シャーレの不知火さん   作:おかだんごむし

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救出作戦!

 私が先生に揶揄われた翌日、状況が大きく動くことになった。

 

「“行方不明になった!?“」

 

 今朝チャイムを押しても出てこないセリカを不審に思ったアヤネが合鍵で部屋に入ったところ家に帰った痕跡すらなく。連絡が取れない状態だという。

 

「まさか、ヘルメット団の連中?」

 

 シロコがそう呟く。

 

「ヘルメット団から何か要求は来ているのですか?」

 

 誘拐であるならば基本その発覚は犯人からの要求が来てから、もしくは……本当に最悪の場合だが被害者の遺体が見つかってからだ。

 

「そういうものはまだです……」

 

 アヤネが答える。

 

「ではまだヘルメット団の仕業と決めつけることはできませんね」

 

「でも、こんなこと今までなかったんですよ」

 

 ノノミが食い下がってくる。

 

「確かに何かしらのトラブルに巻き込まれた可能性は高いです。しかしあらゆる可能性を考えないと、例えば彼女がアビドスを見捨てて夜逃げしたなど……」

 

“……不知火さん”

 

「わかっていますよ、先生。前日の彼女の様子からこの可能性は限りなく低い、あくまで例えです。ですが、少なくとも彼女の居場所が判明するか、誘拐犯からの要求でも来ない限りは動きようがありません」

 

“わかるかも”

 

「一体どうやって」

 

“私の権限で連邦生徒会のセントラルネットワークに接続すればセリカの携帯端末の位置情報を割り出せる“

 

「そんな権限まで……」

 

アヤネが驚きの声を漏らす。

 

「しかし、誘拐だった場合、相手は携帯の電源を落とすか捨てているのでは?」

 

 先ほど、アヤネが電話が繋がらないと言っていた。

 

“まずは出来ることをしないと……”

 

 確かに、誘拐事件では初動の速度が重要だ。一晩経っても要求が来ないということは、まだ犯人は移動を終えていない可能性がある。となると相当遠くに連れて行かれているのか、もしくは……私が思考を巡らせている間に先生はシッテムの箱を操作する。

 

“電源は落ちてるみたい……でも強制起動させれば……見つけた!”

 

 仕込まれていたバックドアも利用してセリカの携帯に電源を入れたようだ。この権限を悪用されたらたまらない。文字通り全てひっくり返されてしまうこともありうる。

 

「先生、これで誘拐じゃなかったら始末書もんだねー」

 

 ホシノがそう揶揄う。先生は苦笑いしながらこちらを見る。

 

“許してくれる?”

 

 私の許可が必要ないことなど分かりきっているはずなのにそんなことを聞いてくる。

 

「先生はご自身の権限を使っただけですから、始末書はいりません、必要なのは報告書ですよ」

 

“書類は必要なんだ……”

 

 当たり前である。

 

「そんなことより、セリカはどこ!?」

 

 シロコが聞く。

 

“どうやら、まだ移動中みたいだ”

 

 地図を見てノノミが反応する。

 

「郊外の砂漠地帯?線路沿いですね」

 

「あっ、ここは以前カタカタヘルメット団の出入りが確認されている場所の近くです」

 

 アヤネはこの分かりづらい地図で場所を特定したらしい。オペレーターなだけあって凄まじい観察眼である。しかしこれで誘拐の可能性が一気に高まった。

 

「今度は人質を取って脅迫しようってとこかな」

 

「考えていても仕方ありません。急いでセリカちゃんを助けに行きましょう」

 

 ホシノの意見を受けてノノミがすかさず提案する。

 

「ん」

 

 シロコはすでに銃を手に取っている。判断が早い。

 

「早まらないでください。この移動速度、相手は装甲車を連れている可能性があります。みなさんの装備では対処が難しいかもしれません」

 

「それならどうすれば」

 

アヤネが聞いてくる。

 

「対策委員会からの要請ということならヴァルキューレの部隊を動員することはできますが、間に合いませんね。部隊が到着する頃には拠点に立て篭もられる可能性が高いです」

 

「ん、なら私たちだけで行く」

 

 シロコは居ても立っても居られないらしい。

 

「無茶な戦闘は避けて足止めして下さい。そうすれば部隊が間に合います」

 

「お言葉だけど、アビドスの問題はアビドスで解決するよー」

 

 ホシノが釘を刺してくる。

 

「……念の為に待機はさせておきますよ。というか移動手段に当てはあるのですか?ここからでは走っても間に合いませんよ」

 

「それなら私に心当たりがあります」

 

 アヤネが答える。

 

「分かりました。現場指揮を取るため、私はヴァルキューレの部隊と合流します。よろしいですね、先生」

 

“わかった、いってきます”

 

「いってらっしゃい」

 

 

 先生から伝えられていた奇襲ポイントにヴァルキューレの部隊を連れて到着すると、すでに戦闘が始まっていた。

 

 セリカは既に救出されたらしくシロコと共に物陰に隠れている。

 

「諸君、車の助手席に座っている大人が先生です。敵ならどう対処するか、味方ならどう連携するかよく考えながら見ておきなさい」

 

 待機しているヴァルキューレの面々に通信する。

 

 先生の乗った車は装甲車三台の猛追を受けていた。

 

 なるほどキヴォトスといえどこれだけの数の装甲車は流石に目立つ。人目につかないように主要道を避けたのだろう。それが逆に救援が間に合ってしまう原因になってしまうとは皮肉なものだ。

 

