シャーレの不知火さん   作:おかだんごむし

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キヴォトス(アビドス)の守人

早朝、アビドス高校の校門前に対策委員会が集合している。

 

皆、装備を整え睡眠もよく取り準備も士気もこれ以上ないぐらい十分だ。

 

「では、私は予定通りに防衛を行います。思う存分やってきてください」

 

“行ってきます。不知火さん”

 

「行ってらっしゃい、お気をつけて皆さん」

 

 先生と対策委員会の背中を見送る。ゲヘナとトリニティの兵力の移動はすでに確認された。武闘派の二校がアビドスの味方についたのだ。理事に勝ち目はない。

 

 理事は今日で全てを失うのだろう。地位も名誉も信用も……そして何十年もかけた計画も

 

 私たち生徒からすると信じられないような時間をかけた計画だが、大人からしたら普通なのだろう。だとしたら私の野望など彼らからすればとてもスケールの小さな話ではないのだろうか…

 

 そんな自問自答を繰り返していると、敵の接近を端末が伝える。ジェネラルの指揮する本命の部隊だ。ただ、理事の計画が破綻し、ホシノを不当に拘束していることになっている今、これは社内の過激派に対するアピールに過ぎない。

 

「ようやくお出ましですか。随分と大所帯ではないですか、ジェネラル」

 

 そう呼びかけると整列した部隊の中からジェネラルが姿を現す。

 

「いや、何、先月キヴォトスに入った新入りへの洗礼と新型のゴリアテの戦闘データが欲しくてな。撤退の言い訳が付くぐらいによろしく頼むぞ」

 

 確かに部隊の規模は中隊程度の特殊部隊とゴリアテも10機以上と嘘は言っていないようだ。

 

「お付き合いしましょう」

 

「助かる」

 

 その返事を聞くなり最高速で特殊部隊の後ろを取る。ジェネラルは洗礼と言っていた。ならば加減をせずに暴れさせてもらう。

 

「……消えた?」

 

 突然いなくなったように見えた私に困惑しているオートマタから煙幕をくすね、ピンを抜く。

 

「ここですよ」

 

 部隊が煙に包まれる。こうすれば同士討ちを警戒して、下手に撃てなくなる。ゴリアテは歩兵の援護には向かない。

 

 対して私は動くものを全て薙ぎ倒せばいい。そして倒した相手の煙幕を使い視界を奪い続ける。結果、煙幕が晴れる頃には全ての歩兵が無力化されていた。

 

「おい、早すぎるぞ」

 

 ジェネラルの文句が聞こえるが知ったことではない。

 

「カイザーPMCの特殊部隊に準備期間なんて与えるものですか」

 

 彼らは強い、真面目に付き合うと先生が帰って来るまで粘られるかもしれない。瞬殺するのが正解だ。

 

「仕方ないゴリアテ隊、前進。救護班は負傷者の収容を急げ」

 

 ゴリアテ、カイザーコーポレーションの開発した汎用強化外骨格だ。ジェネレーター直結のビーム砲に両腕部3連機関砲を装備さらに接近戦まで可能という重武装使用が近々実戦投入されるとは聞いていたが量産化まで進んでいるとは流石の生産力だ。

 

「始める前に、ゴリアテの戦闘データを保存する部分はどこですか?そこは避けます」

 

「搭乗者の前方、手元に固定されている端末だ」

 

「承知しました」

 

 そう言いながら足元のマンホールの蓋を蹴り上げ、盾にする。そこにゴリアテのビームが直撃した。

 

「君も不意打ちぐらいは受けてくれよ……」

 

 蓋は熱を帯びているものの無事だ。本来なら融解するのだろうが、生徒の所有物は強度が跳ね上がる。それを利用すればこういう芸当も可能だ。

 

「ちゃんと受けましたよ。威力は十分ですが収束から発射まで時間がかかり過ぎています。見てから回避が間に合いますよ」

 

