吾輩はヘルメット団である。名前はちゃんとある。ただ、名乗るほどの者じゃない。中退してカタカタヘルメット団に入団するようなつまらない人間だ。だが、ビナーに襲われた挙句ミレニアムに拘束されるぐらいには運がなかったらしい。
ことの始まりはリーダーがアビドスでの仕事を見つけてきたことだった。なんでもアビドス高校に襲撃を仕掛けるだけで大金が貰え続けるというのだ。攻略できればその何十倍もの額だ。負けてもお金がもらえて、勝てればもっともらえる。願ってもない話だった。ただ依頼主の正体がわからなかったが私たちの仕事ではよくあることだ。
意気揚々とアビドス高校を襲撃した。そして初日で悟った。
「こりゃ無理だ……」
だから消耗戦に持ち込んだ。ただ、時間が経てば経つほど依頼主からの要求が過激になっていた。そしてとうとう生徒の1人を拉致してくるように指示が出た。金額とリスクが釣り合わなくなってきていた。リーダーも誘拐が失敗したら手を引くと言い始めるほどだった。
ただ、お金をもらっている以上全力を尽くすと、ブラックマーケットで武器と誘拐用の車両を調達することになった。調達自体は上手くいき、かっこよくてでっかい剣をお土産に買う余裕があるほどだった。ただ、値切るのに時間がかかったため、アビドスへの帰りに時間短縮のため普段は使われていない近道を使うことにした。そこで彼女と出会った。
金を持ってそうな綺麗な格好をした生徒がアビドスの砂漠の人気のない道を1人で歩いていいのだ……鴨がネギを背負っているように見えた、本当は鬼が金棒を持っていたのに。
私たちはたった1人相手に苦戦することになった。そんな時ビナーが現れた。
私はトラックに乗って一目散に逃げたはずなのに気づくと車は横転し車外に放り出されていた。必死にその場から逃れようとしたが、目の前にビナーが現れ見下ろされる。
「ひゃー」
我ながら情けない悲鳴が出た。ビナーの口が輝く、その光景を私は目を瞑ることもできず、ただ茫然と見つめることしかできなかった。生まれて初めて私は死を覚悟しそれに恐怖した。
次の瞬間、空気の裂ける音と共に白い稲妻のようなものがビナーに突っ込んだ。轟音と共にビナーが倒れる。稲妻はそのままビルをへし折り、ビナーを埋めてしまう。
稲妻の正体は私たちが襲っていた生徒だった。彼女に怒鳴られ、私は車両にある武器と言えるものは全部伝えた。彼女は銃ではなく剣を選び、私たちはその援護をすることになった。
細かいことは覚えていない、言われた通りにライフルを撃っていたら、ビナーの牙がへし折れ、その顔面が爆発した。それでビナーは撤退していった。
彼女は名乗ることなく水筒を私たちに渡すと去っていった。その後、引き返してきた本隊と合流できた。その時になって初めて水筒に名前が書いてあるのに気づいた。彼女の名は不知火カヤだった。
翌日、本隊と一緒に戦闘が行われた場所を訪れ、あの剣とへし折れたビナーの牙など金目の物を回収した。そして私たちは恩人を探すために再び本隊と別れ、失った車両と武器を補給しようと回収した物を売り払いにブラックマーケットへ持ち込んだところ……
メイドに襲われた。
剣に使われているジェネレーターを回収するためにミレニアムのメイド部が張り込んでいたのだ。私を捕まえたのは金髪の言動がふわふわした生徒だった。撒いても行く先々に現れるのだから参ったものだ。おかげさまで私は現在、拘束され絶賛尋問中だ。
「私の知っていることはこれで全部なんだ。正直に話したんだから解放してくれよ!」
「誰もそんな嘘を信じないわよ。あの剣を手に入れたのはカイザーPMCに依頼されたからでしょ」
そして私を尋問しているのはセミナーのユウカとかいう生徒だ。なぜメイド部ではなく彼女が尋問しているのか……
「いや、私たちの依頼主がカイザーのお偉いさんだってことも初耳だよ」
「じゃあ、あの牙はなんなの?新素材開発部に分析を依頼したのに一向に結果が帰ってこないし」
これが原因だ。神出鬼没のデカグラマトンのビナー、その一部と思われるものをヘルメット団が所持していた。この事実にメイド部の武力のみでは解決できないとセミナーが出てくる事態となったのだ。
「だからビナーの牙だって……」
「今までビナーの撃退記録はあってもここまで大きな部位が破壊された例なんて聞いたことがないわ」
何度正直に話してもなかなか納得してくれない。それにユウカの声が段々と大きくなっている…
「それにこの水筒の持ち主が不知火カヤって……彼女は連邦生徒会の防衛室長よ!そんな人物がアビドスの砂漠を護衛もつけずに1人でうろついているわけないでしょ!」
とうとうユウカが激昂したところで尋問室に来客が来た。ここがヴァルキューレならそろそろ食事の時間はずだが……
「ご注文の品を届けにきたよ、ユウカ。エンジニア部の技術を結集した嘘発見器だ」
そんな都合のいいことはなかった。
「ありがとうございます、ウタハ先輩……変な機能はつけていませんよね?」
ウタハはユウカの疑問を聞き流し装置の解説を続ける。
「これが起動した状態で嘘をつけばオルゴールが鳴り小指に電撃が走る。これはタンスの角がぶつけたときの激痛を再現したものだ。君も正直に言うのなら今のうちだよ」
「だから嘘は言ってねーし……てか、電撃はまだしもオルゴールいる?」
「よし、スイッチオン」