 皆が装甲車に射撃するが効果がない。一台がシロコのドローンから発射されたミサイルの直撃で横転する。だが、反撃で先生の乗った車がバランスを大きく崩し先生が投げ出される。いや、アヤネが直前に抱えて飛び出したようだ。

 

 ホシノとノノミが装甲車の気を引き、先生とアヤネは隠れることができたがジリ貧に見える。

 

「対策委員会を援護しますか?」

 

 ヴァルキューレから通信が入る

 

「いえ、要請もありませんからまだ様子を見ましょう。ただ、いつでも撃てるように準備してください」

 

「了解」

 

 シロコたちが別々の方向に走り出す、それを装甲車が追撃するが砂漠という凹凸の多い地形だ。そんな地形で走行しながら主砲を走り回る人に直撃させるのは至難の業だ。案の定至近弾ばかりで、彼女たちを行動不能にするには威力が不足している。

 

 少し遅れてセリカも走り出す。狙撃ポイントに移動するつもりのようだ。だがそこは……

 

「アビドス高校の生徒がこちらに来ます」

 

 ヴァルキューレの狙撃部隊を待機させている建物だ。見晴らしが良いので選んだのだが仕方ない。

 

「おそらく狙撃ポイントとして使うつもりでしょう。場所を譲ってあげてください」

 

「了解」

 

 セリカが狙撃ポイントに着くと同時にシロコたちが装甲車の誘導を終わらせている。ホシノが盾を構えシロコとノノミを庇うように立つ。ヘルメット団は彼女らを追い詰めたつもりなのだろう。じっくりと狙いを定めている。

 

 そこにアヤネのドローンが飛んでくる。懸架しているのは爆薬のようだ。それを装甲車の間に落下させる。

 

「シロコさんへの弾薬補給の時もそうでしたが、位置もタイミングもドンピシャですね」

 

 その爆薬が装甲車の天板付近に差し掛かる瞬間、セリカの狙撃が爆薬を貫き、閃光。

 

 轟音と衝撃波が離れているはずのここまで届く。

 

 高性能爆薬の爆発で二台の装甲車が見事に無力化されていた。対してホシノはその爆発を踏ん張って耐え、後輩を守っていた。

 

「なるほど、そのための盾ですか。それにしてもたったの6人であの数の装甲車を……恐ろしいですね」

 

 全ての車両を無力化されたヘルメット団は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。セリカが先生たちに合流する。あの様子ならセリカは先生を信じることができたようだ。少し羨ましいかもしれない。

 

「お疲れ様でした。撤収してください……。今日の分の交通費と食費は経費としてつけておいてください。……お昼は近場なら柴関ラーメンがおすすめですよ」

 

 

 ヴァルキューレが撤退準備をしているのを眺めていると部下の1人が近づいてくる。初日に駅で待機し、先生の様子を報告してくれた子である。

 

「カヤ室長」

 

「なんでしょう?」

 

「あの装甲車は現在、違法な兵器として流通が禁止されているはずです。ブラックマーケットから流れたにしても高額になります。ヘルメット団があの数を揃えられるはずがありません。裏に何かがいます」

 

「わかっています。ただし、あなたたちヴァルキューレは要請を受けなければ何もしてはいけない。ここは対策委員会に任せましょう」

 

 しかし、彼女も食い下がってくる。

 

「ですが……あとは証拠さえあれば……」

 

 なるほど、彼女は今回の件も黒幕がカイザーコーポレーションだと勘づいているのだろう。

 

「いいですか。行政府に所属するということは特権を持つ代わりに法という規則を遵守する義務を持つ必要があるということです。いくら正しく見えても個人的正義感で動くのであれば、それはただの権力の暴走にすぎません」

 

「あなたが規則に従うことは連邦生徒会長なき今、地に堕ちた連邦生徒会の信頼を回復させることにつながるのです。まずは対策委員会を信じてあげてください」

 

「……了解しました」

 

 彼女は俯いて肩を振るわせている。このままでは私が悪者ではないか。それは避けたい。それに……

 

「まあ、私がここにいる間なら誰かが独自に調査していた報告書が紛れ込んでしまうこともあるかもしれませんね」

 

 それにこの子は私たちが来る前から頑張っていたのだ。その成果を聞いてあげる分には良いだろう。このぐらいなら理事の邪魔にはならない。何よりカイザーコーポレーションは大切なビジネスパートナーだ。だからこそ、情報収集はしておくべきだろう。

 

「……了解しました!」

 

 部下は顔を輝かせ敬礼した。

 

 

 その夜……

 

 “カヤ……多分これカヤ宛の書類だよね…”

 

 なんとあの部下はアパートの郵便受けに報告書の写しを入れたらしい。

 

「……届けた人が間違えたんでしょうね。わざわざありがとうございます」

 

 よりにもよって間違えて先生の郵便受けに……

 

「ところで、中は見てませんよね……」

 

“もちろん!機密、重要、緊急って書いてるからね”

 

 確かに紛れ込むことがあるかもしれないとは言ったが……

 

 こういう時の渡し方をあの場で教えなかった私のミスだろう。

 

 部屋に戻ってから開封された形跡がないことを確認して一息つく。

 

「先生が善人で助かりました……」

 

 監視している身で何を考えているのだろう。最近気が抜けている引き締めなければ…




オリキャラのモブヴァルキューレに名前はありません。見た目も普通のモブを想像してください。
それと本日はカルバノグ2章の更新から一周年のようです。めでたい?ですね。
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