「ほ、本当に心臓、爆発しちゃったんですか?」
あまりにタイミングの良い爆発音にアリスがモモイを本気で心配する。
「ち、違う!私の心臓じゃない!」
モモイはそれを慌てて否定する。アリスの気持ちもわかるが、これは何者かによる攻撃だ。
「着弾直後に飛翔音がしました。これは砲撃です」
「この砲撃は13.97mm砲……カリン先輩の!」
ミドリが音だけで砲手まで特定した、良い耳を持っている。しかし、C&Cがなぜこのタイミングで攻撃して来るのだろうか?考えている間に第二射が着弾し、その轟音にユズが身を竦ませる。
「遠距離攻撃を確認、部室正面に対して11時の方角!距離、約1km……!」
アリスが相手の正確な位置を割り出す。砲撃としてはかなり近い距離で撃っている。カリンの腕なら外すわけがない、ひとまず部室は当てるつもりはないようだ。
「ぜ、前回の仕返し!?」
モモイの言葉にはまるでこの襲撃に心当たりがあるように聞こえる。
「前回とはなんのことですか?」
「わ、忘れて…」
このパターンは知っている。先生と生徒で違法行為を働いた時の反応だ。
「反撃を開始します!」
アリスがカリンのいる方角に向けて銃口を向けるが、モモイに止められる。
「ううん、アリス、一旦でよう!ここだと先生を巻き込んじゃうし、それに……このまま、ここで戦ったら、私たちの部室が壊れちゃう!」
「賛成ですね。狙いは恐らく私たちを誘い出すことです。部屋から出なければいずれ吹き飛ばされます」
「外に生徒会の人たちも……!「鏡」の件の報復……!?」
外の様子を確認したユズの悲痛な声が聞こえる。
「ちょ、ちょっとは申し訳ないと思ったけれど……!」
「「鏡」?申し訳ない?今度は何をしたのですか!先生!」
先生が目を逸らした次の瞬間、窓の外がきらりと光るのが見える。
「ひぃっ、また来る!」
モモイの悲鳴と共に着弾。衝撃でゲーム機が軽く跳ねる。先ほどよりも近い。
“落ち着いて。リロードしているうちに、とにかく外に出よう”
「「鏡」とはなんのことですか!」
“説明は後でする。今は逃げよう!”
確かに段々と着弾地点が近づいている。長居は危険だろう。先生たちと共に部室から飛び出す。
「逃げ切ったら、一から説明してもらいますからね!」
建物から出ると流石に先生が飛び出してくるとは思っていなかったのかセミナーのメンバーは攻撃を躊躇する。その隙に先生は包囲の甘い場所を見つけ、そこを密集陣形で突破する。
先生たちと共に走りながら考える。ゲーム開発部と先生が結託して何か事件を起こしたのは確定だが、この一週間のことではない。ゲーム作りでそんな暇はなかったからだ。つまり事件発生はそれ以前になる。だとするとセミナーもC&Cもなぜ今まで動かなかったのだろうか。準備期間だったとしても一週間は長すぎる。そもそもアリスに対する刺激はこれ以上は避ける方針だったはずだ。つまりこれはC&Cの単独の行動の可能性が高い。すると目的は……。そこまで思考が進んだところでカリンの砲撃が近くに着弾し現実に引き戻される。
“まずは厄介な狙撃手から排除しよう。アリス!”
「光よ!」
先生からの指示に間髪入れずにアリスが撃つ。カリンのいた狙撃ポイントは見事に吹き飛んだ。
「アスナ先輩とアカネ先輩も来てる!」
ミドリが叫ぶ。アスナとアカネだけではない、セミナーの用意したと思われるロボットとドローンまで来ている。
“モモイとミドリは足止めを!”
「わかった!でも、長くは持たないよ!」
“大丈夫!ユズ、私の合図であのロボットを撃って”
「は、はい!」
“……今!”
