ユズが落ち着いた後、ようやく話し合いが再開される。
「つまりG.Bibleを手に入れるために廃墟に行く必要があるのですね」
“ダメかな?”
「行きましょう。危険な場所ならセミナーに再び封鎖される可能性が高いです。その前に調査する絶好の機会になります」
セミナーが連邦生徒会の敵でも味方でもない以上調査協力をしてくれるとは限らない。それにアリスの戦闘能力も見極められる。
「前回はモモイさんとミドリさんの2人で護衛は十分だったのですよね?今回は私も同行しますから問題ないでしょう」
「パンパカパーン、カヤが仲間に加わりました」
アリスの楽しそうな声が部室に響く。
「ただ、アリスさんの出自について何か見落としがあるといけないので、皆さんがアリスと出会った工場に先に案内してください」
“わかった、みんなもいい?“
「構わないよ、先生!」「大丈夫です」「アリスは問題ありません!」
モモイたちが元気に返事をし、ユズは頷いている。
「では、善は急げです。早速出発しましょう」
「……目新しい情報は見つかりませんでしたね」
“そう言うこともあるよ”
アリスと出会ったという工場を探索したのだが、先生たちから聞いた以上の情報を得ることはできなかった。こうなっては仕方ないので、一旦G.Bible探しに全面協力中だ。
「爆薬の設置が完了したようですね。先生は背を向けて口を開けて耳を塞いでください」
“わかった”
「モモイさん、準備できました」
「よしじゃあ、発破!」
モモイの掛け声と共に廃墟を爆風が吹き荒れる。
「少々炸薬の量が多かったですね。大丈夫ですか、先生?」
“うん、大丈夫“
前回は慎重に潜入したそうだが、今回は人数が多いこともあり正面からの強行突破に作戦変更された。爆発で工場周辺の敵を誘引、モモイ、ミドリ、ユズの3人がその足止めをしているところを
「…光よ!」
アリスが光の剣で薙ぎ払い手薄になったところを進む。私は先生の護衛だ。アリスの一撃でロボットの大半は戦闘不能になりモモイとミドリが歓喜の声を上げる。しかし、ユズが第二波の接近を知らせる。
「ここで立て続けはちょっと……流石に不利だよ、撤退しよう!」
「…ううん。……ここで退くわけにはいかない、突破しよう」
弱音を上げるミドリにモモイが中々根性がある提案をする。
それにしても行動の方針をモモイが決めているのは意外だった。やはり姉をしているからだろうか。加えて全体の状態を見極めるのも上手い。また、アリスの戦闘力の大半は光の剣に依存しているようだ。もし敵になったらどう攻略するか……
そんなことを考えていると目の前でゲーム開発部による先生のパーティー加入の儀式が執り行われる。なんだか楽しそうだ。そのまま先生に指揮権が移り、ロボットを蹴散らして工場に入る。これで一安心のはずだ。
モモイたちが先生の戦闘指揮についての感想会や残弾の確認をしている間に先生に怪我がないか確認する。この大人は生徒に心配させないために痩せ我慢している時があるのだ。この前などゲヘナで独創的な料理を食べて保健室送りになったと聞いた。
「…頭を庇っていましたね。失礼します」
“あ、だめ“
「抵抗しないでください」
”痛っ!”
「見事なこぶですね。何があったのですか?」
“実は初日に転んで頭をぶつけて…”
嘘だ。普通の転倒ではこんな所にこぶはできない。立ち上がった時に強かに打ちつけた時か、上から何かが落ちてきた時のでき方だ。まあ、この程度の傷なら追求しなくてもいいだろう。
「本当に貧弱なのですね。よくそんな体で銃弾が飛び交うキヴォトスで歩き回れますね」
“滅多なことでは弾は当たらないからね”
「飛んでくる銃弾が流れ弾だけだとは思わないことですね。いつか後悔することになりますよ」
“肝に銘じておきます”
本当に分かっているのだろうかこの大人は……
「いつか悪意を持って先生に銃を向ける存在に会わないか心配ですよ……」
そんな話をしているとアリスが何かに誘われるように工場の中を進み始めた。警戒しながらその後を追うと一台の電源のついたコンピューターを発見した。
[Divi:Sion Systemへ、ようこそお越しくださいました。お探しの項目を入力してください]
コンピューターに近づくとそんな文字が表示された。皆が困惑する中、アリスが素直にG.Bibleと入力する。
「あっ、何か出た!」
モモイの声が廃墟に消える中、画面には意味不明な文字の羅列が現れた。
「こ、壊れた!?アリス、いったい何を入力したの!?」
「い、いえ、まだエンターは押していないはずですが……」
モモイとアリスが騒いでいるとまた何か表示される。
[あなたはAL-1Sですか?]
事情をよく把握していないアリスとユズ以外が驚きに包まれる。何に反応して入力者をアリスと判断したのだろうか?それを考えている間に
「いえ、アリスはアリスで……」
アリスが率直に返事をしてしまう。ミドリが止めようとするも手遅れだった。
[音声を確認、資格が確認できました。おかえりなさいませ、AL-1S]
“音声入力か……”
「入力は音声とキーボード、出力はモニターからの文字情報のみとチグハグな構成に感じます」
“確かに、カメラの一つくらい付いていそうだけど”
そもそもアリスが発見された場所では画像認証だったようだし別物と言う可能性もある……
「アリスの、本当の名前……本当の、私……。あなたはAL-1Sについて知っているのですか?」
しかしこんな所でアリスの出自に関する情報が手に入るとは、調査はするものである。だがそんな期待に反してコンピューターは沈黙を保つ。それに痺れを切らしたモモイとミドリがあれこれ勝手なこと言い始めると突然、
[そうで……@!#%#@!$%@!!!]
