シャーレの不知火さん   作:おかだんごむし

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再始動 FOX小隊 中編

 満天の星空の下、寂れた森の一角が喧騒に包まれている。

 

 その正体は炎を囲み、楽しそうに雑談している子供達だ。煌めく炎に照らされた若さ溢れる笑顔はキラキラと輝いている。

 

 すると1人の少女が皆に囃し立てられながら箱の上に上がる。少女は黒髪に可愛らしい狐の耳を震わせながら皆の前に立つと、普段のしかめっつらを恥ずかしそうに綻ばせた。

 

「全員揃ったといえないが……改めて再会に乾杯」

 

「「「「「乾杯!!!」」」」

 

 その音頭に歓声が上がる。私はそれを少し遠巻きに眺めて……いや、あれは私だ。なら私は誰だ。それに気づいた瞬間に喧騒が嘘のように遠のいた。

 

……目を開くとにっこりと笑ったニコと目が合った。

 

「おはよう、お寝坊さん」

 

「……おはよう、ニコ」

 

 ゆっくりと周りの状況を確認する。どうも事務作業中、気付かない内に寝てしまったようだ。

 

「どれぐらい寝てた?」

 

「15分ぐらいかな?疲れてたんだね」

 

 確かクルミとオトギからカメラを奪い取って……、遺失物の書類をいくつか仕上げたことまでは覚えている。

 

「随分と楽しそうな顔をしてたけどどんな夢を見てたの?」

 

 とても良い夢だった気がする……。けれども思考を巡らせれば巡らせるほど、記憶がこぼれ落ちてしまう。

 

「……思い出せない」

 

「じゃあ()()()()夢じゃなかったんだ」

 

「そうだろうな、けれど心地の良い夢だった」

 

「そっか……」

 

 するとにやけたオトギと呆れ顔のクルミが近づいて来た。

 

「しっかし、あのユキノが居眠りとはね〜。作戦中じゃ無いとはいえ気が緩んでいるんじゃない?」

 

「今は勤務時間中よ。本当に大丈夫?」

 

 二人とも態度は違えど心配してくれているらしい。一方クルミの言葉を聞いたオトギは鳩が豆鉄砲を喰らったかのような顔をしている。

 

「あれ?じゃあ私がカウンターでたまに仮眠を取ってるのは……」

 

「完全にアウトよ!」

 

 クルミとオトギの恒例の漫才を受け流しながら警らの準備のために席を離れる。

 

「クルミとオトギは留守番だ。ニコ、一緒に来い」

 

「了解」

 

 

 警らとは言っても街中を歩き回るだけではない、異常や困っている人がいないか探しながら注意して巡回する。しかし街は至って平和な状態のようだ。

 

「まさか、生活安全局で勤務する日が来るとはねー」

 

 暇なのか隣を歩くニコが話しかけてくる。少し前の私なら私語をするなと注意しただろうが、それは作戦中の話だろうと逆に言いくるめられてしまったのは記憶に新しい。それに加え先ほど居眠りもしてしまった。もはや小隊長としての尊厳が残っているのか甚だ疑問である。

 

「結局、他のみんなは警備局や公安局に編入してたんだな」

 

「元鞘に戻ったっていうことだろうね。私達は反省を兼ねてここみたいだけど……」

 

「少なくとも警備局なら最低限訓練も出来るんだがな」

 

「そうだねSRTにいた頃は毎日訓練で……実戦の方が楽なぐらいだった」

 

「今からでも警備局に移動できないのか?」

 

 私と違い、すでにニコはその人当たりの良さを活かして人脈を広げている。何か知っているかもしれない。

 

「最近知り合ったキリノちゃんって子から聞いた話だと、手柄を立ててそれを上から認められれば異動出来るみたいだよ」

 

「論外だな」

 

 悪くはないがこれは一番上からの命令なのだ。功績程度でひっくり返せるわけがない。

 

「じゃあ、公安局は?あんな形とはいえ一応局長とも顔見知りだし、便宜を図ってくれるかも」

 

「断固拒否だ」

 

 ここで頼めば生活安全局での勤務に音を上げたようではないか。特にあの飼い犬の下につくのはこちらから願い下げだ。

 

「相変わらず頑固だねー」

 

 そんな私の意地を見抜いているのかいないのか、ニコは優しい笑顔で見つめてくる。

 

