その代わり次回から閲覧注意3連続です。
爆発で砂塵が舞う。
テレビジョンから場違いに流れるロックな音楽が、頭を劈いた。
「ちょっと、いくらなんでも数が多すぎじゃないかしら!?」
「弱音は吐かないように、自分の士気が落ちるだけよ」
肩で息をしながら銃を撃ち続ける彼女に対し、私はそう叱咤する。
私も銃を撃ちながら近付いてきた敵を殴り潰し、鈍器のように振り回していた。
雑魚相手ならそこまで大したことはないし、大きな怪我もしないだろうけど。
とは云うもの、正直私もこの数は想定していなかった。
かなりの人数の増援が来ている……何かしら裏はありそうだけど、今はそんなこと考える余裕が無い。
流石に二人でこの量を捌くのも厳しいし……逃げるのも一つの手だわ。
だけど、果たして彼女が許すだろうか。
流石に彼女一人を置いていくのは気が引けてしまうし、何よりこの行為自体が便利屋68からの恨みを買いそうで怖いわ。
仮にこれから私が時間を積み重ねようとしているところを、私怨だけで邪魔されては困る。
「ところであなた、逃げると云う選択肢はあるのかしら」
念のため逃げ道は作った。
というよりも、私が逃げるための逃げ道だが。
ただ、この道も絶対に意味を成さないだろう。
だって相手はあの私だもの、答えは分かり切っている。
「逃げるだなんて、そんなのアウトローの風上にもおけないわ! 勿論あなたもそうよね?」
「……えぇ、全員殴るって決めたんだもの。逃げるだなんて実に愚かな行為よね?」
「ふふふっ! もう、カッコいい……じゃなくて、やっぱり私の見越した通りね!」
やっぱり逃げる気は毛頭ないみたいだ。
ここに私がいなければきっと逃げただろうけど、私がいるせいで逃げようとしない。
私にアウトローらしいところを見せようとしてるのが原因だろう、逃げると云う選択肢がもう頭の中に無い。
でも、どうしてだろう。
なんで私は焚きつけるようなことを言ったんだろう。
逃げたいって思ったのに、どうして自分で退路を塞ぐようなことを言ったんだろう。
普段そんなこと絶対しないじゃない。
危ないって思ったらすぐに逃げて、下らないプライドに拘らないでやれることはやったじゃない。
どうしたと云うの、陸八魔アル。
あなたはそんな幼稚な人間じゃないはずよ。
なのに、どうして。
「あ、危ない!!」
「っ!?」
思考に耽ってしまい周りが見えなくなっていたせいか、私は動きを止めてしまっていた。
そして私を庇うために、彼女が私の体を押し、飛んできた銃弾から守ってくれる。
しかし、その銃弾は彼女の体に当たり、肉を抉った。
「いっ、たっっっ!? 何よこの銃弾、めちゃくちゃ痛いじゃないのっ!!」
彼女の傷口からは、確かに血が滲み出ていた。
キヴォトスの人間なら普通の銃弾ならそう大した怪我にはならない。
精々強い弾頭で肌に痣を作るぐらいだ。
だが、あの銃弾は明らかに違う。
身を以て体験したから分かる、あの忌々しい弾丸。
そもそもただの強盗だって云うのに、何故こんなに人数がいることを不思議に思わなかったんだろう。
裏はいるとは言ったけど、明らかに狙ってやっていることじゃない。
強盗が本筋じゃない、狙いは恐らく……。
「まさか、この時から動き始めてたとはね……」
私たちの巣を壊した憎たらしい怨敵。
私の大切な人たちを奪い蹂躙した赦されざる存在。
怒りが滾る。
忘れようとしていた感情が、奥底から爆発せんと煮え滾る。
私の全てを熱く溶かしてしまいそうな怒り、私を駆り立てて凶行に及ばせた狂った怒り。
本当にらしくないわね、陸八魔アル。
こんな怒りに、また支配されてしまうなんて。
「……アル、ここから逃げなさい。あの銃器は違法改造されているわ、あなたじゃ足手纏いよ」
「逃げるなんて、そんな」
「いいから早く行け、邪魔なのよ」
目の前が真っ赤に染まる。
今眼前にいるみんなの仇を殺さなきゃ、私はまた狂って見境なくみんなを殺してしまう。
ここで殺さなきゃ、ここで殺し尽くさなきゃ。
殺して、殺して、殺して、死体の山を作らなきゃ。
「嫌よ、逃げたくない」
「だって、今のあなたは冷静じゃない」
「そんな人を目の前にして、私は見捨てたくない」
「そんなのアウトローじゃないわ」
うるさい。
うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさい。
黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ、今すぐ口を閉じろ。
お前が、お前が気付かなかったからみんなが死んだんだ。
無能なお前が、意地っ張りなお前がみんなの足を引っ張ったから、みんなを殺したんだ。
この期に及んでなんで分からないのよ。
逃げたくないって何よ、責任から逃れようと、罪から逃れようとした癖に。
冷静じゃないなんて分かり切ったことを言うな、それでも周りを殺し尽くすしかなかったじゃないの。
見捨てたくない?
