聖杯大戦で生き残りたいだけ   作:全自動髭剃り

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続くかって? 私にもわからん


大戦前夜

 

「ユグドミレニア家は滅亡の危機に面していた!

 

 ユグドミレニア家、かつては栄光に包まれた名門家系。しかし、時の流れは残酷であった。かつての威厳と力は薄れ、影を落とすのみ。今、聖杯戦争の戦火の中で、その運命が揺れる。

 

ダーニック氏「我が家系の栄光を取り戻すため、再び立ち上がる時が来た…!」

 

 だが、敵は容赦ない。時計塔擁する赤の陣営、謎の第三勢力、そして数多の陰謀がユグドミレニア家に迫る。信頼していた仲間も裏切り、サーヴァントは傷つき、戦局は混迷を極める。

 

次回、『ユグドミレニア家の衰退』

 

ユグドミレニア家に未来はあるのか?その答えは、聖杯戦争の終わりに明かされる!

 

ケンシ◯ウ「お前はもう…滅んでいる…!」

 

 みたいな話かな」

「……要するに滅びかけの家系が盛り返しをとして大博打に出たってところでいいか?」

「そうともいう」

 

 ルーマニアの都市トゥリファス。

 そこに構えるミレニア大城塞。

 城からそこそこ離れた農園地帯の一角にあるちょっとした平屋。

 東欧では珍しい日本人顔の少年は、目の前にいる艶やかな黒髪と輝く紫の瞳を持った少女と、テーブルで料理を囲いながら談笑していた。

 

「お前はその準備に聖遺物探しに中国に赴き、そこで亜種聖杯戦争に巻き込まれたと」

「そうそう」

「でも確か、通常聖杯戦争で召喚可能な英霊は、基本南蛮――いや、西洋人になるのだろ? なぜ中国に?」

「それはちょっと面倒な理由があってな」

 

 ステーキを口に入れ食べてのちに結城は続けた。

 

「世界中で亜種聖杯戦争が起きてて、聖遺物が異常に不足してる事態になってる」

「もとから数が少ないのだったか」

「そう。で、強力なサーヴァントの聖遺物ほど手に入らなくなってるんだ」

「レオニダスとかヘラクレスとかか?」

「まあそんなところ……ってか、何で中国の英霊の君がその名前を知ってるんだよ」

 

 聖杯による召喚時に現代の知識が与えられるのは周知の事実だが、縁もゆかりもない他国の英雄談の知識を与えられるとは思えない。

 もしかしたら生前にすでに聞き及んでいたとか?

 結城がそう思っていると、落ち着いた紺色のチャイナドレスの上につけた白い紙ナプキンの位置を正しながら張遼は返答した。

 

「映画をレンタルして見た」

「映画……? あー、3◯0か。でもヘラクレスってそんなに有名なのあったっけ?」

「アーノル◯・シ◯ワルツ◯ネッガーのSF超人ヘラ◯レスってやつだ」

「んなマイナーなんが置いてあったのかよ、すげえな!」

 

 よほどの映画通でもない限り知らないであろう作品まで見ている眼前の元英霊に感嘆する。随分と現代社会に溶け込んだものだ。

 なんだかんだ先日の聖杯戦争から数ヶ月、張遼は結城と行動を共にしていた。

 同じ聖杯戦争を生き残った者同士、という理由もあるが、なんだかウマが合いそうだという結城の直感と、タダで飯を出してくれる上に寝床や服なども無償で提供してくれるという結城の好意に張遼が甘えている事実が重なり合ったのが主な理由である。

 

「話を戻すが、お前は中国で聖遺物を探すことになったわけだ。誰の聖遺物を探していたんだ?」

「チンギスハン」

「モンゴル帝国か……。確かにそれなら納得だ」

 

 モンゴル帝国の版図は東欧にも及ぶ。かの帝国が西洋世界に与えた影響は決して無視できるものではなく、その主たる名声や能力を考えれば、決して悪い選択ではないだろう。

 

「見つかったのか、チンギスハンの聖遺物は?」

「いや、残念ながら。俺が聖杯戦争に巻き込まれてる間に、他の人の手に渡ったよ」

「それは勿体無いことをしたな」

 

 そしてその流れていってしまった聖遺物がどうなったかは知らない。

 とりあえず誰が手に入れたかくらいはわかったが、問題はその魔術師は聖遺物を手に入れた数日後には失踪していて、1ヶ月後には死亡したという事実が確認できた。聖遺物の消息も同じくそこで途絶えている。

 食事を終えた張遼は軽く手を拭きながら尋ねる。

 

