シャーレの不知火さん   作:おかだんごむし

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アビドスの砂漠へ

 水族館へ行った翌日、アヤネが地籍図のデータを持って来た。

 

 これでようやく対策委員会に考察のためのピースが揃ったことになる。私にとっては復習が始まった。

 

 先生の助けもあり、対策委員会はカイザーコーポレーションがアビドスの土地を手に入れるために生徒会に融資を持ちかけたという推論が立つ。

 

 次にカイザーコーポレーションの目的についての議論が始まるが、すでに行動のための材料は揃っている。

 

 つまり対策委員会の結論は…

 

「実際に行ってみればいいじゃん。何が何だかわからないけど、この目で直接確かめた方が早いって」

 

 セリカの言葉に皆が同意する。

 

“じゃあ、準備ができたら行こっか。アビドスの砂漠へ”

 

 

 電車で対策委員会と砂漠へと向かう。

 

 先生はアヤネと共に学校で留守番だ。特に先生は遭難した前科がある。当然の結果だ。

 

 最寄りの駅から出ると見渡す限りの砂漠が広がっていた。

 

 アビドスの砂漠は場所によっては電波が不安定になるそうだ。先生と通信が取れなくなった時の代理として私は同行している。

 

「ここからはカイザーコンストラクションの私有地です。公道もないので不法侵入になりますね」

 

“まあ、私有地だとしても完全にアビドス自治区の管轄を離れたわけじゃないから、ヘルメット団の残党の追撃ということにでもしておけば言い訳付くかな?“

 

「まあ、及第点ではないでしょうか」

 

“それは良かった”

 

 そんなやりとりをしながら砂漠を進む。やはりこの辺りは暴走したドローンやオートマタが多い。砂祭りの代わりにパーツを剥ぎ取り祭りでも開催すればミレニアムの生徒は集まりそうだ。それも土地の権利を持っていればの話だが。

 

 対策委員会はそれらを蹴散らしながら進んでいく。改めてホシノの戦い方を見ていてわかったことがある。彼女は本気を出していないがその分周辺を警戒し、戦闘はなるべく後輩に任せている。彼女は自分の卒業後のことも考えているのだろう。

 

 ユメ会長の見つかった場所でもある、かつて砂祭りが行われたと言われるオアシスの跡を越え、カイザーPMCの採掘基地の一つに辿り着いた。

 

 基地としては小規模のものだが、妙に見張りが多い。近くの砂丘に身を潜め観察する。

 

「カイザーPMC……」

 

 ホシノが呟く。

 

「何よそれ?」

 

 セリカが聞いてきた。

 

「カイザーPMCはカイザーコーポレーション系列の民間軍事会社ですね」

 

「軍事会社!?」

 

 彼女は本当に良い反応を返してくれる。

 

「退学した生徒や不良の生徒達を集めて、企業が私設兵として雇っているという噂がありましたが、まさか……」

 

 ノノミの言う通り、ブラックマーケットですら居場所ができなかった生徒に雇用を提供する場の一つでもある。

 

 すると突然警報がなり響き、あっという間にカイザーPMCに半包囲されてしまった。見事な展開だ。伊達にキヴォトスで民兵をしているわけではない。

 

「ん、下手したら風紀委員会より面倒」

 

 それでもシロコの評価は面倒止まりである。事実ではあるが……

 

 対策委員会も銃を構え臨戦態勢になり、緊張が走る。

 

 すると基地の奥から一台の要人輸送車が走って来た。その車は対策委員会の目の前に止まり、中から理事が姿を現す。見張りの数が基地の規模に対して多かったわけに合点がいった。ちょうど基地内にいるとは予想外だった。

 

「侵入者だと聞いて来てみれば……貴様らお客様だぞ、銃を下せ」

 

 理事はそう部下に指示を出す。お願いだからこちらを見ながら言わないでほしい。

 

 カイザーPMCの兵士が一斉に銃を下げ、それを見た対策委員会も構えを解く。理事の視線がホシノへと向く。

 

「おや、君は……確か、例のゲマトリアが狙っていた生徒会長……いや、副生徒会長だったか?」

 

 ここに来て理事が口を滑らせた。第三勢力(ゲマトリア)の目的と名前が確定する。やはり狙いはホシノか。

 

「まあ良い。ようこそ、アビドス生徒の諸君、そして防衛室長」

 

「あなたは誰ですか」

 

 ノノミが警戒を解かずに質問する。

 

「まさか、私のことを知らないとはな……」

 

 正直、理事の言葉に同意する。相手のことを対策委員会は知らなさすぎる。

 

「彼はカイザーコーポレーションの理事です。自分たちが借金をしている相手の顔と名前ぐらいは覚えておいた方が良いですよ」

 

「ふふ、その通りだな。いかにも私こそがカイザーコーポレーションの理事だ。さらに詳しく言うとカイザーローンやカイザーコンストラクションの取締役も兼任してるがね」

 

「つまり、あなたがアビドスの生徒会を騙して、土地を搾取した張本人?」

 

「シロコさん、気持ちはわかりますがここは契約上彼らの土地で我々は侵入者です。その言い方は失礼ですよ」

 

「よくわかっているじゃないか。しかし私も学生に礼儀は期待しないさ」

 

「さて話を戻そうか……アビドスの土地だったか、確かに買ったとも。だからどうした?全ては合法的な取引、記録も全てしっかりと存在している」

 

 それにも関わらず今のいままでホシノですら把握できていなかったのはどれだけ契約書の管理が杜撰だったのだろうか。

 

「どうしてこんな砂しかない土地をと言いたそうな顔だな」

 

「それならば教えてやろう、私たちはアビドスのどこかに埋められているという、宝物を探しているのだ」

 

 やはり宝物……これもゲマトリアとの取引だろうか?

