シャーレの不知火さん   作:おかだんごむし

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既知なる事実

 深夜まで関係各所を駆けずり回った翌日、無事、会議を終えアビドスに昼前に帰ってきた私はカイザーPMC理事の所を訪れていた。

 

「先日は制服の提供ありがとうございました」

 

「こちらも最後の不良在庫が捌けた、感謝している。先生に関する情報も役に立っている」

 

「しかし、理事、先日の襲撃と言い生徒の誘拐と言い少々事を荒立てすぎでは?」

 

「なんのことだかわからんが、君は我々の邪魔をしないのではないか?」

 

 この期に及んで誤魔化すのか。

 

「立場上、あの状況で誘拐自体を見逃すのは流石に不自然ですよ。まあ、ヴァルキューレ側での捜査は打ち切らせておきましたのでそちらはご安心を」

 

「ただ、アビドスの生徒たちは独自に調査するでしょうね」

 

「……はあ、どうして私だと思った?誘拐なんぞ他にも候補はいるだろう」

 

 誤魔化すのは諦めていないようだ。

 

「お宝探しが上手くいっていないようですね、理事」

 

「……話したのはジェネラルか、プレジデントか」

 

「そこを言う訳にはいきません。まあ、カイザーコーポレーション内にも様々な派閥がありますからね。現状赤字しか出せないようなプロジェクトですし、成果が出ないのならば社内での風当たりも強くなっているのでしょう。それに部下の皆さんも砂が体に入り込むせいで不人気な職場の一つのようですし……」

 

「わかったもういい」

 

「上からも下からも急かされて、大人というのは大変ですね」

 

「……ちなみになぜアビドス高校を真綿で締め上げるような真似をするのですか?土地が欲しいだけなら、待つだけで合法的に手に入るというのに、あなた達らしくない」

 

 報告書を読んでからずっと疑問だった。カイザーコーポレーションは合法と違法の間を正確に見極める。だが、ヘルメット団や便利屋68による襲撃や誘拐未遂は証拠が出た瞬間に終わりだ。リスクが高い上、誤魔化しようがない。

 

「それは……貴様には関係のないことだ」

 

「そうですか」

 

 今のやり取りで確信する。理事は何者かに取引を持ちかけられている。対策委員会に対して直接的な危害を加え始めたのもそれが理由だろう。これが理事にとって吉と出るか凶と出るかはわからないが相手は相当よい性格をしている。

 

 しかし、ここにきて第三勢力の存在が確定するとは、上手く揺すればこのまま理事の弱みを握れるかもしれない。

 

 そんな私の甘い考えは一本の電話の前に崩れ去った。

 

 理事は「失礼」と言ってそれに出る。同時に私の端末もメッセージの着信を伝えた。

 

 電話自体はすぐに終わった。理事はこちらに向き直る。

 

闇銀行(ブラックマーケットバンク)がアビドスの生徒たちに襲撃された。何か知っているか?」

 

 それはまさに青天の霹靂だった。おそらく先ほどのメッセージも同じ内容だろう。

 

「全く知りません」

 

 昨日のシロコの発言を思い出しながら答える。

 

「マーケットガードの視覚情報にこいつらが写っていた」

 

 そこには見覚えしかない目出し帽を被った対策委員会が写っていた。

 

「あーこれは確かにアビドスの生徒に見えますね。なぜ制服を着たまま……」

 

 流石にここで嘘をつくのは得策ではない。しかし、1人知らない生徒がいる。

 

「こちらの方はどなたですか。トリニティの生徒のようですが……」

 

「そこまではわからん。ただ、こいつはリーダーのファウストと呼ばれていたそうだ」

 

 紙袋を被りおかしなカバンを持つ彼女が主犯ということだろうか?状況が一気にわからなくなる。それは理事も一緒だろう。強盗のアドバイザーとして先生が呼んだのだろうか。いや、先生も流石に強盗の手助けはしないだろう。

 

「しかし、派手に動かれましたね。やはり尻尾を掴まれたのでは?何を盗られたのですか?」

 

「アビドスからの回収した利子の集金記録を要求され、その原本と一億を渡したそうだ」

 

「案外大したことないですね。資金洗浄をしているのだから問題ないでしょう?」

 

 なぜか理事が目を逸らす。そして一言

 

「……していない」

 

「え?」

 

「だから、現金で受け取った利子を直接渡していた」

 

「なぜそこで手を抜いたのですか!?」

 

「長年ばれていなかったし、移動の記録も残していないから手続きを簡略化したかったのだ!」

 

 その言い分に絶句するしかない、本当にらしくないミスだ。

 

「あなたも裏で丁寧に手を回していたようですが最近は粗が目立っています。少し休まれては?」

 

「余計なお世話だ」

 

「わかりました。何か考えはあるのかもしれませんが、このままでは足元をすくわれてしまいますよ。では、失礼します」

 

 思考を巡らせながら理事のもとを後にする。第三勢力の目的、その規模、これを考慮するとこれ以上例の部下に探らせるのは危険だろう。端末を手に取り、明日に会う約束を取り付ける。

 

「……疲れた、柴関ラーメンに食べにいきますか」

 

 

 柴関ラーメンで大将に癒されお腹を満たしてから学校に向かうと、この時間にしては珍しく対策委員会の皆は解散したようだ。夕日に照らされながら先生が1人で仕事をしている。

 

「犯罪協力お疲れ様です。先生」

 

 そう言って部屋に入ると先生がビクリと肩を震わせる。

 

“ご、強盗なんてしてないよ“

 

 あっさりと先生は墓穴を掘った。

 

「したのですね、強盗!」

 

“あれには事情があって”

 

「袋を被ったトリニティの生徒に何を唆されたのですか!」

 

“どこまで知っているの?”

