

覚えなくていいなら覚えたくないものだがな、とネイトは内心思った。

 

「ゲームのプレイに関するアリスのデバフはありません。」

 

「ならいいが。…そうだ、アリス。少しいいか?」

 

「?」

 

「一つ俺から言葉を教えよう。俺がさっき『ただいま』と言って部屋に入ってきただろう?」

 

「はい、あなたはそう言って部屋に入ってきました。」

 

「そういう時はな『おかえり』って返してくれると相手は嬉しく思ってくれるぞ。」

 

「『おかえり』…意味を検索中…外出から戻ってきた人に対して言うあいさつの言葉。類語には『おかえりなさい』などがある。」

 

「そうだ。言葉は意味だけじゃない。相手の気持ちにも働きかけて色々な影響をもたらすんだ。」

 

「影響…。」

 

「そう言うところもいろいろ学んでいこうな。…じゃあ、俺も休むからアリスもきりのいいところで切り上げるんだぞ。」

 

そう短いアリスとの会話を交わしネイトは出先では寝床としても使っているベルチバードへと戻ろうとする。

 

すると…

 

「………。」

 

「ん?」

 

ネイトの袖をつかみ…

 

「ネっネイ…ト、さん。」

 

「ッ!…どうかしたかい?」

 

「お…おかえり、なさい。」

 

アリスがまだたどたどしいが…初めてネイトの名を呼んで『おかえりなさい』と言ってくれた。

 

その表情は…どこか不安げだった。

 

そんな彼女を見て…

 

「…あぁ、ただいま。分かった、俺も今日はここで休むよ。」

 

ネイトは腰を下ろした。

 

「…!はい。ようこそ 旅の宿に。お泊りになりますか?」

 

「あぁ、そうさせてもらおうか。じゃあおやすみ、アリス。」

 

アリスの表情が明るくなったのを確かめ、ネイトも横になり…

 

「Zzz…Zzz…。」

 

すぐに寝息を立て始めた。

 

「…おやすみなさい、ネイトさん。」

 

アリスは静かにそう声をかけ再びテレビの画面に向き直るのであった。

 

アリス以外が寝息を立てて眠りについてしばらくたち…

 

「……クリア。」

 

これで何本目になるか、アリスは現在プレイしていたゲームをクリアし次のゲームを探し出す。

 

「プレイ開始…。」

 

そして、新たにプレイし始めたゲームを進めていくと…

 

「…ッ!」

 

驚愕を受けて目を見開き固まった。

 

そして…

 

「………。」

 

「Zzz…Zzz…。」

 

傍らで眠るネイトを食い入るように見つめるのであった。

 

そのゲームのタイトルは…『ドラゴンテストⅤ 大空の新婦』という物であった。




充実した一日が幸せな眠りをもたらすように、充実した一生は幸福な死をもたらしてくれる。
―――万能の天才『レオナルド・ダ・ヴィンチ』
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