間話 桜花絢爛お祭り騒ぎ 前編
“ここは人に優しい気候で助かるよ”
百鬼夜行連合学園を訪れ開口一番の先生の言葉はそれだった。
肌をくすぐる爽やかな風、優しい日差しに眠たくなれそうな暖気。確かに理想的な気候だ。最近まで乾燥気候のアビドスに滞在していたのだから余計にそう感じる。
「確かに今は春ですからすごしやすい季節ですね」
“ここは四季があるの?”
「はい、明確な四季が存在します。そのため夏は蒸し暑さに、冬は寒さと雪に悩まされることもあると聞きますね」
“ねえ、不知火さん”
「なんでしょう先生」
“どうして着物を着ているの?”
「いつもの理由ですよ。連邦生徒会の制服は相手に威圧感を与えることが多いので、こうして民衆に紛れ込むのです」
ちなみに
“似合っているね”
「これは自分で選びましたからね。当然ですよ」
「ただ久々に着たせいで着付けを思い出すのに苦労しました」
本当はアビドスで制服を担当していた元理事の部下に服選びと着付けを手伝ってもらったのだが、それは秘密だ。
“確かに難しいって聞くね”
「先生はいつもスーツですからね。このような晴れの日はお洒落をしてみたらどうですか」
“今回は仕事できているからね…”
「こちらでは和服も正装になります。周りから浮いてしまっていますから、今度試してみましょう」
“確かに……それにしても賑やかな所だね”
吹き飛ばすような祭りの熱気とそれを楽しむ人々の歓声に包まれた独特な雰囲気。
先生は物珍しさかあちこち見ながら歩いている。
「さて依頼人のいるという白夜堂は……」
こちらの方向ですと続けようとした時、こちらに向かって勢いで突っ込んでくる影を視界に捉える。
「あっ、あっ!危ないですーーーっっっ!?」
その正体は全力疾走する小柄な少女だった。見た目通りの可愛らしい声を上げながらよそ見をする先生に激突しそうになる。仕方ない……
踊るように先生と位置を入れ替え、少女と向き合い襟と袖を掴んで激突の衝撃を回転に変え投げる。
「きゃんっ!?」
きちんと頭を打たないように襟と袖を引いたがそれなりの衝撃だったのか悲鳴が上げ目を回してしまう。しかし手応えに違和感を感じる。この年頃の少女にしてはよく鍛えられている。だが、今はそんなことより、
「先生大丈夫ですか?」
私と位置を入れ替えられた先生は茂みに背中から突っ込んでいた。
“どこかの骨が折れた気が……”
「冗談を言える余裕はあるようですね」
先生は無事そうだ。
「いたた」
少女が目を覚ます。
「大丈夫ですか?咄嗟に投げてしまって申し訳ありません」
「ああっ、こちらこそぶつかりそうになってすみません」
なぜだろうか見た目は似ていないのだが少女をみているとアルを思い出す。
すると少女の駆けてきた方向から叫び声が聞こえる。
「はっ、もうこんなところまで!えっと、ええっと!ど、どうすれば!?」
少女は途端に狼狽始めた。
「あなた追われているのですか?」
“……手助けした方が良い感じかな?”
「へ?そ、それは、その……」
何か事情があるのだろうか?
「見つけた!ミモリ先輩、あっち!」
しかし、聞いている余裕はなさそうだ。
「私が足止めします。先生はその隙に」
“わかった、行こう!”
「あっ………!」
先生が少女を連れて逃げ始める。追手は3人の生徒のようだ。
何部かはわからないが
だが、防衛室長が騒ぎを起こしたと思われるのはまずい、露店のお面をピッタリの値段で買いそれを被ると追手の前に立ち塞がる。
「ここは通しませんよ!」
「わわっ!現れたな!魑魅一座・路上流!」
「……?」
魑魅一座は知っている、百鬼夜行連合学園のヘルメット団のようなものだ。しかしなぜ私が?
