シャーレの不知火さん   作:おかだんごむし

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再始動 FOX小隊 前編

「……こちらオトギ目標を発見」「……こっちも見つけた!」「私の方が早かったね、クルミ。約束通りドーナッツ奢りね」「うう、高台のスナイパーに人探しじゃ勝てないって!」

 

 D.U.の摩天楼を押しつぶすような灰色の空に気の抜けた声が飛び交う。

 

「私語を慎め、目標の確保が最優先。丁重に扱え向こうも混乱しているはずだ」

 

「「了解」」

 

 対照的にHQ(本部)には堅苦しい声が響いていた。

 

「こちらクルミ、目標を確保!」「こちらニコ、錯乱状態だった警護対象の沈静化を完了したよ」

 

「了解、クルミはオトギと合流後に帰投、ニコは現状維持」

 

目まぐるしく変化する状況を正確に把握し、指示を出し、

 

「「「了解」」」

 

皆の返事に作戦の成功を確信した。

 

「ただいま〜」「ちびっ子!お母さんを連れてきたぞ!」

 

 しばらくしてクルミとオトギの良く通る声と共にHQ(交番)の扉が勢いよく開かれる。

 

「ママ〜!」

 

 次の瞬間、ニコの胸元でぐずっていた子供が弾かれたかのように駆け出し、母親に抱き止められる。

 

「もう、どこに行ってたのよ!」

 

 叱りながらも母親が子供を優しく抱擁する。そんな感動の再会……ではあるのだが……。

 

「迷子になっていたのは30分くらいなのに。何を大袈裟な……」

 

「ユキノ、子供にとっての30分は長いよ」

 

「……すまない」

 

 漏れ出してしまった本音をニコに嗜められる。ニコイヤーは地獄耳だ。素直に謝罪する。彼女から学ぶことは多い。子供との関わり方はその最たるものだ。そんな事を考えていると何やら子供が騒ぎ始めた。

 

「お巡りさん約束のアレ!」

 

 それを聞いたニコは懐から何かを取り出す。

 

「ふふ、約束通り一人で頑張った君にはこれを進呈しよう」

 

「わー!お巡りさん、ありがとう!」

 

 気になったので覗き込む。

 

「これは?お稲荷さんのキーホルダー?」

 

「私お手製のお守りだよ。ユキノもいる?」

 

「……遠慮する。そういうの可愛いらしいのは私には似合わない」

 

「……」

 

 無言で押し付けようとするニコの猛攻を凌いでいると母親が頭を下げてきた。

 

「本当にありがとうございました」

 

「いえ、仕事ですから」

 

「そこはどういたしましてだよ。ユキノ」

 

「……どういたしまして」

 

 反射的に出た事務的な返事を、またしてもニコに修正されてしまう。

 

「それじゃあ、気をつけて帰るんだよ」

 

「バイバーイ!」

 

 親友(ニコ)が子供に笑顔を向けられるのに対し、こちらは一瞥もされない。自分がニコほど親しみやすくないのは自覚しているが、こうも露骨に反応が違うものなのか。傷つかないといえば嘘になる。

 

 だが、自分に向けられたものではないとしても笑顔はやはり良いものだ。去ってゆく親子の姿を見送っていると不意にシャッター音が鳴り響いた。

 

「……クルミ?」

 

「あ……いや、いい笑顔だったから、思わず撮っちゃった……」

 

「……」

 

「あっあっ、無言でにじり寄ってこないでよ!オトギ!パス!」

 

「わぁ、ニコ、パスゥ……って、あれ?いない」

 

「逃げたな!卑怯者!」

 

「……消去しろ」

 

「「断固拒否(Negative)!」」

 

 逃げ回る2人を追いかけ回し、ニコはそれを少し離れたところから微笑ましそうに眺める。少し前までの私たちでは想像もつかない風景だ。これが今のFOX小隊……改めヴァルキューレの何の変哲もない交番勤務の日常だ。

 

 ……この不可解な状況に至った経緯を説明するには少々時間を戻す必要がある。それはサンクトゥムタワー襲撃後の潜伏中、サバイバル生活にも飽きが出てきた頃、来訪者が現れたのだ。

 

「お久しぶりですね。FOX小隊」

 

 その正体は不知火カヤ防衛室長、キヴォトスの防衛室のトップその人だ。間違ってもテロリストを追って潜伏先の廃墟に単身現れるような立場の人物ではない。しかし想定内ではある、

 

「ご無沙汰しております、防衛室長」

 

なぜならこの場所を彼女に教えたのは私たち自身だからだ。

 