みんな私のことを見捨てて一人にしたのに?
私がどれだけ寂しくても、辛くても、大声で泣きじゃくっても、みんな私のことを責め立てたのに?
どれだけ善人を装っても、結局は意地汚くてただ機会を伺っていただけの醜い人間じゃない。
『アル様も私の分まで苦しんでください』
私を守って死んだ人を苦しめてしまった。
『あんたのために死ぬんじゃなかった』
私を庇って死んだ人に辛い思いをさせた。
『アルちゃん、どうして私のことを殺したの?』
私の親友だった人をこの手で殺した。
『アル、君はただ自分に酔いしれてるだけだよ』
私たちの先生を惨たらしく殺した。
私のせいで。
私が、私が。
「いい加減にしなさい!!」
体を強く揺らされる。
私と似た顔の人が、怒っている。
「うわ言ばかり言ってないで、しっかりしなさいよ!」
「お客さんを、お店の人を守るために、あなたは戦っているんじゃないの!?」
守る?
顔も名前も知らない他人を守るために、本気で私が戦っていると思っているの?
笑わせないで、そんなの私のやることじゃない。
あぁ、でも……。
なんで、みんなに対してこんなにも未練を抱いているんだっけ。
私の心の全てだったから?
私の世界に浸透し切っていたから?
そのとき、私は一体どうしていたんだっけ。
昔の私って何をしていたんだろう。
今目の前にいる私みたいに、こんな風に能天気だったのかな。
困っている人を、危なっかしい人を放ってられないって思って、目の前にいる私みたいなお人好しだったのかな。
───あぁ、思い出した。
思い出しちゃった、全部。
「あ、あ、ぁぁぁぁああああ″あ″あ″ッッッ!!!!」
「ちょ、ちょっと!? どうしたのよ!?」
「ごめんなさい、わたしの、わたし、のせいでっ!!! わたしが、わたしがみんなを、みんなのことを、あぁぁあぁッッ!!!」
地に跪く。
立つ力を失った力が。
限界を迎えていた体が。
漸く糸が切れ、私を地に下ろした。
この手に残った感触。
冷たくなった大切な人の体。
壊してしまった大切な人の体。
関係のない人の首を掻っ切ったときの肉の重み。
突き刺したナイフ越しに伝わる死の震え。
もう動かないみんなの顔。
骸に集っていた虫たち。
瞳孔が開き切った目。
全部、全部全部全部全部。
思い出す、思い出してしまう。
封じ込めていた恐怖が、罪悪感が。
奥底から湧き上がって、私の体を崩し始める。
気道を塞いだ過呼吸。
世界が暗くなるような眩暈。
遠のいてしまった聴力。
味を感じなくなった味覚。
押し殺してたはずの感情が、発露する。
叫んだ。
ひたすらに叫び続けた。
忘れたい、忘れさせて欲しかった。
助けてって叫びたかった。
でも、出てくるのは自責と贖罪を求めた哀れな叫び。
惨めに涙を流して、喉が壊れても叫び続けた。
ぼんやりとした聴覚の中で、私のことを呼びかけてくれる人がいる。
でも聞こえない、何も聞こえない。
溢れてくる記憶が邪魔して、こびりついた罪悪感が耳を塞いで、何も聞こえない。
「社長! 助けに来た……って、本当に会いに行ってたの!?」
「あ、アル様が二人!? なんで、わ、私の幻覚でしょうか……?」
「幻覚って訳でもなさそうだよ、ハルカちゃん。ほら、アルちゃんとはぜーんぜん見た目が違うもん」
でも、私の大切な人の声は微かに聞こえてきて。
それを皮切りに、私の意識は途絶えた。