シャーレの不知火さん   作:おかだんごむし

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予期せぬ同盟

 砲撃による爆煙が落ち着いたので周りの状況を確認する。

 

 突然の砲撃で対策委員会は状況が把握できず混乱している。それに対して便利屋68は風紀委員会の襲来を察したのかすでに身を隠している。

 

 少し離れた所にゲヘナ風紀委員会の砲兵が陣地を展開しているのも見える。基本通りなら砲撃による撹乱の後には必ず歩兵による突撃が来る。

 

 先生は危ないからとでも言われたのだろう、車の影に隠れていた。周辺を警戒しつつ近づく。

 

「こんにちは、先生」

 

“不知火さん!柴関ラーメンの爆発に巻き込まれたって聞いたけど……”

 

「見ての通り無事です。それよりも風紀委員会の行動に心当たりはありますか?」

 

“ない。イオリは便利屋68を逮捕に来たって言っているけど、風紀委員会にそんな権限があるの?”

 

「いいえ、風紀委員会だからこそ、自治区の境界を事前通告なしに侵犯、兵力運用をすることはありません」

 

“つまり別の目的があると……“

 

「ええ、それにこの過剰戦力、別の相手との戦闘を想定しているとしか思えません」

 

“不知火さんや対策委員会とか?”

 

「いいえ、私だとすれば砲撃が便利屋のみを狙った理由が説明できないです。対策委員会だとしても動機がわかりません……」

 

 それに、ホシノや先生、カイザーPMCに例の第三勢力もいる。候補が多すぎて絞れない。

 

「そういえばホシノさんはどうしたのですか?」

 

“連絡が取れないって”

 

「こんな時に何しているんですかあの人は……」

 

“あっちは交渉が決裂したみたいだ”

 

 先生と話をしているうちに風紀委員会と対策委員会が戦闘を開始した。特にバイト先を吹き飛ばされたセリカは便利屋68に罪を償わせるためにもゲヘナに譲るつもりはないだろう。

 

「治安維持組織同士の戦闘は最終手段だというのに……」

 

“イオリが先走っただけだね“

 

 便利屋68の確保のみならこの場所で行う分には違法ではない。対策委員会に対する挑発行為という事実は変わらないが、内容はまだ生徒同士の小競り合いの延長だ。

 

「まあ、私が出る場面ではないですね」

 

 戦局は対策委員会の方が劣勢だ。イオリが数的不利にも関わらず縦横無尽に動き回り圧倒している。

 

「先生、対策委員会が心配なのはわかりますが頭を下げて、それと車両を盾に使うときはせめてエンジンルームの裏にしてください、他では抜かれます」

 

 戦闘を見守っている先生を流れ弾が当たらないようにかがませる。

 

“不知火さん、風紀委員会と今からでも話はできると思う?”

 

 確かにホシノと連絡が取れない以上、対策委員会の臨時顧問である先生が交渉に臨むのは理にかなっている。

 

「チナツさんなら穏便に交渉できるはずです。戦闘が小康状態に入ったら試す価値はあります」

 

“ありがとう、じゃあ、行ってくる”

 

 私の言葉を聞くや否や先生はそう言って車の影から出てしまった。

 

「ええ!?」

 

 慌てて振り返るとまさに小康状態だ。見えていないはずなのに戦闘の状態を把握していたとしか考えられない動きだ。

 

“独立連邦捜査部シャーレ所属の先生だ。戦闘の即時停止を求める”

 

 アヤネに銃を突きつけたイオリに先生はそう呼びかける。

 

「シャーレの先生?」

 

 イオリが困惑する。同時にチナツの顔色が変わりイオリを静止して戦闘は中断された。

 

 

「先生……こんな形でお目にかかるとは……それにカヤ室長まで……」

 

 チナツが苦々しい顔で言葉を漏らした。彼女はシャーレの奪還作戦に参加していたメンバーの1人だ。連邦生徒会へもよく出向くので私とも面識がある。

 

 そんな気まずい空気の中、通信用ドローンが飛来し、ホログラムを展開した。映し出されたのは天雨アコ、この時点で彼女が襲撃の首謀者だと確信する。他校の自治区近くへの侵攻などという繊細な事案でヒナ自身が出てこないなどありえない。しかし、いつ見ても正気を疑う服装だ。

 

「こんにちは、アビドスの皆様。私はゲヘナ学園所属の行政官、アコと申します。今の状況について少し説明させていただきたいと思いますが、その前に……」

 

 アコがこちらを向く。

 

「失礼を承知でお聞きしたいのですが、あなたは連邦生徒会防衛室長の不知火カヤさんで間違いないですか?」

 

「諸事情ありましてこのような姿ですがその通りです」

 

「なるほど、では我々の公務を妨害しないでいただけると助かるのですが……」

 

「私は中立の立場です。あなた方の敵でも味方でもありません。降りかかる火の粉は払いますがそれ以上はしませんよ」

 

「わかりました」

 

 それを聞いたアコは安心したのか対策委員会に向き直ろうとするが、

 

「しかし話をするというのであれば部下には銃を下げさせたほうが賢明でしょうね」

 

私の言葉に動きが止まる。

 

「……ご指摘痛み入ります」

 

 アコが片手を挙げると一斉に風紀委員は銃を下げる。

 

「では、改めまして。対策委員会のみなさん、この度は失礼いたしました。先ほどまでの愚行は、私の方から謝罪させていただきます」

 