「だから新機軸のビーム砲は反対だったんだ……」

 

 ジェネラルが愚痴っている。開発に現場の声が届かなかったとはお気の毒に……

 

 ゴリアテの操縦者も主砲の効果が薄いことを悟ったのか機銃掃射してくる。それを掻い潜り、時通り飛んでくるビームは蓋で弾く。

 

「まずは一つ」

 

 一体に肉薄すると脚部に蹴りを放ち転倒させる。この距離なら装甲を固定しているボルトがはっきり見える。それを拳銃で破壊し装甲を膂力で剥ぎ取ってゆく。ものの数秒でゴリアテの骨組みの完成だ。やはり砲塔の付け根が特に装甲が薄い。その真下の搭乗ハッチも同様だ。これなら……

 

「舐めるな!」

 

後方から殴りかかってきた機体の一撃を受け流し投げ飛ばす。そのまま装甲の薄い主砲の根本を集中砲火し撃破

 

「二つ」

 

続けて近くにいた機体に飛び乗る。ハッチに銃撃、こじ開けて操縦者を引き摺り出して中に入る。

 

「これで三つ」

 

 いいペースだ。3分もあれば全滅できるかもしれないが、ゴリアテに関しては戦闘データが欲しいと言っていた。機体の操縦桿を掴む。

 

「さてと、一度操縦してみたかったのですよ」

 

 ゴリアテの操縦系は武装や無線のスイッチ以外は機種転換を容易にするため汎用重機に準拠している。つまり鹵獲した機体でも最低限の操縦は可能ということだ。そのまま敵のゴリアテ攻撃を避けながら備え付けのマニュアルに目を通す。

 

「大体わかりました」

 

 敵機のビーム砲を機体バランスを崩すことで回避し、カウンタースナイプで一機を破壊する。

 

「四つ」

 

 こうなれば消化試合だ。ゴリアテの設計者がフィードバックできるように色々試そう。

 

「どこで使い方を習った?」

 

備え付けの無線機からジェネラルの疑問が聞こえる。

 

「説明書を読みました」

 

そう答えながら、操縦席を上昇させ上部のハッチから肉眼で周囲の状況を素早く確認できるようにする。操縦桿の位置も調整してようやく好みの状態になった。どこまで暴れようか考えているとジェネラルから再び通信が入る。

 

「各員戦闘中止!レーザー通信に切り替……指揮……を現地の………に委……!」

 

通信障害が出ている。これは…

 

「異常し……を……検知し…各員……」

 

 コンソールを操作してレーザー通信に切り替える。

 

「3時方向にビナー現出!総員警戒!」

 

 明瞭に聞こえるようになったジェネラルの叫び声と共に市街地の外にビナーが現れた。

 

「は?」

 

 どうも私はあれとは縁があるようだ、悪縁だが…

 

「ジェネラル、対デカグラマトン部隊の派遣を要請します」

 

「援軍はない。現在その部隊はゲヘナの風紀委員会と戦闘中だ……待て、修正する戦線の維持が不可能になったため撤退中だ」

 

「なんと……」

 

 おおかた理事の指示で救援に向かった所を返り討ちにあったのだろう。とんでもない間の悪さだ……

 

「君は一度あれを退けているのだろう。部下の指揮は君に委譲し、必要なものは可能な限り用意する。よろしく頼む」

 

 作戦の責任者は私ということか。

 

「ていのよい責任逃れですね。まあ、大人らしいです」

 

「適材適所と言ってくれ」

 

 ビナーがこちらを向く。私のつけた傷は見当たらない。損傷が修復したのか。それとも別の個体なのか……

 

「連邦生徒会所属の不知火カヤです。聞いての通りジェネラルから指揮権を委譲されました。あれを撃退する作戦があります」

 

 そこまで伝えたところでビナーが熱線の収束を始める。

 

「ビナーの攻撃がきますよ!各機、回避運動!」

 

