小柄な体躯にメイド服にスカジャンという独特なファッション、そしてこのわかりやすい猛者の気配。間違いなく美甘ネルだ。もう半歩離れていたら振り切れるかもしれないが少なくともこの距離では無理だ。逃げられないと早々に諦める。こういう時にはまず、状況の確認だ。
「お久しぶりですね、ネルさん。リオ会長からの指示ですか?」
「そうだよ、もしもの時の用心棒って話だったが………今は状況が変わった」
その言葉の意味を考えようとした瞬間、警報が鳴り響く。
「はぁ……早速お出ましか……。ついてきな!」
「えっ?」
「見学の時間だ!」
数分後、言われるがままについていった私はなぜか無名の守護者の大群を相手取ってネルと共に戦っていた。敵の無名の守護者の大半は虫のような動きをするType.F、その中にType.Mと呼ばれる触手の生えたものが少々混じり、サソリのような見た目のType.Bが数体と言った編成だ。
「見学ではなかったのですか!?」
「悪ぃ!」
本来はネルとリオの率いるAMASのみで撃退し、私はその様子を見学する予定だったそうなのだが、現れた数が想定を遥かに超えていたのだ。AMASが飲み込まれ乱戦になれば、ネルは大丈夫でも防衛線が崩壊してしまう。それを防ぐために防衛線の少し手前でネルと2人で大立ち回りを演じ前線を作る羽目になったのだ。
「この私をこんなことに巻き込むとはあなたの所の会長はどういうつもりですか!」
不用意に接近してきたType.Fに拳を叩き込み破壊しながら叫ぶ。
「信用したってことだろ!今はつべこべ言わずに戦いやがれ!」
ネルが二丁の銃を繋ぐ鎖でType.Mの触手を束ね、引きずり倒しながら答えてくれる。
「言われなくても!」
返事をしながら丁度こちらに倒れ込んできた頭部に銃撃を喰らわせ装甲に亀裂を入れリロード、重力に従って落ちる弾倉を掴み、止めとばかりに全力で投げつけ砕き割り沈黙させる。
「オラオラ!どこに喧嘩を売ったのか教えてやるよ!」
そう啖呵を切りながらネルはType.Bに取り付くとその頭部に弾幕を浴びせ、一瞬でワンマガジンを使いきり倒す。彼女の戦い方は暴風のようだ。無茶な突撃を繰り返しているにも関わらず、それらを全て潜り抜けて戦っている。援護するこちらの身になってほしい。
「真ん中の目玉が弱い!ぶちかませ!」
だが、ネルの方が無名の守護者の討伐に関しては一日の長がある。素直に私は彼女を補助するように立ち回る。それに弱点は把握した。こうなれば無名の守護者がいくら来てもただの的だ。しかしながらその数の暴力自体の手強さは変わらず、結局正午を回った頃にようやく無名の守護者を退けることができた。
「いやー助かった。あの物量はあたし1人じゃ1日つぶれてたからよ」
「お役に立てて良かったです」
そんな会話をしているとAMASが一機近づいてくる。
「お疲れ様、
「「
ネルと私の声が見事に被る。
「公式記録に連邦生徒会の室長がここで戦闘した事実は残すわけにはいかないの、勝手ながらコールサイン
リオがとんでもないことをいうが、納得できる理屈でもある。それに…
「私もここで戦った記録が残れば都合が悪いのでそれでいいです」
このことが発覚すれば怒られるのはリオだけではないのだ。
「それじゃあ、手合わせ願おうか!」
AMASが去った後、ネルが突然そんなことを言い出した。
「正気ですか…」
「あんたの戦いっぷり見てたら模擬戦をしたくなってな……ってことでタイマン張らさせてもらおうか……」
