翌朝、先生が書類に悲鳴をあげているのを眺めているだけで終わってしまった初日のことを考えながら、防衛室の執務室に入る。すると自分の机に部下からの報告書が乗っているのに気づいた。
ここまで上がってくると言うことはそれなりのことが起こったのだろう。覚悟を決めて目を通す。
この時横から覗き込んできた秘書には私の顔色がコロコロと変わる様が見えていただろう。
あの日、矯正局から囚人が一斉に脱走、その内の1人「厄災の狐」ワカモがシャーレの施設で暴れ回っていたのを先生が撃退したと書かれていたのだ。参加したメンバーには戦闘に慣れていない生徒も含まれていた。普通に考えて撃退どころか抵抗すら難しい。何か奇跡のような巡り合わせでワカモ自身の意思で撤退したので無ければ説明がつかない。
部下には外部からの侵略などのよっぽどのことでない限り自分で判断するよう徹底させている。キヴォトスの中で生徒が暴れている程度では事後報告になってしまうのだ。知っていればこのことで先生を称賛して好印象を稼げたかもなどと考えるが後の祭りである。
後日、部下を呼び出し報告しなかった理由を直接聞くと、
「本気で逃走を図る
そう矯正局の担当者にはっきり言われ、
「唯一、居場所が特定できたワカモはシャーレにいました。出発前の室長に伝え確保してもらうつもりでしたが、その前に撤退し見失ったと報告を受けたので伝える意味がないと判断しました」
と追跡の担当者は答えた。
極めつけに「もし室長があの時に囚人の脱走とワカモが行き先で暴れていること、そして僅差でワカモを取り逃したことを知ったら、冷静に先生との交渉に臨めましたか」と副室長から尋ねられた。答えは否である。ぐうの音も出ない。
ちなみに報連相で一番重要なのは相手にその報告を受け止めることができるかどうかである。今日ですらこんなに動揺しているのだ、当日に報告されれば取り乱してしまっただろう。そして相談しても無駄なことなら事後報告で十分だ。その匙加減が難しいのだが、今回の件では部下は完璧にこなしたことになる。
私が組み上げてきた防衛室が正確に動くという事実を再確認できた。それをまず喜ぶべきだろう。
そもそもワカモたちの脱走を許すなという話かも知れないが、
だが、先生が来た日にこのような脱走が起こるとはこれもタイミングが良すぎる。彼女らが連邦生徒会長の失踪の発覚による混乱に乗じたのならまだ理解できるが、時系列がおかしいのだ。
失踪した直後は情報封鎖によって噂が立つ程度、しかし、それは連邦生徒会の機能不全により徐々に拡大していった。先生が来た時にリンが各学園の代表に勢いで話してしまい、完全に発覚したという形だ。
つまり、失踪が発覚する前、噂の段階で別々の牢に収容されていたはずの彼女たちが同時に脱走したことになる。
報告書によるとその日の警備状況に特別な不備はなかった。
「いつでも逃げられたはずなのに、なぜあの日に?」
まるで先生の手柄を作り、ヴァルキューレひいては連邦生徒会の評判を落とすために何者かが手引きしたかのようにも考えることもできてしまう。
「はぁ、どちらにせよ情報がまるで足りませんね…そのための監視なのですが…」
この出来事は先生に対する警戒を強くする原因になった。
プロローグに収まりが悪かったので間話としました。