シャーレの不知火さん   作:おかだんごむし

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D.U.にて

 お昼休み、便利屋68と別れ柴関ラーメンから学校へ戻り、対策委員会は思い思いに過ごしている。

 

 私も作業していると先生が話しかけてきた。

 

“不知火さんは何をしてるの?”

 

「明日の定例会議のために資料をまとめています。これが終われば出発します」

 

“忙しそうだね”

 

「リン行政官ほどではありませんよ」

 

“リンちゃん仕事に忙殺されていたもんね“

 

 先生はリンの前にうず高く積まれた書類の山を思い出したのか顔色が悪くなっている。

 

 そんないつも通りの午後の一番眠くなる時間、その終わりを告げるように突然アヤネの端末から警告音が流れる。

 

「大規模な敵の接近を確認!」

 

 こんな時間に空気を読まない襲撃者もいたものだ。

 

「まさか、またヘルメット団?」

 

 シロコが尋ねる。

 

「ち、違います!ヘルメット団ではありません!……おそらく傭兵です!」

 

「へえー、傭兵かあ、結構高いはずだけど」

 

 ホシノが冷静に分析している。今回の襲撃者がわかった気がする。

 

「これ以上接近されるのは危険です!先生、出動命令を!」

 

 対策委員会の行動に先生の許可は必要ないはずだが……

 

“出動だー!”

 

 なぜか今日の先生はテンションが高い。

 

「私は資料をまとめますのでお構いなく」

 

“了解!“

 

 D.U.へ行く準備を済ませ少し遅れて現場に着く、予想通り襲撃者は便利屋68だ。

 

 しかし少々奇妙なことになっていた。

 

「あれれ?あなたアビドスの生徒だったの?」

 

 サイドテールの少女、ムツキにセリカがそんなことを聞かれていたのだ。

 

「どこからどう見てもそうでしょうが!」

 

「単にバイトしてる人かと……」

 

 目つきの鋭い少女、カヨコが困惑している。

 

「どうして、そうなるのよ!」

 

「だって、1人ぼっちでラーメン啜ってたピンクの髪の子がいたよね?」

 

「そう糸目の子……その子いれて5人だったから……」

 

「そんな子いたかしら?」

 

 黒いファーの付いたコートを羽織っている少女、アルが疑問を投げかける。

 

「わ、私も見ました……」

 

 あの自信のなさそうな少女、ハルカがそれに答える。

 

「なんかあの人どこかで見た覚えがあるんだけど……」

 

 なるほど大体わかった。また勘違いさせたらしい。

 

「私のことでしょうか?」

 

 そう言いながら先生の影からそっと現れる。

 

「「「……!?」」」

 

「初めまして……ではありませんね。私は連邦生徒会防衛室長の不知火カヤと申します」

 

「な、なんですってーーーー」

 

 アルはわかりやすく驚いてくれた。

 

「なんでそんな人がここに……しかもアビドスの制服を着て?」

 

「……説明しても良いのですが、今はそんな状況ではないでしょう」

 

 正直、説明してから現行犯逮捕してもいいのだが、それでは予約した列車に間に合わない。ここは先生と対策委員会に任せることにした。

 

「定例会議がありますので私はD.U.に行ってきます」

 

“行ってらっしゃい”

 

「明日の夕方には帰ってきます。ここは任せましたよ、先生」

 

“任された!”

 

 随分とノリが良い。満腹だからだろうか?対策委員会もやる気は十分のようだ。これなら負けないだろう。呆然とする便利屋68の隣を通り抜け私はD.U.に向かった。

 

 ちなみに移動にヘリコプターなどの航空機を利用しない理由は単純に経費の削減だ。防衛室の予算は火の車なのだ。

 

 

「なんだか久しぶりに帰ってきた気がしますね」

 

 サンクトゥムタワーの前でそう呟く。本当にアビドスで過ごす数日間は長く感じた。

 

 そんなことを考えながら連邦生徒会本部に入ると亡霊のような風貌になったリンと目が合ってしまった。隣にはいつも通り書類持ちとなっている調停室のアユムもいる。

 

「こんにちは、リン行政官……その……ご無事そうで何よりです」

 

 「お元気そうですね」などと言える雰囲気ではない。明日の定例会議のために一番書類と格闘しているのは彼女だろう。眠れていないのかひどい顔だ。

 

「……なんですか、その格好。仕事と称して遊んできたのですか?」

 

 これはいけない今の彼女には私の存在自体がストレスになっている。

 

「私がここで働いている間、あなたは先生と一緒に楽しそうにあちこち行って……」

 

 その上忙しいにも関わらず私への嫌味に時間を割くほど判断力が落ちている。爆発寸前だ。

 