「それで、お前はここで行われる聖杯大戦とやらに参加するのか?」

「……参加することになった」

「なんだ、前までは参加する予定ではなかったのか?」

「うん」

「なぜだ? 聞くにお前たち陣営はそれなりに頭数はいて、武功を上げようと望むものもかなりいるらしいじゃないか」

「……ゴルドあたりから聞いたのか?」

「そうだが、違うのか?」

「いや……」

 

 ユグドミレニア家に名前を連ねているが、距離を置いている結城はミレニア城塞には定期連絡以外では立ち入らない。

 そして目の前の少女、張遼を連れていったことは、英霊受肉に成功したという連絡をするための一回のみである。

 その一回のみの訪問で、張遼は数少なくないユグドミレニアの人間と知人となり、最近では一人で遊びに行く感覚で城塞に行っていたりしていた。

 それに対して思うところのない結城ではなかったが、張遼の行動に文句をつけるのもおかしな話なので、何も言えないでいた。

 

「俺の聖杯戦争で生き残った経験を生かして欲しいんだとさ」

「……ならば、実際に見せてあげればいいじゃないか」

「何を、だよ」

「お前はトゥリファスを観光していればいい」

「何ヶ月前のことで嫌味言ってきてるんだよ……。もういいだろ、お互い生き残ったんだから」

「勘違いするな。お前が南京をただ観光していたわけじゃないことくらいわかっている。その姑息で卑怯な奸計でもって相手陣営を崩壊させればいいだろう」

「やっぱ嫌味だろ!」

 

 ため息をつきつつ、結城はデザートのヨーグルトを飲み込んでから続けた。

 

「それに、離間なんて毎回うまくいくわけないだろ」

「そうか? 埋伏の毒を仕掛ける側から観戦できると楽しみだったが」

「ついてくる気なのかよ」

「もちろん。受肉したとはいえ、この身は聖杯が認める英霊だぞ? 飛将軍殿以外に遅れをとるつもりはない」

「戦う気なのかよ……」

 

 もはやサーヴァントではないというのにやたらと血気盛んな少女を見ながら項垂れる。

 そもそも先ほどの聖杯戦争において飛将軍と呼ばれるライダーを打ち滅ぼしたのは目の前の少女で、唯一ライダーに対抗しうる戦力を持っていたのも彼女だ。

 聖杯戦争での結城の策はその一点に全てを頼ったものだったこともあり、謙虚も行き過ぎれば嫌味になるなと思った。

 

「って、おい。仕掛ける側から観戦って……」

「ああ。お前側で参戦してやろうと思ってな」

「ダーニックが喜びそうだな……」

 

 食事は終わり、皿を片付けていく結城。

 立ち上がってシンクへと向かい、結城が運んできた皿を洗っていく張遼。

 聖杯大戦が本格的に始まるまで数日。

 ユグドミレニア家が警戒を徐々に上げていく中、結城の家だけ緩やかな時間が流れていた。

 

「ん? なんだこの桶」

「あー、味噌作ってるんだよ」

「味噌? 今日の汁に使ったものか。買えばいいんじゃないのか?」

「試したけど、味がダメだった。大した手間でもないから作ることにしたんだよ」

「そうか。家庭的なことは、私的にポイントが高いぞ」

「いつ使えるんだよ、そのポイント」

「私に婿入りするのに使える」

「家も持ってねえくせに何言ってんだ。……ちなみにだけど、どれくらいポイントがあれば婿入りとやらができるんだ?」

「そうだな、1万ポイントにでもしよう」

「今俺がもらったのは?」

「3ポイント」

「どんだけお高く止まってんだよ!」

 

 嵐の前にしてはあまりにも静かすぎる。

 そんな日常だった。

 

 †

 

 木製の扉を叩かれ、頭首たる男は目を落としていた書類から顔を上げる。

 この場に呼び寄せた人物は一人のみ。

 つい今し方読んでいた資料で詳細に調べ上げられた、一族の末裔。

 

「入るがいい」

 

 とはいえ、その少年と直接面会する機会は今までほとんどなかった。

 それもそのはず、一族の中で出来損ないの魔術師など数え切れぬほどいる。その一人一人に時間を割けるほどには、頭首であるダーニックは暇ではないのだ。

 

「失礼します」

 

 だが、目の前の男、結城・ヴァルター・ユグドミレニアは、ダーニックの認める、戦力となる一族の魔術師に格上げされた。

 呼吸を一切乱さず、程よい緊張感と途切れぬ警戒心。隠さずにネックレスの先につけられた砂時計のような形の魔術礼装は、いざとなれば交戦を辞さない覚悟の現れだろうか。

 それらを総合して、先ほどの判断は間違っていなかったと判明する。

 

「僕たちがこうして対面するのは2回目だったね」

「そうですね」

 

 一方結城の方は面倒だと思う心を隠しながら、淡々と答えていく。

 正直なところ目の前の男が何を思って、何を企んでいるのか、そんなものに興味はなかった。考え始めればいくらでも候補は浮かぶだろうが……。

 