ユズの放ったグレネードは寸分違わずロボットを貫き、炸裂する。刹那、信じられないような爆発が起こり、辺りの窓ガラスが全て割れた。
「ユズのグレネードにこんな威力あったっけ?」
モモイの疑問に撃った本人が必死で首を振る。
「そっかアカネ先輩が爆薬を仕込んでたんだ」
ミドリの言葉に皆が納得する。アカネが爆薬を好んで使うのは周知の事実だ。
「よく気がつきましたね」
“一体だけ、少し足が遅かったからね”
ロボットに爆薬を仕掛けて何をするつもりだったのかはわからないが、結果として目の前には小規模のクレーターが出来ていた。地中に埋設されていたはずのケーブルの一部が露出し損傷、そこに消火栓の水がかかって火花まで散る大惨事だ。これなら時間稼ぎにはなるだろう。しかし……
「ま、まだ、ドローンが来るよ!」
飛行するドローンは話が別だ。地形の変化などお構いなしに距離を詰めてくる。
“大丈夫!”
先生がそういった瞬間、ドローンは地中から這い出してきた触手によって叩き落とされた。
「これは……「ハブ」?」
ミドリの言う通り、その触手の正体はミレニアムの技術の結晶、通信ユニットAI「ハブ」の多目的マニピュレーターだ。半自律稼働の「ハブ」は損傷した通信ケーブルの復旧のため、その障害の排除を始めたのだ。復旧作業の範囲に入ったドローンが容赦なく叩き落とされ、クレーターの中に入った警備ロボットが擦り潰される。これなら時間は十分稼げるだろう。
“今のうちに!”
「後で絶対怒られる〜」
「今更だよ、お姉ちゃん!」
沈みゆく夕日に向かってゲーム開発部は駆け出した。
「はぁ、はぁ……、な、何とか逃げ切れた?」
星の見えないミレニアムの夜空の下で、息を切らしながらモモイが周囲を確認する。あれから随分と走った。振り切れたと考えるのも無理はない。確かに周りに人の気配はしない。夜であっても昼のように明るいミレニアムとしては不自然なほどに……
しかし、その違和感に気付かずゲーム開発部は今後の相談を始める。
「もうミレニアムプライスへの出品は終わっているんだし、とりあえず結果が出るまで、このまま逃げ続けよう!」
ミドリがそう提案した瞬間、
「逃げ切れるとでも思ったか?」
聞き覚えのある声が響くと同時にミドリが銃撃を受けて悲鳴を上げる。やはりこの襲撃の首謀者は彼女のようだ。他のC&Cのメンバーを引き連れてネルが姿を現した。その威圧感にゲーム開発部は気圧されるが、先生は意に介さずネルと会話する。それどころかネルの身長について言及し、怒らせてしまっている。
「……まあ、こんな話はどうでも良い。おい、そこの無駄にデケぇ武器持っているあんた」
ネルは先生との会話は早々区切りをつけ、アリスを睨みつける。当のアリスは自分のことだとは思わなかったのか辺りを見渡している。
「あんただよ、あんた!」
「アリスのことですか?」
ネルに再度指摘されてようやく自覚したようだ。
「そうだ、てめぇには用がある」
やはりネルは確認しに来たようだ。ミレニアムの最高戦力を担うものとしてアリスの実力とリオの意図を。アリスも決闘イベントとして納得する。ならば私の出る幕ではない。
「光よ!!」
戦闘はアリスの不意打ち気味な光の剣の射撃で始まった。
結論から言うとアリスは負けた。いくら光の剣を振り回せる膂力があったとしても、接近戦に限れば私以上のネルに近づかれては勝負にすらならなかったのだ。敗北を察したアリスは光の剣を地面に突き立て発射することで自分もろとも辺り一体を吹き飛ばした。
「に、肉体損傷率48%……後退を望みます!」
爆煙の中、傷だらけのアリスは倒れ伏していた。至近距離で光の剣の爆風を受けたのだから、原型を留めているだけ十分だ。対してネルは無事だろう。ギリギリのタイミングで飛び退いていたのが見えた。彼女の頑丈さなら心配するだけ無駄だ。
アリスの傷口からはナノマシンが染み出し修復を開始しているが、動けるようになるまでしばらくかかるだろう。こんな形で彼女が生物ではないと再確認はしたくなかった。
“私が背負う”
そんなアリスを先生は臆することなく背負う。
「では私は武器を運びます」
先生がアリスを私が光の剣を抱えその場を離れる。しかし、不幸中の幸いだ。本気で戦ってアリスは負けた。アリス自身はC&Cで倒せる程度の脅威判定になったはずだ。これなら今すぐにアリスが破壊されることはないだろう。そして案の定追撃はなかった。
“ギブギブギブ!頭が割れちゃう!”
