シャーレの不知火さん   作:おかだんごむし

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子供の交渉

「大将は便利屋68を許しているのですか」

 

「ああ、もちろん許しているよ」

 

大将は迷いなく答える。

 

「どうして許せるのですか?何も思わないのですか、理不尽な理由で大将の店は吹き飛んだのですよ」

 

「残念じゃなかったと言ったら嘘になるな。けど、もう誠意は見せてもらったし、何より無事に店も再開できてる。だから許すのさ」

 

 つまり大将にとってはもう過去になったのだ。これ以上追求することもないだろう。

 

「わかりました。しかしこれを直接渡せば大将も頭を悩ませる必要はなかったでしょうにね……」

 

 鞄を持ち上げると大将は苦笑する。

 

「格好つけたかったんだろうな、ところで……」

 

 大将が打って変わって真剣な顔になる

 

「カヤちゃんは許せているのかい?」

 

「……すみません。私は人の大切なものを奪った罪人が平気な顔をして外を歩くのを許せるほど人ができていません」

 

 大将から目を逸らす。だがこれは本心からの言葉だ。罪には罰を、犯罪がなくならない以上必要なことだ。

 

「謝ることはないよ。……まあ、普通は許せないよな」

 

「はい、しかし、私も謝って貰えばそれでいいと今は考えています。大将も対策委員会もそれで許していましたから」

 

「それは幸いだな。けど、カヤちゃんが本当に許せてないのは自分自身だろう」

 

 その言葉に顔を上げると大将と目が合う。真摯な眼差しだ。

 

「……その通りです。私はあの時大将を庇うのに精一杯で、お店を守ることが出来ませんでした。もう少し警戒していれば止められたはずなのに」

 

 私の後悔を告白すると、大将は優しい笑顔になる。

 

「良かった、なら俺もカヤちゃんに許してもらわなくて構わねえよ」

 

「どういう意味ですか?」

 

「だってアルちゃんの言ってた通り、カヤちゃんもお店の雰囲気に当てられちまったてことだろ」

 

「えっ?」

 

 当日のアルの発言を思い出す。「このお店は!お腹いっぱい食べられるし!!あったかくて親切で!話しかけてくれて、和気あいあいで、ほんわかしたこの雰囲気!ここにいると、みんな仲良しになっちゃう気がするのよ!!」

 

 そうだ、あの言葉で私は便利屋への警戒を解いたのだ。そしてハルカは爆破を決意した。

 

 大将の言葉に納得すると同時におかしくなって笑い出してしまう。

 

「ずるいですよ、大将は。全部自分のせいにしてしまうなんて」

 

「店で起こったことは店主である俺の責任でもあるんだ。ちょっとは肩の荷が降りたかな」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「カヤちゃんが防衛室長として俺には想像もできない程の責任を負っているのは知ってる。俺の責任なんてお客さんの期待を裏切らないよう努力することぐらいだ。到底、便利屋のしたことの責任なんて取れねえ」

 

「だからカヤちゃんに便利屋のみんなを許してほしいなんて口が裂けても言えねえよ」

 

「代わりに俺はカヤちゃんの間違いを許すんだ」

 

「悪意のない間違いはきちんと許す。これが君たちの行動に責任を取れない情けない大人に唯一できることだからさ」

 

「本当にありがとうございます」

 

 とても晴れやかな気分だ、我ながら調子の良い。

 

「いいって、ただ、便利屋の子達には直接謝ってもらおうな。それで手打ちでいいかい?」

 

「はい、大丈夫です」

 

すると何者かが屋台に近づいてくるのを感じる。

 

「おや、噂をすれば」

 

「新装オープンおめでとう大将、食べにきたわよ!」

 

 ちょうど便利屋が現れた。暖簾を上げたアルと目があう。途端アルの表情がクシャリと歪む。

 

「犯人は必ず現場に戻る。少し違いますがカンナ局長の言う通りでしたね」

 

「わっ、あっ」

 

「アルちゃん泣いちゃった」

 

 そんなに私は怖いだろうか?

