シャーレの不知火さん   作:おかだんごむし

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残酷な事実

 廃墟から無事に帰った翌日、私はミレニアムサイエンススクールの外郭に存在する廃墟に程近い今にも崩れそうな建物を訪れていた。1人で来ているのはそれが彼女に会うための条件だったからだ。

 

 ちなみにモモイたちは先生と共にヴェリタスに昨夜持ち込んだG.Bibleのパスワードの解析の進捗を聞きにいっている。

 

 建物に入ると内部は意外と綺麗に管理されている。彼女のお手製のAMASとドローンが出迎えてくれる。案内に従い廊下を進むと飾り気のない扉にたどり着いた。それをノックする。

 

「連邦生徒会の防衛室長の不知火カヤです」

 

「どうぞ」

 

 その声と共にドローンが扉を開ける。そこにはモデルのような体型の鋭い眼光の美人が大量のモニターを前に作業している。

 

「お忙しいところに時間を割いていただきありがとうございます、リオ会長」

 

「久しぶりね、防衛室長」

 

 リオは顔も上げずに返事をする。雰囲気はリンと似ているが、彼女ですらまだ愛想があったのだと錯覚してしまうほどの塩対応だ。先生の持っている愛想の100分の1でもあれば違うのだろうがそれは彼女の性格上難しいだろう。

 

「貴方も忙しいでしょう。手短に済ませましょう」

 

 ただ、愛想が無いだけで気遣いが出来ないわけではない。そこに気付きさえすれば割と話しやすい人物だ。

 

「助かります。要件は主に二つあります。一つ目は……」

 

「ヴァルキューレへの武装の供与のことなら不可能よ」

 

「……」

 

 ミレニアムサイエンススクールは新進気鋭の学校だ。キヴォトスの最新鋭または最先端の技術はほとんどがここで発明されている。このことはもちろん兵器に関しても言えることだ。しかし先頭を走っているということはそれだけ秘密を抱えているということに他ならない。そのため防衛室としても随分前から兵器の供与に関して掛け合っているのだがいい返事はもらったことはない。だからと言って諦めるわけにはいかない。

 

「ヴァルキューレの装備はかねてより高性能なものを調達していましたが、犯罪組織の重武装化により更新の必要があります。どうか協力してもらえないでしょうか?」

 

「申し訳ないけどゲヘナやトリニティからの政治的な関係も考慮しなくてはならないの」

 

 食い下がるものの引き下がるを得ない理由を出される。確かに他の二校を差し置きミレニアムのみと武器に関する契約を結べば確かに軋轢は生じる。そのためにはどこかでバランスを取る必要があるが、今の連邦生徒会にはそんな予算も余裕もない。なので妥協案を出すことにする。

 

「では武装の供与ではなくセキュリティの改善についてはどうでしょうか?」

 

「……説明して」

 

 とりあえず話は聞いてくれそうなことに安心する。

 

「公然の秘密ではありますが、現在の矯正局の設備は老朽化し、生徒たちのセキュリティに対する意識は杜撰(ずさん)です。本人たちが問題意識を持って改善するのが理想ですが、まだ時間がかかるでしょう。その改善の手助けなら出来ませんか?」

 

「……学校全体として協力することはできないけれど、部活単位なら可能よ。だからヴェリタスに依頼してちょうだい」

 

「ありがとうございます」

 

 そう言って頭を下げるがリオはやはり顔を上げない。彼女は自分が意味がないと判断したことは基本的にしないのだ。

 

「それでもう一つの用事というのは何かしら?」

 

「こちらの方が本題ですが、廃墟を徘徊していたロボット……あれはリオ会長、あなたの仕業ですね」

 

 ここでリオが初めて顔を上げた。

 

「……そうだと言ったらどうするの?」

 

「貴方を拘束の上、生徒会長の資格を剥奪できます」

 

「……」

 

「廃墟は元々連邦生徒会長が管理し、我々連邦生徒会にすら秘匿していた土地です。しかし、彼女が失踪した今、ミレニアムの自治区外に存在する廃墟の権利は連邦生徒会に帰属します」

 

 これはFOX小隊を経由して得ることができた情報だ。やはりあそこの封鎖を行なっていたのはSRTだったそうだ。ただ、それ以上のことはSRTにも知らされていなかった。

 

