青薔薇の萼たるには   作:あらごないと

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ルビーの誕生日に間に合わせる…はずだったんだけどなあ…


1話

『華麗であれ。至上であれ。常に最たる輝きを。』

 

単純明快、しかし並大抵の努力では成せない至上命題。

 

それを体現する一人の令嬢に俺は心から惹かれた。

 

誰のためでもなく、己と一族のために淡々と高嶺の花で在り続ける、その美しい在り方にどこまでも憧れた。

 

そんな彼女と並び立つことを望んだ。

 

*****

 

桜が葉をつけ始める季節、なかなか担当を決められない俺に見かねた先輩のトレーナーに勧められるがまま、とあるウマ娘を見るために選抜レースの行われる模擬レース場へと来た。

お目当てのウマ娘と思われる彼女はすぐに見つかった。

威風堂々とした立ち居振舞い。淑やかな雰囲気から垣間見える、静かで熱い情熱。ただ己が為すべきことのみに注がれた力強い意志と決意。紅玉を彷彿とさせるような、覇気にも似た気品を溢れさせたウマ娘が一人。

彼女こそ華麗なる一族の末裔、ダイイチルビー。

 

俺が着いた頃には既にそこそこの人数のトレーナーが集まっており、どうやら周りのトレーナーたちも彼女に注目を向けているようで、観客席の空気は互いに牽制し合うかのように若干ピリついていた。

 

俺が彼女を見つけて間もなく、模擬レースは始まった。

序盤中盤はあまり前には出ず、冷静にレース全体を俯瞰しているようだった。

しかし第3コーナーを超えると、それまで見せていた落ち着きとは打って変わりぐんぐん加速していく。

最後は第4コーナーでの大外からの見事なまでに美しい差し切りでの一着。先輩がイチオシするのも頷ける驚異的な末脚だった。

その筆舌に尽くし難いほどの美しい勝利を目の当たりにし、俺は言葉を失ってしまっていた。

 

そんなレース直後の興奮冷めやらぬ中、彼女はおもむろにこちらに向かって歩きだし、脇から出てきた彼女の執事らしき老爺から我々スカウトを狙うトレーナーたちに向けて選抜試験の予告をされる。

 

スカウトを狙うトレーナーたちに向けて課せられたのは、トレーナー業に従事する我々にはまず無縁である、上流階級の作法やマナー。しかもそれを短期間で叩き込まなければならないというのだ。

この困難極まれる課題の厳しさは、執事も重々承知しているようで、華麗なる一族を支える者としての覚悟を示すものだからこそ、取り組むのであれば真剣に取り組んで欲しいとのことだった。

 

今までトレーナーとなるために必要なことしか学んでこなかった自分には何もかもが初めてのことで、状況を理解する間もなく試験終了までのおよそひと月が始まった。

 

俺は生活習慣など日々の姿勢を改め、試験にも意欲的に取り組むようにした。

はじめは慣れない生活に疑問を覚えないわけでもなかったが、自分を律し、精進する日々を繰り返すうちに少しずつ、だが確実に自分に自信が持てるようになってきた。

そして改めて、ダイイチルビーの隣に立つという覚悟の重大さと彼女との距離を実感した。

 

*****

 

試験開始から3週間ほど経ち、大半の者が落第したり試験を諦めたりして、試験もいよいよ佳境を迎える。

俺は周りを気にする余裕を持てるほど要領がよいわけでもなかったので、とにかく己のことにのみ集中し、納得のいくまで努力をしていた。

ここまで勝ち残って来たからには、あきらめるという選択肢はもうとっくに俺の中からは消えていた。

 

*****

 

試験期間が終わり、あとは結果を待つだけとなった俺は自室にて、すっかり癖になった部屋の掃除をしていた。

ほんのひと月前には気にも留めなかったであろう埃や汚れも今ではほとんど見当たらない。

ひととおり掃除や片づけを終え、一息ついたとき自分宛に一通の手紙が届いていることに気づいた。

 

封を切るまで思い当たる節のない俺だったが、送り主の名を見てその手紙の意図を察した。

急いで中身を確認した俺は部屋を飛び出し、手紙に記された場所へと急いで向かった。

 

