シャーレの不知火さん   作:おかだんごむし

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間話 vsFOX 前編

 先生がミレニアムへ出発した後、定例会議に出席する。今日の主な議題はSRT特殊学園の閉鎖の是非についてだった。かれこれ1時間近く会議は続いているが話し合いは平行線のまま進まない。

 

 それも無理はない。失踪した連邦生徒会長が帰ってくる可能性に賭けて残すべきだという主張、活動していない上自分たちに反旗を翻すかもしれない武力組織をこれ以上維持することは危険だという主張、そのどちらも正しい。それが真っ向からぶつかっているのだ、まとまる訳がない。

 

 その上、軍隊というのは日々の食費、訓練費、それに伴う弾薬費と活動がなくても維持費がかかる。特殊部隊なら尚更だ。早く決めなければという焦りだけが増えていく。

 

 一応防衛室による運用も検討されたものの、現状の防衛室の権限ではSRTの運用は困難であり、何より閉鎖派つまりリン派は私に戦力が集中するのを嫌っているのもあって中止となった。折衷案として下部組織であるヴァルキューレ警察学校警備局への編入準備は進んではいるものの、先の理由により警備局内に別枠で類似組織を編成することも難しい。つまりは閉鎖と大して変わらない処遇というわけだ。

 

 そもそも発足された時点で、あらかじめ責任者(連邦生徒会長)が不在の期間の処遇を決めておくべきだったのだ。そうすれば、優秀な人材が無駄な会議にその貴重なリソースを割く必要もなかった。

 

 まあ、発足当時にそのことに考えの及ばなかった私たちにも責任はあるのだ。盲信的な信用の危険性を再確認する。

 

 リンの顔色を伺うと一向にまとまらない会議に顔が青を通り越して黒くなっている。

 

 少し助け舟を出すことにしよう。

 

「いっそのことSRT特殊学園をシャーレに任せてみてはどうでしょうか?」

 

 私のその言葉が会議室の隅に吸い込まれるように消えた瞬間、蜂の巣をつついたような大騒ぎになる。リンが必死に場を納めてくれる。

 

「続けて、カヤ室長」

 

「現在のSRTに足りないものは責任者と連邦生徒会長抜きでの活動実績の二つです。先生ならその両方を同時に満たすことができます」

 

「そしてシャーレに足りないものは安定した戦力です」

 

「確かに先生の指揮は一流です。事件が発生した際も現場の生徒を適宜シャーレに加入させることで解決していますが、この方法ではいずれ限界が訪れることは明白です」

 

 何が限界かというと書類だ。各学園でテンプレートや期日が細かく異なっている上、現地で生徒に協力もとい戦力として採用した場合、煩雑な手続きが必要となる。ついこの前の事件でもイズナお手製の爆裂手裏剣と空蝉の術用のぬいぐるみなどを補填する必要が生じ、総括室と財務室が凄まじい業務をこなすことになった。もちろんシャーレも修羅場になった。

 

 その時の事を思い出したのかリンとアオイが苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 

「しかし、シャーレに常駐させる戦力としてはいささか過剰では?」

 

 役員の1人から疑問の声が上がる。

 

「何もいきなりSRT全体をシャーレに加入させろと言っているわけではありません。まずは小隊規模でローテーションを回し、相性の確認と実績作りをすれば良い。そしてこれを連邦生徒会主導ということにすれば我々の面子も潰れずに済みます」

 

 無茶な要求は本命を通すためのもの、交渉の基本だ。

 

「ですが、先生とSRTが結託し、我々に反旗を翻す可能性は否定し切れません」

 

「待機中の部隊の面倒は警備局で見ます。問題ないでしょう」

 

「人質ということですか?」

 

「どうでしょうね?それに先生には生徒を支えると言う以外の野心はない。サンクトゥムタワーの制御権の譲渡はまさにその証左であると考えます。仮に問題が発生すればその時にまとめて排除すれば良いのです。シャーレとSRT特殊学園、割れ鍋に綴じ蓋です。私はこれを現実的な妥協点であると考えます」

 

「この判断をしたという責任は誰が取るのですか?」

 

 別の役員から質問が飛ぶ。

 

「先生にSRTの現状を伝えれば自主的に動くでしょう。それを我々が積極的にサポートするという形なら、責任は先生と連邦生徒会で分散できると考えます」

 

 私が実質先生に責任を押し付けると言っていることに気づいたのだろう。その役員は押し黙る。

 

 これ以上反対意見が出ることもなく、試験的にSRTの生徒を先生に任せる方針が固まる。各位が必要な確認事項を持ち帰って検討することになり、解散となった。

 

 

 会議を終えコーヒーブレイクにしようとお湯を沸かしている間に、いつでもミレニアムに向えるように準備をする。アビドスと比べれば圧倒的に近いので移動時間も荷物も少なくて済む。例の元理事の部下に用意してもらった制服など必要になりそうなものをカバンに詰め込む。

 

 しかし、今から忙しくなる。帰ってきた先生と受け入れの準備を進めていたヴァルキューレに事情を説明をする必要があるし、SRTの代表者とも協議をしなければならない。特に人員と装備の拡充が見込めていた警備局は渋るだろう。豆を挽きながら説得の方法を考えているとお湯が沸いた。

 

 そして手際よくコーヒーを淹れ、香りを楽しみいざ飲もうとした瞬間、振動を感じる。一拍置いて火災報知器が鳴り響くとスプリンクラーが作動し、あっという間にずぶ濡れになってしまった。もちろんコーヒーは飲めたものではない。