「失礼します」

 

 そう言ってリンの肩に手を置く。あまりにも疲れているのか抵抗しない。

 

「カヤ室長、何をしてぇー」

 

 言い終わる前にリンは崩れ落ちる。それを支えて近くのソファに寝かせる。

 

「カヤ室長、な、何を!?」

 

 アユムが慌てて駆け寄ってくる。

 

「静かに、起こさないでやってください、死ぬほど疲れています」

 

「これは……寝てしまったのですか?」

 

「少し違います。頸動脈を締めて気絶させただけです。少し経てば目を覚ましますよ。アユム室長もリン行政官が明らかに限界の時は無理にでも休ませてください」

 

「えぇ?」

 

「リン行政官の作業効率があなたと同じぐらいに落ちた時、15分は寝かせてその間はアユム室長が代行したら良いのですよ。そうすれば全体の効率が上がります」

 

 敵に塩を送る行為だが、連邦生徒会で過労死の事案を作るわけにはいかない。

 

「わ、わかりました」

 

「あとリン行政官が起きた時、気絶する直前のことは覚えていないでしょうが、私のしたことは他言無用でお願いします」

 

「どうしてですか」

 

「私はリン行政官に嫌われているみたいですので、疲労で倒れてしまったところをアユム室長、あなたが介抱したことにしてください」

 

 それに今リンが倒れれば困るのは私だけではない。まだ仕込みが終わっていないのだから程々な疲弊をしてもらわなくては……

 

 

 久々に連邦生徒会の制服に着替える。冷房のよく利いている執務室では私はそれなりに厚着でないと冷えてしまうのだ。

 

 しかし、アビドスの制服を着ていた期間は四日間ほどだったはずだが、譲ってもらった経緯から少し愛着が湧いてしまった。

 

 アビドスには頻繁に学外からの生徒が来るわけではないし、乾燥地帯ではアビドスの制服の方が過ごしやすい。今度からはリンに見つからないように着替えよう。

 

 端末を見ると撃退成功のメッセージが先生から届いていた。時間を見るに随分とかかったようだ。泥仕合になったのだろう。あれ以上関わっていたら絶対列車を逃していたに違いない。

 

 その後、執務室で定例会議のための打ち合わせを済ませた。

 

 予想通り時間が余ったので手隙の部下を集め、アビドスからの書類を執務室まで運ばせる。

 

 カイザーコーポレーションとアビドス生徒会の契約書の条件を確認するためだ。いくら自治が認められているとはいえ、土地を売却するには連邦生徒会の承認も必要のはずだ。

 

 だが書類のほとんどは借金と砂漠化対策に関する連邦生徒会への嘆願書だった。公式の書類ではあるがほとんど同じ内容なので前任者は開封しただけでまともに読まず、放置していたようだ。他の部署は相変わらず忙しそうなので部下と共に確認していく。

 

 大量の嘆願書と格闘すること十数分

 

「見つけましたー」

 

 部下の1人が歓喜の声を上げた。すぐに内容を確認する

 

「随分前の連邦生徒会が承認していたようですね」

 

 アビドス高等学校生徒会とカイザーコンストラクションによる専任契約だ。これは連邦生徒会が今さら手出しできるようなものではない。なるほど生徒会長の不在により更新不能になり契約が無効になったようだ。

 

 すると別の部下がこちらへ駆けてくる。どうしたのだろうか?

 

「カヤ室長」

 

「目当ての書類は見つかりましたよ?」

 

「いえ、そうではなく……こちらの書類は申請漏れではないでしょうか?」

 

 部下はそう言いながら一枚の申請書を渡してくる。その署名に忘れられない名前が書いてあった。

 

「ユメ会長……?」

 

 書類を受け取る。間違いなく筆跡も彼女のものだ。その年の嘆願書と見比べれば一目瞭然だ。

 

 内容に目を通し、思わず笑ってしまう。彼女らしいお願いだ。

 

「カヤ室長?」

 

 そんな私を見て怒られるとでも思ったのだろう部下が不安そうにしている。

 

「失敬。確かに重大な申請漏れです。時間はないですが明日の定例会議に間に合わせますよ。覚悟はいいですか?」

 

「わかりました」

 

 防衛室の眠れない夜が始まった。




多分私も統合幕僚長が警備員の制服で1人ラーメン啜っても気づかないと思います。
それと連邦生徒会への救援要請はユメ先輩が生きている時にも出していたと思いますが、ホシノはそれも集めていたのですかね。自筆だったら欲しがりそうですね。

ちなみに今日でカルバノグ二章後編から一周年となるようです。時が経つのが早い。
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