「でも焦らなくても良いと思うよ。今まで考える時間すら無かったんだから」

 

「ああ」

 

 確かに思い返してみれば、SRT創設時のメンバーとしてずっと連邦生徒会長の命令をこなすだけの日々だった。先を、将来を考える余裕も時間も無かった。

 

「もちろん、今の環境に甘えるつもりはないよ。いつかはSRTを取り戻す。そうでしょ、ユキノ」

 

「そうだな、だが今じゃない」

 

「……随分と惚れ込んだんだね。あの人に」

 

「信じてみたい、そう思ってしまったからな」

 

「……そっか本当に良かったよ」

 

 何故か声が背中からかかる。振り返るとニコがいつの間にか俯き歩みを止めていた。

 

「どうした?」

 

 心配になって近づくと不意に顔を上げたニコと目が合う。

 

「会長が失踪してからずっと心を殺してたでしょ」

 

 震えるその声に、私を見つめるその瞳に安堵と後悔が浮かぶその意味に気づいた瞬間、一気に悔恨の念に襲われる。気がつくとニコを抱きしめていた。

 

「すまない、心配をかけたな」

 

 ニコの耳が不満そうに頬を叩いてくるがしばらくすると背中に腕が回る。

 

「大丈夫……ちょっと悔しかっただけだから

 

 私の胸で震える少女が発した言葉は、丁度通過した戦車にかき消されてしまった。

 

「……?何を言ったんだ?」

 

「ん〜、秘密」

 

 そう言いながらニコは私の腕からするりと抜け出す。

 

「そうか」

 

 今のニコからは有無を言わさぬ迫力を感じる。追求しない方が良いだろう。

 

 SRTの頃の変わらないと信じた正義のために全力を尽くす日々も好きだったが、小さな不幸を解決し、知り合いの輪を広げ、仲間と将来を話し合う、こんな日々も悪くはない。だが、これで終わらないのがキヴォトスという学園都市であることを私たちは改めて思い知ることになる。

 

 始まりは一本の無線からだった。 

 

 

『D.U.内の全職員に緊急連絡、オクトパスバンクにて強盗事件発生、付近の職員は警備局出動まで市民の安全を確保すること、以上』

 

 突然の一報に交番が静まり返る。

 

「オクトパスバンクっていえばすぐ近くじゃない?」

 

 最初に動き出したのは支給品のシールドの手入れをしていたクルミだった。

 

「カイザー系列のフロント企業だから、PMCがいるはずだよね?」

 

 オトギもライフルの整備を中断し、組み立てを始める。

 

「それにも関わらず、ヴァルキューレに助けを求めたってことだね。その上警備局に直接出動要請なんて、相手がよっぽど重武装なのかな」

 

 極め付けにニコが()()装備の点検を開始した。

 

「……市民の安全を確保するだけだ、それ以上の命令はない。わかっているな」

 

「「「了解」」」

 

 皆に釘を刺すも、私も久々の実戦になるかもしれないと少し昂っていたのは否定できない。

 

 

 現場に到着すると2人の生活安全局がいるのが目に入る。

 

「流石、早いな」

 

 どうも2人は負傷したPMCの兵士の後退を援護するため前衛を張っているようだ。ツインテールの方は拡声器で交渉しようと呼びかけている。

 

「どうする?強盗の初期対応は初めてだから見学させてもらう?」

 

 そうオトギが言った途端、爆発音と共に二人が遮蔽に使っていた車両ごと吹き飛んだ。

 

援護(Cover)!!」

 

 反射的に叫んでいた。すぐさまクルミを先頭にしてニコと共に突っ込む。それと同時にオトギが煙幕を展開しながら狙撃位置に移動を開始する。

 

 2人に近づくと白髪のショートの方は華麗な受け身で無傷だが、小柄なツインテールの方は頭から地面に激突したためか完全に気を失っている。すぐさま首を固定して移動の準備をする。

 

「ぐっ!?盾が持たない!!」

 

 処置をしていると敵の集中砲火に一手に引き受けるクルミの悲鳴が耳に飛び込んでくる。

 

「オトギ!援護射撃!」

 

「了解!」

 

 その余裕のなさそうな声に支援を要請すると、鋭い銃声と共に次々敵が倒れる。だが次の瞬間にはオトギの居た場所に砲撃が叩き込まれた。反撃が早すぎる上に異様に正確だ。とにもかくにも負傷者がいる以上無理はできない。安全な場所に移動することが最優先だ。

