シャーレの不知火さん   作:おかだんごむし

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アビドス防衛戦

 コーヒーを楽しみ、朝食を食べ、部下からのメッセージを確認し、玄関で先生と合流する。

 

 そんないつも通りの朝だった。

 

 シッテムの箱が着信を伝える。それが日常の崩壊の合図だった。

 

 内容を見た先生の顔色が変わり“急ごう!”と言って走り始めた。わけがわからないままそれに続く。その表情にただ事では無いと察する。

 

「どうしたのですか?」

 

“ホシノに約束を破られた!”

 

「なるほど……失礼します」

 

 一言断って走る先生を抱え上げ俵担ぎする。

 

“え、ちょ、うわっ”

 

「口を閉じて、舌を噛みますよ!」

 

 そのまま全力で走る。見栄えが悪いがいつもより圧倒的に速く到着した。

 

 

 学校は騒然としていた。

 

「朝学校に来たらこれが……」

 

 アヤネが手紙と退部・退会届を先生に渡す。手紙には対策委員会への想いと先生への懇願が綴られていた。

 

「何が気張り過ぎず頑張れですか」

 

 昨日殴ってでも止めるべきだった。いつもならそうしてただろうに、先生に出会ってから甘くなっている。

 

“不知火さん、このヘイローを砕くって……”

 

 一方で先生は困惑していた。馴染むのが早いので勘違いするがやはり先生は外部の人間なのだ。

 

「先生はご存知ないのですね。私たちのヘイローは意識のある時に認識可能になります。つまるところヘイローが砕けるとは生徒の死を意味します。到底、後輩に頼むようなことではありません」

 

“……”

 

 先生は黙り込みセリカは激昂しているがまだ大丈夫だ。問題は……

 

「私が行く。対策委員会に迷惑がかかるし、私1人で……」

 

シロコだ。今にも教室から飛び出そうとするのを捕まえる。

 

「1人だろうと対策委員会には迷惑がかかります。その上ホシノさんの居場所も分かりません。まずは落ち着きなさい」

 

“はやる気持ちもわかるけど、今は状況を確認しないと”

 

「……っ」

 

 悔しそうに俯くがそれが現実だ。

 

 しかし、状況は最悪だ。詰んでいる。理事が最善手、つまり現状維持を行うだけでアビドスは終わってしまう。

 

 ホシノを手に入れた理事は慌てる理由がなくなったはずだ。これからは堅実にアビドスの余力を削ってくる。

 

 加えてホシノが自分の意思で望んだかどうかに関わらず、正式な契約である以上連邦生徒会でも手が出せない。もう生徒ではないからだ。ここで武力行使にでればこちらが悪になる。

 

 だが、ホシノを諦めるわけにはいかない。あのカイザーコーポレーションを動かして生徒1人を執拗に狙う輩の目的など、絶対碌なものではない。

 

 この状況の打開のために思考を巡らせるが、考えれば考えるほど打つ手がないことを思い知らされる。先生も書類を凝視しながら考え込んでいる。

 

 そんな時、アヤネの端末が警告音を出す。この音は敵の接近を知らせる警報だ。何度も聞いて覚えてしまった。

 

 おおかた理事が傭兵でもけし掛けてきたのだろう。この混乱に乗じて傭兵はアビドス高校の実効支配に成功すれば、その後に傭兵と取引して終わりだ。失敗してとしても、こちらは撃退した上で傭兵とカイザーコーポレーションの取引を立証しなければ理事に直接反撃すらできない立場だ。例の銀行強盗がきっかけで理事は取引の内容の秘匿化に余念がない。今の対策委員会では証拠を集めることは困難だ。流石は理事だ。やり方が悪辣……

 

「カイザーPMCの部隊が市街地を無差別に攻撃しながら進行中、校内にも侵入しています!」

 

「なぜぇ!?」

 

思わず本音が漏れてしまう。だがそれは爆発音によってかき消された。

 

 市街地での行動はアビドス高等学校の生徒会が完全に消滅したことによる治安維持活動として容認することはできる。そういう契約だからだ。しかし、カイザーコンストラクションの購入していない土地、つまりアビドス高校及びその周辺はもちろん彼らのものではない。キヴォトスの、つまり連邦生徒会の直轄地に自動更新される。

