聖杯大戦で生き残りたいだけ   作:全自動髭剃り

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聖杯戦争ガチ勢な主人公。……そういう人に限ってろくな目に遭わないと定番の聖杯戦争。


開戦

 

「う、うぅ……」

 

 呻き声を上げながら、なんとか上半身を起き上がらせる赤のマスター。

 時間はすでに夜半を過ぎ。

 トゥリファス近くではすでに聖杯大戦の最初の戦いが起きているのか、尋常ではない規模の魔力のぶつかり合いが感じられた。

 

 その余波に当てられたためなのか、今まですややかに眠っていた魔術師もようやく微睡から抜ける決意を決めたのだろうか。

 その時まで聖杯対戦に関係のあること、関係のないことを飽きもせず数時間にわたって話し続けた結城と張遼は、ようやく今夜の主役が目を覚ましたことで、意識を切り替える。

 

 目が覚めると、ロットウェル・ベルジンスキーのすぐ前にはこちらを覗き込む、東洋人の若い男の顔が……

 

「っ!」

「ああ、落ち着いてください」

 

 驚き立ち上がろうとするロットウェルの肩を押さえつけ、話し続ける結城。

 

「焦ることはありません。あなたにお話があります。いいですか?」

 

 そう言いつつ、ロックウェルから離れる結城。

 

「あなたはずっと昏睡状態だった」

 

 何かを言いかけるロックウェルだが、

 

「ええ、ええ。わかってます。どれくらいの長さか?」

 

 少しためて、結城は続ける。

 

「あなたが眠っていたのは……、最低4日間です」

「……それくらいわかっているぜ」

「……あれ?」

 

 と首を傾げながら張遼に顔を向ける結城。

 対して張遼は目を閉じながらやれやれと首を振っている。

 

「この人、暴れないぞ」

「だから言っただろ。そんなうまいこと行くはずないと」

「えー。予行演習もちゃんとしてたのに……」

「無駄に終えた訳だ」

 

 などと、聖杯戦争にて敵対関係にあるマスターを前にして、結城は全く緊張感のない茶番を張遼と繰り広げていた。

 対してロットウェルはそんな戯けた調子の結城に一切の警戒心を緩ませない。百戦錬磨の魔術師である彼にとって、こういった警戒心をはぎ取ってこようとする手合いは珍しいものではなく、それに対して油断して命を失った者の数は思い出すだけでも両手の指の数を超えるのだ。

 結城と、おそらくそのサーヴァントである少女に下手な刺激を与えないようにゆっくりと起き上がる。同時に念話で自身のサーヴァント――赤のアーチャーを呼び寄せる。

 

「ちなみにおじさん、ここ数日の記憶はあるか?」

 

 サーヴァントを呼ぶ際に、令呪は使用しない。これはもっと重要な局面で使用する、切り札なのだ。

 

「ああ、あるな。一服盛られてから、お前に拐われるまで、しっかりと覚えてるぜ」

「お、なら話がはやくて済むな」

 

 その半昏睡状態での記憶を繋ぎ合わせるロットウェル。

 赤の陣営のサーヴァントとマスターはほぼ全員確認できており、自身を拐ったという事実を含めて、目の前の青いガキは黒の陣営のマスターであることははっきりしていた。

 何を思って目の前のマスターとサーヴァントは自身の始末をしないのか皆目見当もつかないが、ただの慢心による油断であれば即刻殺してしまえばいいと、すでにこの場の近くまで到着した赤のアーチャーに念話で攻撃のための待機を指示する。

 

「実はおじさんにはお願いがあってね」

「お願いだと?」

「そうそう。助けてあげた代わりにさ、おじさんの知ってるのサーヴァントの情報をもらってもいいかな?」

「……」

 

 口を開けたまま、呆れ返るロットウェル。

 目の前のガキは今何と言ったのか。

 知っているサーヴァントの情報?

 この聖杯戦争における、最も重要と言っても過言ではない情報を言えと?

 

「……」

「ほら、魔術師ってのは等価交換だろ? それで、納得してもらったりってできないかな?」

「…………ク、ククッ……」

 

 余りにも無茶苦茶な“お願い”を申し出た結城に、呆れを通り越した笑いが出てしまうロットウェル。

 慢心による油断?