見事に文字化けした表示が出てきた。本格的に壊れたのだろうか?
「叩けば治りますかね」
“弾詰まりじゃないんだから……あ、文字が出てきた”
[緊急事態発生]
[電力限界に達しました、電源が落ちると同時に消失します。残り時間51秒]
思っていたよりも根本的かつ致命的な問題が発生していたようだ
「ええっ!?だ、ダメ!せめてG.Bibleのことを教えてからにして!」
モモイの中ではG.Bible>>>アリスの出自らしい。
[あなたが求めているのは、G.Bibleですか?<YES/NO>]
このコンピューター、キーボードの入力内容を無視してアリスの認証を優先したのもかかわらず、その出自を話すタイミングになって文字化け、そして電力限界の土壇場でG.Bibleについて教えてくれようとしている。だが、直前に文字化けしていたにしては今は流暢すぎる。その上G.Bibleは少なくとも193あるうちのライブラリの廃棄対象データの第一号と表示された。その
[罠っぽいね]
先生がシッテムの箱にそう表示して見せてくる。
[今の端末から鞍替えするつもりでしょう。乗るか反るかどうします?]
懐からメモ帳を取り出して筆談を続ける。
[電源が切れそうなのは本当だと思うから、乗る]
[わかりました]
確かに返事は早いが、画面は暗くなったままだ。コンピューターはモニターが特に電力を消費すると聞いたことがある。
[G.Bibleが欲しいのであれば、提案します。データを転送するための保存媒体を接続してください]
「えっ……?G.Bibleの在り処を知ってるの?」
[あなたたちも知っています。今、目の前に]
「ど、どういうこと!?」
モモイとコンピューターの噛み合わないやり取りももう少し見てみたいが時間はなさそうだ。
「恐らくそのコンピューターの中にG.Bibleがあるということですよ」
話に割り込む。
[その通りです。しかし現在の私は消失寸前、新しい保存媒体への移行を希望します]
「そ、そうは言っても急に保存媒体なんて……」
モモイが慌てて探し始める。
「先生のシッテムの箱は使えませんか?容量はかなりありましたよね」
“確かに!“
早速、先生はシッテムの箱を取り出し少々見つめ合った後、
”……ダメだって”
まるで誰かに拒絶されたかのような反応をする。
「誰がそんなことを言っているのですか」
“い、いやー”
先生はたまにシッテムの箱に何かがいるかのように振る舞うことがある。本当にいるのか?
“あっ、ほらあっちも……”
先生がコンピューターを指差す。見ると画面に[ダメです]と表示されていた。
「あなたもですか!」
妙案と思ったのだがコンピューターにすら拒否されるとは……
「あ、「ゲームガールアドバンスSP」のメモリーカードでも大丈夫?」
[…………………まあ、可能ではあります]
モモイの提案に渋々といった感じでコンピューターが同意する。
そんなやりとりをしている間にユズがデータケーブルを接続してくれる。この時点で50秒は経過しているがコンピューターは動いている。所謂省電力モードなのか嘘をついているのか。
[転送開始……保存領域が不足、既存のデータを削除します。残り時間9秒]
「え、嘘っ!?」
その表示を見たモモイがなんとか止めようとするも
[残念、削除]
現実は非情であった。
「ちょっとおおぉぉぉぉおおお!?」
魂からの叫びと共にモモイが膝をつく。直後、
「あれ……電源、落ちちゃった……?」
畳み掛けるようなミドリの言葉が止めになったのかモモイは完全に崩れ落ちて泣き叫ぶ。
「ああああ!私のゲームガールズアドバンスのデータがあぁぁっ!!」
「む、酷いです……」
思わずそんな言葉が漏れてしまう。しかし、これがゲーム機に入ることになったコンピューターからの意趣返しだとしたら随分と人間臭い行動だ。とりあえずモモイの背中をさすって慰める。
「あ、待って!何かが画面に……?」
ミドリが指摘にゲーム機に目を向けると[転送完了]の文字が浮かび上がっていた。モモイのセーブデータを代償にG.Bibleを手に入れることに成功したようだ。パスワードが設定されていたためその場で確認することはできなかったものの、求めていたG.Bibleが手元にある事実に先ほどの号泣が嘘だったかのようにモモイが歓喜の声を上げる。
「待っててねミレニアムプライス……いや、キヴォトスゲーム大賞!私たちの新作は今度こそ、キヴォトスのゲーム界に良い意味での衝撃を与えてやるんだから!!」
「お、お姉ちゃん、声大きすぎ。そんな大声で叫んだら……」
ミドリがモモイを嗜めようとするが出現したロボットと目が合い、
「ここにいるって、言ってるような、も、の……」
その声は尻すぼみになって消え、沈黙が場を支配する。
次の瞬間、何かを喚きながらロボットが銃を構えようとする。こんな閉所で発砲されれば跳弾がどこに飛んでいくかわかったものではない。引き金に指がかかる前に一気に距離を詰め、
「わかる言葉で喋りなさい!」
勢いそのまま一喝と同時に蹴り飛ばす。速度の乗った一撃にロボットは動かなくなる。
「さて、目的も達成したことですし、あとは帰るだけです」
“もう一踏ん張りだね”
「そうだね、みんなで無事に、部室まで戻ろう!」
モモイの言葉にゲーム開発部全体の雰囲気が引き締まる。こうなれば数だけのロボットに私たちを止められるはずがなかった。
あわやケイvsアロナが展開される所でした。多分あの場面で保存媒体として一番適していたのはシッテムの箱だと思うのですが、原作でもモモイがゲーム機を持ち込んで無かったら先生も提案したのでしょうか?