 

 それを武力により実効支配するとなれば、キヴォトスへの明らかな侵略だ。防衛室も動かざるを得なくなる。

 

 そしてこの方法にはもう一つ重大な欠陥がある。

 

「とりあえず、学校に侵入したやつからやっつけよう!」

 

 セリカが声を張り上げる。そう相手に反撃の正当性を与えてしまうことだ。

 

 私もいるというのに悪手を打ってくるとは理事はどうしたのだろうか……

 

 いや違う。私がいるからだ。ようやく理事の狙いを理解する。

 

「先生は対策委員会と共に市街地に向かってください。校舎の周辺であれば、私が防衛を行うことができます」

 

“どういうこと?”

 

「私には留守番しかできないということです。それに市街地で避難誘導を行っている間に襲撃があった場合、校舎に残っているのがアヤネさんだけでは守り切れるとは思えません」

 

“わかった。不知火さんは学校の防衛。皆は市民の避難誘導に行くよ”

 

「本当に任せて良いの?」

 

 セリカが心配そうに聞いてくる。

 

「ええ、ここは私に任せて行ってください。伊達や酔狂で防衛室長になったわけではありません」

 

 答えた瞬間目の前にカイザーPMCの戦闘員が現れる。

 

「対策委員会を発見!こっち……グボァ!」

 

 一瞬で肉薄し、顎に一撃。オートマタはその情報収集機器が頭部に集中しているため頭部への攻撃は無力化には十分だ。

 

「私1人で大丈夫ですから。アヤネさんも……避難には人手が必要です」

 

「わ、分かりました」

 

「勝手口まではお送りしますよ」

 

“よろしく!”

 

 教室から出ると、廊下中に兵士がいる。動作からよく訓練されていることがわかる。

 

「しかし、これではただのカカシですね」

 

 このぐらいの狭さの廊下なら天井も壁も床と同じだ。狙いが定まらないように跳ね回り1人また1人と狩っていく。

 

「クソッ、化け物め!」

 

 最後に残った失礼な兵士に蹴りを放ち昏倒させると、それで廊下にいた敵は撃ち止めだった。

 

“ありがとう行ってきます!”

 

 そう言い残して先生達は市街地に向かう。遠のく背中に「行ってらっしゃい、ご武運を」と檄を飛ばす。ここからは対策委員会の頑張り次第だ。あの大部隊にホシノ抜きの対策委員会が勝てるとは思えないが、その程度で諦めるようなメンツではない。

 

「さて、残党狩りと行きますか……」

 

 

 カイザーPMCの兵士は民間軍事会社とは思えないほど優秀だ。しかし、その大隊規模部隊を単騎で撃退できる人物が各学園に大抵一人はいる。その理由はいくつかある。

 

「ぼ、防御陣!ここで進行を食い止めろ!」

 

 大柄な防御型のオートマタがシールドを構えるが、正面から盾ごと撃ち抜かれ戦闘不能になる。

 

「バカな……拳銃で!?」

 

一つ目は兵士の防御力が足りていないこと。

 

「弾幕をはれ、近寄らせるな!」

 

 柱の影に隠れた複数の兵が交代しながら絶え間ない弾幕を浴びせてくる。それを正面から受けながら反撃する。

 

「そんな豆鉄砲では効きませんよ。対物ライフルくらい持ってきなさい」

 

二つ目は歩兵の携行できる機銃では決定打にならないこと。

 

「おっと、危ないですね」

 

 狙撃兵からの弾をステップで避け、スコープを射撃し沈黙させる。

 

「な……狙撃を」

 

三つ目は音速の二、三倍で飛ぶ弾丸程度なら回避可能なこと。

 

「このチビが!」

 

 防御型のオートマタがその重量を生かした接近戦を仕掛けてくるのを、逆に力任せに持ち上げ投げ飛ばす。

 

「誰がチビですか!」

 

四つ目はそもそも力不足。

 