 いや、もはやその程度ですらない。

 眼前の愚物は道化にすら満たぬ存在だ。

 

「うーん、納得してくれなさそうだなぁ」

 

 未だに笑いの止まらないロットウェルの様子を見て、落胆の声を上げる結城。どうやら人の表情を察するくらいの知能はあるらしい。

 

「じゃあおじさんのサーヴァントのクラス名だけでも教えてもらえたりしない?」

「……ハハッ! 笑わせてもらった礼だ。それくらいなら教えてやるよ」

 

 狂気を孕ませたような笑顔で、ロットウェルは続けた。

 

「アーチャーだ」

 

 徐に寝かされていたベッドから立ち上がる!

 同時に家の外に待機させていた自らのサーヴァントにも命令を送る。

 魔術師らしい等価交換とやらは以上だ。これからは聖杯戦争のマスター同士の闘い。――いや、ロットウェルにとっては一方的な殺戮。その証拠に、目の前の青ガキはいまだに警戒するどころか、対話の余地があると思い込んでいるのか、口を開いているではないか。

 隙だらけもいいところだが、遺言でも聞いてやろうとロットウェルは思った。

 

「じゃあ、魔術師のおじさんが叶えたい願いは何なの?」

「あ? お前に答える義理なんかあると思うか?」

「貴賤問わず、幼子から老爺まで、老若男女を含めた犠牲をも顧みずに、おじさんは願いを叶える覚悟があるのかなと思っただけだよ」

 

 不気味にも笑顔を崩さない少年。

 不警戒もここまでくると不自然だが、百戦錬磨の魔術師であるロットウェル相手に何か出来ようものでもない。

 その隣にいるサーヴァントは流石に警戒体制にあるようだが、その対処はアーチャーに任せれば十分だろう。

 

 ロットウェルは、戦いの火蓋を開くことにした。

 

「そんなくだらねぇことに覚悟なんか必要か、クソガキ!」

 

 そして――。

 

 †

 

 以上が赤のアーチャーが自らのマスターを殺害した経緯であった。

 

「ふむ、魔力の供給に問題はないようだ」

 

 体の調子を確認する赤のアーチャー。

 つい先ほど、土下座が功を奏したかどうかははっきりしないものの、赤のアーチャーは結城をマスターとすることを承諾したのだった。

 2騎のサーヴァントを同時に従えることになった結城だったが、

 

「どうやら汝らの主従が特殊であったことに偽りはなかったようだな」

 

 赤のアーチャーに供給する魔力量に不足はないようである。

 受肉したサーヴァントには魔力の供給が必要なかったゆえにこそ可能となった裏技だったが、

 

「敵陣営のサーヴァントでも、同時に契約できるって……」

 

 実際に問題なく契約できたことは心外ではあった。

 断られることも含めてダメ元で試しただけに、運良く新たな戦力を手に入れられたことを喜ぶべきか、それとも案外ガバガバな聖杯戦争の仕組みに呆れるべきか。

 

「それにしても、無事に契約できてよかったよ」

「私としても、再度聖杯を頂く機会にありつけたことは幸運だった」

「徒競走で勝たないと契約は結ばないと言われたらどうしようかと思ってたよ」

「……すでに私の真名を知っていたとは驚きだが……。求婚するつもりであれば、相応に相手するぞ?」

 

 とそんなやりとりをしていると、やりとりを見守っていた張遼が反応を見せた。

 

「求婚?」

「違う違う、するわけないじゃん!」

 

 慌てながら否定する結城に、少しばかりホッとする表情の張遼。

 

「そりゃアーチャーが万人の目を奪うような美貌だってのは否定できないけど、流石に初対面の女性を口説けるほどの胆力はないよ」

「ならば私が汝に俊足さの勝負を申し込むことはない」

「金の林檎なんて用意できないし、負けたら何をされるかわからないしな」

 

 言いつつあくびを一つかく結城。

 流石に新たな契約もしていることで、魔力と体力の消費が激しく、うつろうつろとしはじめる意識に鞭を打つ。

 最低限自らのサーヴァントに今後の行動指針を軽く伝えると、自分でしたことだから片付けをしなさいとかつてマスターだった亡骸の片付けを赤のアーチャーに命じて、そのまま先寝室へと向かう結城であった。

 

 †

 

