孤独で孤高なアウトロー   作:くちばし

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一流のアウトロー

 人々が浮かべるアウトローってどんな姿かしら。

 シルクハットを被って、スーツを着こなす大人? 

 或いは金のアクセサリーをつけて、鋭い目つきで周りを威嚇する人? 

 概ね合ってると思うわ、私もそう思う。

 アウトローって、結局はチンピラと不良の上位互換でしかないもの。

 

 じゃあ、私はアウトローに入るのかしら。

 私のことを『孤高のアウトロー』と呼んだり、『裏社会のドン』と呼ぶ人たちがいた。

 果たしてその人たちには、私のことが飛びっきりの悪党で、社会を揺るがすアウトローに見えていたのかしら。

 

 答えは否よ。

 

 人と云う生き物は、少し悪さをした人間に対して不良だとか、チンピラって言葉を使って罵るの。

 だって最もその人を傷付けるのに適した言葉だもの、料理をするときに包丁を使うのと同じように、切れやすいもので切った方が効率がいいじゃない。

 

 ただ、その悪さが度を越し過ぎたとき。

 悪人にとっての常識の範疇を越え過ぎた悪事だったとき、畏怖の念を込めてアウトローと、極悪人と呼ぶ。

 要はただの貶し言葉に過ぎず、人が人を容易く傷付けるために編んだ悪口に過ぎない。

 ある意味一種のミームと呼べるわね。

 

 アウトローなんて言葉は形骸化した言葉。

 好き好んでアウトローになる人なんて今の時代いないし、そもそもアウトローと云う言葉も使わないわ。

 果たして多くの人がレトロな物に拘るかしら、そうじゃないでしょ? 

 古い物を好む人は一種の趣味であって、それを己の本筋としている訳じゃないのよ。

 

 アウトローなんて言葉もレトロな言葉。

 しかも悪い意味で使われているんだから、敬遠されて当然だと思う。

 だけど、人間って不思議よね。

 そんな馬鹿げた言葉を本筋としている人間が、今目の前にいるんだから。

 

「え、えーっと……こんな形で呼び出してしまってごめんなさいね? 先日撃ち合った仲ではあるけど、私あなたに興味があって!」

「……本当、よく呼び出せるわね」

 

 それは陸八魔アル、他でもない私だった。

 呑気で平和ボケした瞳に馬鹿げた面。

 心底見ているだけで反吐が出る気分だった。

 過去の自分を思い返すと腹が立つとはよく言うけど、過去の自分を目の前で見るとこんなにも気分が悪くなるのね。

 

「興味って何かしら。私はあなたに微塵も興味がないのだけど」

「そ、そう言わずに! 取り敢えずパフェでも頼んで話しましょう? ここのパフェはすごく美味しいのよ!」

「だから私は……」

「あ〜〜お願いよ!! 話を聞くだけでもいいからぁ!!」

「はぁ……分かった、話を聞くだけよ」

 

 無理矢理話を進めようとするから、呆れてとっとと帰ってやろうと思った。

 だけど驚いたことに、彼女は私を引き留めてきた。

 しかも私の腕を優しく両手で掴んで、もう今にも泣きそうな目をしている。

 

 本当アウトローの風上にもおけないわ、見ていて腹が立ってしょうがない。

 どうせ碌な話じゃないのは分かり切ったことだし、適当に聴き流しておけばいいか。

 

「まず自己紹介をするわ! 私は便利屋68社長の陸八魔アル! 先日あなたのカッコよさ……じゃなくて! 卓越した技量に関心を持って連絡させてもらったわ!」

「……ベリアル、そう呼んで頂戴」

「べ、ベリアル!?」

 

 一々反応が大きいわね、こんなんだったっけ私。

 しかも名前を言った瞬間目をキラキラさせ始めた。

 分かるわよ、今あなたの考えていることが手に取るように分かるわ。

 どうせ『そんなにカッコいいのに名前までカッコいいなんて……もう理想のアウトローじゃない!』とでも思ってるんでしょ。

 

「そんなにカッコいいのに名前までカッコいいなんて……もう理想のアウトローじゃないっ!!!」

「本人の前で言うのね」

 

