シャーレの不知火さん   作:おかだんごむし

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間話 シスターフッド

 私にとっては懐かしい、しかし同時に荘厳な雰囲気を放つ大聖堂。この建物こそが黒い噂が絶えないシスターフッドの本部である。

 

 それにしてもここを訪れるのはいつぶりだろうか。()()()以来足が遠のいていた。

 

「失礼します、守月スズミです」

 

「スズミさん、何かご用ですか?」

 

 あの時の恐怖を振り払うようにそう宣言して足を踏み入れると奥からヒナタが姿を表した。

 

「サクラコ様にお会いしたいのですがいらっしゃいますか?」

 

「ごめんなさい、サクラコ様は只今留守にしておりまして」

 

「いえ、こちらこそ連絡もせずに訪問して申し訳ありません。いつならお会いできますか」

 

 頭を下げるヒナタに罪悪感を感じながらも食い下がる。

 

「うーん……。最近のサクラコ様はお忙しいので私にはわかりかねます。お役に立てず申し訳ありません」

 

「いえ、丁寧な対応をありがとうございます、また出直します」

 

 そうなればもうここに用はない。予め連絡を入れるべきだったと肩を落とす。

 

「私からもサクラコ様に声をかけておきますから元気を出してください」

 

 昔のように気軽には会えなくなったのだと落胆する私をヒナタが慰めてくれる中、

 

「それには及びませんよ、ヒナタさん」

 

 背中から聞き覚えのある声がかかる。

 

「お久しぶりですね、スズミさん」

 

 振り返るとそこにはシスターフッドのリーダー、そして私に学ぶことの意味を教えてくれた恩人である歌住サクラコが他の部員を引き連れて微笑んでいた。

 

「今日はどんな御用ですか?ただの相談なら私を指名しませんよね」

 

 やはり彼女は頭が回る。こちらの意図はお見通しらしい。

 

「vanitas vanitatum et omnia vanitasの本当の意味が分かりました」

 

だからそれだけで十分だった。

 

「……ふふ、承知しました。()()()()()する必要がありそうですね」

 

 それを聞いたサクラコ様は特に驚いた様子も見せずに他の部員に指示を出す。

 

「スズミ様、こちらに」

 

 部員の一人が案内してくれる。ついて行くと地下室のようだ。節電のためか薄暗く不気味な雰囲気だが、よく見ると掃除が行き届いているのかとても清潔感がある。

 

「こちらのお部屋でお持ちください」

 

 案内されるままに部屋の一つに入る。中は質素なものだった。机と椅子しかない。しかし、大分歩かされた。大聖堂に地下室があるのは知っていたがここまでの規模のものだとは想像以上だった。

 

 少しして、サクラコ様が大きな鞄を持ったヒナタを引き連れて部屋に入ってくる。ヒナタは()()()()を鞄から取り出し机に並べた後、一礼してから退室し重厚な扉を閉める。その重々しい音が部屋に響き渡った。

 

「さてと、まずは……」

 

 サクラコ様は()()の一つを手に取ると……

 

「お茶にしましょうか」

 

 

「ふふ、この部屋は外に声が漏れませんし、電波も届きません。隠れて()()をするのにとても向いているのですよ」

 

 そう言いながらサクラコ様は淹れたてのお茶とお菓子を机に並べる。彼女はその含みを持たせた物言いのために誤解されることが多いが優しい人物である。

 

「どうぞ、私もできる事なら楽しく()()したいですから」

 

 彼女はそう言って微笑む。しかしながらその笑顔に妙な威圧感があるのは事実である。

 

「それでは、お言葉に甘えて」

 

 しばらくお茶とお菓子を食べながらお互いの近況を報告し合う。天気のことやスイーツのことなど女子高生らしい会話をする。それがひと段落したところで

 

「では、本題の方に移りましょう」

 

サクラコ様の提案で部屋の緊張感が一気に高まる。

 