「私は通りすがりのお節介ですよ。それよりもたった1人の少女を3人がかりで追い詰めるとは言語道断!何が目的ですか!」
「何わけのわからないこと言っているの!」
「失礼ですね、あなたたちこそ何者ですか!」
「何だ誰だと聞かれたら、答えてやるのが人情ね!」
よくぞ聞いてくれましたとばかりに小柄な少女がそう言った瞬間、拍子と太鼓の音がどこからともなく流れる。そして3人は決めポーズをとり名乗りをあげた。
「派手に!」「可憐に……」「う、美しく……!で、合ってます……?」
「ばっちり!」
「街の平和を守ため、美少女3人組の修行部……!」
「ここに参上!!」「参上……」「えと、参上、です……」
1人恥じらいが抜けていないが見事な名乗りにツッコミを忘れ最後まで見てしまった。
「修行部?」
「そうだよ!魑魅一座なのに知らないの?」
「待ってください、つまりあなた方は治安維持組織なのですか?」
「違うよ、これは素敵なレディーになるための修行の一環だよ」
「それが目的なのは、カエデだけでしょ?私はそんな修行もしてないし……とにかく寝られればそれで」
「ふぁ……眠い。ここで寝ていい?」
一際大きい少女が眠そうに目をこする。
「魑魅一座と対峙しながら動じないツバキ先輩、かっこいい……!」
「ああっ、でもツバキ先輩!ここで寝ちゃダメ……!」
「敵も前にいるのですから落ち着いてください」
カエデがツバキを寝かせまいと揺すり2人をミモリが諌める。名乗りと比べてグダグダだ。
振り返ると先生と少女の姿はない。私の役目は終わったようだ。
「格好悪いところを見られちゃったけど、あたしたち修行部の邪魔をするなら容赦しないよ!」
「魑魅一座・路上流、覚悟!」「うん、覚悟〜」「そ、それでは覚悟してください!」
3人が私に襲いかかって来た!
「ふう、撒けましたね」
先生たちが逃げられたのなら戦う意味もない。それに途中で少々戦闘になったのだがツバキがやたらめったら堅い上に攻撃を避けてくるので、あれでは長引いていただろう。逃げるが勝ちだ。
「事情を聞きたかったのですがね…」
今頃先生が少女に事情を聞いているはずだ。彼女に非があったのならその時に謝りに行こう。
「それにしても全員大きかったですね…」
自分の慎ましいものを見ながらため息を吐く。いや、羨ましいわけではないのだ。ただもう少しあってもいいではないか。
「さて、先生と合流しますか」
『ごめん、今シズコと一緒に陰陽部にいる』
そのメッセージが届いたのはフィーナに機関銃を掃射されている最中だった。
「もう少し早く連絡をくださいよ!」
文句が出るが聞いてくれるのは弾幕を張っているフィーナだけだ。
「私は味方です!銃撃をやめてください!」
「ココハ、お頭に任された場所!魑魅一座が何を言おうと通しマセン!」
前言撤回、聞いてはくれなさそうだ。しかし、また魑魅一座と勘違いされている。いったい何故なのか?
「しかし、先生の依頼主を制圧するわけにはいきませんし、陰陽部の本部に行きますか」
「ようこそ、防衛室長。待ってた」
着くとそこにはチセだけがいた。
「……先生はいらっしゃりませんでしたか?それに待ってたとは?」
「先生はタヌキと一緒、人探し。少し遅れてヤギが来る」
「?!?!」
わけがわからない。先生がタヌキ?一緒にいるのはシズコでは?それにヤギはここにいない。
「どういうことですか、先生はどこに?」
「どこだろうね」
「質問を質問で返さないでください!訳がわかりませんよ!もう一度聞きます。先生はどこに向かわれました?」
「うーん………先生は………シズコさんと一緒」
「タヌキではないのですか!」
結局修行部を探しに行ったと聞き出すのにかなりの時間を要した。
修行部を探す先生を探しあちこち歩き回る。先生にどこにいるのかメールを送るも返事が来ない。仕方ないので露店で買い食いをしながら歩き回る。お祭りの露店なだけあって割高だが、こうして好きな時に好きな物を買えるので良いだろう。
するとどこかから銃声と爆発音が聞こえる。そこに向かうと……
「やっと見つけました」
先生の姿を捉える。その隣には依頼主のシズコがそして修行部の面々が助けた少女と戦っている。動きを見るに先生が指揮しているのは修行部のようだ。ツバキが相手の攻撃を一手に引き受けその隙にミモリが攻撃、シズコとカエデは全体の援護をしている。
「先生!」
先生に駆け寄るとシズコが驚いた顔をする。
「魑魅一座!いつの間に!」
何故勘違いされるのだろうか。
“シズコ違うよ、彼女は味方”
先生がフォローしてくれる。
「ええ!じゃあなんでそんな紛らわしい格好をしているんですか!」
格好?私は
「なるほど…」
そこで私はようやく自分の間違いを自覚したのだった。
「きゃんっ!?」
すると聞き覚えのある悲鳴が耳に入る。丁度イズナがツバキのシールドバッシュに弾き飛ばされた所だった。周りの魑魅一座も戦闘不能のようだ。
「い、イズナ、二度も負けてしまいました!?」
彼女の名前はイズナと言うのか…。しかし負けたと言う割には元気そうだ。
“ねえ、イズナ、イズナは忍者になるのが夢って言ったのに、どうして魑魅一座と一緒にいるの?”