 思ってるどころか口に出てたわね、しかも予想より強調されてるし。

 やってしまったと言わんばかりに今の言葉を前言撤回しようと慌ててるけど、もう手遅れよ。

 一々反応されるのも面倒だわ、不本意だけど早く終わらせるために私から引き出すか。

 

「それで、なんで私を呼んだのかしら」

「そう、そうよ! 単刀直入に言うわ、是非ウチに入らないからしら!?」

「うん、無理」

「えぇーーーっ!? そ、そんな即答しなくてもぉ……」

 

 話を聞くだけでもって言い出したのはあなたからじゃない、全く。

 だからそんな風に目を潤わせるんじゃないわよ、本当に我ながら情けないわね。

 まさか本当に入ると思ってスカウトして来たのかしら、即答で断られるのも念頭に入れなきゃダメでしょ。

 それとも、そんなことも考えれないぐらいあなたは能天気だって云うのかしら。

 

 ……私もそのぐらい平和ボケしていたいわよ。

 

『私たちの苦しみを背負うって決めたのに、まさか逃げ出すつもりですか?』

 

 背に刺さった罪が、語りかけてきた。

 

 えぇ、逃げ出すつもりなんて微塵もないわ。

 私はこんな平和ボケしていて、能天気で何も考えていない子供とは違う。

 仲間がいなきゃ何もできないこの子とは違う、私は私一人でそつなく何でも熟せれるんだから。

 仲間なんて必要ないのよ、ただの足手まといに過ぎないんだから。

 

「その……大丈夫かしら? 具合が悪いのかしら……?」

「……心配しないで、いつものこと」

 

 頭がズキズキする。

 最近は幻聴が酷いし、眩暈もしてきた。

 さっさとこの話も終わらせて休みたい……。

 

「あ、パフェが来たわよ! ここのパフェは本当に美味しいの、先生と一緒に来たところで、ここら辺のパフェじゃ口コミも一番良くて……」

「……どうしたの? 大丈夫?」

 

 先生。

 先生と云う単語を聞いて、青褪める。

 息が荒くなりそうなのを抑えて、真っ暗になりそうな意識を留める。

 先生、先生先生先生先生……。

 ダメよ、絶対にダメ。

 その記憶だけは絶対に開けちゃいけない。

 絶対に開くな、閉じろ、早く閉じろ。

 

 閉じて、閉じて、閉じて閉じて閉じて閉じてッ!!!! 

 

『アル、本当に君と云う子は───』

「だ、大丈夫よ、一旦落ち着いて!」

 

 肩を力強く握られ、呼びかけられる。

 幻聴塗れだった私の頭に、彼女の声が入ってきた。

 息を飲んだ、飲んで、無意識下に止まっていた呼吸を再開する。

 嫌な汗が肌を伝った。

 気づいたとき、私の手は彼女の手で優しく包まれていた。

 

「何があったのか分からないけれど……良ければ話を聞かせてもらえないかしら?」

「……失態を晒しただけよ。薬を飲めば大したことないから、本当に気にしないで。さっさとパフェを食べましょう」

 

 その暖かさが懐かしくて、怖くて。

 もしこの暖かさを求めてしまったら、本当に私は戻ってこれない気がしたから。

 彼女の手を、跳ね除けるように振り払った。

 

 スプーンを手に取り。パフェのクリームを掬う。

 マスクを外さないように口元に運び、食べる。

 味はしなかった、柔らか過ぎる無味の豆腐をすり潰しているような感覚だった。

 クリームと一緒に苺を掬い、もう一度食べる。

 これも味はしなかった、果実の食感を忘れたことはないが故に、無味なのが気持ち悪くて仕方なかった。

 

「ど、どう? とても美味しいでしょ?」

「えぇ、そうね……とても美味しいわ」

「〜っ! ふふっ、喜んでくれてこっちも嬉しいわ!」

 

 喜んでいる? 

 私が喜んでくれているように見えたの? 