 

「な、泣いてないわよ。目に虫が激突しただけで……」

 

 アルは涙を拭うとこちらをキリリと睨みつけ……

 

「ごめんなさい!!」

 

ものすごい勢いで美しい土下座を見せた。

 

「痛めつけるなら、私にして!社員に手は出さないで!」

 

「「……」」

 

 想定を超えた謝り方をされてしまった。大将と顔を見合わせる。

 

「カヤちゃんはそんなことしねえよ」

 

「大将のいう通りです。それとハルカさん、その物騒なものをしまって下さい。落ち着いて話ができません」

 

 ハルカは早速、起爆装置を取り出していた。

 

「すみません、すみません、すみません」

 

指摘すると謝りながらしまう。

 

「私たちに仕返しに来たんじゃないの?」

 

ムツキが不思議そうな表情で聞いてくる。

 

「法治社会において私刑は最も忌むべき行動の一つですよ。仕返しだなんて冗談ではありません」

 

「よ、良かったー」

 

アルは安心したのか顔を上げ席に座る。

 

「それはそれとして私は先生や大将のように甘くはありません。逮捕して罪を償わせたいと考えてました」

 

「えっ」

 

アルが目に見えて狼狽する。

 

「しかし、大将、彼女たち便利屋68を許すのですね」

 

「おうよ!」

 

 笑顔で大将は答える。

 

「本人たちの謝罪もありましたし、被害者は厳罰化を望まず、現地の治安維持組織が処罰しないと決めたのなら私はその決定を尊重します」

 

「?」

 

 アルとハルカは不思議そうにしている。

 

「つまりあなた達の態度と大将に免じて許すということです。これでこの話は終わりです」

 

 ようやく状況が飲み込めたのか、ハルカがこちらに近づいてくる。

 

「あ、あの、許していただいて、ありがとうございます。お店を吹き飛ばしてしまってすみませんでした」

 

「謝ってくれてありがとな、サービスするぜ。注文は?」

 

 私の罪は消えないがこれでいいのだろう。便利屋は早速注文を始める。いつも通りの柴関ラーメン一杯とお箸を4膳だった。

 

 しかしちょうど良い機会だ。便利屋に頼み事をしようと大将のラーメンを待つ便利屋の近くに座る。

 

「せっかくお会いできたのですから、少し独り言を聞いてもらいますよ」

 

「明日、対策委員会がカイザーコーポレーションに対して攻勢にでます。目標はカイザーPMCの施設にとらわれた 小鳥遊ホシノの救出です」

 

 便利屋は腕は確かだ、即戦力になってもらおう。カイザーコーポレーションが全体のためにも、理事には悪いが盛大に負けてもらわなくてはならない。

 

「報酬もなしにそれ協力しろってこと、私たちにメリットはないよね……」

 

カヨコがアルを庇うように出てくる。

 

「独り言ですよ。しかし、デメリットならいくらでも提示できますよ?」

 

「そんな脅すような真似するんだ……」

 

「決めるのはあなた方です」

 

「……っ」

 

「カヨコ、ありがとう。もう十分よ」

 

「私たち便利屋68は権力に靡くことはない。ただ、考えさせてちょうだい」

 

「……所詮は独り言ですから、聞かなかったことにしてもらっても構いませんよ。それでは失礼します」

 

 席を立ち会計を済ませる。

 

「また、来てくれよな」

 

「もちろんです、大将。ただ、せっかくの屋台なのですから他の学園にも足を運んでくれると幸いです。大将の味を知り、アビドスを訪れる人も増えるでしょうから」

 

「それはいいかもな、楽しみにしといてくれ!」

 

 人の集まらない所に人を集めるには特別な価値が必要だ。食はその一端を担っているのだ。

 

 端末が着信を伝える。内容を確認する。どうやらもう一仕事の必要なようだ。

 

 

 ヴァルキューレの部下に会いに走る。集合場所は何の因果かホシノと初日に喧嘩した公園だった。

 

「お待ちしておりました。室長!」

 

 公園に着くと、早速部下が挨拶をしてくる。しかし人が多い、そのほとんどがヘルメット団だ。

 

「し、不知火カヤさんであってまするか?」

 

 すると1人のヘルメット団がこちらに来る。手には見覚えのある水筒が握られていた。そう砂漠でビナーの撃退に協力してくれたヘルメット団だ。

 