 

「どうぞ、お口に合えば良いのですが……」

 

 カヤを部屋に案内するとニコがそっとお茶とおいなりさんを出す。

 

「手厚い歓迎痛み入ります……なぜ稲荷寿司?まあ、いいでしょう……あなた方は私の部下ではないのですから砕けた口調で構いませんよ」

 

「……そうか、わかった。しかし、護衛もつけずに一人とは無警戒すぎないか?」

 

「私には必要ありません、それともあなた方に勝算でもあるのですか?」

 

「……」

 

「相手の実力を見極めるのは荒事の多いこの業界では必須技能ですからね」

 

 沈黙を肯定と取ったのかカヤは意地悪そうに笑う。

 

「その様子だと交渉はうまく行ったのか?」

 

 事前に決めていた通りニコが録音を開始しているはずだ。悟られないよう平静を装う。

 

「ええ、あなた方もリン行政官の決定は聞いたでしょう」

 

「……SRT特殊学園は責任者(連邦生徒会長)の不在を理由に閉鎖、在籍していた生徒は連邦生徒会の支援により転入だったか……」

 

 数日前に事務的にリンが読み上げていたのをラジオで聞いた。

 

「本来、行政官にそこまでの権限は許されていないはずだ」

 

「腐っても代行ですからね。確かに権限は微妙ですが、SRTの人員を制御下に置くことに反論の余地はないでしょう。私もそれには賛成ですからね」

 

 カヤの表情が消え横長の瞳孔が真っ直ぐとこちらを射抜く。

 

「罰を受ける覚悟ならとうに出来ている」

 

 それから目を逸らさずに答える。

 

「……良い顔をしますね。感動的です」

 

 しばらく続いた沈黙はカヤがいつもの笑みを貼り付けたことで終わり、

 

「……しかし無意味でしたね」

 

続く一言で空気が凍りついた。

 

「それってどういう意味ですか……」

 

 怒気をはらんだ言葉と共にニコが詰め寄るが、怯むことなくカヤは続ける。

 

「あなた方は無罪ですから」

 

「……え?」

 

 そう溢したのは誰だったのか、全員だったかもしれない。私たちを支配していた感情は混沌に塗りつぶされてしまった。

 

「処分の根拠としましては襲撃がSRTの閉鎖前だったことで、書面上は正規の作戦として事後承諾できたこと。廃校に強硬姿勢を崩さなかった室長が病院送りになり連邦生徒会の政治的なバランスが大きく変化したこと。そして何よりあなた方が集めた不正の証拠を使って私が廃校派から十分な譲歩を引き出せたことが大きかったですね」

 

 対して混乱の元凶は無罪の理由を粛々と並べ立てている。

 

「双方にとって最悪のケースは襲撃が明るみに出ることです。仮にそうなれば連邦生徒会はさらに求心力を失い、SRTは危険因子と判断され廃校、機密保持の名目で生徒の学籍データすら抹消され再興の望みすら絶たれることでした。幸いユキノ隊長の慧眼故にそれは避けられました」

 

 そう言いながらカヤは手を差し出してくる。

 

「しかし約束はまだ果たせていません。あなた方FOX小隊には私の下で働いてもらいます。SRT再興のために」

 

 だが、私はその手を取れないでいた。

 

「何を迷っているのですか?今更怖気付きましたか?」

 

「いや……だが、どうしてここまで協力的なんだ。ヴァルキューレに加え、カイザーコーポレーションをはじめとした企業とのパイプもある。私たちにこだわる必要はないだろう?何が目的だ?」

 

 当然の疑問だった。しかし、その答えはこちらの予想を遥かに超えたものだった。

 

「私の最終的な目標は銃が存在しない平和で幸せなキヴォトスです」

 

「……正気か?」

 

「正気ですよ。今のキヴォトスは先生のような外の人間には過酷な環境です。これはキヴォトス外の企業を誘致する上での最大の障害になっています。特に都心部における銃火器の普及は百害あって一理なしです。しかし、今の連邦生徒会には完全な銃規制など到底期待できません」

 

 確か、銃火器の普及はそれに対処するヴァルキューレの重武装化に繋がり予算を圧迫している。これは企業との癒着の遠因でもある。一方で規制するとなると既得権益の問題が付き纏うはずだ。これを短期間で劇的に解決できる政治的手段は私は一つしか知らない。

 

「そのために独裁者にでもなるつもりか?」

 

 その言葉にカヤの笑みが深くなる。

 

