ようこそ実力至上主義の鬼狩りへ   作:いろはす@

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後編:そして鬼滅の刃へ

「はい、召し上がれ」

 

 

満面の笑みでお茶碗を差し出す胡蝶カナエ。周りには座布団が敷かれ、簡単なちゃぶ台まである。そして手元で湯気を立てる味噌汁。あれ?オレの転移先はサザエさんだったのか?(錯乱)

 

 

今日は選別三日目。贅沢なランチを終えたオレは、あの運営少女から手渡された型録を眺めていた。上質な和紙で作られたそれには、野営用のテントから鍋釜、箸、湯呑に手拭いや食材まで、あらゆる生活必需品が掲載されている。頼めば直ぐにレンタルできるのだ。なお、代金は例の十万円から差し引かれるとか。オイオイ。

 

 

価格設定も絶妙で、七日間のレンタルでほぼ十万円に到達するように調整されていた。つまりそういうことだ。

 

 

結局、みんなで少しずつ持ち分を出し合って必要な品を揃え、最低限の住環境を整えた。もちろん、自分の取り分が減るのを嫌って支払いを渋るヤツも居たが、そもそもこの選別に生き残れなければ意味がない。尤も、生き延びた暁には残額ゼロになっているだろうが。文字通りの子供騙しだ。

 

 

つらつら考えながら、オレは初日の出来事を思い出していた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん、ちょっと待って下さらないかしら?」

 

 

チュートリアル少女が消え、平田の発案で全員が名乗った後、胡蝶カナエが声を上げた。

 

 

「胡蝶さん、だったよね。どうしたの?」

 

 

すかさず櫛田が反応する。主導権争いのつもりなんだろうが、()()()()()()じゃ、はじめから勝負にすらなっていない。気付いてないのは当人だけか。

 

 

「はい、皆さんにひとつ聞いて頂きたい提案があります」

 

 

改まって切り出すカナエの様子に、思わず皆が耳を傾ける雰囲気になったところで邪魔が入った。

 

 

「ククク・・・俺に話を聞かせたいなら、それ相応の見返りがなくちゃなぁ?」

 

 

そう言って下卑た笑いを浮かべたのは、龍園とかいうロン毛。あれでまさかの同い年とか、ウソだろ・・・

 

 

「黙って姉さんの言うこと聞きなさいよ!」

 

 

しのぶが混ぜ返すが逆効果だ。

 

 

「チッ!まだ生えてもいねぇ餓鬼が。おいアルベルト!剥いてやれ」

 

 

「Yes , Boss.」

 

 

龍園の手下、グラサンに羽織袴という山田アルベルトが手を伸ばす。ハッとして身体を強張らせるしのぶだが、逃れる術はない。

 

 

「ら、乱暴はいけないよ!同じ仲間同士じゃないか・・・」

 

 

腰の引けた平田の言葉など、何の効き目もない。まずいな、止めるか。

 

 

「山田くん?」

 

 

と、カナエのひと言にビクリと動きを止めるグラサン。口調はあくまでも穏やかだが、有無を言わせぬものがある。しかもここでヤツを()()呼ばわり出来るとか、なんて胆力だ。男は愛嬌、女は度胸。ん?何か変か?

 

 

「チィ!目標変更だ!アルベルト!生えてる姉の方を・・・」

 

 

「翔くん?」

 

 

「ヒィ!?」

 

 

一撃で腰を抜かす龍園。マジか。嫋やかな外見に騙されそうになるが、アレ(カナエ)は間違いなく将来の柱候補だろう。

 

 

呆気なく姉に無力化されたふたりを見て、しのぶが再起動する。

 

 

「ぜ、全然怖くなんてないんだからね!あ、あるべると?そこの長髪素浪人風情を剥いてやりなさい!」

 

 

調子に乗りすぎだ。

 

 

「しのぶちゃん?」

 

 

「ひゃん?!」

 

 

その後、妙な組み合わせの三人が正座させられ、カナエからお説教を受けたのは言うまでもない・・・

 

 

そして彼女の提案で、オレたちは協力体制を築くことになったのだ。藤の木の群生地にベースキャンプを設定し、昼間は休息や物資の調達に努め、夜は周囲の警戒と鬼狩りだ。お蔭でオレたちはまだ、ひとりの脱落者も出していなかった。

 

 

実を言えば、オレは単独でもこの選別を乗り切る自信があったのだが、カナエの同調圧力に押し切られてしまった。それに、わざわざひとりで苦労するよりは群れていた方が楽だしな。

 

 

取り敢えず身の安全を確保したオレは、単独行動で雑魚鬼相手に実戦経験を積む傍ら、カナエからしのぶの事情を聞かされたり、例の木箱の()()を目撃したりと、それなりに楽しい時間を過ごして三日目の今日を迎えていた・・・

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと出てくるぞ、山田」

 

 

「Yes.」

 

 

門番の如く仁王立ちしているデカブツに声を掛けると、オレはベースキャンプを出た。定時巡回のためだ。因みにヤツと龍園はカナエにやり込められて以来、借りてきた猫のようにおとなしい。山田くん呼びも彼女の提案だしな。笑えるぜ。