 ゴリアテ隊は指揮権がいきなり委譲したにも関わらず、私の命令に従い素早く散開を始める。私も回避しようとして気づく、ビナーの射線には校舎と市街地、何より私が無力化したカイザーPMCの特殊部隊がいる。このままゴリアテの装甲で防ごうとしても防ぎきれずに巻き込んでしまう。左右に回避しても同様だ。

 

だが、ビナーは他のゴリアテの動きは無視してこちらだけを凝視しているように感じる。なら取れる選択肢は一つだ。

 

「一か八かです」

 

 主砲と両腕そして装甲を破棄(パージ)し限界まで軽量化。脚部のリミッターを限定解除。緊急離脱用のロケットモーターに点火。あとはスロットルを全開にして真上に飛ぶ。凄まじい加速度が襲ってくるが問題はない。

 

 ビナーが目線がこちらを追う。賭けには勝った。戦闘データの端末を手にハッチを蹴り飛ばし脱出、直後ゴリアテが熱線に撃ち抜かれる。装甲のないゴリアテは耐えきれずに蒸発した。ビナーを見ると落下する私をしっかりと目で追っている。

 

「……前よりも威力が上がっていますね。作戦第一段階では私が所定の位置までビナーを誘導します。細かい指示は移動しながら出しますので、援護をよろしくお願いします」

 

「「「了解!」」」

 

 地面に着地し、指示を出しながら指定した集合地点まで走る。ゴリアテ隊や復帰した特殊部隊の援護射撃で速度が落ちるものの構わずにビナーは追ってくる。

 

「君を狙っているようだな。何かしたのか?」

 

「さあ、牙をへし折って砲を損傷させただけですよ」

 

「なるほど、最優先目標だな」

 

「そうですね。おかげで時間稼ぎができます」

 

ジェネラルと通信で軽口を叩き合いながらひた走り、十数分で集合地点に到着する。

 

「目標地点にビナーを誘導完了」

 

「了解!作戦第二段階。攻撃開始!」

 

 ビナーの真下の地面が吹き飛ぶ。そうすでにここはカイザーコンストラクションの敷地内、それも対ビナー用の迎撃陣地の一つだ。予め敷設された大型地雷と大口径砲、対艦ミサイルの集中運用に流石のビナーも足が止まる。

 

 指示していたものがドローンで届く。腕部を汎用装備に換装し主砲を撤去したゴリアテ。倉庫番にするつもりだった例の剣、そして一枚の契約書。

 

 それにサインしてゴリアテに乗り込み剣を装備する。先代よりも大型化しているがゴリアテに持たせればちょうど良い。ジェネレーターは私が一番最初に分解したゴリアテのものを使っている。エンジニア部の用意したものより二回りほど大きく、無理やり組み合わせたのでどちらにも負荷がかかってしまっているが背に腹は変えられない。

 

「ジェネレーター直結、同調を確認、歩行プログラムを砂地に再設定、全安全装置オフライン、全リミッター解除」

 

どちらにせよ必要な道具は揃った。ゴリアテのジェネレーターが恐ろしい唸り声を上げる。

 

「……さて、作戦第三段階……反撃開始です」

 

 

 作戦はヘルメット団と共に行なったものと同じだ。つまり接近して叩き切る。しかし、カイザーPMCの援護を受けながらゴリアテで接近するもののビナーの注意が私から逸れない上、口を開かない。それに構わずにビナーの頭部に向かって攻撃しようとすると、ビナーは尾を使って迎撃してくる。

 

「新しくなった武器の威力、見せてもらいますよ」

 

 迫ってくる尾に一閃、切断されたそれが地面に突き刺さった。剣にもビナーの素材が使われている上、私が使っている。切れない道理がない。

 

 これで邪魔な尾は短くなった。ビナーの起こす砂の津波は跳躍して避け、光線は装甲で受ける。ミサイルは発射の位置も瞬間もわかりやすいので、ゴリアテ隊の機関銃で迎撃される。