C&Cから逃げおおせた後、ミレニアムの保健室で「鏡」を巡ることの顛末を説明した先生は私からアイアンクローを受けていた。モモイたちはその隣で正座している。とても既視感のある光景だ。ちなみにアリスはベットからこの光景を眺めている。
「なるほど……。G.Bibleのパスワードの解除に「鏡」が必要で、それを入手するためにヴェリタスとエンジニア部と協力してミレニアムタワーを強襲し、C&Cとセミナーを相手取って大立ち回りを演じた末に「鏡」を奪取したと……」
あの日のボロボロのウタハ、ネルと共に見た光の柱、先日のリオのアリスに対する戦力分析、その全てが繋がった。
「馬鹿です!前々から思っていましたが先生は馬鹿ですよ!なぜゲームのためにセミナーとC&Cに喧嘩を売っているのですか!それに報告書にこのことをどう書くつもりですか!リン行政官が泡吹いて倒れますよ!」
“ゲーム開発部を、彼女たちの居場所を守るためだよぉぉぉぉ!ミシッていったから!ミシッていったから!”
先生が格好良く答えるが誤魔化せるはずがない。
「だとしたら相手がおかしいでしょう!廃部を避けるためになぜ廃部の権限を持っているセミナーを襲撃するのですか!普通そんなことをすれば取り潰される格好の理由にされますよ!」
「最初は私もC&Cには勝てないからって反対したんだよ、けど情報が集まって、みんなも協力してくれるってなったら、もしかしたらって」
モモイが涙目で訴える。だが、その言い方だとC&Cがいなければセミナー襲撃に迷わず賛成したようにも聞こえる。
「その上、G.Bibleの内容が
あの時の阿鼻叫喚にも納得である。
「だけど、ソシャゲのガチャと同じで中身を見るまでは無限の可能性を秘めてたんだよ!」
“理解できる”
「……」
“ ……”
「先生はユウカさんに一回きつめに怒られた方が良いですよ!」
“ ああぁぁぁぁ!割れる割れる!輪ゴムで締められたスイカみたいに割れる!”
「それにどうして私に相談してくれなかったのですか?」
「それは私たちが反対したんです。不知火さんには連邦生徒会での立場があるから迷惑かけたくなくて……」
ミドリが正直に答えてくれる。それを聞いて先生から手を離す。先生は一応、私を信用してくれていたようだ。
「お気遣いありがとうございます。しかし、私ならもっと穏便に「鏡」を手に入れられましたよ。こういう時ほど立場のある私に頼ってください。上には上なりの交渉術がありますから」
「ごめんなさい」
しかし、事件の後にG.Bibleと<key>の分析をヒマリは完了させていた。推測でしかないがアリスの戦闘能力を確かめるために、ゲーム開発部はリオとヒマリに利用されたのだろう。これ以上責めるわけにはいかない。だが、それはそれとして……
「謝る相手は私ではありませんよ。やってしまったことに関しては仕方ありません。だからこそ今からでも迷惑をかけた人に謝りに行きましょう。難しいでしょうが、事情を説明すれば許してくれるはずです」
“「「「「はい……”」」」」
こうしてセミナーに謝りに行ったのだが、私の心配をよそにユウカは拍子抜けするほどあっさりと許してくれたのだった。
筆者はいつも乗っ取られて破壊されるだけの「ハブ」を活躍させたかったのです。次回でパヴァーヌ1章は終了です。お楽しみに!