「理解が早くて助かります。目下の目標は連邦生徒会長代行(独裁者)となることです。そのためにはクーデターによる政権の奪取ですらも視野に入れる必要があります。ともするとSRTの中で最も優秀と謳われるFOX小隊、その能力は魅力的です」

 

「優秀?無意味な襲撃を独断で行い、無関係な体育室長に怪我を負わせてしまった私たちが?」

 

 けれどもわからない、彼女に私たちのどこが魅力的に見えているのか。

 

「……体育室長が怪我?あ……あのバカのことですか」

 

 カヤの口から舌打ちが漏れる。

 

「だからなんで前に出て事故を起こすんでしょうか」

 

 何事か小声で呟いたカヤは自分を落ち着かせるように大きく息を吐くと、顔を上げるといつもの笑顔で、

 

「大義のためのやむを得ない犠牲だと考えるべきでしょう、お気になさらず」

 

そう言い放った。

 

「誤射ならまだしもハイネ自らの意思で抵抗し怪我を負ったのですから、公務執行妨害として処理されています。それに襲撃に関してもあなた方の手綱を握れなかった我々の責任です」

 

「あの日、あなたは誰に命令されることもなく自らの意思で、自身の正義を貫き通すために最善を尽くした。これは誰にも否定できない事実です」

 

 カヤの言葉は耳触りが良い、まるで……まるで私の嫌いな大人のようで……

 

「私は過ちを犯した。これも事実だ」

 

だからだろう、つまらない意地を張ってしまう。

 

「ええ、確かにそれも否定出来無いでしょう。しかしながら、人生が選択の連続である以上、常に正解を導けると言うのは傲慢な考え方です。だからこそ過ちを認め許し、その未来を守るのが私たち責任を負う者の役割です」

 

 だが、そんな意地も無意味だ。

 

「それに何より」

 

 なぜなら、

 

「あの過ちが無ければ私達は出会っていないでしょう」

 

 私は彼女を気に入ってしまっている。

 

「そうだな」

 

 あの日、私の正義が折れた日からずっと考えていた……

 

「だが、私たちが連邦生徒会にとって危険因子であることに変わりはない。いつ裏切るのか分からないのは理解しているのか?」

 

 彼女は私たちを導いてくれるのかどうか……

 

「いつ弓を引くか分からない相手を味方に引き込む……確かに凡人は躊躇する判断でしょう。しかし、凡人に出来ないことを成し遂げてこそ、超人足り得るのです」

 

 いや、小隊の皆を巻き込んでしまった私に彼女に着いて行く価値があるのか……

 

「私の武器になる覚悟は出来ましたか?」

 

 カヤが改めて手を差し出してくる。

 

「……現時刻を持ってFOX小隊は正式に防衛室の指揮下に入る」

 

 だがもう迷いはなかった。その手をしっかりと握る。

 

「これでFOX小隊はヴァルキューレへの編入となりますね。()()しますよ」

 

 カヤが笑顔でそう言うと片手を上げた。次の瞬間、周囲の物陰から完全武装の生徒たちが現れた。装備はヴァルキューレのものだが様々な部署が混ざっている。混成部隊だろうか?しかし、奇妙だ、彼女たちの雰囲気に懐かしさを感じる。

 

「護衛はいないんじゃなかったのか?」

 

「人の言葉は鵜呑みしないことをお勧めしますよ。私でも四方に逃げられれば手間ですからね」

 

 睨みつけるも涼しい顔で返される。

 

「それにこれは別の約束ですからね」

 

「別の約束?」

 

 話している間にも包囲が完成に近づく。

 

「皆さん、現時点をもちましてFOX小隊はあなた方の後輩となりました。怪我をしない程度に可愛がってあげて下さい」

 

 カヤのその言葉でようやく気づく、展開する生徒たちの正体に……。

 

「あちゃー」「これは……」「そこにいたんだね……みんな」

 

 小隊が皆が苦笑いをしながら戦闘体制になる。

 

 そう彼女達(警備局員)は元同僚(SRT)であり、これからの先輩であることに……

 

「人事に関しては追って連絡いたします。……ご武運を」

 

 その言葉と共にカヤが踵を返す。次の瞬間、歓迎会(戦闘)が始まった。

 

 

 この後私たちは敵部隊の半数を返り討ちにと奮戦したものの、多勢に無勢で最終的に取り押さえられた。その後はニコを中心に料理上手なメンバーが腕を振るいちょっとしたパーティーになったのは別の話である。




 本編ではどうやってカヤはFOX小隊を懐柔したのでしょうか、語られることはあるのか。カルバノグ3章が来るまでのお楽しみです。
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