「先日、君を黒の陣営のマスターとして迎え入れたいと要請したことは覚えているかね?」

「記憶しています」

「ではまず、その返答を聞かせてもらおう」

 

 鋭い目つきで結城を睨みつけるユグドミレニアの主。同時に軽い暗示の魔術も使用する。言葉の真偽を確かめる程度のものだが、結城を招き入れた部屋自体に仕掛けていたものだ。

 予定ではすでに十分の数のマスターが黒の陣営には存在する。ゆえに、結城がマスターにならずとも勝つ算段はすでについている。

 だが、戦力を増強できることに否やはない。

 故に警告するのだ。お前がマスターとならなければ、こちらはどんな手段でも講じるのだと。

 

「ええ。参加させていただきたく思います」

 

 だが、結城の返答はあっさりとしていた。

 

「ほう」

 

 口角を少し上げるダーニック。

 

「意外だな。君ならばマスターになることを渋ると思っていたが」

「……」

 

 言外に渋られる前提でマスターになるよう要請したことを隠さないダーニック。

 

「君が体験した南京での聖杯戦争。亜種聖杯戦争の中でも最大級に規模が大きく、生存者は君一人だけだったとされている」

「ええ。私以外のマスターは全員、殺害されました」

「そして君は願望機を使用して、サーヴァントを受肉させたわけだ」

「……はい。それが聖杯に託された願いですから」

「そんな一度は獲得した願望機を再びその命をかけて手に入れる理由はあるのか?」

 

 疑いの目で見てくるダーニック。

 それに対して結城はあっさりと答える。

 

「私が此度の聖杯にかける願いはヴァルター家の復興、そして失われた母の名を取り戻すことです」

「なるほど、魔術師らしいな。だがなぜ、君が勝ち取った聖杯ではその願いを成就させなかった?」

「サーヴァントとの誓約のためです」

「そうか……」

 

 今までの結城の返答に嘘が混じっていないことは、容易に確認できた。

 ダーニックがあらかじめ仕掛けていた暗示に、むしろ結城は自ら積極的にかかりにいったし、それだけでなくその他複数の魔術によっても確認された。

 ならば安心だとダーニックは思った。

 返答におかしいところはないし、不審な点も見当たらない。素直に魔術師としての野望も現しており、この手合いならば少なくとも黒の陣営として戦っている間は裏切ることもないだろう。

 

 その後サーヴァント召喚の儀の詳細な日時やユグドミレニア家における結城の新たな地位――ゴルドに次ぐ地位を通達し、その場は解散となった。

 そして部屋から立ち去る前、結城は振り返りダーニックに宣言する。

 

「願わくばユグドミレニア家に繁栄を、そして我が手に聖杯を」

 

 どんな初級の魔術師でもわかる程度の虚言を半分、そしてどんな高級の魔術師でも認める程度の真実を半分。

 

 †

 

 途切れぬ剣戟音と射撃音が響き渡り、前が見えづらくなるほどの土埃が宙を舞う。

 

「流石だな! 人の身……と言い切れんやもしれぬが、なかなかのものだな!」

「ありがとうございます! 過去を生きた英霊に褒められるなど身に余る光栄ですね……!」

 

 ――戦火の鉄腕(マルス)射撃命令!

 

 少女の声と共に数え切れぬほどの光弾がその金属製の腕から発射され、

 

「まだまだ!」

 

 そのすべてを見切り、避けて、弾く紺色のチャイナドレスの少女。

 跳ねるたびに見えてはいけないものが見えているが、そんな指摘をする野暮はここにはいない……、はずだ。

 

「その接続強化型魔術礼装(ブロンズリンク・マニピュレーター)というのは……、魂を宿しているのか? 乱数で無闇に撃っているわけではなさそうだな!」

「はい! 一度で見切られるとは思いませんでしたが……!」

「安心せい。私でなかったら、気づく前にミンチになってる!」

 

 そう言いつつ光弾の隙を縫いながら、ブロンドの長髪の少女に肉薄する英霊。

 

「……っ!」

 

 ――守護者の錫腕(ユーピター)迎撃命令!

 

 咄嗟に自身の魔術礼装に迎撃のために使役する。

 英霊が振り上げた偃月刀はすでに自身に届く距離にあり、攻撃の余裕はないと見えた。

 だが手加減されているとはいえ英霊の一撃。

 襲う衝撃に対して反射的に目を瞑り、身を固めていると、

 

 ――ガンッ!

 

 という金属同士の打撃音が鳴るのみで衝撃は来ない。

 何が起きた?

