先生と、とある生徒との会話を生徒視点で書きました。
勝手がわからないので間違いがあるかもですが、大目に見てほしいです。
好き嫌いに関しては公式が発表してないのを良い事に捏造(?)したので許してください…
良ければココアを片手に。
私はココアが好きだった。
寒い日に飲む、あの温かいココアが、とても好きだった。
最初に飲んだのはホシノ先輩と出会った時だった。
「今日は冷えるから」と、先輩が入れてくれた、ホットミルクで溶いたココアがとても沁みた。
それから私は、ココアが好きになった。
…ある朝のシャーレにて
「今日は寒かったでしょ?何か飲む?」
こっちの先生が、私を当番にしてくれた。もう大丈夫だろう、と判断してくれたみたいだけど、私でもちょっと甘いかなと思ってしまう。
けれどそんな優しさに、私は懐かしさを覚えていた。
先生に何か飲むか聞かれた時、ちょっとドキッとした。私が当番の時はいつも聞いてくれていたからだ。やっぱり「先生」は先生だ。
「ん、何でもいいよ?」
少し素っ気なく、でも期待を多めにして言った。「わたしの先生」とこっちの先生は、同じだけど違う人だから。
先生は「わかった」と言って給湯室に入っていった。
きっと、いつも飲んでいるコーヒーを甘くしたのが出るんだろう。そう思っていた。わたしが当番のときはいつもそうだったから。
でも、それにしてはいつもより時間がかかっている…?
「お待たせ。出来たよー」
その一言と共に出されたのは----------ココアだった。
「!!?」
正直、こうなってしまってから1番驚いてしまった。机にコトンと黒い狼の描かれたマグカップが置かれた。
いつもはコーヒーだったのに、どうして今日は…?
「冷めないうちに召し上がれ。」
先生がゴキゲンそうに鼻歌を歌って言った。私は少しの間固まってしまったが、どうにかこうにか机に置かれたマグカップを両手で包んだ。
懐かしい香りがした。
あの日、あの時に飲んだココア。ミルクの滑らかな香りと、ココアパウダーの苦味と甘味が混ざったような独特の香り。
先輩が淹れてくれたホットミルクのココア。瞬時に過ぎった、歓喜と悔恨。
マグカップを覗き込んだまま、しばらくの時を味わった。すると先生が恥ずかしそうに、
「この間ホシノに教えてもらったんだよ。美味しいココアの淹れかた。」
うまく再現できたか分からないけど。と頬を掻きながら声をかけてくれた。
やっぱり、ホシノ先輩の淹れ方だった。
「ん…。分かるよ。きっと、ううん。絶対美味しいって。」
少し嗚咽が混ざってしまったかもしれない。でも、感情を抑えて喋れたと思った。あの時、先生を嚮導者に変えてしまったあの時に「もう泣かない」と決めたから。
やぶれかぶれでも泣かないって決めたから。頑張って泣きそうな自分をココアと一緒に飲み込んだ。
頬に温かいものが流れた。流れてしまっていた。でもそんな事も気にならないくらい、衝撃が強かった。
「!?そんなに美味しくなかったの?このココア」
先生が言葉を発していたが、もう何も聞こえなかった。
このココアは、あの時飲んだ、ホシノ先輩から出されたホットミルクココアと同じだ。
わたしを思って、慈しんで、支えようとして、歩み寄ろうとして、暖めようとして…色々なわたしへの想いが詰まった、優しくて懐かしい、もう味わう事はできない味だった。
色々な思い出が、甦っては通り過ぎていく。やっぱりこのココアは、全ての思い出が始まったあの時の味だった。
私にとっての始発点。数多の不幸が始まった、蟠りと不条理の出発点。そのはずなのに、思い出すのは楽しかった思い出ばかりだった。
みんなと食べたラーメン。みんなと過ごした教室。みんなとやったアルバイト。みんなと計画した銀行強盗。
ホシノ先輩もノノミもセリカもアヤネも、そしてわたしも。みんなが笑顔だった記憶が通り過ぎていった。
気付けば私は先生に抱きしめられていた。自分が泣いていた事に、その時気がついた。
自分で決めたはずなのに、もう泣かないと誓ったはずなのに、そんな思いも記憶と一緒に通り過ぎていった。
私は先生に抱き着いて、子供のように慟哭した。