 足りないものをあげればキリがない。唯一足りているのは数ぐらいだ。だから頭脳か伝令を叩く必要がある。

 

 蹂躙すること数分ようやくお目当ての兵を見つけた。通信兵だ。必死に増援を要請している。引っ叩いて通信機を奪う。

 

「こちらは連邦生徒会所属の防衛室長不知火カヤです。攻撃部隊の指揮官に告げます。即座に戦闘を中止しなさい。これ以上のアビドス高校校舎への攻撃は連邦生徒会に対する宣戦布告と見做し、グループ全体が強制執行の対象となります」

 

反応がない、もう一度繰り返そうとした時、無線機が音を立てる。

 

「……こちらカイザーPMC所属のジェネラルだ。そちらの要求を呑む」

 

答えてくれた敵の指揮官は知り合いだった。

 

 

「水族館以来だな。防衛室長」

 

 あの時の作業着とは違い灰色のスーツを着こなしたオートマタが教室に入ってくる。

 

「ジェネラル、せめて一言くださいよ」

 

「すまん。だが、作戦の立案者は理事だ。君が先生に絆されている可能性を捨てきれなかったのだろう」

 

 そう校舎を襲撃した部隊の役割は最初から私と対策委員会の分断だ。私を学校に釘付けにし、市街地での無差別攻撃で対策委員会をカイザーコンストラクションの土地に誘導。もはや何者でもない彼女達を治安維持を名目に排除しようとしたのだろう。仕上げに校舎に残っている連邦生徒会の職員、つまり私と土地の管理について交渉すれば良い。

 

「おかげで最初は混乱しましたよ。理事はどのような様子でしたか?」

 

「作戦自体の立案は堅実だったが、ブリーフィングで「我々カイザーコーポレーションがアビドス高校を乗っ取るのだ」だの、「あんな状況で青春を楽しむなど羨ま…正気ではない」だの言っていた。相当鬱憤が溜まっていたのだろうな」

 

「あなた方には学生時代が基本存在しませんからね。感情的になるのは理解できる気がします。戦局の方はどうですか?」

 

「うむ、理事が劣勢だ」

 

「あの戦力差でですか?」

 

「戦場ではイレギュラーはつきものだ。理事は飼い犬(便利屋68)に噛みつかれたようだな」

 

「ここで負ければ問題になりますよ」

 

「わかっている。本来これだけの兵力運用、治安維持では説明がつかん。他校にも警戒されるだろうし、もう少し穏便にすれば良かっただろうな」

 

「そもそも一般市民に攻撃を加えているのが致命的ですよ。心象が悪すぎます」

 

「大丈夫だ、失敗した場合はこれがカイザーコーポレーションの総意ではなく理事の暴走ということで処理する準備は済んでいる」

 

「プレジデントらしい尻尾切りですね。私もあなた方にこんなところで消えてもらっては困りますので協力は惜しみませんよ」

 

 カイザーコーポレーションは何も防衛室とだけ癒着しているわけではない、キヴォトスのインフラ整備なども行なっているのだ。もしカイザーコーポレーションがキヴォトスから撤退などしたら、想像したくもない。

 

「お気遣いに感謝する。防衛室長」

 

「理事は負けたそうだし、対策委員会も間も無く帰ってくるだろうから、今日はここでお暇させていただく。全部隊、負傷者を収容して撤退!遅れるな!」

 

 だが、大事な取引先だからこそ一言一句聞き逃してはいけない。

 

「また襲撃を行うつもりですか……」

 

「何?」

 

「先ほど「今日は」と言っていましたよ。対策委員会がホシノを救出に出撃した時が本命ですね。正式な書類を用意して来ない限り、校舎の占拠は容認できませんよ」

 

「……失言だったな。しかし、私に答える義務はない。せいぜい頑張ることにするよ」

 

 そう言い残しジェネラルは去っていった。




 この部分原作とアニメで違う場所です。校舎内の侵入は原作で見た時は流石にアウトではと思ったのを覚えています。理事、キヴォトスの中でもアウトロー中のアウトローを味方に引き込もうとしたばかりに…
 原作のカヤはこの辺りで何をしていたのでしょうね。
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