 

「だったらこの兵力は何?私たちの自治区を武力で占領するため。違う?」

 

 確かにそれが事実なら正式に武力介入が可能だが、そんな隙を見せる理事ではない。宝探しの妨害対策と言い切った。

 

「そもそも君たち程度、いつでも、どうとでもできるのだよ……例えばそう、こういう風にな」

 

 理事は徐に携帯を取り出すと、二言三言話す。

 

「非常に残念なお知らせだ」

 

 理事が顔を上げそう宣言すると同時にアヤネから通信が入る。来月からの金利が30倍になったようだ。

 

「これでわかったかな。君たちの首にかけられた紐が今、誰の手にあるのか」

 

 何というか今の理事は楽しそうだ。今までずっと裏でコソコソしていた分の反動が来ているのかもしれない。だが、操作するにしても露骨すぎるし、もちろんそんな金利は違法だ。脅しのつもりだろう。一度なら事故で言い訳できる。

 

「そんな金利払えるわけないでしょう!」

 

 しかし、効果は抜群だったようだ。セリカがそう訴えるが、

 

「ならば、学校を諦めて去ったらどうだ?」

 

理事は私が対策委員会に直接伝えられなかった正論を堂々と言い放った。

 

「自主退学して、転校でもすれば良い。それで全て解決するだろう、そもそも君たち個人の借金ではない。学校が責任を取るべきお金だ。何も君たちが進んで背負う必要はないのではないか?」

 

 まごうことなき正論である。しかし、正論で止まるようなら対策委員会はこの場にいない。

 

「そんなことできるわけないじゃないですか」

 

そうノノミがそう言ったのを皮切りに

 

「そうよ、私たちの学校なんだから!!見捨てられるわけないでしょ!」

 

とセリカが続き

 

「アビドスは私たちの学校で、私たちの街」

 

シロコがそう締め括った。

 

「ならばどうする?他に何か良い手でも?」

 

 だが、今の対策委員会に勝算はない。

 

「……みんな帰ろう」

 

 ずっと静かだったホシノがようやく口を開く。

 

「これ以上ここで言い争っても意味がない、弄ばれるだけ」

 

 この状況での撤退、正しい判断だ。

 

「ほう……副生徒会長、流石に君は賢そうだな」

 

 そんなホシノの背中に理事が語りかける。

 

「ああ、思い出したよ。賢そうな君と一緒にいた、あの全くもってバカな生徒会長のこともな」

 

 随分と理事も酷いことを言うが、ユメ会長の死は表向きは行方不明として処理されており真実を知るものはほんの一握りだ。理事からしたらバカな生徒会長が責任を果たさずアビドスから逃げ出したという認識なのだろう。

 

 その影響で土地の購入契約が無効になり理事も危ない橋を渡る羽目になったのだ。ホシノにぶつけるのはお門違いとはいえ文句の一つも言いたくなるのもわかる。

 

 ふと横のホシノを見ると懐かしい方の顔になっている。これはいけない、理事に銃を向けようとする彼女の手を押さえる。凄まじい力だが単純な膂力ならこちらが上だ。

 

「気持ちはわかりますが、理事はユメ会長のことを知りません。それに後輩もいるのですよ。彼に今銃を向けることの意味を考えてください」

 

 ホシノはこちらを睨みつけてくる。この顔を見るのは二度目か…。ホシノは背中にいる後輩を一瞥すると息を吐き、力を抜いた。最悪の状況は免れたようだ。

 

「では、来月以降の返済についてはよろしく頼むよ。お客様。ふふっ、ふははははは……!!」

 

 肩を落とし帰る対策委員会を理事の高笑いが追いかけてきた。

 

 

 学校に帰るとすぐに解散となった。八方塞がりになった対策委員会は意見がまとまらず、ホシノの提案で一旦家に帰って頭を冷やすことになったのだ。

 

 学校に残り書類に目を通しながらゲマトリアへの接触方法を考えていると、先生が話しかけていきた。

 

“ホシノと2人きりで話したいことがあるから少し席を外してくれる?“

 

 なんの話だろうか。今、先生とホシノを2人きりで話すとなると是非とも内容を知りたいが。私は彼女に信用されていない。先生だけで行った方が良いだろう。

 

「……承知しました。急ぎの案件もありませんし正門前で待っています」

 

“わかった”

 

 

 正門の前で先生を待つ。校舎から出た時は夕方だったのにもうすっかり暗くなってしまっている。先に出てきたのはホシノだった。

 

「何してるのー」

 

 ホシノがいつもの調子で話しかけて来た。

 

「私はここで先生を待っているだけです」

 

「そっかー」

 

「先生と何の話をしたのですか?」

 

「明日みんなの前で話すよ。その程度の話」

 

「お願いですから先走らないでくださいね。この学校にはまだあなたが必要です」

 

「そう、じゃあねー」

 

 その緩いくせに突き放すような物言いに腹が立つ。力尽くで吐かせても良いが我慢する。先生から話を聞いてからでも遅くはない。

 

 ホシノが去ってから少しして先生が出てきた。

 

「何を話されたのですか?」

 

“明日みんなの前でも話すって”

 

 先生は少し困ったようにそう言った。

 

「約束しましたか?」

 

“約束した”

 

「わかりました」

 

 少なくとも今の彼女は私はともかく先生を信用しているはずだ。その言葉を今は信じるしかない。




このあと出世コースから転がり落ちてしまいますが、原作でもアニメでも理事の厄介さを一番よく表しているシーンだと思います。
原作でも再登場するのでしょうか。
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