「どうしてみんなわたしを頼ってくれなかったの!どうしてわたしに話してくれなかったの!どうして私じゃダメだったの!どうして私に聞いてくれなかったの!どうして!…どうして!……どう、してぇ…」
わかっている。自分が弱かったからだ。何もできないのに、1人でどうにかしようと考えていたからだ。わたしの所為だ。
こんな言葉をぶつけても、先生にはどうしようもない事はわかっていた。でも、言葉が漏れ出てしまった。過ぎた時が戻せないように、放った言葉は取り消せない。
「どうして…わたしを…助けてくれなかったの…」
こっちの先生は「私の先生」じゃないのに、例えそうじゃなかったとしても、先生の所為ではないのに、私は責めてしまった。
自分を恥じて、また泣いた。優しい先生は私の頭を撫でてくれた。
もう冷たくなくて、包帯と薬品の臭いがしない、いつもの先生の匂いだった。
それが嬉しくて、でも罪悪感が私を責めたてて…。だから私は、先生の胸に顔を埋めた。先生に離れてほしくなくて、でも顔も見られたくなかったから。埋めている間はいつまでも「わたし」のままでいられると思ったから。
私は強く抱きしめた。
そんな私に先生は優しく声をかけてくれた。「ごめんね」と。
思わず顔を上げてしまう。
違う。何も悪くない。先生の所為じゃない。
そう告げようとして、先生の顔を見た瞬間に言葉が霧散した。
先生が泣いていた。泣いた先生を初めて見た。
「ごめんね…。間に合わなくて。ごめんね…。辛い思いをさせて。ごめんね…。すべきことをさせてあげられなくて。ごめんね…。負わなくていい責任を負わせてしまって。」
何度も「ごめんね」と謝罪を繰り返される。謝られる度に後悔が積み重なっていく。でも、どこか救われている自分がいる事に驚きと少しの怒りが湧いた。
「不甲斐ない自分でごめんね…」
そんな事ない!先生は、こっちの先生は「わたし」を助けてくれた!アヤネもノノミもセリカもホシノ先輩も。みんな居る!みんな生きてる!みんな笑ってる!
だからやっぱり…違うのは…私が…わたしの選択が……
「でも、これから助けるから。絶対幸せだって思えるようにするから。辛かった分、それ以上に良かったって思えるようにするから!だからもう、塞ぎ込まなくていいからね。したい事いっぱいしてもいいからね。ここにずっと居ていいからね。」
そう言ってまた抱きしめられた。
もう、何の反論も浮かばなかった。
赦された。許してもらえた。ここに居て良いって言ってもらえた。
安心、安堵。守ってもらえていると言う感覚。それをまた味わえるだなんて思っていなかった。だから、自然と口から漏れていた。
「アビドスのみんなと、また一緒に遊びたい。ラーメンを食べたい。また銀行強盗の計画を立てたい。借金の返しかたで会議したい。みんなと色んなところに行ってみたい。みんなで海も見てみたい…!それで…それで……。みんなに謝りたい…」
そこからはずっと声を上げて泣いてしまった。先生の胸がびしゃびしゃになってしまったが、先生も私の肩を濡らしているのでおあいこだろう。
みんなと一緒に。みんなで一緒に。
私の世界では終ぞ叶わなかった夢。どこに行っても、きっと「わたし」とは違うから同じ夢にならないかもしれない。
私は色んなものを失くしてしまった。想いも思い出も決意も覚悟も、帰る場所も守るべき人も。
そう思っていた。でも、それでも手放さなかったものがあったのだ。
対策委員会のみんなと一緒に。先生と、みんなで一緒に。そんな夢を、願いを私はずっと抱えていたんだとようやく気付いた。いや、思い出せた。
あの時、色彩に呑まれたあの時に全部壊して殺すのが私の役目だと唆されたあの時に、消えてしまったと思っていた。
もう、1人でも寒くないよ。ホシノ先輩。「私」は1人じゃないって、ここに居ていいって教えてもらったから。
淹れてもらったココアは冷め切ってしまったけれど、飲み干す前からポカポカしていた。きっと世界で1番優しくて温かいミルクココアだ。すごく緩やかな、けれど短くてあったかい時間を過ごした。
「大丈夫だよ。夢は一つずつ、少しずつ叶えて行けるし、幸せになる事も、諦めなければ絶対になれるから。まず一歩、まず一つ。そうやって進んでいこう?」