 

 執務室に入ると阿鼻叫喚だ。紙の資料や電子機器を守ろうとするもの、我先に非常階段に向かうもの、動かなくなったエレベータに乗ろうとするもの。パニックを起こしているようだ。

 

「落ち着きなさい!火災の発生箇所は!」

 

 警報音に負けないように声を張り上げる。

 

「不明です!ただ、全ての階でスプリンクラーが作動した模様です!」

 

 おかしい、サンクトゥムタワーは最新鋭の防災設備が備わっている。火災の発生箇所がわからないはずがない。まして全てのスプリンクラーが同時に作動するなど異常だ、それに先ほどの振動。地震?いや、高層階であの程度の揺れだ、設備が誤作動を起こす可能性は限りなくゼロに近い。だとしたら……人為的なもの?いや、今は現状を把握しないと……

 

「襲撃の可能性も視野に入れてください!モニタールームへの連絡は!」

 

「それが回線が混雑しているようで……」

 

「ここが毎日どれだけの苦情の電話を受けていると思っているのですか!この程度でパンクするはずがないでしょう!妨害を受けているのですよ!短波無線でも携帯でもいいですから回線の秘匿性を問わずに連絡を取ってください!私が許可します!」

 

「わ、わかりました!」

 

「しかし、ここの通信設備に妨害できる組織なんて……」

 

 別の部下が疑問を呈す。

 

「少なくとも一つは連邦生徒会の情報に簡単にアクセスできる武力組織があるはずですが?」

 

 その言葉に部下はようやく襲撃者の正体が思い当たったのか青ざめる。

 

「まさか、SRT?」

 

「その可能性はかなり高いです」

 

 もし、そうだとしたら今日の会議の結果が完全に無に帰すことになる。そこらのチンピラであってくれと祈るが、

 

「っ!連絡が取れました!襲撃者はSRT特殊学園のFOX小隊とのことです!」

 

それは無駄に終わった。しかもよりにもよって一番手強い部隊が来ている。まあ、ここに襲撃を仕掛けるのだ。当然か…。

 

「状況は!?」

 

「先ほどまで警備職員と交戦していた模様!現在の位置は不明!」

 

「非常階段の出入り口付近を重点的に固め、遭遇時は時間稼ぎに徹するように警備に連絡!」

 

 常駐している警備職員ではFOX小隊の撃破は無理だ。装備と練度の差がありすぎる。

 

「この中で戦えるものはいますか!?」

 

 だが、最初から期待はしていない。ここにいるのは事務員ばかりだ。

 

 1人でやるしかない。そう覚悟を決めようとした時、

 

「私がいけます」

 

これ以上になく頼もしい声が聞こえる。振り返ると水を滴らせたカンナが佇んでいた。

 

 

 カンナと共にサンクトゥムタワーの見取り図を確認し、今までのFOX小隊が目撃された位置にピンを打っていく。

 

「FOX小隊が狙ったのはこの階ですね。ここなら最大効率でSRT閉鎖派の役員を叩けます。その上、機密文書の保管されている金庫も近いです」

 

 ピンもその階に集中している。

 

「この状況、すでに制圧は行われている可能性が高いですね……」

 

 カンナがそう言葉を漏らす。SRTの基本は速やかな制圧、可能な限り全火力の瞬間的な投入、存在が判明する前に撤収、その三本柱だ。

 

「ええ、目的を達成して現在は撤収中といったところでしょう」

 

「では、退路に待ち伏せるしかないですね」

 

 流石は対テロに特化した公安局の局長なだけはある、話が早い。

 

「SRTの撤退はセオリー通りならヘリボーンですから……この階から一番近いヘリで回収が可能な屋上は……」

 

「ここですね」

 

「エレベーターは全て火災の影響で緊急停止していますから、非常階段を使用しているようです」

 

 そもそも特殊部隊は基本的にエレベーターは使わない、閉じ込められればなす術がないからだ。警備職員の連絡からもこれは確定している。ただし、FOX小隊の移動のペースを見るに足止めは30秒も持っていない。それだけの差がある。

 

 その上、火災の影響で非常階段には煙が充満している。本来なら閉められるはずの防火扉を開けた状態で放置したのだろう。そのために全ての階でスプリンクラーが作動したようだ。恐らくFOX小隊は煙の中でも行動可能な装備を持っている。対して、こちらは警備職員の集中配備が出来ないどころか階の移動すらままならない。完全に手玉に取られている。

 

 救いは火災自体は抑えられつつあることとFOX小隊の行き先が私達の予想と同じらしいことだ。

 

 それならば先回りをするために残された手段は一つだ。

 

「……あなたは高い所は平気ですか?」

 

「あまり得意ではありませんが、仕事なら問題ありません」

 

 カンナは少し困惑しながらも答えてくれる。

 

「素直でよろしい」

 

 最短ルートを頭の中で検討しながら執務室の大窓を撃ち抜き、通れるように穴を開ける。後で怒られるうだろうが仕方ない。

 

「……まさか」

 

 カンナの顔が驚愕に染まる。

 

「おや、ビルの外壁を命綱なしで登るのは初めてですか?」




またしても長くなってしまいそうだったので、前後編に分けました。エデン3章にSRTへの言及があるのでFOX小隊の襲撃はこのタイミングかなと考え書きました。次回はFOX小隊とここのカヤが直接対峙します。お楽しみに。
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