 

「後退するぞ!手榴弾投擲!」

 

 号令に怯んだ相手に間髪入れずにスモークグレネードを投げつけた……

 

 

「全員無事か?」

 

 現場から十分に離れた路地裏に逃げ込み。ようやくひと息つく。

 

「なんとかね。防弾ジャケットがなかったらヤバかった」

 

 クルミが砕けた盾を取り外しながら答える。

 

「本官も無事です。ありがとうございました」

 

「どういたしまして、キリノちゃん。フブキちゃんを背負ってよく頑張ったね」

 

 ニコは生活安全局の2人を労っている。どうも白髪のショートがキリノ、気絶している青髪のツインテールがフブキらしい。

 

「助かったよ、狐の嬢ちゃん。ほら、お前も」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 そう言って頭を下げて来たのは撤退しようとしていたカイザーPMCの兵士(ロボット)だ。先ほど戦闘で片足を失ってしまったのか今は同僚の少女に支えてもらっている。

 

「後はオトギか……」

 

 オトギのいたはずの砲撃痕に目を向けた瞬間、無線が音を立てる。

 

「オトギよりユキノへ、連装砲を搭載した重戦車一両に加え軽戦車も二両確認、ほか歩兵が多数……おっと、見たこともないパワードスーツを着た奴までいる。こりゃあ大所帯だね」

 

「無事なら先に言え」

 

「ごめん、移動を優先した」

 

「室内の様子は?」

 

「遮蔽されててわからない」

 

「了解、監視を続けろ」

 

「了解」

 

「……ふぅ」

 

 正直ここまで大事になるとは思わなかった。思えばSRT時代は多少の不確定要素はあれど、基本的に情報戦では優位に立てていた。今はそれがない。ならやる事は一つだ。

 

「情報が足りません。えぇと」

 

 情報収集のために兵士(ロボット)に話しかけようとするも、名前がわからない。そもそも彼らに名前はあるのだろうか?

 

「ん?俺の名前はA-10でいいぞ」

 

 きちんとあったようだ。

 

「わかりました。A-10さん、犯人の数と配置はわかりますか?」

 

「敵の数と配置だな、おい相棒!」

 

「もう、人使いが荒いなあ……」

 

 文句を言いながら相棒と呼ばれた少女がタブレットをA-10に接続する。

 

「すごい……」

 

 そこに表示された映像にニコが驚きの声を上げる。それもそのはずタブレットには室内の様子が鮮明に映し出されていたのだ。

 

「うちの会社自慢の戦術データリンクシステム、鷹の目だ」

 

「なんのためにこんなものが……」

 

「少し前に系列店で銀行強盗が発生してな。防犯カメラの配置が割れてたみたいで、犯人の映像がほとんど残っていなかったんだよ。以来こうやって緊急時には職員の携帯端末や視覚情報に直接アクセスできるようにしたのさ」

 

 A-10が自慢げに話す中、私も映像を確認する。外からはわからなかったが敵はかなりの数がいる。

 

「なるほど大まかな配置は理解しました。よくこの状況で脱出できましたね」

 

「いや、脱出はしてない。そこに現金輸送車が転がってるだろ、あれの護衛だったのさ」

 

 A-10の示す方には確かに先ほどキリノ達が盾として使っていた装甲車が横転している。

 

「本部からの連絡が遅れたせいで強盗犯と鉢合わせして下手打った。そこの2人と相棒がいなけりゃ今頃スクラップさ」

 

「連絡が遅れた?人手が足りてないのですか?」

 

「あー、最近あった大規模な武力衝突で戦力の大半が戦闘不能になってな、今大規模な再編中だから最低限の数で回してるんだよ」

 

 カイザーPMCのマンパワーで再編が必要になるほど疲弊する戦闘、どんな相手だったのだろうか。興味はあるが今は関係ない。

 

「ニコ、クルミ、敵の人数と配置、人質の数と状態の確認を頼む」

 

「「了解」」

 

「次はキリノ、君から話を聞こうか。知っている情報をすべて教えて欲しい」

 

「了解しました!本官が到着したのは通報から3分後で、戦闘に巻き込まれた結果戦車からの砲撃で吹き飛ばされてしまいました!」

 