「それは……、イズナは今、忍者として雇い主からそのように命令を受けているからです!」
そこからイズナは先生と少し問答をしたあと、三流の悪党の逃げ台詞を残して風のように去っていった。しかし……
「忍者?」
“後で説明するね”
その後、勘違いしたままの修行部と一悶着あったもののなんとか誤解は解くことができた。そしてそれぞれの持っていた情報が共有される。最も私の持っていた情報は美味しい露店の場所だけだったが……
そこで魑魅一座を裏で操る元凶の存在が浮かび上がった。それをどう捕まえるかみんなが考え込んだところで、
「シンプルに行きましょう。魑魅一座を誘拐してから脅して、雇い主が誰なのかを聞き出します!」
シズコから可愛い顔に似合わないなかなか冷徹な意見が出た。先生と修行部の面々も私と似たような感想のようだ。
シズコは最初は誤魔化そうとするものの、
「……ああもうっ!とにかく、元凶を探しに行くわよ」
そう言って、どこかに歩き始める。修行部の皆も魑魅一座を探しに一時解散した。
「当てはあるのですか?」
“とりあえず、シズコについて行こうか……”
「はあ」
魑魅一座を探し歩き回るシズコを追いながらイズナのことを先生から教えてもらう。
“不知火さんはイズナの夢をどう思う?”
先生の問いに少し考え答える。
「険しい道ですが不可能ではないと思います」
先生はその返答に意外そうな顔をした。
“てっきり無理だっていうかと”
「馬鹿にしないでください。イズナさんは間諜としての忍者ではなくフィクションの忍者に憧れたのですよね。大抵フィクションでの忍者の扱いは諜報員というよりは摩訶不思議な技を使う戦闘員という側面が強いですから、それを目指すのに十分な素質を彼女は備えています」
“確かに戦闘中に空蝉の術とか普通に使ってたね”
「はい、イズナさんの身体能力と視線誘導の技術は一級品ですよ。ただし、キヴォトス一を名乗るのなら、ヒナさんのような実力者と肩を並べるかそれ以上の強さが必要です。あの強さには才能と努力の両方が必要ですが、彼女の才能は十分だと思います。ですからあとは、切磋琢磨出来るような環境で相応の努力すれば自ずと夢は叶えられるでしょう。少なくともそこは魑魅一座ではないと思いますが」
“………本当に不知火さん?”
先生がまさに狐に化かされたような顔をしている。
「なんですかその反応は、夢は夢でも現実的な夢なら私も応援するのはやぶさかではありません」
“じゃあ、イズナの夢を一緒に応援しよう!”
「それは私の仕事ではありませんよ」
“ええ!“
そんな話をしているうちに、魑魅一座を遂に発見することなく夜になり百夜堂で作戦会議をすることになった。しかし、作戦は変わらず魑魅一座を捕まえて元凶のことを教えてもらうというものだった。
私はいつかのようにお祭り運営委員会と修行部が先生と共にパトロールする間、百夜堂で留守番をすることになった。すでに店も閉めてお客さんも来ないので暇だ。元凶の目的と言っても、お祭りの妨害によって得られる利益のある人物ならいくらでもいるだろう。ただ、先生が来て妨害行為が上手くいかなくなった今、狙うのは……。そこまで思考を進めたところで端末から通知が来る。
確認すると例のお守りが起動した合図だった。先生の居場所が表示される。そこで私は先生が何をしているのかメールを見ずとも悟る。
「まったく、あの人は身を張りすぎですよ」
私は戸締りを済ませ百夜堂から飛び出した。
本当は一つにまとめるつもりが長くなったおので前後編になりました。例のお守りも再登場!次回もお楽しみに。