シャーレの不知火さん   作:おかだんごむし

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水着パーティー

 雨風が窓を叩く中、私は究極の選択を迫られていた。

 

「……水着かこれしか着るものがないとか冗談ですよね」

 

 ベッドの上に薄明かりにも関わらず妙な光沢を放つ修道服を広げ、頭を抱える。

 

「何これ?水着!?」

 

 それを見たコハルが目を丸くする。

 

「いえ、シスターフッドの前身であるユスティナ聖徒会の修道服、つまり制服のはずです……」

 

 だが、その実態は最近制式採用したヴァルキューレの水着もかくやというデザインだ。足が出過ぎている。

 

「!?毎日こんな格好でお祈りしてたってこと!!死刑!!」

 

「私に言われましても……」

 

 興奮するコハルを宥めながらどうしてこんなことになったのか思い返す。遡ること1時間前……

 

 

 早朝、トリニティは怪獣の引き起こす嵐の勢力圏に入り、豪雨に見舞われた。別館も例外ではなく日は当の昔に登っているはずなのに外は薄暗いほどだった。そんな中で先生と共に昨晩起こったことをまとめていた。何せ状況が大きく動いたのだ。一旦整理する必要があった。ミカ、アリウス、エデン条約、そしてハナコのこと……

 

 先生の話を聞くにハナコはきちんと先生を頼ったらしい。しかしその過程で問題が発生したようだ。

 

「ヒフミさんが退学のことを話してしまうとは……。騒がしかったのはそれが原因ですか」

 

“ごめん、寝られなかった?”

 

「大丈夫ですよ。それで補習授業部の目的をハナコさんが把握してしまったのですね」

 

“うん、ハナコも色々調べてくれるって”

 

「それは心強いですね」

 

“そうだね。次にエデン条約の内容確認だけど”

 

「エデン条約が近づけばヒナさんも忙しくなるでしょう。ただでさえ多忙な人です。合宿が終わるのを待っていては会う余裕がなくなるかもしれません」

 

“そうなると思って、今日の夜中に会う約束を取り付けておいたよ”

 

「流石ですね、それでどちらが会いに行きましょうか?」

 

“任せていい?”

 

「まあ、そちらの方が合理的でしょうね」

 

“ありがとう”

 

「気にしないでください、仕事ですから」

 

 そのあとは二人で計画と資料を詰めていく。ひと段落して雨音が部屋を支配する中、先生が話しかけてきた。

 

“それで……”

 

「なんですか?」

 

 まだ話していないことがあっただろうか?

 

“怪獣の方は?”

 

「……リン行政官からですか?」

 

 頷く先生を見て、ため息が漏れる。いくら先生でも生徒の問題ではなく、怪獣退治に首を突っ込ませるのはどうなのか……

 

「その件は防衛室の仕事です。先生の出る幕はありませんよ」

 

“えぇ、怪獣見たかった……”

 

 どうも先生は怪獣が見たかっただけのようだ。そういえばカイテンジャーの玩具も買っていたし、そういうものが好きなのかもしれない。

 

「定期的に現れる怪獣なので、いつか会えますよ」

 

“それは良かった!……良いことではないか……”

 

「良くはないですよ。ちなみにこの予報になかった雨雲も怪獣が引き起こしたものです」

 

“……すごいパワーだね”

 

 先生がそう言った瞬間部屋が光に包まれ、同時に轟音が襲う。

 

「雷ですか、近いですね」

 

“本格的に降ってきたね”

 

 すると隣の部屋がにわかに騒がしくなり、廊下を走り抜ける音がする。確認のため部屋から出ると眠たそうなアズサと目が合った。

 

「何事ですか?」

 

「良くわからないが、皆洗濯物と叫びながら出ていった」

 

 昨日の洗濯物のことだろう。私も使った制服は一緒に洗ったはずだ。

 

「それなら昨晩の内に取り込んでおきましたよ」

 

「何でだ?」

 

「夜中に外干しをしたら晴れていても夜露で濡れてしまうでしょう」

 

「確かに」

 

 すると振動と同時に悲鳴が聞こえる。

 

「「?」」

 

「何事でしょうか?」

 

「見に行こう」

 

 悲鳴の出所に向かうと、私が部屋干しに選んだ部屋のようだ。その扉が()()()()()揺れている。嫌な想像を振り払いながら部屋に入ると雨が体を叩き、一瞬で濡れ鼠になる。

 

 目の前には地獄絵図が広がっていた。先ほどの雷によって折れたのだろう、倒木が部屋に突き刺さり天井が完全に破壊されていた。もちろん洗濯物はびしょ濡れである。

 

 補習授業部の皆と洗濯物をかき集めたものの、当然ながら着れるような状態ではなく、もう一度洗濯することになった。なったのだが悪いことは重なるもので……

 

「停電!?」

 

「洗濯機が止まってる、それに蓋も開かない。困った」

 

 そして各自着れる服を探した結果、冒頭の状態になったという訳だ。

 

 とりあえず修道服を身につけてみる。例の社員が採寸して全ての服を調整してくれているお陰で初めて袖を通す服でも体に馴染む。しかしこれは……

 

「痴女ですね」

 

 鏡に映った自分の姿に思わずそんな言葉が漏れる。

 

「どうですか」

 

 下半身の風通しの良さを無視しながらも一応皆の意見も聞くと

 

「あっ、ううっ、水着にしか見えません」「どう見ても水着だ」“むしろ水着の方が納得できる”「水着ですねぇ。サクラコさんが言葉を濁すわけです」「やっぱり水着(エッチ)じゃん!!死刑!!!」

 

 皆の感想が見事に一致していた。

 

「過去の組織のはずですが、デザインは未来を見据えていたのですかね?」

 

“多様性の時代だったのかな?”

