天地を切り裂くほどの閃光。
空間を割らんばかりの轟音。
槍と偃月刀の交差で生まれたそのたった一撃で、並の人間――いや、サーヴァントですら心を震わせられる。
恐怖、畏怖。驚愕、恐慌。
その全てが同時に押しやってくるのだ。
「流石は三国無双の士。ただ宝具を振るうだけでは倒しきれぬか」
そしてその衝撃の発生源の方や。
赤のランサーが、淡々と分析するように宣う。
対しては黒のサーヴァント――ヴァンガードは、握った偃月刀から手を離し、軽く振りながら答える。
「この手の痺れ……、久しぶりだ」
そしてその少女らしい小さな手を握ったり開いたりしながら、紫の瞳で赤のランサーを睨みつけながら続ける。
「だが、我が主君には到底及ばないようだ――!」
踏み出すと共に、衝突。
耐衝撃の結界の存在にも関わらず、一撃一撃で城塞に、庭園に修復不可能とも思える巨大な爪痕を残しながら、英霊同士の戦いは続く。
「フハハハハ! 大勢に無勢、守勢に孤立! さながら合肥を思い出すな! ならば、我が戦場としてこれ以上のものはない! この逆境、覆す!」
止めどなく振り下ろされる豪炎の攻撃の最中、獰猛に笑いながら、黒のヴァンガードは赤のランサーに肉薄する。
「いざ、張文遠、戦場に身命を賭さん!!」
†
「どうやら始まったようだな」
黒のヴァンガードと赤のランサーの戦いの余波が直接的には届かないミレニア城塞の一室で、結城・ヴァルター・ユグドミレニアは、同じ家名を持つマスター、ゴルドと卓を囲んでいた。
「まさか、……赤のアサシンの宝具を攻略するために、手薄となったミレニア城塞を強奪するとはな……」
「強奪って、そこまでしてないよ。たまたま立ち入った城塞にマスターがいなくて、たまたまそこには中立的なホムンクルスがいて、たまたま彼らとの仲を取り持ってくれる人がいて」
「そしてたまたまお前のサーヴァントの宝具の使用条件に適していたと? 馬鹿も休み休みに言え。こんなの10年時間をかけても仕組めるものか!」
「……本当にたまたまなんだけどな」
困ったような声で返答したところで、部屋に二人の別のマスターが入る。
慌てた様子がないことを確認するに、おそらく不測の事態はまだ起きていないようで一息をつく結城。
「お前の作った段取り通りに物事は運んでるぜ」
革のジャケットを着た大男――獅子劫界離はタバコを咥えながら結城に話しかける。
その視線に黒い瞳を返しながら、結城は問う。
「実際に確認できたの?」
「ああ。セイバーが言うには赤のライダーと黒のアーチャーが同時に襲いかかってきたらしい。ルーラーが関わっていないのなら、流石に向こうも手を結んだと考えていいだろう」
「じゃあ、過度に応戦することなく、城塞に撤退をしながら戦闘するように伝えてくれ」
「応よ」
結城は獅子劫から伝えられた情報を少し頭の中で処理したのちに、部屋に新たに入ってきていた二人目のマスター――カウレス・フォルヴェッジ・ユグドミレニアに顔を向けて口を開く。
「そちらの姉さんはどうだ、カウレス?」
対して少し苦しそうな、悩ましい表情をしたカウレスは答える。
「……お前の思惑通りだな。姉さんは討伐されたダーニックおじさんから臨時的に当主の座を引き継いで、諸共に宣戦布告した俺たちに対抗するために、赤の陣営と一時的な共闘を選んだ」
「念話で確認したか」
「そうだ。それも当人からな」
「ふむ。やはり持つべきは人質だな」
とぼけるようにして、結城は続けた。
「弟がピンチだとお姉ちゃんは助けに来るものだ。カウレス、お前を肉壁にでもしてみたときに、フィオレがどういう反応をするのか、見てみたくはないか?」
「……ゾッとしない話だな」
「だったらこれからも俺の言うことに従って大人しくするんだな」
そう言うとカウレスに興味を失ったように結城はテーブルに置いてある皿に入った菓子を一つ摘む。
人質にしては魔術的、物理的な拘束を一切受けていないカウレスである。縄で縛られるどころか、むしろ城塞内外全てを自由に出歩くことすら認められている上、サーヴァントの行使までも許されている。
言うことに従えとは言われたものの、今まで何一つ命令すらされていない。
人質という立場ながら、なんとも居心地の悪いカウレスであった。
対してそんなカウレスの心を知ってか知らずか結城は獅子劫に話しかける。
「例の術の準備はできそう?」
「できたにはできたが……なぁ、やっぱり考え直さないか?」
「絶対にやるってわけじゃないし、このままいけば問題ないだろ。計算上、俺たちの勝率は90%を超えてる」
「それをフラグって言うんだよ、わかってるだろ? ……俺としては万が一の事態でもこんなめちゃくちゃな降霊術もどきをやりたくはないんだが」
という会話に、ゴルドも参加して獅子劫に援護射撃をする。