 

「防衛室の情報網をなめないでください。見事な手際で一億と集金記録を奪った所までです」

 

“……”

 

 なぜか先生が目の前に正座した。

 

「何をしているのですか?」

 

“生徒が犯罪を犯したのは顧問である私の監督責任だからみんなのことは許してほしい”

 

 そう言って頭を下げてきた。

 

「はあ、無法地帯ならば何をしても犯罪にはなりませんよ。代わりに報復に何をされても守ってくれる法はありませんが」

 

“よ、よかった?”

 

「他の場所でやったことが判明したら許しませんよ」

 

“わかりました”

 

 説教はこのくらいで良いだろう。そう考えた瞬間先生がとんでもないことを言い始めた。

 

“ところでカヤ。今日実際見てきて思ったんだけど、ブラックマーケットって敢えて無法地帯にしてるよね”

 

「……その根拠は?」

 

”無法地帯という割には治安が良かったし、目につく所に酒類を扱っている店がなかった。何よりあれだけ不良がいるのに誰もタバコを吸っていなかった”

 

「なるほど」

 

 キヴォトスは学園都市なだけあって生徒の飲酒や喫煙の類は強力に制限されている。だからこそ違法取引の温床であるブラックマーケットにならあって然るべきだが、それがない。その事実は連邦生徒会の目が行き届いていないことの反証になる。一日中対策委員会と歩き回りながらそれも確認していたのだろう。やはり油断ならない人だ。

 

「わかっているのなら隠す必要はありませんね。あそこは居場所がなければ散ってしまう方々と物、そして情報を集める場所です」

 

“なるほど、マーケットガードには援助を見返りに治安維持を任せてるの?”

 

「そんなところです。ヴァルキューレも見回り程度はしていますが、治安維持の主体はマーケットガードです。最低限の治安がなければ、どんなに悪辣な企業でも商売なんてしませんから」

 

“情報収集は闇銀行か……モノと金が集まるから……”

 

「その通りです。盗品の流通も大半は抑えられます。実は審査もしっかりしていて、通らなかった時は常識的な忠告もしてくれます」

 

「世の中どうしても暗部というものは生まれるのものです。それを全て規制するには人員も予算も足りないですから、現状では徒労に終わるでしょうね」

 

“そして各学園であぶれてしまった生徒達の受け皿にしてると……”

 

「本当は教育と社会復帰の場を設けるのが真っ当な方法なのですが、連邦生徒会の権限では居場所を提供するのが限界です。あそこは妥協の産物ですよ」

 

“それにしても大規模だったね”

 

「この仕組みを作った先代もここまで繁栄するとは想定外だったでしょうね。それだけあのような場所を渇望する人が多かったということです」

 

「しかし、ある程度の規模になると無法地帯にも独自の秩序が生まれるものなので、あとはそれが外に出ないようにするだけです。全員を無理やり捕まえるよりもよっぽど現実的ですよ」

 

“企業が増長しないのかな?大丈夫?”

 

「そのためのマーケットガードでもあります。それに各校の情報機関も情報収集にブラックマーケットを利用していますが、そうなれば全力で叩き潰すでしょうね。所詮はあそこは影ですよ」

 

 無法地帯は自由で、だからこそ誰も守ってくれないのだ。それは企業も例外ではない、どこまでも自己責任だ

 

“つまりあそこは見た目以上に安全な場所と考えていいんだね”

 

「はい……正直、先生がいらっしゃった日のD.U.の方がよっぽど治安は悪かったですよ」

 

 先生はそれを聞いて苦笑した。

 

「……それで肝心の探し物は見つかりましたか?」

 

“ 巧妙に隠されていたみたいで見つからなかった。知っての通り代わりの成果がこれ“

 

 そう言って先生が集金記録を取り出した。

 

“これにカイザーローンがヘルメット団に供与を行っている記録が残ってた”

 

 本当に資金洗浄していなかったようだ。致命的である。

 

“トリニティの生徒はティーパーティーに報告するんだって”

 

 理事は想像以上に追い詰められるかもしれない。他人事だが心臓に悪い。

 

「現金はどうされたのですか?」

 

“置いてきちゃった……”

 

「それが賢明ですね。盗んだお金を借金返済に充てようものなら一瞬で特定されて、ブラックリスト入りですよ」

 

“やっぱり、ついでで一億を用意するには手際がいいと思ったんだ”

 

「ここはキヴォトスです、そのぐらいの備えはしています」

 

“……闇銀行恐るべし”

 

「……そういえば、明日は部下と会うので朝はご一緒出来ません」

 

“カヤも忙しいんだね”

 

「大半は先生の後始末ですよ」

 

“お、お世話になります”

 

「気にしないでください、仕事ですから」

 

“ありがとう、カヤ”

 

「どういたしまして、先生」




先生の権限ならブラックマーケットは消せるのに、消してない理由を筆者なりに考えた結果です。
おそらく便利屋68のような生徒がいるという事実もあるのでしょうが、安全が確保されていると確信すれば先生は放置するでしょうね。
それにブラックマーケットは連邦生徒会長時代からないと説明できないレベルの規模です。
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