 マスクをつけてるから分からないだけなのかしら、呆れるぐらい呑気な子ね。

 

 こんな固形物を食べなくなったのはいつからだろう。

 味が消えてからはいつも流動食を食べてたから、本当に久々に食べるわね。

 ……なんか、全部どうでも良くなってきた。

 

 このお店も目の前にいる私も、便利屋68も先生も滅ぼすって云うのに、なんで私はマスクをして顔を隠してるの? 

 後ろめたいから? 

 過去を見つめたくないから? 

 申し訳ないって思ってるから? 

 全部消えてしまえばいいのよ、こんなしがらみもこんな腐り切った世界も。

 本当に、全てが憎たらしい。

 

 マスクを外す。

 握り潰して、床に捨て去る。

 誰かに素顔を見られるのは久々で、少しむず痒いけど関係ない。

 

「あ、え……?」

 

 彼女はただ驚いていた。

 そりゃそうよね、目の前にいる人がいきなり癇癪を起こして身に付けていた物を地面に叩きつけるんだもの。

 しかも相手は自分と同じ顔、気味悪がるのも必然でしょうね。

 嗤いなさいよ、惨めで哀れな女だって笑ってみせなさいよ。

 私だってそうしてきたんだから、あなたに出来ない訳がないでしょう。

 

「……きれい……」

「……は」

 

 だけど、予想と大きく反した言葉が出ていた。

 うっとりとした目で、まるで私に魅了をかけられているような目で。

 私の顔が綺麗って、なんでそんな馬鹿げたことを言ってるの? 

 私の顔は片目が無くて、人相も悪くて、歳にしては変に大人び過ぎているのに。

 何が綺麗なのよ、本当に見る目がない。

 

「その、とても失礼なのは分かっているんだけど……何歳かしら?」

「はぁ……失礼だって思うなら聞かなければいいのに。19よ」

「じゅじゅじゅ、19!?!? 19歳でそんな、えぇっ、カッコいい……」

 

 19歳でって……誰だって二年も経てばこんなものになるんじゃないの? 

 そもそも私だって、ゲヘナに入学した時は眼鏡もつけていて髪も短かったじゃないのよ。

 そこから二年以上も経てば、多少なりとも見た目は変わるのに決まってるじゃない。

 

「別に綺麗でもなんでもないし、カッコよくもない。それに誇れることなんて何も成せてない、ただの冷たいだけの人間よ」

「いいえ、そんなことないわよ! 本当に冷たいならそもそもここに来ることすらなかったでしょう、それに加えて態々答えてくれるなんて、優しさの塊じゃないの!」

「優しさの塊、って……あなたは私が優しそうに見えるの?」

「えぇ、勿論! それに仕事に対する姿勢も迅速で真面目、だからあなたのことが欲しいのよ!」

 

 ───腹が立つ。

 

 私のこと何も知らない癖に。

 私のことを知った風な口が醜くて仕方ない。

 私の何が優しいって云うのよ、みんなを殺してしまった私の何が優しいのよ。

 あなたは何も分かっていない、何も分かっていないから、あなたも絶対に同じことをしでかす。

 

 自分の身の程も分かってない癖に。

 その優しさが上っ面でしかないのも分からない癖に。

 善人振った振舞いにも気付いてない癖に。

 無能で、意地っ張りで、何もできない無力な人間だって、理解できていない癖に。

 

 また便利屋68を奪うって云うの? 

 私の大切な仲間を、先生を、また奪うって云うの? 

 絶対にそんなことさせない、あなたが奪うぐらいなら、私が先に何もかも奪ってやる。

 あなたを此処で殺してやる、絶対に奪わせてなるものか。

 

 あんな苦痛を、後悔を、絶望を味わうのは、もう私だけでいいんだ。

 

 懐にしまったナイフに手をかけ、引き抜く……ことはできなかった。

 店内に銃声が響き渡る。

 

「今から一言も喋るんじゃねーぞ、この店は私たちが占領すっからなぁ」

「早く金出せ!! 金庫からも全部持ってこい!!」

 

 まさか強盗が入ってくるとは思わなかった。

 人数は二人、外で包囲する形に複数人……しかもあの武装、民間には渡らない違法の銃器じゃない、バックには相当大きな組織がいるわね。

 まさか、まさかとは思うけど。

 

