「なんですかあれは……」
それが地響きと共に砂を掻き分け現れたのは、襲いかかってきたヘルメット団をあしらっている最中のことだった。
周辺のビルを越える巨大な純白の体躯、独特の駆動音、爛々と輝く二対の目玉。蛇と鯨が混ざったような奇妙なシルエット…
すると締め上げて弾除けに使っていたヘルメット団がボソリと呟く。
「ビナーだ……」
「あなたはあれを知っているのですか!?」
「あ、あれはビナーだ……アビドスの地下に眠っている機械怪獣って話だ。何十年も前からの都市伝説だったのが実体化したとかで!」
要領を得ない説明だが大体わかった。あれはビナー。確かカイザーPMCに襲撃を仕掛け対デカグラマトン用の部隊が設立されたほどの相手だったはずだ。ただしその遭遇率の低さから交戦記録並びに映像記録は多くはない。何せ私が外見だけでは確信できなかったほどだ。それ故にこのような噂の広がり方をしたのだろう。
すると突然その二対の目玉がこちらを捉え、ビナーの口が輝き始める。ヘルメット団を掴んだまま直感を信じて身を投げ出す。
閃光
熱と衝撃波を背中に感じる。
振り返ると先ほどまでいた場所が赤熱し大きくえぐられている。
「撤退〜〜!」
ヘルメット団が牽制射撃を行いながら車両に乗り込み逃げ始める。しかし、彼らの攻撃は全く効いている様子がない。ビナーも目から光線のようなものを出しているが、流石に車両を一撃で破壊はできていない。
それを見たビナーは地面に潜り込み、砂の津波を巻き起こす。馬鹿げた出力だ。
それにヘルメット団の車両が数台巻き込まれ横転、乗っていたヘルメット団は投げ出されたものの、すぐに立ち上がってそのまま逃げようとする。
しかし、行く手を阻むようにビナーが地中から現れる。
「ひゃー」
悲鳴をあげるヘルメット団に向かってビナーの口が開く、また熱線を使うつもりだ。
「こっちを向きなさい!」
気を引こうと射撃するも拳銃では威力不足だ。
「仕方ありません、荷物は任せましたよ」
隣で腰を抜かしているヘルメット団に荷物を押し付け、ビナーへ駆け出す。
「仕事を増やすな!!」
そう叫びながら渾身の飛び蹴りを喰らわせる。ビナーの光線が空に逸れ、その衝撃でバランサーが狂ったのかその巨躯がふらつく。ダメで元々で放った蹴りだが思った以上に効いている。その隙に近くの廃墟ビルの支柱を次々殴り飛ばし、ビナーをビルの下敷きにする。仕留められたとは思えないが時間稼ぎにはなるだろう。
先ほどまでビナーに狙われていたヘルメット団に駆け寄る。
「車両に何か武器は!」
「え?」
「ビナーに効きそうな武器はありませんか!?小銃弾では埒があきません」
「な、なんでお前の命令を聞かなくちゃならないんだよ!」
もっともな疑問である。だが、
「さっき救われた恩を忘れたんですか!あれに有効打を与えられるのは現状私しかいません!つべこべ言わずに答えなさい!」
一括を入れるとしどろもどろと話始めた。
「え、えーと、対戦車ロケット砲と対物ライフル、あ、あとでっかい剣」
「剣をよこしなさい、そっちの方が効きが良さそうです」
銃弾はあっさりと弾くのに私の蹴りとビルの倒壊は不自然なほどに効果があった。飛び道具が効きづらい可能性が高い。
「これだけど使えるのか?」
渡された剣は剣というには…
「大き過ぎないか?…」
ミレニアム製なのだろうか、近未来的なデザインの大剣だった。
「いえ、むしろおあつらえむきです」
「これ説明書…トリガーを引くと切れ味が上がるけど1秒以上使うと自壊するみたいなんだ」
説明書に目を通すがどうも中身は精密機械で壊れやすいようだ。到底実戦向きではない。しかし、現状で最も効果が期待できるのも事実だ。先ほどの蹴りを喰らわせた時、ビナーの片方の牙に亀裂が入っているのが見えた。そこを狙うことにする。
