シャーレの不知火さん   作:おかだんごむし

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ゲヘナの風紀委員長

 対策委員会と便利屋68の混成部隊と風紀委員会の戦闘が始まった。

 

 アヤネが戦況を先生に的確に伝え、先生がそれを受けて指示を出す。

 

 ここまでの大規模戦闘をみる機会はなかった。勉強させてもらおう。

 

 先生は部隊を4組に分割し三方に展開、制圧を開始する。

 

 セリカとムツキはイオリを相手にしている。イオリは気にしていないだろうが、数と速度を生かせない一本道に誘導されている。やはり彼女は未熟だ。

 

 チナツはそもそも戦闘があまり得意ではない。他の風紀委員と協力して、ハルカとノノミを制圧しようとしているが、流石に分が悪そうだ。

 

 残った風紀委員の大半はシロコとアルが対処している。あの2人は特に強い。どちらもこういう時には無類の強さを発揮するタイプのようだ。そこだけ舞踏会のような様相を呈している。文字通り2人が舞っているのだ。

 

 2人を包囲していた風紀委員は瞬く間に倒されていく。

 

 私とカヨコは先生の護衛で、アヤネは全体の戦況報告と弾薬補給を行っている。

 

 どれも即席の組み合わせだが、突っ込みがちなハルカと中距離で弾幕による援護が可能なノノミ。イオリの速度について行くことが可能で爆発物と正確な射撃の組み合わせによるトリッキーな攻撃が可能なセリカとムツキ。

 

 そして、前線で暴れまわるシロコに誤射をすることなく援護できるアルの必中の狙撃。

 

 一度戦闘しただけで対策委員会と便利屋68の風紀委員会に対する最適解を叩き出している。

 

 チナツは順当に制圧され、イオリは……なぜか穴にはまって戦闘不能になっている。戦局的には優勢ではあるが……

 

“数が多い、このままじゃ先に弾薬が尽きる……”

 

 先生の言う通り数が多い、これではいくら倒してもキリがない。対策委員会と便利屋68に疲れが出始め、先生にも焦りが見える。

 

「そもそもこの規模の大部隊との長期戦を想定した準備をしていませんからね」

 

“本当にね、正直これ以上来られるときつい”

 

 先生と軽口を叩き合っていると鐘を鳴らすような奇妙な音と共にアヤネの切羽詰まった声が耳に飛び込んできた。

 

「先生!イオリさんが!」

 

 見るとアヤネがイオリに距離を詰められている。空高くを舞う円形の物体から大体何が起こったのか察する。

 

 イオリがはまっていた穴はマンホールだったのだ。そこから地下に入り強襲してきた。カヨコの援護は間に合いそうにない。

 

 本丸を現状の最高戦力に直接叩かせるとは良い判断だ。不可能だという点にさえ目を瞑れば……

 

“よろしく”

 

 その返事を聞く前に地面を踏み抜き、アヤネと彼女に向かって蹴りを放つイオリの間に体を滑り込ませ、その蹴りを掴んで止める。

 

 イオリは一瞬怯んだものの、間髪入れず蹴りを入れ距離を取ろうとする。それに合わせてイオリを放り投げる。

 

「邪魔しないんじゃないのか!?」

 

 着地したイオリはそう叫ぶと間髪入れずに距離を詰めてくる。

 

「こんなに近くで暴れられると私の身が危ない、それだけです」

 

 イオリの攻撃を捌きながら返事をする。荒削りではあるが単純な近接戦闘能力はシロコ以上だ。まともに戦えば隙はない。

 

 ただ、地形によるイレギュラーを本人の反応速度のみでねじ伏せている。だから簡単に罠にかかってしまう。

 

「おっと」

 

 銃を抜こうとするとイオリはその隙を逃さずに蹴りを放ってくる。それを()()()()()()尻餅をつくと

 

「油断したな」

 

イオリに銃を突きつけられる。しかしすでに決着はついた。

 