 そう思い目を開けると、

 

「いってぇなぁ!」

 

 振り下ろされるはずの偃月刀は、いつの間にか目の前にやってきていた少年によって弾き返され、くだんの少年は少女の前で痛む手をさすっていた。

 

「……空気を読んでくれ、結城……。今いいところだったのに」

「あのなぁ、手加減ミスってこの娘を怪我させたらどうするんだ」

「私の実力を疑っているのか?」

「疑ってないから言ってんだよ!」

 

 未だに痛む手をさすり続けながら振り返り、結城は少女に話しかける。

 

「うちのものが申し訳ないことをした……。大丈夫か、フィオレ?」

「え、ええ。問題ないわ」

「怪我してなきゃいいけど……」

 

 と言いつつ、フィオレの体をと魔術礼装を見回す結城。

 それに対してジロジロと見られたことに少し気恥ずかしそうにしながら、

 

「わ、私は大丈夫だから……ね。だからあんまりジロジロ見ないでちょうだい」

「え、あ。ご、ごめん」

 

 と、年相応のやり取りを経た少しばかり距離をとる二人。

 その二人を見て、なんだか面白くない気分だったのは張遼だった。

 なんだかせっかく興が乗って鍛錬をしてあげていたというのに、いきなり現れた結城がいろいろと台無しにしてくれたのだ。

 

「ダーニックとの対話は終わったか?」

 

 だから、その苛立ちをぶつけるわけではないが、話題を変えることにした。

 

「あ? ああ、終わったよ」

 

 対してユグドミレニア家の人間がいる中でいきなり核心をついた話題を始めようとする張遼に驚きながらも返答する。

 

「交渉は上手いこと行ったわけだな」

「……そうだ」

「ということは結城くんがマスターとして参加してくれるってこと?」

 

 フィオレが問いかけてくる。

 あれ? なぜフィオレが対談の内容を知っているんだ?

 不思議に思い何個か理由に当てをつける。重要な話ゆえ、ユグドミレニア家に全員伝えられている可能性も低くないし、特に次期当主として目されているフィオレならば知っていてもおかしくはない……が。

 結城は視線を張遼に向けた。

 その視線に気づいたのかそっぽを向いて下手な口笛を始める張遼。

 理由があっさりと判明した。

 

「ああ……、そうだ」

「よかった! 結城くんがいれば千人力です」

「……できることはするさ」

 

 喜ぶフィオレに対して、ぶっきらぼうに返答する結城。

 照れ隠しなのか少し顔が赤い。

 

「では、またこのミレニア城塞で暮らすことになりますね」

「え」

「え、じゃないよ。サーヴァントが数騎も集まる戦場で、一人あの家で過ごすつもりですか?」

「……」

「私がいるから一人というわけではないがな」

 

 口を挟む張遼だが、

 

「張遼さんが古今無双の猛将だというのは知っています。だけど、相手はどんな手段を取ってくるかわからない」

「……ふむ、その通りだな。どうする、結城?」

 

 納得して話題を結城に振る張遼。

 対して結城は少し申し訳なさそうに、それでいて取り繕ったような悪人面で答える。

 

「ありがたい申し出だが断るよ。この城塞に俺の居場所は――」

「――結城くんに部屋はそのままにしてあります。あなたが気に入ってアカメと名付けたホムンクルスも……」

 

 そう呼びかけるフィオレに対して、結城は少しばかり体を固まらせ。

 小さく息を吐いてその場から逃げるようにして、

 

「……すまないが、失礼する」

 

 立ち去った。

 

 しばらく一人になろうと、丘の方にでも行こうかと思ったが。

 後を追うようにして、小柄で長髪のチャイナドレスを着たアメジスト色の少女がついてくる。

 ので、家に帰ることにした。

 なぜそうしたかは、自分でもわからなかったが。

 

 †

 

「結城くん……」

 

 そう呟く声に、

 

「あいつ、帰ってきてたのか」

 

 答える声。

 

「……いいえ、自分の家に帰っていっちゃったわ」

 

 フィオレは自分の弟、カウレスに返答した。

 

「そうか……。そうなるか」

「そうね」

「……今なら帰ってきても誰も文句が言えないだろうに」

「……」

 

 名実ともにユグドミレニア家の擁するマスター。

 それがここで何を意味するか、わからない人もいないだろう。

 だけど、姉弟は知っている。

 マスターとして聖杯戦争を生き残った実績がなければ。

 結城・ヴァルター・ユグドミレニアは決してこの城塞に立ち入る資格すらなかったのだと。




アタランテたんとアスフォルトたんをヒロインにした二次創作少なくて、読みたい欲を満たすために書き始めていたんだ!!

結城くんのために難易度を選んであげてください! 

  • イージー(闇堕ちしなければ生存)
  • ノーマル(生存は勝者だけの特権)
  • ハードコア(Zero仕様)
  • ナイトメア(未知の領域)
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