「それを知りながら貴方は連邦生徒会に申告せずに自身のロボットを利用し秘匿し独占を続けた……拘束してその訳を教えていただくには十分な理由ではないでしょうか?」

 

「……」

 

リオは無言のままだが、AMASの銃口がこちらを向いたのを感じる。

 

「私は話し合いに来たのですよ。それに今の連邦生徒会に廃墟を管理する余力はありません。私は貴方に任せるのが最善だと考えています」

 

「それならどうして脅すような真似をしたの」

 

「次の質問に答えてもらうためですよ。AL-1Sとはなんなのですか?」

 

 今日の大本命の質問はこれだ。

 

「なぜ私がアリスについて知っていると思ったの」

 

「どうしてアリスさんのことだと思ったのですか?私はAL-1Sと言いましたよ」

 

 自分が焦りから見事に墓穴を掘ったことに気づいたらしい。リオの目が泳ぐ。

 

「まあ、理由ぐらいならお話ししましょう。きっかけはヴェリタスによるアリスさんの偽装入学がセミナーに全く認知されていなかったことです。セミナーとヴェリタスは敵対し相互監視を常に行なっている。片方が一方的に出し抜けるなんてことはありえないのですよ」

 

「そこでセミナーとヴェリタスの共謀という線が浮かび上がりました。調べると廃墟を現在管理しているのは貴方であり、ゲーム開発部に廃墟の情報を提供したのはヒマリさんです。そこでビッグシスターであるあなたと全知の称号を持つヒマリさんならアリスに関する情報を持っていると確信するに至ったというわけです」

 

 ちなみにヒマリの所在は掴めなかったため、リオに接触することになった。なんとなくだがヒマリはこちらの意図に気付いてリオに説明を押し付けるために隠れたような気がする。

 

「………」

 

 無言でリオが様々な条件を勘定に入れて考えているのがわかる。意外と顔色に出やすいのだ。だが答えは決まっている。

 

「……私は確かにその疑問に答えることができる」

 

 リオの言葉に心の中でガッツポーズを取る。

 

「ただし、私も貴方に確認したいことがある」

 

しかし、まだ試練は続いたようだ。

 

「なんでしょうか?私にわかる範囲であればお答えしますよ」

 

「いえ、知識ではなくて優先順位について聞きたいの。トロッコ問題を知っているかしら?」

 

「あの正解のない思考実験のことであれば知っていますよ」

 

「仮にだけど、1人の少女を犠牲すれば世界を救えるとしたら貴方はどうするの?」

 

「………」

 

これは答えを間違ってはいけない問いだ。彼女の性格を考えて答えを作る。

 

「……私は世界を救います。それが合理的です」

 

「そう」

 

 リオが安心したような表情を見せる。正解だったようだ。

 

「……あなたに見せたいものがある……ついて来て」

 

 リオが立ち上がりAMASを連れて歩き始める。少し歩くとシェルターのような部屋に連れて行かれる。分厚い扉の前でリオはこちらに向き直る

 

「この中にあるものを見たら貴方は後戻り出来なくなる。それでも知りたいの?」

 

「覚悟の上ですよ」

 

「そう」

 

 リオが扉を開け中に入るとそこには不思議なデザインをしたロボットが鎮座していた。AMASの機能美やオートマタの人に似せた形とは異なる妙に生物的な形状をしている。元々は球形だったであろう頭部は抉られ沈黙しているようだ。

 

「これは?」

 

「AL-1S、天童アリスがミレニアムを訪れたその日に防衛網にて撃破されたものよ。私たちは無名の守護者と呼称している。少なくとも私とヒマリが調査した資料にはそう残されていた」

 

「今もなお少しづつ、しかし確実に数を増やしながら廃墟からミレニアムに向かうのが確認されているわ。キヴォトスを終焉に導く名もなき神々の王女、それに仕える兵士よ」

 

 TSCの世界観ほどではないが壮大なスケールの話だ。だがリオはこんな冗談を言うような性格ではない。本当のことだろう。

 

「信じられないかしら」

 

「いえ、信じますよ。つまり、アリスさんの正体は名もなき神々の王女だと……そう考えているのですね?」

 

