シャーレの不知火さん   作:おかだんごむし

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プロローグ

 その少女の来訪は突然だった。

 

「初めまして…ですね。先生」

 

 そう声をかけてきたのは桃色の髪を三つ編みにして後頭部でまとめている小柄な少女だ。連邦生徒会所属であることを示す白い制服を身にまとっている。そしてその隣にはカンナが控えている。

「キヴォトス連邦生徒会所属、防衛室の不知火カヤと申します。行政委員会の中における、安全保障周りを担当している者です」

 

 リンちゃんの同僚と言うことだろうか。

 

“防衛室……?”

 

 聞き覚えのない名前だった。

 

「なるほど、あまりご存知ないようですね?

 リン行政官からお話など聞いたことはありませんでしたか?」

 

“ごめん、あんまり……”

 

「まあ、リン行政官は口数が少ないですものね」

 

「ではご挨拶を兼ねつつ、少しだけご説明しましょうか」

 

「キヴォトスの行政を担う連邦生徒会は、まず主な組織として行政委員会を持っています。

 ここが主要な業務を担当しており、財務室、調停室などの計11個の区分けで構成されています」

 

「そしてこの行政委員会とは別に存在する組織が、リン行政官の管轄である特殊な統括室。

 この統括室と、11個の区分けから成る行政委員会の2つを合わせたものが連邦生徒会……そう思っていただければおおよそ問題はないかと

 私は防衛室を担当しています。キヴォトスの安全を脅かす勢力から、生徒たちや市民を守る組織です」

 

 全く知らない情報が次々出てくる。もしかしたら渡された資料の中にあったかもしれない。時間のある時に目を通さなければ。

 

“なるほど、説明ありがとう。大変そうな仕事だね”

 

今は思ったことを伝える。

 

「いえいえ、私はあくまで責任者的な立ち位置で、あくまで指示をするだけですから。大変なのはそこにいるカンナさんのように、実働部隊の方です」

 

カヤの目くばせに反応してカンナがこちらに会釈してくる。しかし、まだ肝心なことを聞いていない。

 

“今日はなんのために来たの?”

 

カヤの目が怪しく光る。

 

「単刀直入に申し上げます。シャーレと防衛室の連携を密にするためです。

 シャーレは超法規的な行動ができる組織です。構成員は先生1人のようですが現場で問題が発生した場合その事後処理を行うのは私たち防衛室、それもカンナさんのような実働部隊です。

 防衛室はヴァルキューレの円滑かつ迅速な展開のためにも先生の行動を観察し、その行動によって起こる問題を可能な限り予測する必要があります。それに万が一先生が権限を悪用した場合、現場は逆らうことができません。それは避けたい。そこで決定権を持ち柔軟に対応できる私が可能な限り同行することになりました」

 

“それは君が私を監視すると言うことかな?”

 

「そう捉えてもらっても構いません。

 まあ、何も先生に24時間付きっきりになるわけではありません。私にも最低限とはいえ仕事がありますから。ただ、キヴォトスの安寧のため外から来た先生を、防衛室の立場として見極める必要があるのはご理解いただきたい」

 

“リンちゃんは生徒会は忙しいと言っていたけど“

 

「大丈夫です。私はリン行政官の言うところの暇を持て余している人ですから」

 

“あと、不知火さんが不在の間、防衛室は大丈夫なの?”

 

「その心配はごもっともですが、トップの仕事は正しい場所に正しい人を配置すること、そして組織全体のために責任を取ることです。それにトップが不在になるだけで、物事が円滑に進まなくなる組織など最初から瓦解しているようなものですよ」

 

“……”

 

「失礼、そのような経緯で私は可能な限り先生と行動を共に致しますがよろしいでしょうか。もちろん先生が拒否されるのであれば引き下がります。それがあなたには許されています」

 

“これは君の望むことなの?”

 

「もちろんです」

 

 

その後、カヤの仕事道具がシャーレに搬入された。

 

とは言ってもカバン一つに収まる量だった。

 

“防衛室っていうぐらいだから何か対怪獣用の特殊な大きな武器を使ってるのかと思ってた”

 

「軍隊というより警察の色合いが強いですから、それに怪獣退治は専門外ですよ。支給される装備もこんなものですし」

 

カヤはそう言って特徴のない拳銃を見せてくる。それよりもその下に置かれていたものに目が奪われた。

 

“これは……FAX付きの電話!?骨董品?”

 

「失礼ですね。電話線さえあれば書類が送れるから便利なんですよ。今回のように私自身も長期間現場に出る時もそれなりにありますから、それに通信手段は多いに越したことはありません。短波無線もありますよ」

 

そんな軽口を叩きながらカヤは自分のスペースを確保しあっという間に仕事場を作ってゆく。

 

「そういえば、先生は銃の携帯はされないのですか?」

 

“どうして持ってないと思ったの?”

 

「見ればわかりますよ。何か理由があるのですか?」

 

“先生が生徒に怪我をさせるわけにはいかないから”

 

カヤはそれを聞き少し驚いたような表情をする。そして少し考え込んだ後一言

 

「…優しいんですね」

 

とだけ言った。

 

────

 

 私、不知火カヤという人間は超人に憧れていた。超人になってみんなを幸せにしたかった。連邦生徒会長は確かに超人だった。しかし、皆に何も伝えず失踪してしまった。

 

 私の仕事はキヴォトスの防衛だ。そのためにボードゲームのように手駒である人員を適材適所に配置した。正しい人を正しい場所に、そうするだけで想定通りに物事は進んだ。そのうち私の仕事は人員の配置と激励、そして無駄な会議と少々の書類のみになった。だから私は自分の野望のために行動することができた。私がしなくてはならないことは手駒にはできないことなのだ。

 

 先生の監視は当然のことだった。

 

 失踪した連邦生徒会長と入れ替わるようにキヴォトスを訪れた、彼女の用意したあまりにも強力な権限を行使できる先生という存在。野放しにできるはずがなかった。何より連邦生徒会長による先生の受け入れの準備は失踪の直前に完了していたのだ。タイミングが良すぎる。

 

 最悪のケースは連邦生徒会長が先生に騙され、なんの痕跡も残せず消されてしまったという場合だ。私は彼女ほど優秀な人物を見たことはない。しかしそれはキヴォトスの内部での話だ。世界は広い、外部の人間であれば彼女を騙せる可能性が否定できない。

 

 そして先生が外部からの干渉だとしても、連邦生徒会長の置き土産だとしても、今の私の望みに大きな影響を与えるのは間違いない。

 

 その上で、今日先生と会って理解した。先生の監視を部下に任せることはできないと。このような時のために防衛室は冗長性のある組織作りをしてきた。私が一時的に席を外す分には問題ない。将棋やチェスと違い、(キング)がとられても組織は止まらない、止まってはいけない。

 

 自分の目で見極めなければならない。先生がこの世界の救世主なのか、それとも破壊者なのか。このキヴォトスの安寧のために。

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