 

「同僚に見られれば、なんと言われるか……」

 

 まじまじと観察されるのが恥ずかしいので頭巾(ウィンプル)が異様に長いことを利用して足を隠すそうと試みるが

 

「恥ずかしそうにするとむしろダメですよ。堂々とした方が良いです」

 

すかさずハナコが茶々を入れてくる。

 

「ハナコはなんのアドバイスをしてるの!!」

 

「これならトリニティ指定の水着の方がまだマシですね」

 

 最終的に皆に合わせて水着を着ることになった。

 

 

「まったく、踏んだり蹴ったりですよ」

 

“お疲れ様”

 

 私たちは水着に着替えた後に体育館に避難し、

 

「さあでは記念すべき第一回、補習授業部の水着パーティーを始めます♡」

 

暗闇をときおり雷が引き裂く中、話に花を咲かせていた。水着パーティー……もちろん発案者はハナコである。本人曰く合宿らしいことがしたいとのことだったが、別の目的もある。それはハナコがアズサに話しかけようと機会を伺っていることからわかる。先生も気づいているが見守っているだけだ。少しは助け舟を出せば良いのにこういう所はスパルタである。

 

「アズサちゃんはもっと、夜はきちんと眠ったほうが良いと思いますよ?」

 

 真剣な顔でハナコがようやく切り出す。彼女が己の恐怖に打ち勝った瞬間だった。

 

「……うん。今朝は寝坊して迷惑をかけてしまった」

 

 しかし、ハナコが懸念していたであろう言い訳はなく。珍しく寝坊した負目もあったのか素直にアズサは受け止める。ハナコの緊張感が解けたのがわかる。本当に彼女は難儀な性格なようだ。もう少し図太くないと政治には向かない。

 

“ハナコ、アズサのこととても心配していたよ”

 

 ようやく先生も会話に参加する。

 

 するとアズサは夜中には見張りではなく外敵の侵入を防ぐためのブービートラップの設置をしていたと言い始める。先生と目が合う。同じことを考えているらしい、これは嘘だ。

 

“アズサは優しいね”

 

 しかし、先生はその嘘を飲み込んで今のアズサ自身への言葉を紡ぐ。

 

「なっ……こ、子ども扱いしないで、先生」

 

「私たちは先生から見れば十分子どもだと思いますよ」

 

「そ、それはそうだが、私は別に……そんなんじゃない」

 

 アズサの表情に陰りが見える

 

「だってこの世界は、全てが無意味で、虚しいものだ。だから、もしかしたら……」

 

「私はいつか裏切ってしまうかもしれない……みんなのことを、その信頼を、その心を」

 

 この発言で確信する。彼女は純粋な友好の使者ではない。しかし、単純な敵でもない。アズサの言葉の意味を問いただそうとした瞬間に視界が真っ白になる。電気が復旧したようだ。

 

 いつの間にか雨音も弱まり、空が明るくなっている。嵐は去ったのだろう。しかし、アズサへの追求は有耶無耶になってしまった。

 

 

 そして今日も退屈しない1日が終わる……ことはなく。

 

「いいえ、まだです!このまま1日が終わりだなんて、そんな勿体無いことはさせません!」

 

 私が書類を纏めていると就寝時間にも関わらずハナコのそんな叫び声が聞こえてきた。何か碌でもないことを考えているようだ。

 

「うふふっ♡合宿といえば、やはり合宿所を抜け出すこと……それも一つの醍醐味だと思いませんか?」

 

 耳を澄ませるとどうも、夜遊びに出るつもりらしい。

 

「さあ!今からみんなでこっそり外に出て、お散歩しましょう♡」

 

 ヒフミ達が置いて行かれているにも関わらず、ハナコのテンションは加速度的に上がってゆく。恐らくこれがハナコの望んでも手に入らなかった青春なのだろう。私は資料を鞄に詰め皆のいる部屋の前に立つ。

 

「ちょっと行って戻ってくるだけですから大丈夫ですよ。良いですか?」

 

“楽しそうだね、行こっか”

 

 先生まで賛同している。というか就寝時間にも関わらず生徒の部屋で会話に参加している先生はどういうつもりなのだろうか。

 

「準備はできた。もうすぐに出発できる」

 

 アズサもその言葉を聞き静かに扉を開けるとまずコハルと目が合った。

 

 コハルは青くなったり赤くなったりと見事な百面相を見せた後

 

「そのハナコ?聞かれちゃったみたいだけど」

 

恐る恐る指摘する。

 

「こんばんは、皆さん」

 

「「あっ……」」

 

 そんなに露骨に落胆しなくても良いと思うのだが……

 

 しかし、私に聞かれることまで計算ずくであろうハナコはともかく、アズサ達は純粋に期待していた分不憫だ。たまには息抜きも必要だろう。今の成績の伸びなら問題ないはずだ。

 

「今から私はゲヘナに大切な書類を届けに行きます。帰りは深夜になるでしょう」

 

「?」

 

 コハルとアズサは不思議そうな顔を見せ、ハナコはすでに顔を上げて微笑んでいる。

 

「その間の補習授業部の監督は先生だけになります。よろしくお願いします」

 

“もちろん!”

 

「事件は起こさないでくださいよ」

 

 そう言い残し資料を片手に別館を後にする。雨上がりの空気は澄んでいて気持ちが良い。良い夜になるだろう。




 水着パーティーはしたかったのですが、前回の話の流れから洗濯物は取り込んでしまうので、雷に頑張ってもらいました。カヤの覚悟礼装は今後出て来るかは未定ですが、どこかで出したいですね。
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