「もう少し詳しく話せるか?」

 

「あっ、えーっと……」

 

「私達はマニュアルに則って交渉から始めようとしたんだけど、すでにPMCと強盗犯の戦闘がはじまっちゃっててね」

 

 言葉に詰まったキリノに助け舟を出したのは先ほどまで気絶していたフブキだった。

 

「無事で良かったです、フブキ。痛むところはありませんか?」

 

「首がめっちゃ痛いから揺らさないで」

 

 フブキは心配なのかまとわりつくキリノを制し続ける。

 

「それで私達も見てるだけってわけにもいかないんで、色々やってなんとかこう着状態にしたから交渉に持ち込もうとしたんだ。だけど、聞く耳持ってくれないし、そうこうしているうちに戦車が来ちゃってこの有様だよ。特にあの重戦車はやばい。こっちの弾が全く通用しない」

 

「了解した。警備局の到着予想は?」

 

「それがまだ出動準備……の書類に判子を押すかどうかの審議中だと思います。少なくとも現着まであと1時間はかかると……」

 

 キリノがバツが悪そうに答える。D.U.は連邦生徒会の直轄地だ。にも関わらずこの遅さ、警備局の腰の重さは噂通りだったらしい。もちろんそんな悠長なことをしている場合ではないのは誰の目にも明らかだ。

 

「上に敵の戦力を正確に伝えてほしい、そうすれば危機感を持つかもしれない」

 

「了解しましたが、期待しないでくださいよ」

 

 これでほとんどの情報が出揃った。制圧は可能かシミュレーションを始めるも良い作戦が浮かばない。一番の問題は火力の不足だ。

 

 こちらの武器は小型円形のライオットシールド、拳銃(リボルバー)散弾銃(ショットガン)自動小銃(マシンガン)に、狙撃銃(ライフル)そして煙幕弾(スモークグレネード)。どれも支給品で整備は十分とはいえSRTの頃のものと比べると貧弱な装備だ。当然、攻撃ヘリによる近接航空支援も砲兵による火力支援も期待できない。対して相手は数もこちらの倍以上な上に戦車にパワードスーツと完全武装だ。

 

「あっ、この親子……」「本当だ。このストラップ、間違いない」

 

 するとタブレットの画像を確認していたクルミとニコが何かに気づく。

 

「……どうするユキノ」

 

 そう言いながらニコが示した画像には怯えた様子の親子が写っている。その子供の手には見覚えしかないストラップが握られていた。

 

「……いや、現状の戦力では制圧は難しい。足止めをしつつ警備局の到着を待とう」

 

 業腹だが現実的な妥協点だ。だがその妥協点に納得できない者達がいた。

 

「ちょっとキリノちゃん」

 

「たった1人で何をするつもりだ」

 

 ニコの制止を振り切って敵に突っ込もうとするキリノの前に立ち塞がる。

 

「わかりません。でも、本官は泣いている子供がいるのなら放ってはおけません」

 

 迷いは一切感じない目だ。本気でそう思っているのだろう。だがこちらも皆の安全のためにも譲るわけにはいかない。

 

「私はキリノに賛成かな、あいつらの目的は分からないけど交渉に応じない以上、突発的な犯行とは考えづらい。警備局の到着時間もこちらからの妨害も計算入れて計画を立てているはず。待ってたら手遅れになるよ」

 

 キリノと睨み合っているとフブキが首の固定を外しながらキリノの隣に立つ。

 

「あれ?怪我は大丈夫なのですか、フブキ?」

 

「サボれそうだと思ったんだけど、そんな雰囲気じゃないからさ。何よりやられっぱなしってのも癪だし」

 

 表情は気怠げながらもその目はキリノと同じだ。

 

「だけど、根本的に火力が足りない。こっちの火砲じゃ、あの重戦車の装甲を抜けないぞ」

 

「逆に言うと他には通用するんだから、戦いようはあるんじゃない」

 

「ええ!やってみれば案外上手くいくかもしれませんよ!」

 

「それはそうかもしれないけど」

 

 そんな2人をクルミも止めようと説得しようとするが、劣勢だ。

 

「火力が問題なんだなよな」

 

 するとその様子を静かに眺めていたA-10が話しかけてくる。

 

「そうだが、何か妙案でもあるのか?」

 