「そうだ。只人の身で御しきれぬ力を宿らせるなど破滅するに決まっておる! それがわからんほど愚昧でもないだろう!」
「……運が良くてお前は瀕死の重体になる。運が悪けりゃどうなるかわからんぞ」
そんな非難の声を聞き流しながら、結城は答える。
「まあ、獅子劫的には俺の体さえなんとかなっていれば契約上は問題ないだろ?」
「……極論な」
「だったら気にしないで、必要な時にやっちゃってくれ」
言い終えると、結城は立ち上がって部屋を出ようとした。
それに対してカウレスは、
「どこに行くんだ?」
と尋ねた。
振り返らず、結城は答える。
「花を摘みに行くんだよ」
†
「私の仕事は決まったか、マスター?」
城塞城壁付近。
戦いの余波が容赦なく叩きつけられる場所。
赤のアーチャーは、やってきた自らのマスターに問うた。
「……一応な」
「歯切れが悪いな。何か問題でもあったのか?」
らしくない自らのマスターの姿に、赤のアーチャーは疑問を抱いた。
予定外がないとはいえないが、概ね自らのマスターの想定した通りの盤面である。あとはサーヴァントたちが自らの願いを賭けて、最後まで戦い抜けばいい。
願いを叶えるために焚べられるサーヴァントの数がいかほどかは確かではない。だが、この戦いの決着がつけば、間違いなく十分数となる。
なのに、今更このマスターは何を憂慮しているのか。
「……ただの気のせいで済めばいいんだけど…………」
「汝にしてはやけに後ろ向きだな。赤のセイバー、黒のヴァンガード、彼らのうち苦戦する側を援護し、戦いの趨勢を決定する。それ以外に何の選択肢があろうか?」
「その通りだ。だけど、……」
歯切れ悪いながらも、結城は続けた。
「何もかもが……聖杯戦争の収束に向かいすぎてる」
「それは当然のことではないのか? 聖杯を求める者が集まったのだから」
「それはそうだけど……」
なおも釈然としない姿を見せる結城に、少しばかり苛立ちが見え始める赤のアーチャー。
そんな彼女に向かって、結城は口を開く。
「アーチャー、予定を変更する。念のため、空中庭園に侵入する」
「……なぜだ? 一対一で戦っている黒のヴァンガードはともかく、赤のセイバーの救援は必須ではないのか?」
「それは、……ジークと黒のライダーに頭を下げよう」
「……まさか再び裏切り行為に働くのかと思ったが、そうではないのか」
「そう言ってたら君が俺をただじゃ置かないだろ。それに、張遼にも申し訳が立たないし、裏切りは無しだ」
言いつつ、空中庭園を睨みあげる結城。
「ただ、どうしても気になることがある」
「気になること?」
「ああ。……赤のキャスターだ」
「真名ウィリアム・シェクスピア。それなりに腕は立つ風貌はしていても、こと聖杯戦争において、あれはただの無能な物書きだぞ」
「……だけど、あまりにも情報が少なすぎる。ゆえに、この盤面を覆せる唯一の駒になりかねない」
そう言うと手を差し出す結城。
「?」
その行為に首を傾げる赤のアーチャーだったが、気まずそうに結城は、
「……ごめん、俺空飛んだりとかできないから、空中庭園まで連れてってくれない?」
「マスター、汝を連れて行くには危険すぎる」
「虎穴に入らずんば虎子を得ず、と言うじゃない? いざとなれば君がいるし、お願いできないかな。絶対に行かないとダメなんだよね」
「……」
申し訳なさそうにこちらを見るマスターに、これ以上言っても聞かないだろうと半ば諦めながら承諾する赤のアーチャー。
最後まで反対をすれば、この男は令呪まで使用しかねないことは、今までの短い付き合いでも知っているのだ。そんなくだらない意地の張り合いで使用されるよりは、自分が折れた方がマシだと思った赤のアーチャーであった。
結論を言うと、
「うわああああああ!!!!」
涙ながらに脇に挟まれ、結城は空高く舞っていた。
†
――令呪でもって命ずる。キャスター、女帝を弑殺し、宝具でもってその栄光を簒奪せよ!
Fate/Apocryphaは「人が願いを叶える物語」ですが、この二次創作では「願いに聖杯を捧げる物語」を目指していきます!
結城くんのために難易度を選んであげてください!
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イージー(闇堕ちしなければ生存)
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ノーマル(生存は勝者だけの特権)
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ハードコア(Zero仕様)
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ナイトメア(未知の領域)