急ぎ残っているヘルメット団を集める。
「作戦の概要を説明します。私はこの大剣でビナーに接近し一撃を入れます。皆さんは射撃で撹乱、接近を援護してください」
本来ヘルメット団の射撃はビナーには通用しない。しかし、使っている武器が対物ライフルや対戦車ロケット砲なら話は別だろう。
「…ここで仕留めないと全滅ですよ!」
私が接近している隙に逃げ出されてはたまらない、しっかり釘を刺しておく。
「わかった!」
素直な返事だ。
他にも細々と指示を飛ばしておく。即席のビナー討伐隊の完成である。
地鳴りがする。ビナーが回復したらしい。ビルの破片を押し除け姿を表す。
「作戦開始!」
先ほど横転した車両をビナーに突っ込ませ、そこにロケット砲を叩き込む。爆発、ビナーが怯む。
すかさずビナーの背後から射撃が飛ぶ、ビナーが振り返れば別の方向から、変わるがわる標的を絞らせないような出し惜しみのない射撃で注意が逸れる。ビナーからすれば爆煙でヘルメット団は見えていないだろう。逆にビナーは煌々と輝く発光部位のせいで位置が丸わかりだ。その上、即応性の高い光線は煙の中では機能不全に陥っている。
ヘルメット団が陽動しているうちに私はビナーに接近する。流石に大剣を持った状態では先ほどの高速接近はできない。それに熱線で大剣が溶かされれば全て終わりだ。ジリジリと距離を詰めていく。
四方からの絶え間ない嫌がらせの射撃に業をにやしたのだろう。ビナーの背部のハッチが開きミサイルが発射される。VLSまで搭載しているとは……
ミサイルはビナーを死角から射撃をしていたヘルメット団を狙い、正面の身を隠したヘルメット団に対しては熱線を撃とうと収束を始める。ただ彼女らはすでに重い武器を捨てて逃げている。なぜなら、
「その判断、もう少し早くするべきでしたね」
私の接近が完了したからだ。瓦礫の影から跳躍しながらそう呟く。
ビナーは光線の発射の直前必ず硬直する。その隙に一気にビナーの背を駆け上がり抜刀。
大剣を振りかぶりトリガーを引きながら牙の亀裂に寸分違わず一閃!
剣の性能か、亀裂を狙ったのが良かったのかビナーの牙が大きく裂け、自重を支えきれずに凄まじい音を立ててへし折れる。直後熱線が制御を失い四方に炸裂した。もちろん至近距離にいた私は弾き飛ばされる。
体勢が整わず少し不恰好な着地になるが、次の攻撃がいつ来てもいいよう立て直す。
爆炎がはれる。ビナーは牙の片方を失い、熱戦の発射口を損傷していた。
ビナーはしばらく動きを止めた後、こちらを一瞥し砂に潜る。砂の津波に備えて身構えるが、そのまま地鳴りは離れていく。脅威は去ったようだ。
「疲れた……」
まだ私には仕事が残っている。煤だらけになった制服の替えも考えなくてはならない。しかしなんだか晴れやかな気分だ。
「ごめんなさい」
すると荷物を預けたヘルメット団が泣きながら近づいてくる。彼女はミサイルの爆心地にいたのだろう。見ると先生用の水筒にミサイルの破片が刺さっている。水は空っぽになってしまったようだ。
「他の荷物は無事なんでしょう、大丈夫ですよ。それよりも怪我はありませんか?」
怒っても水筒が戻る訳ではない。
「他は無事だし、怪我はないけど…」
「ならいいんですよ。それにこういう時は感謝です」
「あ、ありがとう」
「はい、こちらこそ荷物をありがとうございました」
先ほどまで、生死を分ける戦いだったのだ。水筒の一つ安いものだ。
他のヘルメット団も集まってくる。皆無事のようだ。
拠点まで徒歩で帰ることになったヘルメット団たちに自分の水筒を渡し別れる。自分でも少し格好をつけすぎたような気がするが、まあ、いいだろう。
今は先生に合流するだけだ。
カットしたビナー戦でした。
武器はパイルバンカーか大剣かで迷った……ロマンが欲しかった。