最終選別。鬼殺隊士になるための採用試験だ。中身については茶柱から事前レクチャーを受けてはいたが、オレはずっと星之宮の言葉が気になっていた。命の危険を伴う試験か・・・
結論が出ないまま、会場の山に到着してしまった。そこに居たのは二十人ほどの受験者たち。同年代が多いようだが、中には小学生ぐらいの少女もいる。こんな年端もいかない子供が鬼狩りとは、世も末だな・・・
「お待たせ致しました」
するとふたりの少女が進み出て、説明を始めた。運営側の人間らしい。
「この度は最終選別へのご参加、おめでとうございます。皆様は鬼殺隊士になるための第一歩を踏み出されました。お祝いとして、当主産屋敷耀哉より全員に、十万円を進呈させて頂きます。どうぞお帰りの際にお納め下さいませ」
・・・お帰りの際に、ね。支払う気ゼロだろ、これ・・・
トラップ丸見えの言い回しに、オレは内心鼻で笑ったが、居並ぶ少年少女たちはざわめき立つ。
「じ、じゅうまんえん・・・?」
どうやら鬼殺隊オーナーの産屋敷一族は、かなりの資産家らしい。金持ちの道楽にしては手が込み過ぎている気もするが・・・
現在の貨幣価値を思い浮かべながら、考えを巡らす。欧米化が進んだとはいえ、いまだに農民が大半を占めるこの時代に、十万円と言えば夢のような金額だ。ただし生きて手にできれば、の話だが。
少女の話は続く。
「驚かれるのも無理はありません。しかし、お館様は現時点で皆様方にそれだけの価値があると認めておられるのです」
一度言葉を切り、ゆっくりと俺たちを見回す。煽動の仕方を熟知した話術だ。湧き上がる得体の知れない違和感。
「また、正式隊員になれば衣食住は全て鬼殺隊本部がご用意致しますし、階級に応じてお給金も出ます」
耳触りのいい台詞の垂れ流しに、オレの心は冷めてゆく。帝国政府非公認組織が、実力未知数の子供にここまで手厚い待遇。要するに、こうでもしなきゃ隊士の補充が追い付かないということだ。こりゃ、まともな話じゃないな・・・
「そして、これから皆様には、ここ藤襲山で七日間を過ごして頂きます。ただし、山中には空腹の鬼が多数おりますので、くれぐれもご注意下さい」
ほう、そうきたか。
「何だよそれ!?」
「聞いてた話と違う!」
狼狽える子供たち。まぁ、確かに事前の触れ込みでは、弱らせた雑魚鬼の試し斬りをするだけって話だったからな。茶柱のヤツ・・・
「えっと、途中辞退は出来ないんですか?」
爽やかなイケメンが尋ねた。見るからに大正リア充だ。
「ここから生きて出る方法は、みっつございます」
思わせ振りな口調で話すチュートリアル娘。ひとつ目は、今聞いた通り七日間を無事に過ごすこと。ふたつ目は、違約金二百万円を支払うこと。つまり全員有り金吐き出せばチャラってことだ。鬼畜か?
「そしてみっつ目は、脱走することです」
つまり、走り出した無限列車は止まらないってことか。だがおかしい。鬼殺隊は今、隊士の不足に悩んでいるはず。なのになぜ、せっかく集めた志願者を事前選考で磨り潰すような真似を?明らかに矛盾している・・・
「ではまず四人ずつ、甲、乙、丙、丁、戊の五組に分かれて頂きます。ご自由にお相手をお選び下さい」
ほほう・・・って、なんだと?いきなり難易度高過ぎるだろ。ボッチにとって天敵とも言うべき班決め。余り者になる未来しか見えない・・・周りでは既に組み合わせが固まりつつある。なんで・・・?
「みんな、ちょっといいかな?僕は平田洋介。七日間を共にする仲間同士、互いに名乗り合わないか」
あちらには、さっきのイケメンをリーダーに自己紹介を始めるグループ。
「私は櫛田桔梗って言います。みんな、一緒に頑張ろうね。私、ここにいる全員とお友達になりたいな」
こちらには、完璧な笑顔でメンバーを纏める美少女を中心にしたグループ。ありゃ絶対作り笑いだな。裏の顔が透けて見えるようだ。
で、そちらには、ロン毛をだらしなく乱した不良くんにその手下らしい巨漢のグラサン黒人・・・てかちょっと待て。危うくスルーしそうになったが、大正時代だったよな、ここ。まぁ、お近付きになることは無いだろう。というか、なりたくない。
そして最後のひとグループは・・・猪の被り物?!をした半裸少年に、狐のお面を付けた小柄な少女、そして見るからに怪しげなでっかい木箱を背負った少年・・・ってかあいつ、主人公では?!名前は確か・・・すみ、そう!
ようやく原作知識を活かせるシーンに遭遇し、おかしな優越感に浸ったのも束の間。主役の近くは端役の死に場所と相場が決まっている。うん、あそこにも関わっちゃダメだ。
それにしてもこいつら、どんなコミュ力してるんだ?和気藹々とグループを形成してゆく受験者たちに、内心唖然とするしかない。しかしいい加減、状況分析をしている余裕もなくなってきた。早くどこかのグループに潜り込まなければ・・・
ふと、同年代らしい少年と目が合う。あ、あいつもボッチだな。(確信)
「お、オレと(一緒の班で)ヤらないか?」
「(俺なんかと組んで)い、いいのか?」
念のため言っておくが、そっちの趣味はないからな。
「冨岡義勇・・・」
「綾小路清隆だ・・・」
互いに言葉足らずで苦労しそうなタイプ。思わずシンパシーを感じてしまう。しかし、まだ人数が足りない。すると・・・
「あの、私たちも入れて下さらないかしら?」
おぉ・・・なんと姉妹らしき美少女ふたり組が声をかけてきた!
「私は胡蝶カナエと申します」
おっとりとした雰囲気の方が名乗る。こっちが姉らしい。互いに挨拶を交わしてから、気が強そうな妹にも話し掛けてみた。
「で、そちらの名前も聞いていいか?」
「お断りよ。意味がないもの」
ほぅ、これが大正時代のツンデレさんか。
「やめなさい、しのぶ」
カナエが嗜めたことで、ツン妹の名前が明らかになる。
「まぁ宜しくな、しのぶ」
「くっ!姉さん!どうしてこんな冴えない人たちと組むの?鬼よりこっちの方が危なそうだわ!」
思わずオレは、冨岡と顔を見合わせた。やれやれ、無事に終わると良いんだが・・・
こうして、最終選別という名のサバイバルゲームが始まったのだった。
次回後編:そして鬼滅の刃へ