「聞けよ!人の話をよぉ!」
「……じゃあ、もう一度、初めから話してもらうわよ」
ユウカが無造作に距離を詰めてくる。こ、怖い……
「わかったよ……」
もう一度懇切丁寧に説明した……
「おかしい、あれを振り回せる人物がいたとは考えにくい……どう考えても嘘なのにうんともすんとも言わないね」
「やっぱりあんたがあの剣を作ったのかよ」
「あの剣ではない。対巨大兵器用振動破砕剣という立派な名前をつけている。君、それは本当に人間だったか?白い服を着たピンクの毛のゴリラなどではなかったか」
「だから不知火カヤだって言ってるだろ!」
嘘発見器はもちろん反応しない。ウタハとユウカは顔を見合わせる。
「ウタハ先輩、電源はちゃんとついていますか?」
「そんな初歩的なミスはしない。どこか接触が悪いのか?」
「嘘ついてないだけだって!」
抗議の声を上げるが2人は装置の故障の方を疑い始める。
「ユウカ、試しに何か嘘を言ってみてくれ」
「わかりました……ミレニアムに問題児はいません」
次の瞬間オルゴールが鳴り始める。
「えっ?ちょ、止めてください!」
「すまない、こうなってしまっては止められない」
「ありゃ、御愁傷様……」
音楽が一巡した途端、パチン!何かが弾けたような音がする。
「いだっ!!」
悲鳴とともにユウカが床に突っ伏す。
「なんで、電撃の電源を切っていないんですか!?」
「すまない、オルゴールと電撃は装置に連動していて個別操作ができない。だが、故障ではないようだね」
「欠陥機構じゃないですか……」
ユウカは相当痛かったのか涙目だ。
「痛いだけだから安心してくれ。しかし、彼女の言っていることは本当だったと言うことだな。私はあの対巨大兵器用振動破砕剣とビナーの牙で試したいことができたからここで……ユウカなぜ私の服を掴むのだい?」
「待ってください、故障かどうかをたった1人のたった一度の実験で確かめるなんて技術者としてそれでいいんですか?」
ユウカは笑顔だが全然目が笑っていない。ウタハは少し考え込む。
「確かにそれはマイスターの名折れ……よし、ミレニアムにロリコンはいない」
オルゴールが音楽を奏で、ウタハは観念したかのように目を閉じる。パチン!
「ギャ!」
おおよそ年頃の女子が出してはいけないような声をあげウタハが倒れた。
「ミレニアムの生徒は頭がいいって聞いてたけど嘘だったのか?」
私の目の前には痛みに悶える2人が転がっている。
「ユウカ先輩、ウタハ先輩、新素材開発部から言伝を預かって来ましたよ」
するとそう言いながら眼鏡をかけた小柄な生徒が入って来た。そして拘束された私と転がっている2人を認識する。
「これはどう言う状況ですか?」
「私が聞きてーよ!」
「なるほど、ではお二人は嘘発見器の故障を調べるようとこんなことになったと」
コトリと呼ばれた生徒は倒れた2人を介抱し、私の拘束を解いてくれる。
「面目ない…ところで言伝というのは?」
「えーと、まずはユウカ先輩へはあの牙のようなものの分析は非破壊検査では限界があり、正体がわからないことしかわからなかった…だそうです」
「破壊検査の許可も出したはずだけど?」
「それがとんでもない強度のようで新素材開発部の機材では表層の剥離にすら手間取っているそうです。そこでウタハ先輩に破壊できる装置を作成して欲しいそうなのですが……」
「あるよ」
ウタハが食い気味に答える。
「今なんと?」
「もうあると言ったんだ。私たちが予算のために市場に流した対巨大兵器用振動破砕剣。あれがビナーの牙を破壊できたそうだ」
「本当ですか!つまりあれはビナーの一部なのですか!早速試しましょう!」
ウタハとコトリで盛り上がり始める。
「待て待て待て!あれはどっちも私たちのもんだ!使うなら金払えよ!」
元々資金に変えるために持ち込んだものだ。拘束された挙句タダで持っていかれたなんて他の団員に顔向けできない。
「……確かに、武装に関しては正式な購入履歴があるから支払うわ。ただし、ビナーの牙はあなたのものではないでしょう?」
ユウカが食い下がってくるが、こっちもやられっぱなしでは嫌だ。
「あんたらのものでもないはずだ!」
そう叫ぶとユウカは大きく息を吐く。
「……いいわ。ビナーの牙にウタハ先輩ならどれだけ出しますか?」
ウタハがユウカに耳打ちする。とたんユウカが天を仰ぎ、見事な百面相を見せてくれた後、
「……これだけ出すわ」
覚悟を決めた顔で端末の画面を見せてくる。そこに表示された額を見て思わず吹き出すところだった。これだけあれば車両を何台も買える。
「売った!」
「取引成立ね。あなたの所属するカタカタヘルメット団の口座に送金したわ。あとは好きにしなさい」
そうして私は晴れて自由の身となった。
その後、エンジニア部に対巨大兵器用振動破砕剣の改良版を押し付けられたり、アビドスのヴァルキューレの拠点に不知火カヤを探しに突撃し大騒ぎになったり、そこの担当者と親友になって理事への止めになったりするのだが、それは災難というには穏やかな、別のお話だ。
ヘルメット団目線でのカヤの見え方と、その後の災難の小話でした。「それはまた別のお話」という終わり方を書いてみたかったのもあります。ちなみに後2話で対策委員会編2章は終わる予定です。これ以降はゲームにおける更新順で進みます。お楽しみに。