*****

 

「そのご様子ですと、手紙はもう読まれたようですね」

 

息を切らしながら、手紙の指示にある場所へ行くと、そこには本当にダイイチルビーがいた。

手紙の内容から要件はわかっているが、それでも信じられず思わず彼女に問うてしまう。

 

「…この合格通知っていうのは?」

「書いてある通りです。今日までであなた以外の受験者は全員棄権なされました。今日からはあなたが私のトレーナーとなります。」

「…棄権した?」

「はい。ですので余計なお世話かもしれませんがこの結果に慢心せず、研鑽を欠かすことのないように。これからより一層精進して参りましょう。では私は予定がありますので、失礼します。」

「え?あ…ああ。明日からよろしくな。」

「はい。試験、お疲れさまでした。では本日はこれで。」

 

そうして彼女はそのまま去ろうとしたのだが、俺の横を通り過ぎるときに一言、

「お見事でした。」

とだけ残していった。

 

結果的に消去法で選ばれたことに少し残念な気持ちもあったが、それ以上に彼女に褒められ彼女の隣に並び立つ権利を得られたのだという喜びの気持ちが溢れしばらく放心していた。

明日からは俺が専属としてあの走りを間近で見て、支えられるのだと思うとあまりに嬉しく、思わず笑みが零れる。

明日から始まる忙しいであろう日々に期待を膨らませながら、俺は帰路についた。

 

*****

 

やはりダイイチルビーは本当に凄い娘だ。

一族の繁栄のため、彼女の母と同じくティアラ路線を歩むべく日々邁進している。そこに一切の妥協はなくひたすらストイックに練習に取り組んでいる。そのうえで一族の令嬢としての役目まで果たしているのだ。それゆえにスケジュールは常に過密であり分刻みの予定で進む彼女の生活は目まぐるしいものであった。

 

俺は彼女のためににできることを考え、実行に移す。彼女の望むトリプルティアラへと導くための最善の策をお互いに納得のいくまで思索し、少しでも彼女にかかる負担を減らすために彼女を的確にサポートする。

はじめは彼女の生活リズムを十分に理解できていなかったこともあり、連携も若干ぎこちなかったが、今なら少しは俺のことを信頼してくれている…と思う。

 

ここ数か月、彼女と日々を共にして分かったことがいくつかある。

まず、彼女のスケジュールがとても忙しいというのは事実なのだが、彼女自身はそれを当たり前のことだ思っていることだ。こちらが息抜きを提案しようものなら不要だと切り捨てられる。本人なりに息抜きをしているのだろうか。それとも華麗なる一族の末裔としての矜持が人前で気を緩ませることを拒んでいるのかもしれない。

そこにどのような意図が介在していようと、俺がそこに干渉するべきではないし俺なんかより何倍も意志の強い彼女であればその程度の自己管理はできるだろうと考え、全て任せてもよいと判断している。

そんな彼女が担当だからこそ、俺は目標とするレースへの調整や己の研鑽のみに集中できる。

それぞれプライベートの時間を確保できるのはとても助かる。

これもひとえにルビーの精神年齢が同年代の娘より頭ひとつ抜けて高いからこそである。

しばしば大人相手に話しているのかと思わされるくらいだ。きっと幼いときからこのようにして周りの人々からの信頼を積み重ねてきたのだと思う。

もともとわかってはいたことだが、ダイイチルビーは本当に聡い娘だ。

 

そしてもうひとつ気づいたことなのだが、意外にも彼女は負けず嫌いな節があるらしい。

基本的に彼女の行動原理は一族の繁栄に必要なことかどうかである。それゆえに彼女が些事と判断した事柄にはとことん無関心でいることが多い。そしてその美学にも近い物差しは、彼女自身の中にはっきりと存在するようだが、しばらく共に過ごした俺でも完全には把握できてはいない。

そんな彼女は時々、普段の彼女の姿からは想像できないような勝負や競争に挑むときがある。そして一度挑むと決めたからには常に至上であることを玉条とする家訓に則り、全力で挑んでいく。商店街での激辛ラーメンの早食い大会が最たる例であろう。

 