「あなた、これを見越して私を此処に連れてきたって云うの?」

「へ? あ、えぇっと、そうよ、そう! これはあなたの実力を測るためのテストなのよ!」

 

 絶対そんな理由無かったでしょ、そもそもスカウトしてるんだから偶然じゃないのよこれ。

 全く、つくづく今日は面倒な日だわ。

 適当にやり過ごしてさっさと帰れるのを待ち……。

 

「おい、そこ喋んなぁ!」

 

 ただ、そんな想いは見事に断ち切られ、強盗が私たちに向けて銃を向けてきた。

 違法の銃器である以上威力も改造されてる可能性はある、直撃すればタダじゃ済まないでしょうね。

 幸い私のコートは防弾仕様だけど、きっと彼女はそうじゃない。

 変に怪我をしてハルカとかその他メンバーに怨みを買われたら面倒だ。

 

 これは致し方ないか。

 

「きゃっ!?」

 

 彼女の上に覆い被さるように、コートを広げて背中で庇う。

 直後鳴り響く銃声に、背中に走る痛覚。

 熱くて痺れるような痛みが、背中全体を覆い尽くす。

 

「ッ……やっぱり改造してるじゃないの」

 

 防弾仕様であるかも関わらず、並大抵の銃よりも重い痛覚。

 これは肌で受けたらアザどころの話じゃなさそうね、早いところ決着をつけないと面倒だわ。

 変に銃を乱射されて周りに被害が出たら困るわ、一般の客もいるから、標的は私だけに絞らせないと。

 

「動けるかしら、私はあいつらをぶん殴るから、あなたは客に当たらないように銃で援護して」

「へ? ぶんなぐ、えっ!?」

「じゃあ任せたわよ」

「ちょ、ちょっと!」

 

 止めようとする彼女を無視して素早く踏み込み、近付きながら片手にメリケンサックを付ける。

 相手のタフネスが分からない以上、今回は一発で気絶させなくちゃいけない。

 しかも店内だから棒なんて振り回せたもんじゃない、こういうときのメリケンサックは便利だわ。

 

「ち、近付くなぁ!!」

 

 コートで前方を覆いながら銃弾を防ぐ。

 本当に痛いわねあの銃……プロテクターも付けてるはずなんだけど……。

 銃器本体の改造だけじゃなくて、弾丸にも何か細工してるわね。

 だけどそれも受け切ってしまえばこっちのモノ。

 強盗の懐に入り込み、拳を力一杯握り締める。

 

「思いっきり吹っ飛びなさい」

「やば、まっ」

 

 言葉を途切り、容赦無く顔面に拳を捩じ込んだ。

 だけどまだまだ、直撃で止めても耐える人は耐える。

 捩じ込んで、捩じ込んで、思いっきり捩じ込んで。

 首が千切れんばかりに捩じ込んで、強盗を出口目がけて吹っ飛ばした。

 扉を破りながら吹っ飛んでいった強盗が立ち上がる様子はなく、死にかけの虫のように手足を痙攣させていた。

 

「この、よくも!」

「させないわ!!」

 

 まだ残っていた強盗が私に銃を向けるが、それは彼女の手によって防がれる。

 銃器に放たれた弾丸は見事直撃し、一瞬私から狙いが外れた。

 やるじゃないの、流石は私ね。

 なら私も、この隙を見逃すなんて失態は許されない。

 

「あなたは回転しなさい」

「ま、まって!!」

 

 胸倉を掴み、足元を蹴ってバランスを崩す。

 そして崩れた瞬間を見逃さず、地面にめり込むぐらいの背負い投げで強盗を叩きつけた。

 ハルカとの戦闘で徒手に少し不安があった分、念のため鍛錬を積んで正解だったわね。

 

「さぁ、次は外の連中を吹っ飛ばすわよ。一流のアウトローなら華麗に熟せるわよね?」

「……ふふっ、えぇ、勿論よ!!」

 

 残りは外の連中。

 私たちは、共に肩を並べて敵と相対した。

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