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物心ついた頃から周りの期待に応えるのは当たり前のことだった。
なぜなら私は
幼い子供が大人のように振舞う姿は、周囲の人からしばしば好奇の目で見られた。
勿論、さまざまな業界の重鎮たちが幼い頃から私に興味を持ち、構ってくれているのは私が一族の者だからに過ぎないということは重々承知していた。
だからこそ私は、自身に求められていることにすべて完璧に応えてきたつもりである。
常に自らに自信を持ち、堂々と振舞うということはそうしているうちに自然と身についていったと思う。
そうしてある程度歳を重ねる頃には私の周りにはどんな人たちが集まってくるのか、つまり
私が成長するごとに一族の威光にあやかろうと近寄ってくる人々が増えていくのだから、気づかない方が難しいというものだ。
周りに集まる人が増えていくほど、気を抜ける時間は減っていった。
雑にあしらうことはもちろんできたが、私の発言や態度がどこにどのように作用するか全ては把握することはできないうえ余計な騒ぎは起こさない方が良いと判断し、相手が悪い気分にならないように細心の気遣いをして応対する。
それゆえ人と話すときにどうしてもよそよそしい態度になってしまう。
そのことが間違っているとは思わないが、いまいち他人に私の気持ちがまっすぐ伝わらないことが増えていった。
ある者は私を恐れ、ある者は私に後ろめたさを感じ、ある者は私に怒りや嫌悪を向ける
――――――そうして遅かれ早かれ皆が去っていく。
最後まで残ってくれたのは家族や執事、数えるほどの友人のみ。
母や祖母の姿を見て、その背中を追って生きてきた自分にとって他人は大きな興味の対象ではない。普段の人付き合いはあくまで一族の者としての義務であり、私の意志ではない。
そんな価値観の中、私は一族の務めを果たすべく全国から猛者の集う中央トレセン学園へと入学を果たした。
ここでの生活は少し心地よいものだった。
この学園内では少しの間ではあるが、
一歩学園から外に出ればいつもの生活が待っている。しかし私自身を見てくれる他人がいるという事実は私に大いに安心感を与えてくれた。
*****
学園に入ってしばらく経ち、本格化の片鱗が見え始めたことから、デビューを見据えて始動しようと思い立ち、トレーナーの選抜を実施しようと考えた。
同じ学友であれば心配はないが、トレーナーは
一族の恩寵を賜りたいという生半可な覚悟で近寄られてはたまったものではない。
それでも務めを果たせるのであればかまわないが、私の志の妨げにはならない人は必須条件であった。
執事と相談し一か月という長い期間の試験を設け、条件に合致するトレーナーを探すことにした。
*****
案の定と言えば案の定なのだが、志願者はかなりの人数になった。
事前にある程度トレーナーたちの調査は済ませており、危険な人はいないであろうということは分かっているが一抹の不安は残る。
表面上は無害に見えても実際は欲に塗れた人であった、なんてことはよくある。
*****
選抜試験が始まってから最初の一週間が過ぎ、はじめは勇んで試験に取り組んでいた方たちも少しづつ辞退を申し出てくるようになってきた。
勿論、易しくはないことは承知の上での課題であるから、去っていった人たちを責め立てるつもりは毛頭ないが、この調子では最後までに一人も残らない可能性もある。
しかし一族の力で今からトレーナーを用意してはそれはそれで波風が立ってしまうだろう。
それによって起こるであろういざこざにこの先構っている暇はない。
あまり望ましくはないが、最終手段として出走に必要な名前だけを貸してくれるトレーナーを選ぶということも視野に入れる必要があるかもしれない。
…ひとり、興味を引かれるとても気概のある方がいたが…
果たしてあの方は最後までついて来られるだろうか。
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試験も開始から3週間経ち、人数も片手で数えるほどにまで減ってきた。
わざわざ伝えることでもないため直接は伝えてはいないが、雰囲気で試験も終盤に差し迫っていることを皆察している頃だとは思う。
ここまで来ると優秀な人たちばかりで選抜する側もかなりの熟考を要する。
執事など周りの人の意見も参考にはしているが、最後に選択をするのは自分だ。
最も優秀な人を選ぶだけであれば至極簡単ではある。
しかし三年間を共にするパートナーには試験の結果だけでなく別の要素も必要と考えている。そのために長く設けた試験期間はある。試験のみで済むのならはじめからこんなに回りくどいことはしていない。
こんなときに限って優柔不断な自分に嘆息を漏らしつつ、あまり夜更かしをするとミラクルさんに余計な心配をかけてしまうので、今日はもう寝ることにした。
*****
試験終了までもうわずかになった。
だが私は最後の最後までパートナーをまだ決めかねていた。
…いや、違う。もう決まっている。だがその合理性に欠けた判断をまだ信じ切れずにいるのだ。
残った人の中で特段優秀なわけでもない。むしろ不器用な部類の人間だ。
要領の良さなんてものは全くなく、愚直に課題を達成できるまで毎日遅くまで研鑽なさっている。
その姿は私にはまったく縁のない、
きっと私は私には持ち得ないなにかを求めていたのではないか。
そしてそれを持っているのは彼なのではないのかと、私自身の感情が訴えてくるのだ。
一族の末裔としての志を自覚してからは、感情に流されて判断するなど言語道断であり理詰めで決断することは当然のことであった。