「勝利を確信するなら、せめて自分のした事ぐらいは覚えておいた方が良いですよ」

 

「……?どういう意味ぐえっ!」

 

 イオリの質問は彼女の蹴り上げたマンホール蓋が自身に直撃したことで中断される。単純に考えて自分の蹴りが脳天を直撃したようなものだ。衝撃で銃を取り落としたものの立っているだけ立派だろう。

 

「こ、このっ!」

 

「そんな状態でも諦めないとは賞賛に値しますが、無茶はしないことです」

 

 それでもこちらに向かってくるイオリを、拾った彼女の銃のストックで少し押してやる。それだけで姿勢を崩し倒れてしまった。

 

「あなたには伸び代があります。精進しなさい」

 

 イオリが痛みか悔しさかあるいはその両方か涙目で睨んでくる。

 

「……手加減したのか」

 

「さあ、どうでしょうね」

 

“ありがとう、不知火さん”

 

「どういたしまして、先生」

 

 イオリはカヨコが簀巻きにし、頭を打った所に保冷剤を当ててあげている。随分と手際が良い。

 

 直後、端末が着信を知らせる。

 

「ゲヘナの部下から連絡が来ました。風紀委員長がこちらに向かっているそうです。それまで時間稼ぎができれば十分でしょう。交渉には応じてくれる方です」

 

“本当!?それは良かった……”

 

「ただ、今回の件は風紀委員会の面子にも関わりますから一筋縄では行かないと思います。素直に引いてくれるとは限りません。気を抜かないでください」

 

“わかった”

 

 しかしあれだけの数的不利を覆すとは末恐ろしい。生徒の戦闘員としての素養を存分に引き出している。

 

「第八中隊。後方待機をやめて、突入してください」

 

 アコが号令をかけるのが聞こえる。やはり兵力を温存していたようだ。

 

「第三波が来ますよ」

 

 第二波と変わらない兵力だ。これを凌いだとしても再編を済ませた部隊が再び包囲してくるのだろう。

 

「これは……持ちますか?」

 

“持たせるよ”

 

 そう言って先生は気合を入れ直すが、

 

「いえ、その必要はないようですね。風紀委員長が到着しました」

 

“……え?”

 

 当のアコが気づいていないが、いつの間にやらヒナがアコの背後に立っていた。

 

「アコ」

 

 ヒナが不意打ち気味にアコに話しかける。

 

「ヒ、ヒナ委員長!」

 

 アコは声が上擦り明らかに狼狽している。

 

「この状況きちんと説明してもらう」

 

「そ、それは素行の悪い生徒たちを捕まえようと…」

 

 しどろもどろにアコが説明を始めるが

 

「便利屋68のこと?どこにもいないようだけど」

 

「な、何を言っているんですか、ここに……あれ!?」

 

 便利屋68は忽然と姿を消していた。

 

「そんなバカな!ここにいたはず……」

 

 彼女達はアコがヒナに気を取られた瞬間に一目散に逃げ出していた。

 

「い、委員長!全て説明いたします」

 

「いや、もういい。大体把握した」

 

 何とか弁明しようとするもけんもほろろに断られてしまう。

 

「詳しい話は帰ってから、校舎で謹慎していなさい」

 

「……はい」

 

 アコのホログラムが消える。これでこの場にいる風紀委員の指揮権は完全にヒナに移った。これで交渉に移れると思った瞬間、

 

「じゃあ、あらためてやろうか」

 

そう言ってシロコが銃を構える。彼女はやはりゲヘナ向きではないだろうか?