「うん……うん…」
私は嗚咽を漏らしながら先生の言葉を噛み締めていた。
夕方に、当番だったホシノ先輩を届けに対策委員のみんなが来た。
「ほら、ホシノ先輩!もうシャーレに着きましたよ!起きてください!」
「もう…いつもは1人で勝手に行っちゃうのにどうして今日は…」
「うへ〜。だって寒いんだもん。動くならみんなで一緒の方があったかいじゃん」
「ならホシノ先輩も歩いてくださいよ…」
「まぁまぁ。みんなでお出かけって言うのも久しぶりでしたし、いいじゃないですか♪」
「ん、わたしは楽しかった」
こっちの私も、楽しそうに会話していて羨ましかった。でも、先生が付いていてくれてると思ったら、自然とそう言う感情は薄れていった。
「やぁ、ホシノ。それにみんなも、良く来たね。今日は寒かったし、人数分ホットココアを淹れるからちょっと待っててね」
先生はそう言って給湯室へと向かった。またあのココアを淹れに行くのだろうと考えていたら、肩を叩かれた。
大丈夫。
そう、目で言われたような気がした。
私はホシノ先輩と、対策委員会のみんなと向き合う。かつて居た場所。失ってしまった場所。消そうとしてしまった場所。また、後ろめたい感情が胸に込み上げてくる。
「大人のシロコちゃんだ〜。久しぶりだね」
いつものように、先輩は話しかけてくれた。
他のみんなは表情が固かった。警戒されているのだと、伝わった。
泣きそうになってしまう。かつて仲間だった人達と、全く同じで別の人。そんな人たちに警戒されたのは理性でわかってはいても、やはり感情で否定してしまう。そんな目で見ないでほしい…
でも、私がやった事だから。私がやってしまったことのツケだから。責任は取らないといけない。
「ごめんなさい」
言葉と共に頭を下げる。言葉だけでは許してもらえないかもしれないけれど、これは私がするべきことだから。
まずは一つ目。みんなに謝りたいという願い。
それが叶った。
「世界を、壊そうとしてごめんなさい。もう絶対にしません。」
みんなを守れなくてごめんなさい。
こんな言葉も喉元に出かかったが、何故か言わない方がいい気がして飲み込んだ。
「…うん。いいよ。それに、おじさんたちもちゃんと見てあげられなかったって言うのもあるだろうからねぇ…」
昔見たようにふにゃっと笑いながらホシノ先輩が言った。
「そうそう。シロコ先輩は誰かがちゃんと見てないとすぐなんかやらかしちゃうんだから」
セリカが諭すように続けた。
「ん、わたしはそんな事しない」
「さっきも連邦生徒会の秘密金庫に銀行強盗しようって言ってたでしょ!」
「ん……」
そういえば、いつも強盗の計画を立ててはセリカに怒られてたっけ。そしてあんな風に落ち込んでいた。
「あはは…」
アヤネは誤魔化すように笑って
「と、とにかく!シロコちゃん…シロコさん?は、これから何をするかって方が大切ですよ!」
ノノミが意見をまとめる。「私がいた」アビドス対策委員会と同じで、違う光景だった。
「うへ…当事者そっちのけで話が進むんじゃないかとヒヤヒヤしたよ〜。でもさ『シロコ』。おじさんもノノミちゃんと同じように、これからどうして行くかって方が大切だと思うなー。先生もそれを期待してると思うし、だからこれからよろしくね?」
そう言ってホシノ先輩は下げ続けている頭に手を乗せてくれた。
「それじゃあ『シロコ』おかえり、そしてようこそ!アビドス対策委員会へ」
みんなから迎えてもらって、受け入れてもらえて、私はまた涙を流す。
「ん…。ありがと…よろしく、お願いします…」
絞り出すように挨拶をして、私は前とは似て非なる場所へと帰ることができた。
「はい。みんなお待たせ!ココアができたよー!」
見計らったように、まぁ多分見計らって居たんだろう先生がココアを持ってきてくれた。貰ったココアはちょっぴり冷めていた。
私は以前のように戻れないと思っていた。みんなに受け入れてもらえない、もらえるはずがないとそう考えていた。でも結果は違った。だから…
私はまた進んでいけるよ「先生」。
私の奇跡はここから始めるんだ。
SS「クロコのホットココア」