こんなに大事な局面で、ここまで感情が表に出てくることなど今までなかったのに。
悩みに悩んだ。一族の玉条、すなわち私のすべてを天秤に掛けうる人であるのか。
そんな彼を信じてみたい
柱時計の振り子は非情にも、試験の終わりが漸近していくことを聞こえよがしに響かせ続けた。
*****
私のトレーナーとなる人は決まった。
自ら下した決断だからこそ後悔はしたくない。
柄にもなく私は新たに決意を固めて、学園内のとある一室にて彼を待つ。
間もなく彼は部屋へ来た。
私は最後の最後に自らの感情に従うことにした。
迷っていた私への
そんな彼は息を切らしながら私の顔をじっと眺めていた。
それは私のためにと身を削ってきた男の顔だった。
執念にも近い、華やかさとは対極に位置するその泥臭さは不思議なことにあまり嫌ではなかった。
少し間を空けて、彼は信じられないような顔をして本当に自分が合格者なのかと私に尋ねてくる。
彼ならばきっと大丈夫。心はそう確信しているが、どんなときも頼りにしてきた理性がよりにもよってこんなときに私の意志を歪曲させる。
思わず、他の候補者は皆棄権したのだと伝えてしまった。
そんなことを伝えなくても彼なら私とともに走り切ってくれるだろうことはこの一か月の彼の姿が証明してくれた。
だからこれは素直になれない私の
いたたまれなさからその場を去ろうとした私だが、せめてもの思いから心からの賛辞をすれ違いざまに囁く。
口から零れたのはたったの一言だったが、きっと彼に労いの気持ちは伝わっているはずだ。
そうして私はこの学園に迎えられたときと同じような、それでいてどこか違う充足感にも近い心地よさを抱きながら寮への帰路についた。
*****
どうやら私の考えに間違いはなかったようだ。
普段から穏やかでマイペースな彼だが、その双眸には常に大きな向上心が宿っていた。
私のトレーナーとなった彼はさらに研鑽に励むようになった。
はじめて会ったときのいまいち印象の薄かった頃に比べると見違えるようだ。
もっとも、最初は普段の私の生活に委縮することもあり、お互いに理解が深くなかったことから円滑に連携を取れないこともあった。
だが数週間もすればそれにも慣れてきたようで、双方が納得できる付き合い方も自然と構築されていった。
これまでの私の人生において他人がここまで私の生活に関与するということはとても新鮮なことで、トレーナー契約の重要性を改めて身をもって実感した。
そのようにして恙なく日々を過ごしていたのだが、ひとつ気がかりな点があった。
客観的に見て自身のスケジュールが過密であることは理解していたが、彼はそんな私になにひとつ苦言を呈さなかった。
トレーナーならばそのキャリアにおいて実績がなによりも大事なはずだ。
であれば私において、一族の者としての役目に多くの時間を取られることはトレーナーの立場からすれば不安要素でしかないはずだ。
そう考え、そのような業務は幾らか制限されるものだと思っていた。
にも拘らず彼はその一切に口を出すどころか制限をするという選択肢すら彼の中には端からないようだった。
なんとも調子の崩れる彼だが、決して勝利に興味がないわけではなくむしろ貪欲な方だ。
…私の選抜試験に最後まで残るほどの根性のある方なのだから当然と言えば当然ではあるが。
私の目標のひとつである、トリプルティアラは決して易しい目標ではない。
そんなことは彼も分かっているはずだ。それでも練習時間の確保のために他の時間を削るという方策はとらずに、ある時間を可能な限り濃密なものにするというのだ。
普通は考えついてもまず実行しようとはならないだろう。
なにかを得るためになにかを捨てるのが世の理だというのに彼はすべてを取ろうというのだ。
それもひとえに私ならばできるだろうという彼からの信頼の証なのだと受け止めてはいるが…
友人たちから聞いた話によれば、話し方や表情はとても穏やかで話すと楽しい人だと言っていたが、雰囲気はいつもどこか張りつめていたとのことだった。
メリハリも必要だと彼に伝え、気を抜くべきときはちゃんとリラックスするようにと話したものの、実際に走るのは
そんな彼の
…ただなにが彼をそこまで突き動かすのかだけが私には分からなかった。
彼に尋ねてみてもはっきりとした答えは返ってこず、母や執事に相談してみても彼から直接聞くべきだと諭されてしまい、結局わからずじまいとなってしまった。
いつも気を張りつめて、どこか遠くを見ているような彼は一体なにを考えているのだろうか。
*****
なぜ私はここで考えるのをやめてしまったのだろうか。
私がひとつの大きな後悔を抱えることになるとは、このときはまだ微塵も思ってはいなかった。
――――――私はあまりに彼のことを知ろうとしなさすぎた。彼との日々の心地よさに甘んじて、彼自身を知る努力を怠ってきた私のツケだったのだ。
実は最後まで他の候補者は棄権していなかった。という流れにしました。
正直、この解釈は賛否あると思いますし、最後まで葛藤しました。
ですがこの小説は所詮、自己満足でしかないので最終的に己の書きたいものはなんなのかというところに振り返ってこの解釈で進めました。
「ルビーがそんなしょうもない嘘つくわけないだろ」と思われてもしょうがないとは思いますが、それでも続きを読みたいという方はこれからもご愛読いただけるとこれ以上の幸せはございません。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
次回はルビーもルビトレもどっちも出したいです。