 

 もちろんアヤネが制止して叱ると、シロコは「ごめん」と言って銃を下げる。

 

「この状況については理解されてますでしょうか」

 

 シロコが大人しくなったところでアヤネが交渉に挑む。

 

「事前通告なしでの他校自治区における無断兵力運用、及び他校生徒たちとの衝突」

 

 その発言を聞いてアヤネが安心した表情を見せるが

 

「…けれど、そちらが風紀委員会の公務を妨害したのも事実。違う?」

 

ヒナはそう続けた。やはり面子の問題か。これは難しい交渉になるとそう確信した時、

 

「うへー、こいつはまた何があったんだか。すごいことになってるねぇ」

 

 ホシノが今更登場した。セリカが「今までどこに!?」と問いただすと「ごめんごめん、ちょっと昼寝しててねー」と答えているが、怪しいものだ。

 

 ヒナとホシノが交渉を始める。私が言えたことではないがどちらも3年生とは思えないほど小柄だ。しかし、見た目に反して一度2人が戦闘を始めればそう簡単には止められない。

 

「あの2人が戦うのならば何もない砂漠でしてくれませんかね……」

 

“どういうこと?”

 

「お二方とも恐ろしいほど強いからです。ここにいる全員合わせても時間稼ぎにしかならないでしょう」

 

“時間稼ぎにはなるんだ”

 

「きちんと連携すれば1人につき1分は稼げますね」

 

“それ、不知火さんを勘定に入れてないよね?”

 

「本来、私が直接戦うのは最終手段ですから。まあ、私1人なら五分五分、連携できる前提ですが、ここにいる戦力と私なら確実に勝てます。そこに先生も加えれば、本気の2人でも止められると思いますよ」

 

“随分と買ってくれるんだね”

 

「正確に評価しているだけです。戦力を見誤るのは大問題ですが、過小評価が一番危険なので」

 

“なるほど”

 

「しかし、最悪の事態は免れたようで良かったですね」

 

“そうみたいだね”

 

 そもそもヒナに戦う気がなかったのか、ホシノとヒナの交渉はうまく行ったようだ

 

「撤収準備」

 

 その掛け声と同時に風紀委員会が動き始める。

 

 ヒナはそのまま対策委員会へ頭を下げた。

 

「事前通達なしでの無断兵力運用、そして他校自治区で騒ぎを起こしたこと。このことについては私、空崎ヒナより、 ゲヘナの風紀委員会の委員長として、アビドスの対策委員会に対して公式に謝罪する」

 

 暴走した部下の責任を取り、相手に組織の長が頭を下げる。落とし所としては問題ないだろう。

 

 対策委員会もそれ以上の追求は不要と判断したのか、ホシノを取り囲み質問責めをしている。

 

 するとヒナがこちらに近づいてきた。

 

「私は席を外しましょうか、風紀委員長?」

 

「いいえ、その必要はないわ、防衛室長」

 

 そのままヒナは先生の傍に立つと、

 

「アビドスの捨てられた砂漠、あそこで、カイザーコーポレーションが何かを企んでいる」

 

そう独り言のように囁いた。流石はゲヘナの情報網、カイザーコーポレーションの動向も把握しているのか。

 

 そして私の方を向き一言。

 

「イオリを解放してくれないかしら」

 

 カヨコに簀巻きにされたイオリがそのままだった。

 

「これは失礼しました」

 

 拘束を解き解放する。

 

「撤収」

 

 ヒナの号令と共に一糸乱れぬ陣形で風紀委員会は風のように去っていった。

 

“これで一件落着かな”

 

 先生がそう満足げに呟く。何のためにここに来たのか覚えていないのだろうか?

 

「お言葉ですが、先生。肝心の便利屋68を確保できていないのですが……」

 

“あっ……”

 

 その後、周辺を捜索したものの結局便利屋68は発見することはできずに解散となった。

 

 その帰り道、例の部下から連絡が来た。その内容を見て眉を顰める。そこにはホシノは今までカイザーPMCの本社ビルを訪れていたと書かれていた。




とうとうブルアカのアニメが終わってしましました。毎週の楽しみの一つがなくなってしましました。
ちなみにここの流れが原作とアニメでかなり流れが違って面白い所でした。セリフがかなり削られ、戦闘シーンが盛られていて自分で小説で苦労しながら取捨選択するとコンテ切った人の凄さがわかります。
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