 草臥れた寒村で、余所者の孤児ながらも歓迎してもらえた恩返しのためだったかもしれない。

 二人して――呂布と張遼は体の丈夫さと腕っぷしだけには自信があったので、狩りの頭、そして村を襲う山賊の対処を任されたのは自然なことだった。

 そんなある日、腕の立つ用心棒の噂を聞きつけた丁原という名前の役人が尋ねてきた。

 

「太平の世のため、天下安寧のために」

 

 その言葉を信じ、二人は武器を手に取った。

 笑顔で村の誇りと送り出した同胞に胸を張るために、そして直情で不器用ながらも志高い大男の助けのために、二人は戦うことにした。

 

 暴政はでっち上げられた。

 蝗が溢れ、穀物は消える。川は干上がり、民は飢える。

 追い討ちに北方の移民も痩せ細った北の大地を棄て、雪崩のように押し寄せる。

 天下は乱れ、栄華を極めた施政者にはなすすべもなし。

 ゆえに、宦官という容易にこじつけられる悪はすぐに矢面と立たされた。

 初めての大仕事は血の海の中で、国のために奔走した官吏を片っ端から縊り殺すことだった。

 

「俺についてきたばかりに、嫌な仕事をさせたな」

 

 申し訳なさそうにする呂布の隣、これで少しでも民草の溜飲を下がればよいと思うことにした。

 

 少しはマシになった。

 そう思いたかった。

 大男に従った女は、やがて宮殿から豊かさを奪い取っていく賊と化した民草を見て、目を背けた。

 

 彼女たちが次に従うことになる男――董卓は、暴徒となった人々を次々を制圧しながら、敵として張遼たちの前に現れた。

 無法地帯となった洛陽に、原始的な弱肉強食ながらも秩序をもたらした董卓を丁原は歓迎しなかった。ついで、宦官の次の矢面に、董卓を据えることにした。

 

「狸に従う虎と狼もいたものだ」

 

 志高く立ちながらも奪う側に立つのに辟易とした二人は、そう罵ってきた董卓に従うことにした。

 かのものの為政がせめて、豊かさを奪うものではなく、作り出すものであって欲しかった。

 

 そこは、戦場だった。

 投石器から放られた巨岩が飛び交う下、無数の兵士が弓矢の雨霰に飲み込まれながらも、凍りついた大地の上を駆けていく。

 炎上する都。崩れ行く関所。

 雷鳴の如き怒号上げ、地響きを伴う嵐の如く敵陣を縦横無尽にかける赤黒い影。

 その大男が振るう戟は天をも切り裂き、燃え盛る紅蓮の瞳は視界に入るものの心を凍り付かせる。

 

 さて、その大戦の光景を眺める少女の心は落胆しか残らなかった。

 少しは復興の兆しがあった都を、諸将が攻め立てる。天子の座す洛陽の守護大将を朝敵とし、群雄は集う。

 呂布と董卓はついに送り込まれた女一人を求めて争い、姦計によって内憂外患とかした首都は、将軍の手によって焼き払われることとなった。

 

「苦労をかけてしまった」

 

 董卓の血が滴る戟を片手に、女には逃げられ、都からは蹴り出された呂布は、顔を伏せながらそう謝ってきた。

 

 時代に翻弄された男に、結局最期まで付き合うこととなった。

 同じ村で育ったよしみなのか。

 それとも彼に憧れてしまったのか。

 はたまた戦場で背中を任せた彼に特別な感情を抱いていたのか。

 少なくとも血の気が多いだけの自身が、彼と結ばれるなんて夢物語はないとはわかっていた。

 

「呂布殿。お前も一人の武人ならば、死に際の矜持を弁えろ」

 

 二人して縛り上げられ、醜く命乞いをする呂布を見て、なぜかそんな言葉が出てきた。

 満たされぬ人生を過ごしてきたのは自分も同じで、命長らえられるならば願ってもないはずだったのに、そんな恨み節が口から出てきたのは意外だった。

 

 結局なぜか曹操に赦された張遼は、呂布の墓前でみっともなく数日泣き続けた。

 伝えられなかった想いも、伝えきれなかった言葉も、自分ですらわからなかった感情も。

 全て下邳の冬に溶けていくばかりであった。

 

 †

 

「――ってのが、俺が前回召喚したサーヴァントの願いだったんだよ」

 

 と、サルマーレを箸でつまみながら話す結城。

 奇怪な木の棒を2本器用に使いこなす姿に、周囲の客は困惑の表情を浮かべているが、気にならない二人であった。

 