さらに自身に厳しい彼女は周りへの要求も高くなってしまいがちなのだが、周りの人たちは厳しい言葉をかけられても、どこか彼女に惹きつけられる。

一見厳しいようでも、その言葉の根底に優しさや相手への敬意が込められているからこそ、受け取る側も素直に納得できるのだ。

きっとそういうことを自然とできるというのもルビーの一種のカリスマのようなものなのだろう。

 

他にも彼女の魅力を挙げていけばキリがないが、少なくとも担当トレーナーとならなければ知る機会のなかった彼女の一面を垣間見ることができたというのが単純に嬉しかった。

 

*****

 

遂にメイクデビューの時期がやってきた。

正直なところ、今日までのルビーの練習やほかの娘との併走の様子を見るに、彼女のレースについて心配する要素がなにひとつなかったので、俺はこれからたくさんあるであろうレースに慣れるためにも本番の空気感というものをしっかり味わっておこうと思っていた。

…のだが、ルビーと控室に入るとそこには大量の贈り物と思われる花束が並んでいた。

華麗なる一族というのは想像以上に大きな肩書きなのだと思い知らされ、俺はかなり驚いていたのだが、ルビーの様子からしてこれは彼女の日常の域を出ないようであった。

彼女と歩むというからにはこういうことにも慣れていかなければならないのかと少し怖気づきそうになったが、きっと時間が解決してくれるだろうとあまり深く考えないことにした。

お嬢様ってすげーと思わせる一幕であった。

 

支度も済ませたので、ルビーを見送って俺は観客席へと向かう。

歩きがてら周りからの評判もちらほら耳に入ってきたのだが、どれも()()()()()()への期待ばかりであった。

まだデビューしていないのだから当然ではあるが、ルビー自身の話をしている人などほとんどと言っていいほどいなかった。

そんなものこれから俺たちが人々の心にに刻んでいけばいいだけの話ではあるが、わずかばかり心にもやっとしたものが残った。

 

もちろん本題であるメイクデビューは無事に勝利を収め、のちの会見でも世間にダイイチルビーというひとりのウマ娘を印象づけられたと思う。

まあルビーが優秀すぎて、肝心の俺はほとんど何もしていなかったのだが…

 

*****

 

ジュニア級も年末に入り、目標のクラシック級でのダイイチルビーのティアラ路線がついに始まろうとしていた。ここまでの半年近く、身体づくりをメインに彼女を間近で指導して感じた一抹の不安、それは距離の適性である。

ダイイチルビーは今日までの日々でスプリンターやマイラーとしての圧倒的な才能を見せてきたが、それ以上の距離となるとどうしても他のウマ娘に埋もれてしまう。

今の時点では何とも言いきれないのが歯痒いが、本番であるオークスまであと半年もないという事実が俺の心に深く刺さっていた。

 

*****

 

3月。

ティアラの一冠目、桜花賞の前走となるフィリーズレビューへと出走する。

コンディションも特に問題はなく、直前の会話でも普段と同様に自信に満ちていた。

 

 

結果だけ言えば圧倒的なまでの勝利であった。

初めて彼女の走りを見たあの模擬レースのときのような差し切り勝ち。

勝つことがさも当然であるかのような、しかし傲慢さは微塵も感じさせない堂々とした立ち姿。

レース後の会話でもあくまで通過点でしかないと語った彼女は、淡々と次のレースに向けての調整をまた始めていった。

 

 

 

――――――オークスまで、もう3ヶ月を切っている。タイムがここしばらく伸び悩んできた。

「限界」という文字が頭をよぎりそうになる。

当然、ルビーもそれをわかっているから、心なしか焦っているのが日々の練習から伝わってくる。

彼女を安心させられない自分の無力さに心が折れそうになる。

 

……俺は本当に彼女の隣に居ていいのだろうか。

 

ふと浮かんでしまった疑問が思わず零れそうになるのをなんとか飲み込む。

こんな思いをルビーに見透かされたら失望されてしまう。

俺がここで自信を失ったら今まで積み上げてきたものが終わってしまう。まだ諦めるには早い。

ここで諦めて、彼女の夢が潰えてしまおうものなら自分で自分が許せなくなる。

これ以上ネガティブなことを考えないようにするためにも俺は、再びパソコンに向き合いなんとか距離の壁を乗り越える方法はないかと模索する。

 