これはいけない。戦闘民族のスイッチが入っている。こうなったら戦う意志を削ぐしかない。
「……私たち弾切れしてません?」
当たり前の事を指摘する。最後の敵に弾を撃ち切っているのは確認しているし、予備の弾倉も使い切っているはずだ。
「……んっ?本当だ!クソォ、今から弾買いに行ったら折角の熱が冷めるな……」
ネルが何か期待するようにこちらを見る。
「素手ではやりませんよ。私が圧倒的に不利ではないですか」
「だよな〜、強い奴と戦えるいい機会だったのによぉ……ったく雑魚狩りで終わっちまった」
意気消沈するネルに会った時から気になっていたことを聞く。
「そういえば他のC&Cのメンバーはどうしたのですか?」
「ああ、なんでも生徒会が襲撃されるっていう情報があってそれの警備だとよ」
ミレニアムの生徒会の襲撃を計画するとは無謀な連中もいたものだ。だが実行可能な実力を持っているのならばキヴォトス全体にとっても脅威になる。事件が落ち着いた後、情報を貰おう。
「ネルさんは行かないのですか?」
「あたしがいるとものを壊すからって待機命令が出てんだよ」
「確かに」
「納得するんじゃねぇよ!」
「すみません、しかし私もこの後の用事まで時間が空いているのですよね……」
エンジニア部に会おうと思ったのだが、確実に部室にいるのが夜だと連絡が来たのだ。その上、先生からもG.Bibleの解析が数日はかかりそうだと連絡が来た。正直暇なのだ。
「ネルさんはゲームは得意ですか?私は今まであまり触れていなかったため知らないことが多くて……」
「得意かどうかはわかんねえけど、好きだ……。んっ?いやまて、今アカネが留守ってことだよな……。いい場所がある、ついてきな。箱入りの室長にゲームがなんたるかを教えてやるよ」
ちょうど良い機会だ。ゲームに関して知識を蓄えるとしよう。そう考え、自信ありげなネルについていった。
「ああああ、もう一回だ!もう一回!」
「なんですか!勝ったのだからもういいでしょう!」
ネルがいい場所として私を連れてきたのはゲームセンターだった。初めて入ったがなかなかに音が大きいので耳栓をしているのに、ネルの声はしっかり聞こえる。よく通る声だ。
「めんどくさいと思って手を抜いたろ!そんなの認められるか!もう一回だ!」
今しているのは格闘ゲームだ。一つのレバーと四つのボタンで操る単純なものだ。とりあえずゲームの筐体に書いてある技でネルと戦っているのだが、実戦と比べるとネルの間合いの取り方が下手だ。そこで付かず離れずの距離を保ち、彼女がイライラし始めてプレイが雑になるのを待ち。そこを攻め立てれば、立て直せずに倒せるのだ。
「初心者に負けっぱなしでいられるか!」
ちなみに先ほどの試合で勝率は逆転してしまっている。しかしこちらの癖も読まれ始めている。次はいい勝負になるだろう。
「もうちょい、もうちょい……」
「あっ何か出ました!」
「わああああ!!ふざけんな!」
しかし、ネルが満足のいく試合ができるにはそこそこかかった。
次に某配管工の活躍するレースゲームに挑戦した。
「ああぁぁぁぁっ、どうしてあたしが飛んでる時に雷落とすんだよ!」
「そういうゲームではないのですか?」
「さっきも羽付の甲羅で橋から落としやがって!1位から12位になったんだぞ!」
「あれは我ながら見事でしたね」
「うるせえ!投擲物が上手すぎるだろ!緑の甲羅やら爆弾を嫌なタイミングであたしに当てやがってよ!本当ならあんなに当たるもんじゃないんだぞ!」
貶されているのだろうか?褒められているのだろうか?