 イオリがその言葉に「命令通りにやった」と反発するが、すぐさまアコに「他の学園自治区の付近で無差別に発砲せよなどと命令はしていない」と言いくるめられる。

 

 だがその中で自治区付近という発言が出た。流石はゲヘナの情報網、このような辺境の自治区の土地の状態もよく把握している。ただ、そうなると風紀委員会はカイザーコンストラクションにも許可を取る必要があるのではないだろうか。砲撃で無惨にも破壊された建造物を見ながらそう考える。

 

 アコの言い分は先ほどのイオリと変わらず、便利屋68の逮捕のために武力行使を容認しろと言うものだ。もちろん、先生も対策委員会も引き下がるつもりはなさそうだ。

 

“それはお願い、それとも”

 

「お願いです。今はまだ」

 

 随分と含みのある言い方だ。

 

「のめません!」

 

 アヤネが反論する。自治区内での治安維持はゲヘナなら風紀委員会、アビドスでは対策委員会の担当だ。当然のことである。

 

「先生、あなたも同じ意見ですか?」

 

“うん、今回の件に関して、私はこの子達の意見を尊重するよ”

 

「うーん、本当は穏便に済ませたかったのですが……」

 

 先生の言葉にアコは困ったような表情を見せる……が、すぐさま狩人の笑みに変貌する。

 

「やるしかなさそうですね……、総員戦闘準備!」

 

「結局戦うのですか」

 

 アコの号令を皮切りに皆が銃を構える中、独りごちる。次の瞬間、爆発音と共に風紀委員会の包囲が崩れた。理由は単純明快、便利屋68が吹き飛ばしたのだ。

 

「さあ、楽しい時間の始まりよ」

 

 混乱する風紀委員会を尻目にアルが堂々と宣言する。

 

「あんたたちよくも大将たちを……」

 

 セリカが襲いかかりそうになるが、アルは風紀委員会から目を逸らさずに「悪かったわ」一言で諌める。

 

「そちらから姿を現すとは……ですが、探す手間が省けて助かりました」

 

 アコが指を鳴らす。再包囲が始まった。二重の包囲網だったようだ。いや彼女の性格を考えるとまだあるかもしれない。

 

「それにしても、偶然にしてはすごい状況になりましたね。便利屋の皆さんを追っていたら、先生にも出会えるとは……」

 

「しらじらしいね、アコ」

 

 カヨコがそう言い捨て、アコの主張の矛盾を解き始める。

 

 風紀委員会の非効率な運用からこの作戦を彼女の独断と判断し、対策委員会と便利屋68の戦力を大きく上回る兵力からその目的を先生の確保だと断定する。

 

 私と違って彼女の持っている情報はゲヘナのそれと近い、その分目的を絞りやすいのだ。

 

 アコはそれに素直に感心している。

 

 包囲を完成させてからアコはカヨコの言う通りだと白状した。

 

 きっかけはティーパーティーがシャーレに関する報告書を手にいれているとの情報だったという。十中八九ハスミとスズミそしてファウストの報告書だろう。

 

「そこでチナツさんの書いた報告書を確認しました」

 

 チナツが呆れ顔でアコを見ている。おおかた見るのが遅いとでも思っているのだろう。

 

「連邦生徒会長が残した正体不明の組織……大人の先生が担当している、超法規的な部活。どう考えても怪しい匂いがしませんか?」

 

 その言葉に思わず頷きそうになる。こんなところで同じ考えの人と会うとは思っていなかった。

 

 アコはそのまま不確定要素である先生をエデン条約の締結まで庇護の下におきたいと続けた。つまり拘束させて欲しいらしい。

 

“エデン条約?”

 

「あとで説明します。それよりも如何なさいますか?他ならぬ生徒の頼みですよ。先生」

 

“丁重にお断りさせていただくよ”

 

 意地の悪い質問だったのに即答だ。

 

 アコの主張に対策委員会は当然反発し、風紀委員会という共通の敵を得たことによって便利屋68と意気投合する。戦力差を考えると組むのは合理的なのだが……

 

「いや、気を許すのが早すぎませんかね」

 

“呉越同舟ってやつだね。それに便利屋のみんなは悪い子じゃないから”

 

「店を爆破するのは悪事では?」

 

“罪を憎んで人を憎まずだよ、不知火さん”

 

「……それはそうですね」

 

 対策委員会と便利屋の自己紹介が始まった。反目し合っていた相手と一時共闘するための名乗り、状況に目を瞑れば青春の一ページのようだ。

 

 一通り終わったところで皆がこちらを見ていることに気づく。

 

“不知火さんも自己紹介して”

 

「はあ、不知火カヤです。直接戦闘には参加しませんが先生の護衛はお任せください」

 

 アコの疑念には同感できるが先生をゲヘナに渡す気はない。万が一にもないだろうが先生が懐柔されれば目も当てられない事態になる。言っては悪いがゲヘナの生徒のほとんどは規範意識がシロコ並みなのだ。

 

「うーん……まあ、これはこれで想定していた状況ではありましたが……」

 

「まあいいでしょう、風紀委員会、攻撃を開始します。対策委員会と便利屋を制圧して、先生を安全に確保してください」

 

 アコの号令と共に戦闘が始まった。




銃撃戦において車両を遮蔽物として利用する際は燃料タンクから遠く鉄の塊であるエンジンの近くが良いそうです。
もちろん実際に車を盾にしたことはないので真偽はわかりませんが…
ここから戦闘ラッシュで大変ですが、頑張ります。
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