*****

 

4月。

ついに桜花賞。母の跡を追うべくルビーは仁川の桜の舞台へと立つ。

GⅠの大舞台を前に彼女の深紅の瞳からは強い決意の色が見える。静かに燃える炎のような情熱がこちらにまで伝播してくるようだ。

 

本バ場入場のときにルビーが見せた凛々しい背中に、一度縮まったと思っていた彼女との距離が再び離れてしまったように感じてしまった。

だが彼女に要らぬ心配をかけてはならないと自らの感情を封じ、レースへと集中していく。

 

ルビーと軽く言葉を交わし別れたのちに観客席へと向かった俺は、コース全体を一瞥する。

現在は晴れているが、早朝の小雨によって重バ場となっているようだ。

最終コーナーで差し切るレーススタイルのルビーには若干不利だが、きっと杞憂に終わるだろう。

彼女が努力する姿を一番近くで見守り、支えてきたからこそ彼女の勝利を確信できる。

 

間もなくしてレースは始まった。

大方予想通りの展開でレースは進んでいく。

 

やはり序盤は皆、ルビーを警戒しているようで、自然と彼女の周囲を固める陣形となっていく。

先頭集団での激しい順位の入れ替わりを横目に、ルビーは中団後方で足をためている。

もちろん他のウマ娘もそれは理解しており、いかにして彼女を抑えて自分が真っ先にゴールを駆け抜けるかという方向で思考しているようだった。

恐らく彼女たちが今最も恐れているのは、自らの走りにばかり集中して、ダイイチルビーをフリーにすることだろう。

となると……

 

やはり予想通り、周囲のウマ娘は大外からのルビーの進出を恐れ、外を固めようと動き出した。

並みのウマ娘であればここで捉えられて失速していただろう。

 

だが、ダイイチルビーはこんなところで捕まるほどやわではない。

最終コーナー、周囲のウマ娘が遠心力で外に引っ張られる刹那、外ラチを封じる動きを瞬時に見切ったルビーは体の向きを変え、一気に内ラチを攻める。

普通なら相当な無茶のはずだが、体勢を大きく崩すこともなく一気に先頭への道を切り開く。

ダイイチルビーは外に飛び出すものだと疑っていなかったが故に生まれた一瞬の反応の遅れ。

一瞬―――しかしルビーにはそれで十分だった。

数秒前までハナから6バ身は離れていたはずだったが、既に1バ身近くまで詰めている。

 

そして彼女の真髄はここからだ。コーナーを抜けて間もなく、最後のスパートに入る。

ルビーは力強く、水を含んだ芝を踏みしめ、一気に加速する。

先頭を競るまでもなく突き放し、みるみる後続との差は開き続ける。

 

最後のゴールの瞬間は時が止まったようだった。何者をも寄せ付けない、圧倒的にして至高の勝利というものがそこにはあった。

「……すごい、本当に…本当にすごいな。」

気づけば感嘆の言葉が溢れてくる。

感動、誇らしさ、喜び。様々な感情が俺の心の中を駆け巡る。

顔には出さないよう努めたが、得も言われぬ興奮がとめどなく浮かび上がってくる。

 

 

―――だがその感情のなかにわずかに、一片の後ろめたさが存在していることを自覚した。自覚してしまった。

――――――俺とルビーは二人合わされば最強なのだと、数瞬でも錯覚をしていた己の愚かしさに辟易し自己嫌悪が襲ってくる。

 

ルビーであればきっと俺が担当でなくとも勝てただろう。

ではこの勝利に自分は必要だったのだろうか。

 

自分の担当を安心させることもできないのに、俺は本当に求められているのだろうか。

 

―――このままではルビーに見捨てられるのではないか。

 

ルビーがそんな薄情なことをするような娘ではないと頭では分かっていても、目に見える結果を出せていない自分のことを彼女がどう思っているかが分からず怖い。

 

いや、きっと責任感が誰よりも強いルビーのことだからこのことも彼女ひとりで抱え込ませてしまうのだろう。

いっそ見捨ててくれた方がまだ長く苦しまないで済むのに。

 