「はい、私が不知火カヤで間違いありません。あなたはビナーと戦った時のヘルメット団ですね」

 

「そ、そうです!良かった、あんと、あの時のお礼がしたくて……」

 

「慣れない敬語は使わなくてもいいですよ」

 

「わかった。えっと、あん時は本当にありがとな」

 

 彼女はヘルメットを脱ぎ、頭を下げてきた。

 

「どういたしまして、それにしても珍しい組み合わせですね。何があったのですか?」

 

「それは本官が説明いたします」

 

 部下によると私の助けたヘルメット団はアビドス高校を襲っていたカタカタヘルメット団だったそうだ。感謝の言葉を伝えるために、水筒に書かれた名前を頼りに私を探し、アビドスを訪れ、そこで私の部下と出会ったようだ。そこで話しているうちにセリカの誘拐未遂に理事が関わっていることが発覚したのそうだ。

 

「待機でしょうか」

 

 部下は不安そうに聞いてくる。

 

「いいえ、状況が変わりました。あなたに逮捕状の作成を頼みます」

 

「了解しました。明日までには仕上げます!」

 

部下は敬礼をすると、風のように去っていった。

 

それと入れ替わるようにヘルメット団のトラックがやってくる。

 

「実はプレゼントの受け渡しを依頼されててな」

 

そう言ってトラックに積まれたものを10人がかりで下ろし、覆っていた布を外す。

 

対超巨大偽神兵器用重装振動破砕剣改

 

それが新しくなったでっかい剣の名前だった。

 

「名前も刀身も長いですね」

 

「でっかい剣でいいと思うぞ。キヴォトスでこんなものを使っているやつなんて見たことねえし。あと大きさに関してはビナーの素材で軽量化できたから、その分大きくしたんだって」

 

 確かにビナーの装甲を流用したのか純白の刀身になっている。

 

あの剣作ったところ(エンジニア部)がビナーとの戦闘データを反映して作ったんだって。んでこれが説明書」

 

それにざっくり目を通す。

 

「ふむ、前のものの上位互換と考えて良いですね。ただ自爆機能がついているのはいただけませんね」

 

「あと、これジェネレーターがついてないってさ」

 

「はい?」

 

動力源がない?

 

「必要な出力は9000kw(キロワット)以上ですよ。舐めているんですか」

 

「ごめん、それどれぐらいだ?」

 

「これを運んできたトラックを全力運転させても十数台は必要です。携行可能な重量でそんな出力のジェネレーターを開発できるのはミレニアムでもごく一部ですよ」

 

「ってことはこれじゃあハリボテってことか?」

 

「そうなりますね。一旦アビドス高校の倉庫にしまっておきますか……」

 

 アヤネあたりが適当に換金するかもしれないが別にいいだろう。

 

 

 ヘルメット団と別れた後、先生と学校で合流する。

 

「対策委員会の皆さんは?」

 

“明日に備えてしっかり寝るように言った“

 

「睡眠は大事ですからね。なら、私たちも帰りましょうか」

 

“うん、今日は帰る”

 

 すっかり見慣れたいつもの帰り道、肩を並べながら今日の成果と明日の最終確認をする。

 

「交渉はどうなりました」

 

“できることは全部やった。あとは天命を待つだけ”

 

「私も便利屋に協力の要請をしておきました。期待はしないでください」

 

“カヤが交渉したのなら来てくれるでしょ”

 

「そう言われれば悪い気はしませんが、取らぬ狸の皮算用ですよ」

 

“わかった。明日は対策委員会みんなで助けに行く。だから、その間のアビドスの留守をカヤに任せていい?”

 

「もちろんです。立場上できることはそれだけですからね。学校で待機します」

 

“ありがとう”

 

「礼には及びませんよ、仕事ですから」

 

拠点に到着する。

 

「おやすみなさい、先生。早く寝てくださいね」

 

“わかってる、おやすみ、カヤ”

 

 決戦は明日だ。 




どちらかというと罪と赦しの話になりましたね。交渉の要素が少ししかないのは許してください。新しいでっかい剣に活躍の場はあるのでしょうか。あと間話も入れてあと3話で対策委員会編2章は終わる予定です。よろしくお願いします。
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