「次のゲームに行きます?」
「1位を取るまでやる!」
ドラム式洗濯機のような形をしたリズムゲームは……
「ぐうっ、手が届かねえ」
私も小柄な方だが私よりもネルは二回りほど小さい、上の方に手が届いていない。
「台を持ってきましょうか?」
「いらねぇ!」
結局使った…
次にパンチングマシンで遊ぶことにした。
店が震えるような轟音が鳴り響く……ことはなく。比較的普通の音が鳴る。
「へっ!どうよ!」
「誤差プラス0.2ですか、流石ですね。ふん!」
全力で殴ればパンチングマシンの方が壊れるのはわかりきっているのでどれだけ任意の数に近づけられるかで勝負することになったのだ。
「マイナス0.13か…」
「もう少し強くするべきでしたか…」
「やっぱ二百キロ程度だと弱くて逆に加減が難しいんだな……次あたしの番だからな」
「どうぞ」
シューティングゲームは……
「今日は嫌というほど撃ったからいいか……」
「そうですね……」
適宜休憩を挟みながら様々なゲームをプレイし気付くとすっかり夜になっていた。
「いやー、遊んだ遊んだ!楽しかったぞ!」
「本当ですか?終始叫んでいましたけれど」
「細えことはいいのよ。私が付き合わせちまったようなもんだから奢るよ」
「奢るのは賄賂に当たるので謹んでお断りします。代わりにネルさんのお気に入りのお店を紹介してください」
「任せな!」
そしてネルのおすすめの店に到着したとき、ミレニアムタワーに光の柱が立ち上がった。百鬼夜行連合学園で見たホログラムの花火を思い出すような綺麗な光景だった。
「すごい演出ですね。おや?今度は側面から出ました」
「いや、ちげぇな、あれは…」
「こちら
ネルが通信機器に呼びかけるが芳しい反応は返ってこないようだ。
「何か起こったみたいだ」
「緊急事態のようですね、手伝いましょうか?」
「昼にも助けてもらった上に、身内のゴタゴタに巻き込むほど面の皮は厚くねぇよ!」
身内?襲撃犯はミレニアムの部活ということか……。普通、生徒会に喧嘩を売るだろうか?相当命知らずな部活なのだろう。
「わかりました。頑張ってきてください」
「すまねえ、後でぜってぇ何か返すからよ」
「いえ、十分ですよ。私も楽しかったです」
「そっか……ありがとよ!」
そう言い残してネルは風のように走り去っていった。彼女の全力でもここからではそれなりにかかるだろう。その背中を見送り、ネルの紹介してくれた店で食事を済ませる。今度2人でいくことにしよう。おすすめのメニューを聞きそびれた。
その足でエンジニア部の所を訪れる。すっかり夜中だが先ほど連絡した時はまだ開いていると返事があった。
「こんばんは、ウタハさんはいらっしゃいますか……」
「やあ、会いたかったよ。防衛室長」
ボロボロのウタハがそこにいた。
「その怪我はどうしたのですか?」
「……派手に転んだ」
「そうですか」
明らかに嘘だ。しかし言いたくないことなど人には山ほどあるものだ。コトリとヒビキに介抱されている以上、詮索するのは余計だろう。
「本日はいくつかの相談があってきました」
「一つは私たちが作った剣のことだろう。朝方にこちらに届いていたよ」
「はい」
「小型の縮退炉を搭載したようだね、前作に搭載していたものはセミナーに回収されてしまったからね。うん、ウチほどでは無いけど腕のいいエンジニアに頼んだみたいだね」
「これの改造を任せたラボからこの方針で問題がないかの確認と実戦におけるデータの提供をしたいそうです」
「もう返事は済ませたよ」
「仕事が早いですね」
「それでもう一つの用事はなんだい?」
「アリスさんのことです」
「……」
ウタハの目が鋭くなる。
「技術畑の貴方から見てアリスさんの製造目的はわかりますか?」
「私は製作者じゃないからこれはあくまで推測に過ぎないが戦闘用だと考えている」
返ってきたのは予想通りの答えだった。
「一トンを超えると推定される握力にナノマシンによる自己修復機能、光の剣の反動に耐える体幹、何と戦うつもりかはわからないがかなり洗練されている」
「では、それを踏まえてあなたから見たアリスさんは
その難しいはずの問いに……
「もちろん、私の可愛い後輩さ」
ウタハは迷うことなくそう答えた。
アリスがゲーム開発部に入ったことは偶然、「鏡」が生徒会に押収されていたことも偶然、G.Bibleにパスワードがあったことも偶然、そこにDivi:Sion Systemがあったことも偶然、ヒマリが「鏡」を「手段」として用意していたのは当然、リオがC&Cを「危機」として用意していたのは必然。ここからヒマリとリオがおあつらえむきの状況が整ったがために一計練ったのでしょう。アリスを最初から入れるつもりならセミナーで管理するはずですし、こんな周りくどい方法をとる必要がないと筆者は考えます。先生がやばいことをしている時、カヤはいつも通り蚊帳の外です。