「……分かりました」

 

「単刀直入に申し上げると、初期の段階からシスターフッドはスズミさんをアリウス分校の出身の生徒と判断していました」

 

「根拠を聞いてもよろしいですか?」

 

「……良いでしょう。まずはスズミさんの銃の刻印ですが、こちらの説明は不要ですね?」

 

「はい」

 

「分かりました。いくつかある根拠の一つは、発見された場所と状況です。スズミさんはカタコンベ(地下墓地)と地上の出入り口付近で発見されました。それも集団に暴行を受けたと考えられる状態で……」

 

「……!?それは初めて聞きました。私はただ怪我をしていたとだけ伝えられたのですが……」

 

「本人が怪我の原因を覚えていないと言う以上、追求は避けたようです。何よりキヴォトスでは流通の制限されている弾種による銃創でした。犯人の特定は難しくない。そう考えたのだと思います。事実あの弾種を使用した記録が残っている組織があります」

 

「それがアリウス分校だったと言うことですか?」

 

 私の問いにサクラコ様は気まずそうな表情を見せる。

 

「いいえ、シスターフッド……正確にはユスティナ聖徒会です」

 

 息を飲む私に構わず話は続く。

 

「かつて、トリニティの治安維持組織として活動していたユスティナ聖徒会は強力な銃の携行が許されていました。その時代の弾種でした」

 

「待ってください。ユスティナ聖徒会とアリウス分校には繋がりがあったと言うことですか?」

 

「はい、アリウス分校を弾圧していたのは他ならぬユスティナ聖徒会ですから」

 

「えっ……」

 

「混乱するでしょうが落ち着いてください」

 

 サクラコ様はお茶を継ぎ足し渡してくれる。そして私がそれを飲みきるのを待ってから再び話し始めた。

 

「先ほども言いましたが、我々シスターフッドはかつてユスティナ聖徒会と呼ばれる治安維持組織でした。アリウス分校の弾圧の際はそれを取り仕切っていた記録が残っています」

 

「シスターフッドがトリニティの政治に不干渉なのはその時の反省を踏まえての判断です。何せ政争の道具になってしまい、あまつさえ守るべきトリニティの生徒に危害を加えてしまったのですから当然です」

 

「しかし、ユスティナ聖徒会は弾圧と同時にアリウス分校の逃走を手助けし、保護と支援を行っていました」

 

 そこまで一気に話すとサクラコ様は一息つく。一方で私はさらに混乱していた。

 

「ユスティナ聖徒会は弾圧を行いながらもその保護もしていた?どういうことですか?」

 

「矛盾はしていません。ただ純粋にトリニティの生徒を守りたかったのでしょう。内紛を収めるために弾圧を行い、その犠牲者の逃走を秘密裏に手助けすることで、全員を終わりのない暴力から救おうとしたのかもしれません。もちろんその意図が明文化された記録は残っていませんからこれは私の推測にすぎません」

 

「なるほど……納得はしかねますが、筋は通っていると思います」

 

「そしてここからが重要なのですが、潜伏したアリウス分校にはその監視と保護のためにユスティナ聖徒会の生徒も在籍していました。その生徒達はその役割を示す名前を代々受け継いでいます。政(まつりごと)を執り行う()、その護衛の()()などです。その中の一つに治安維持を行う()()があります。これもスズミさんがアリウス分校出身であるという根拠の一つです」

 

「そこまでわかっていると言うことはシスターフッドはアリウス分校に在籍するユスティナ聖徒会と連絡を取り合っているのですか?」

 

「もちろんです。しかし、連絡は途絶えてしまいました……」

 

 サクラコ様の顔から笑みが消える。

 

「何かあったのですか?」

 

「内戦の発生を伝える暗号が届いてからそれっきりだと聞いています。スズミさんが保護される何年も前のことです。私たちもなんとか連絡を取ろうと試みたのですが、アリウス分校はその秘匿性の維持のため、正確な所在はシスターフッドですら把握していません」