この想像もその怖さから俺がひとり逃れて楽になろうとしてのことだ。

あくまで想像とはいえ、そんな残酷なことが出来てしまう卑怯な自分が本当に情けない。

複雑な感情が、ほんの数分にも満たない間に俺の中を無秩序に駆け巡る。

 

呆けているのも束の間、周りの観客からの拍手に気づき、なんとか意識を戻す。

拍手が自分にも向けられていると気づいた俺は、とにかく今やるべきことを考えることにする。

 

*****

 

彼女を出迎えるべく、身だしなみを軽く整え、ウィナーズサークルへと向かう彼女を連絡通路で待つ。

ほどなくしてルビーは姿を現した。

 

「おめでとう、ルビー。とても格好良かったよ。」

 

彼女の瞳を正面から見つめ、心からの賛辞の言葉を送る。

嘘偽りない、ダイイチルビーへの「憧れ」だ。

その「憧れ」が彼女との繋がりを少しずつ崩していく。

その繋がりも俺の一方的で空虚な妄想の上に成り立ったものなのかもしれないが…

 

「ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです。ですが、本番(オークス)はこれからです。…まだまだ気を引き締めなければなりません。」

 

「そうだな。・・・ルビー、レースが終わってからどこか身体に不調はないか?」

 

「いえ、特には。心配はありがたいですが・・・私の心配は無用ですのでどうかお気になさらず。では・・・このあとは会見の予定もあります。そろそろ向かいましょう。」

 

「ああ、ごめん。時間を取らせちゃったね。じゃあ行こうか。」

 

共に歩き出そうとしたとき、ルビーがなにかを憂えて表情を曇らせたように見えたが、心配するなと先刻言われたばかりだ。わざわざ俺が踏み入るようなことではないのだろう。

 

オークスまでもう一か月と少し。

なんとしても彼女の望みは叶えなければならない。

大人として、ダイイチルビーのトレーナーとしての責任と覚悟が試される。

ここからが大きな山場だ。

 

*****

 

ついに5月に入った。

 

確実な勝利は約束できないが、停滞した時期はあったもののそれでもタイムは着実に伸びてきた。

半年前までは無謀と思われていたオークスへの挑戦が現実味を帯びようとしている。

本来諦めて当然である距離の壁を、ルビーは並々ならぬ努力で乗り越えんとさらに走りに打ち込んでいた。

 

だが伸びつつあるタイムとは対照的に、彼女には2400mを無事に走り切れるだけの身体が出来ていない。

たとえ勝つことができても、身体に全くの故障がないということは考えにくい。

万が一にでもここで彼女の選手生命が絶たれるということにでもなれば、責任の追及は俺だけではきっと済まないだろう。

だからこそ普段よりもトレーニング後の身体のケアを入念に行うようになった。

また副次的なものではあるが、ルビーの身体に向き合う時間が増えたことでより彼女の足の特性についてより深く知ることにもなった。

 

―――そして彼女にはやはり中距離は向いていないこと認めざるを得なくなった。

ルビーに短距離路線を勧めるのがきっと()()()()()()最善の選択なのだろう。

そのことはきっと本人も重々承知しているはずだ。

だがここでこのままの路線でいいのか訊いたとしても、彼女の意志はやはり揺らがないということは今までの付き合いからもわかる。

母の雪辱を果たしたいという思いもあるはずだ。どうしてもティアラ路線だけは譲らないだろう。

彼女の意向に沿ってスケジュールを組むのが俺の責務だ。

ルビーがどうしても諦められないというのなら俺も向き合い続けたい。

 

*****

 

ついに迎えたオークス当日。

 

初夏の日差しの中行われる一世一代の大勝負。

 

はたして一輪の青薔薇は樫の女王足りうるのだろうか。




基本的にゲームのストーリーを追っていきます。
トレーナーの心情描写を大事にしたいと思ったので、かなり語り口調になっています。
次の話はルビー視点→トレーナー視点の予定です。

いい表現が思いついても構成の都合で割愛せざるを得ないのが小説の悩ましいところです。
いつか消化したいですね~
感想等いただけると幸いです。ではでは。
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