「俺は学がねぇから策なんて思いつかないが、腐ってもカイザーコーポレーションの社員だぞ。ビジネスチャンスは見逃さねぇよ。なあ相棒」

 

「も、もちろんです。我が社は重装甲の目標を攻略するための商品も取り揃えています。それで今回用意させてもらったのがこちらになります」

 

 そこには各種爆発物、対戦車ミサイルや対物ライフルだけではなく大型の盾まである。

 

「「「……」」」

 

「準備が良すぎないですか?」

 

 キリノの呟きはは恐らくその場にいた皆の総意だっただろう。

 

「賢い大人ってのは切り札を用意してるもんさ」

 

「う、嘘です、大半はウチの標準装備ですよ。人がいなくて物資が余っているんです。まあ、一部はこの人が私物を社用車に保管していただけものですが……」

 

「お、おい!ちょっとは格好つけさせろ!」

 

「……武器オタク」

 

「この野郎!」

 

 PMCの2人が浪漫がどうこうと言い合いを始めるがこちらはそれどころではない、想定が前提から崩れたのだ。

 

「あるなら最初に教えて欲しかったかな……」

 

「やる気があるかどうかわからない奴らに、ウチの大事な商品を託せるわけないだろう」

 

 ニコのぼやきには同意だが、A-10の意見も理解はできる。私もSRT時代の装備を見知らぬ相手に売る気にはならない。

 

「これは経費で落ちるだろうし私は構わないけどさ〜、勝手に売っていいの? 違法じゃない?」

 

「商品を売る相手は拘りはねぇよ。それに嬢ちゃん達は武器が手に入って嬉しい、俺たちは人手が手に入って嬉しい。商売ってもんはそんなもんだ。それに違法かどうかなんてのはあとで上が考えるさ。今は現場のベストを尽くす時だ」

 

「そうですよ、フブキ!たとえいつも迷惑をかけられるカイザーの社員といえど、こんな時には助け合わないと!」

 

「……なんか、ごめんな。これ終わったら奢るよ」

 

 キリノの悪意のなさそうな言葉に流石のA-10も苦笑いしている……気がする。

 

「おお、太っ腹〜。ちゃんと払えるの?」

 

「ぴ、PMCは給料だけはいいですから、ま、回らないお寿司、期待して下さい」

 

「本当ですか!」

 

「お、おい、ハードルを上げるんじゃねえ!」

 

 キリノ達と同僚にA-10が慌てた声を上げる。そんな希望が見えてきて和気藹々とする現場で私は迷っていた。カイザーとヴァルキューレの取引……何かしらの法律に抵触しないだろうか。わからない、もっと法律の勉強をするべきだった。

 

「取引は成立でいいか?」

 

「うん、請求は防衛室宛でよろしく」

 

 彼女だったらすぐにこの契約を合法的なものとして成立させるだろうか。

 

「か、簡単なものですが、契約書にサインを、内容は事が終わってから詰めましょう」

 

「わかりました!……ペンをお借りしてもよろしいでしょうか……」

 

 わからないことが怖い。間違うことが怖い。指示が無いことが怖い。皆を巻き込むことが怖い。

 

「でっ……狐のお嬢ちゃん達は強盗犯に一発かますか?」

 

 A-10のバイザーがこちらに向けられる。

 

「私は構わないよ、ユキノ!」

 

 クルミが盾を受け取りながらこちらを見る。

 

「同じく準備はできてるよ、ユキノ」

 

 無線からオトギの声も届く。

 

「どうするユキノ」

 

 そして再びニコが問いかけてくる。

 

 武装もある。人員もいる。士気も十分。無いのは……私の覚悟だけだ。

 

「確か命令は市民の安全を確保しろ……だったな」

 

「そうだよ」

 

 ニコは私の顔を見て全てを察したらしい。満面の笑みで答える。

 

「今から人質救出作戦のブリーフィングを開始する」

 

 今の私たちがSRTの名を背負う資格があるのかはわからない。また過ちを犯すかもしれない。

 

「FOX小隊、再始動だ」

 

 それでも今だけは涙を流す子供のために愚かな英雄を演じよう。

 

「「「了解!FOX1!」」」




トリニティのアイドルイベントで上からの要請でキリノ達がアイドル衣装を着ていましたが、あれって……という回でもあります。
防衛室が企業と協力することは体質的なものなのかもしれません。
次回は戦闘です。お楽しみに。
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