 

「そんな生ぬるい攻撃が効きますか!」

 

 そのまま突っ込み剣を頭部に突き立てるものの浅い、折れる前に手を離し離れる。機体が着地した瞬間に緊急脱出装置を起動。機体から射出される勢いで距離を詰め頭部に取り付き剣を引き抜く、しかし、ビナーがその瞬間に大きく頭を振り、放り出されてしまった。

 

 流石に足場のない空中では私も重力に逆らうことは出来ない。剣を投げ捨て姿勢を整えるとビナーが噛み砕きにくる。避けるのを諦め潰されないように両手両足で踏ん張る。

 

「ぐうぅ、柴関ラーメンの時の瓦礫と比べればこんなもの!」

 

 そう啖呵は切ったものの正直きつい。プルプルする。ビナーは熱線の収束を始めた。私にこの超至近距離で喰らわせるつもりらしい。しかし、

 

「予想通り口を開けましたね……今です!ジェネラル!」

 

 その声を合図にジェネラルにより遠隔操縦されたゴリアテが剣を腰だめに構え突っ込み、その刃を深々とビナーの口に突き立てる。

 

「離れろ!自爆させる!」

 

ゴリアテが自身のジェネレーターを引き抜きビナーに押し当てる。

 

「言われなくても!」

 

 その場から飛び退くと、ゴリアテ隊の最大出力のビームがビナーの口に一斉に着弾する。次の瞬間、凄まじい爆発が起こった。

 

 爆煙が晴れると頭部の大半を失ったビナーが去っていくところだった。流石に縮退炉二機の同調爆発は効果があったようだ。あそこまで大きな損傷なら修復には時間がかかるはずだ、脅威は去った。

 

「状況終了、各員お疲れ様でした」

 

 歓声が上がり、拍手をしながらジェネラルが近づいてくる。

 

「お見事だった。確かに自分を餌にビナーの隙を作るのは合理的だが、なかなか実行できるものではないぞ」

 

「あなたも機体の手配と最後の遠隔操縦、ありがとうございました。あれがなければまた無茶をする必要がありましたから」

 

「十分無茶だったと思うがな。それにしても君たちの所有物であることの効果は面白いな。契約でも縛れるとは……」

 

 あのゴリアテは契約書により正式に私の所有物という扱いになっていた。そのためにジェネラルが操縦しても私が乗っている時と同じ能力を発揮できたのだ。その証拠に剣も機体もあの爆発にも関わらず原型を留めている。

 

「私もぶっつけ本番でしたよ。最近契約の拡大解釈を見たのでもしかしたらと……」

 

「なるほどな……ところで向こうももうすぐ戦闘が終わるそうだ。君はそろそろ学校に帰った方が良い。ヘリで送るぞ」

 

 ビナーとの再戦が衝撃的で忘れていたがそうだった。

 

「ありがとうございます、ジェネラル。ではお言葉に甘えて」

 

「こちらこそ感謝する、後始末は任せろ防衛室長。総員敬礼!」

 

 私も敬礼を返すと、用意されたヘリに乗り込む。そのヘリの中でホシノが救助されたことを知った。

 

 対策委員会の笑顔が浮かぶ。先生はいつも通りのヘラヘラした笑い方をしているのだろう。その手助けができたのなら、防衛室長として十分な働きと言えるだろう。やり残したこともあるが今日はしっかり休むことにしよう。私の帰るべき場所で……




ビナー再戦の回でした。ゴリアテを活躍させたくて…頑張りました。無骨で遊びは二足歩行であることぐらいなのに意外と強いゴリアテ。ν-ゴリアテは伊達じゃない。敵としてしか今のところ出てきませんが生徒が乗り込めば本編でも百人力になるかも?

予約投稿の間違い本当にすみませんでした。
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