「現時点では私の推測にすぎない、AL-1S自体に関してはまだ情報が少ないの。けれど可能性としては高い」

 

「こちらでも連邦生徒会長の資料を確認してみます」

 

「助かるわ。ただ、この推測には大きなノイズがあるの。デカグラマトンの名は聞いたことはあるでしょう」

 

「よく知っていますね」

 

 聞いたことがあるも何も最近ビナーの頭部をカイザーPMCと共に吹き飛ばしたばかりだ。

 

「実は廃墟には預言者(ケセド)のロボットも確認されている。それが原因でアリスがデカグラマトンと関係している可能性が捨てきれないの」

 

「つまりアリスさんがデカグラマトンの預言者である可能性もあると?」

 

「ええ、ケセドの性質上、無名の守護者もデカグラマトンの兵士になった可能性もあるわ」

 

「なるほど、こちらも調べる必要がありますね…」

 

 部屋が沈黙に包まれるが、リオがそれを破る。

 

「それであなたの見立てはどうなの?防衛室長」

 

「どうとは?」

 

「アレが、アリスが何に見えるかということよ」

 

「私は……少し変わったところもありますが、普通の生徒に見えます」

 

「そう作られているからでしょうね。無理もないわ」

 

「ヘイローも含めて生徒の、それも可愛らしい少女の容姿で作成したのだとすると、彼女の創造主は相当性格が悪いと思いますね」

 

「そうかしら、攻撃しにくいように作るのはとても合理的だと思うけど」

 

 なぜかリオが食い下がってくる。

 

「合理的であることと性格が悪いことは両立しますよ……」

 

 すると性格が悪いと言った瞬間、リオがとても悲しそうな顔をした。

 

「合理性と性格には相関関係はありません。だからそんな顔をしないでください」

 

なので慌ててフォローする。

 

「そうね……それで私としてはすぐにでも破壊したいのだけど貴方の意見を聞きたい」

 

「今、破壊するのはお勧めできませんね」

 

「なぜかしら」

 

「今のアリスさんは安定しているように見えます。ここで強硬手段に出ればどのような事故に繋がるか分かったものではありません。まずは確固たる証拠を集め、確実に破壊する手段を準備しなければいけません」

 

「一理あるわね」

 

「それに昨日の探索でDivi:Sion Systemがモモイさんのゲーム端末に侵入した可能性が高いです。それも気掛かりです」

 

「そちらに関してはヒマリが解析する手筈になっているわ」

 

「抜け目ないですね。現状は無名の守護者の足止めをしつつアリスさんの詳細について調査するのが無難でしょう」

 

「そうね、それが正しいでしょうね。私は皆を導くためにも正しくなくてはいけない」

 

 リオは自分に言い聞かせるように何度もそう繰り返した。

 

 

「最後に一つ質問したいのだけれど……」

 

 部屋から出た時にリオが迷子の少女のような心細そうな表情で聞いてきた。

 

「貴方は……あなたはアリスがこのキヴォトスを滅ぼすと分かった時にヘイローを壊せるの?」

 

 それは大切な質問だった。キヴォトスでの死はとても重い、殺しをしたとなればそれがやむを得ない行為であったとしても非難は避けられない。それだけ恐れられている行為なのだ。

 

「ビッグシスターらしくない愚問ですね。必要とあらば破壊します、それが私の仕事ですから。覚悟を決めた時はできる限りお手伝いしますよ」

 

だから、共犯者になってリオを支えることにした。

 

「……」

 

「貴方がそんな顔をしなくてもいいのですよ。それでは失礼します」

 

 リオと別れ建物の外に出る。すると道に小柄な影に気付いた。それが誰か理解した瞬間踵を返して逃げたくなったが、もう遅い。ここは彼女の間合いだ。

 

「よおっ、防衛室長さん」

 

 ミレニアムの最高戦力にして勝利の象徴、コードネーム00(ダブル・オー)美甘ネルが仁王立ちしていた。




ここにおいてデカグラマトンは預言者を総称するための名前に過ぎません。恐らくデカグラマトンを神の証明を行うAIとして最初に接触したのはシャーレになっており、カイザーの対デカグラマトン部隊などの名称は預言者の総称という感じだと筆者は解釈しています。そうしないと矛盾します。
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