 

「それでは、アリウス分校の位置を知る手段は……」

 

「存在しませんでした。アリウス分校を迫害から逃すための規則が裏目に出た形です。だからこそスズミさんは希望でした。アリウス分校の場所を知るための手がかりになると考え、保護し観察を行いました」

 

「……ご期待に添えず申し訳ありません」

 

「謝ることはありません。確かに期待はしていましたが、元はと言えば私達の不手際です。スズミさんが責任を感じる必要はありません。それはさておき、スズミさんはアリウス分校出身かつ重要な立場にいた。それにも関わらず、いえ……だからこそ内戦で傷つき逃れた結果、あの場所で行き倒れたと言うのが私の最終結論です」

 

「……どうしてこのことを教えてくれなかったのですか?」

 

「簡単なことです。聞かれなかったからです」

 

「やはりそうですか……」

 

「はい、本人が知りたがっていない以上、重荷になると考えました。ただ、それが結果的にスズミさんを苦しめてしまったのなら謝ります」

 

「いえ、もう気にしていません。銃の刻印を残したのもそう言うことですね」

 

「ええ、スズミさんがご自身の出自を知る機会を奪いたくなかったからです」

 

「ありがとうございます」

 

「ふふ、どういたしまして。少々喋りすぎた気もしますが、アリウス分校出身でありシスターフッドの構成員であったスズミさんには知る権利があると判断しただけです」

 

 ようやく部屋の緊張感が緩む。

 

「ただ、アリウス分校をシスターフッドが支援していたことはあまり言いふらさないで下さい。()()()()になってしまいますから」

 

「もちろんです」

 

 そこで聞きそびれていることに気づく。

 

「そういえば、アズサさんのことはどこまで?」

 

「ミカさんが招待したあの生徒ですか?当然、把握しています。ただし、シスターフッドは政治に不干渉の立場なので監視に止めています。スズミさんのように正義感の強い人のようですよ」

 

「いえ、私は誰かがしなくてはいけないことをしているだけです」

 

「謙遜することではありません。その姿は救われた生徒たちからどれだけ心強く見えているのか自覚した方が良いです。もうあなたはトリニティ自警団の守月スズミです。胸を張ってください」

 

 サクラコ様に真っ直ぐに見つめられて気恥ずかしくなっていると何かの声が耳に入る。

 

「……!!」

 

「この部屋は防音対策をしているのですよね」

 

「ええ、そのはずですが……」

 

「……!!」

 

 やはり何か聞こえる。少し耳を澄ますと少しずつ聞こえてくる。

 

「スズミさーーん。トリニティ自警団のヒーロー宇沢レイサが助けにまいりましたよ!!どこですか!!」

 

「レイサさん……」

 

「ふふ、良い友達を持ったようですね」

 

「ええ、優秀な後輩です。少し勘違いしているようですが、迎えに来てくれたようです」

 

「スズミさんのお友達なら私のお友達です。歓迎しなくては」

 

 そう言いながら、少し楽しそうなサクラコ様が扉に手をかけた瞬間、この部屋が防音されていたことを思い出す。

 

「あっ!待ってください!」

 

「覚悟してください!!シスターフッドの闇を暴いてやります!!」

 

忠告は間に合わず、丁度扉の前にいたレイサの絶叫が直撃し見事にひっくり返った。高性能な防音扉を貫通してきた叫び声が部屋を跳ね回ったのだ。無理もない。

 

「無事ですか。スズミさん!!地下室に連れ込まれたと聞いた時はどうなることかと……」

 

 涙目で捲し立てるレイサをなんとか落ち着かせ事情を説明したあと、苦笑いするサクラコ様に二人で平謝りすることになった。




筆者としてはユスティナ聖徒会が支援したにも関わらず、シスターフッドがアリウス分校の把握をしていないのは不自然なのでこのような話になりました。
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