「ふーん」

 

 出された料理を次から次に乱暴にカッ食いながら、対面に座っていたサーヴァントは返答する。

 

「やっぱり後世に残された書物ってのは参考にならないなーって」

「国を一つ滅ぼした宦官の蓋を開けてみれば、ただ運命に翻弄されていた悲劇のヒロインだったってことか」

「そうそう。けど悲劇にしては、ややしたたかすぎる人ではあったけどね」

 

 ワインを喉に流し込みながら返答する結城。

 やや露出過多で目のやり場に困る外見のサーヴァントは、引き続き口に物を入れながら尋ねる。

 

「それで、結局オレを呼び出した理由は何なんだ?」

 

 それに対して世間話を終えた結城は神妙そうな表情で答える。

 

「作戦会議ってやつだよ」

「作戦会議だぁ?」

「そうそう」

 

 トゥリファスから離れた結城の隠れ家のある街のちょっとしたレストラン。

 獅子劫の携帯に連絡をとって、彼のサーヴァントを呼び出したのは結城本人だった。

 敵陣営のマスターのところにわざわざ自らのサーヴァントを単騎で向かわせるなど、常識で言えばあり得ない状況ではあったのだが、そんな非常識的なシチュエーションを作り上げたのも有機の工作による物ではあった。

 

「お前は赤の陣営に降ったんだろ? あの気色悪い神父のところで作戦会議とやらをした方がいいんじゃねえのか?」

「言峰神父のところなー。……なぁ、知ってるか、赤のセイバー」

「何だよ」

 

 言いつつ懐から小瓶を取り出す結城。

 握り込めるくらいの大きさの透明なガラス瓶の中には、薄く赤茶色の液体が満たされており、

 

「ッ!」

 

 悠長に出された料理を食べていた赤のセイバーは、一瞬にして目の前に座る少年に対し警戒度を上げる。

 もちろん昼間の食堂で武具を展開するわけではないが、その気になれば一瞬にして始末することもわけないという警告を与えるのだ。

 

 対してそんな赤のセイバーの様子を見て、どうどうと両手でジェスチャーしながら落ち着かせる結城。

 

「アッシリア帝国じゃ、これが客のもてなしに出されるらしい」

「……」

 

 と、小粋なジョークのつもりだった結城に対して、警戒をとかない赤のセイバー。

 

「まあまあ、そんなにシリアスにならないでくれ、赤のセイバー」

「……お前がその液体をこれ以上オレに近づけないってんなら、話を聞いてやってもいいぜ」

「わかったよ、ほら」

 

 と、小瓶を再び懐に戻す結城。

 

「あの教会で一服盛られたついでに持って帰ったんだよ」

「……あの女か」

「セミラミスって名乗ってたアサシンの仕業だろうね。この毒の中身の解析を、君のマスターにお願いしようと思ってたんだよ」

「…………嘘はついてねえみたいだな」

 

 念話で確認したのか、はたまたその卓越した観察眼で判定したのかわからないが、とりあえずは警戒度を下げて食事に戻る赤のセイバー。

 その様子に少しばかり安堵する結城は続けた。

 

「今夜、ユグドミレニアの本拠地のミレニア城塞付近で衝突があると思う」

「……どこの情報だ、そりゃ」

「企業秘密。というかそのうち君のマスターにも伝えられるんじゃないかなとは思うよ」

「そうかよ」

 

 机に置かれた伝票で、今回の食事の値段を計算しながら結城は口を開ける。

 

「おそらくだけど、黒の陣営が圧倒的な優勢で戦いは終わるはずなんだ」

「……そこに助勢しろってことか?」

「違う。君がきたところで、戦局は変わらない」

 

 という結城の淡々とした口調に、一瞬にして苛立つ赤のセイバー。

 結城の戦力外通知にも似た物言いに対して、

 

「ナメてんのか?」

「君相手にそんなことすると思うか。……今日の戦いは黒の陣営が圧倒的な戦力数を保持するだろうからな」

「……そういうことか」

 

 ひとまず冷静になる赤のセイバー。

 

「それで君にお願いしたいのは――」

 

 †

 

「さあさあ、圧政者よ!! 傲慢が潰え、強者の驕りが蹴散らされる時が来たぞ!!」




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  • イージー(闇堕ちしなければ生存)
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