 

 

日輪刀の状態を確かめながら山中へと分け入る。まだ夕方なので、面倒事に出会う心配はないだろう・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・と思っていた時期もありました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あームカつく!何なのよあの女!やけに上品振りやがって!お育ちが良いのを自慢したいの?それに鬼を助けたいとか巫山戯んな!」

 

 

巡回中に感じた人の気配を辿ってみると、思わぬ場面に遭遇してしまった。天使櫛田のご乱心。どうやら、ディスられてるのは胡蝶姉らしい。にしてもこの声はまずいだろ・・・

 

 

「それにあたしの役回りを盗りやがって!クソ女がっ!!」

 

 

ひときわ大きく喚くと、手近な藤の木に回し蹴りを放つ櫛田桔梗。轟音とともに大木が倒れる。何て馬鹿力だ。あれだけでもう柱レベルだろ。が、色々と迂闊なヤツ・・・とにかく、関わり合うべきではない。

 

 

そう考えて立ち去ろうとしたオレだったが、その僅かな足音に櫛田が振り向く。

 

 

「なっ!?あんた何時から・・・」

 

 

「たったいま来たところだが・・・」

 

 

待ち合わせでは定番の返しも、さすがに此処では通用しなかった。当たり前か。

 

 

「そっか・・・全部見られちゃったんだね」

 

 

にわかに天使の笑顔を浮かべ、少し恥じらいながら近づいてくる櫛田。怪しさが半端ない。そしてオレの手を取ると、自らの胸に押し当てた。痴女か?

 

 

「もし喋ったら、あんたに手籠にされたって騒いでやる」

 

 

一転して歪な無表情を浮かべる櫛田。これが裏の顔か・・・て言うか、ここで揉みしだいたらその顔がどうなるのか、試してみたい気もするが・・・

 

 

「これで口止めのつもりか?」

 

 

こちらの反応が薄いことに焦れたのか、ヤツの声が大きくなる。

 

 

「あたしは本気よ!何なら今すぐ鬼殺隊本部に・・・!」

 

 

「そんな暇は無さそうだぞ?」

 

 

「え?」

 

 

既に辺りは日が翳り、雑魚鬼たちの気配が充満していた。まぁ、あれだけの大声や轟音を立てたのだから当然だ。

 

 

「う、うそ・・・?た、助けて綾小路くん!」

 

 

その変わり身の早さには呆れるばかりだが、ここまであからさまだと、ある意味却って清々しい。見たところ、彼女の剣術はせいぜい中の下といったレベル。単独でこのピンチを切り抜けることは難しいだろう。

 

 

正直、櫛田がどうなろうと知った事ではないが、どうせこの状況では戦わざるを得ないのだ。自分自身以外にもうひとり助けたところで、手間暇に大差は無い。それにコイツのコミュニケーション能力は有用だ。つまり、まだ使い道はある。

 

 

櫛田を助ける理由を考えながら、オレはゆっくりと日輪刀を抜いたのだった。

 

 

 

 

 

* * * * * * *

 

 

 

 

 

さて、どうしてこうなった?

 

 

六日目の朝を迎え、残すところ、あと一日。雑魚鬼はあらかた狩り尽くしたし、警戒態勢にも抜かりはない。もはや不安要素は何ひとつ無かったはずなのだが・・・

 

 

「清隆くんって凄いんだね!居並ぶ鬼たちを()()()やっつけちゃうなんて!」

 

 

あれ以来、やけに櫛田が懐いてきたことを除けば。いやそれよりも、カナエの笑顔がどんどん怖くなってきているような気がする・・・

 

 

「あら、名前で呼び合うなんて、おふたりは随分仲良くなられたのですね?」

 

 

「は?」

 

 

どこをどう見たらそうなる?

 

 

「うん!だって清隆くんは命の恩人だもん!」 

 

 

天使モードの櫛田は太陽の如く微笑むが、そこに元星柱の顔が重なって見えるのはなぜだ?恋か?いや違うな。

 

 

すると背後から別の小さな声が。

 

 

「か、かっこいいなと思ってたのに、こんな女誑しだったなんて・・・」

 

 

「え?」

 

 

最近、(しのぶ)のようすがちょっとおかしいのだが。しのちょ。確か、そんなタイトルのアニメを松雄の隠れ家で見たような気がする・・・

 

 

「な、なんでもないっ!」

 

 

真っ赤になって走り去る小さな背中を見送っていると、最上級の笑顔でカナエが迫ってきた。

 

 

()()()()?しのぶのことで、ちょっとお話しましょう」

 

  

果たしてオレは、この最終選別を生き延びることが出来るのだろうか。

 

 

そして・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しのぶの下着が無くなったの」

 

 

深刻な表情で呟くカナエ。

 

 

六日目の日も暮れ、試験終了までのカウントダウンが始まるこのタイミングで、最悪のクエストが発生したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今すぐ全員の持ち物を改めるべきよ!」

 

 

やはりと言うべきか、怒りに任せて暴走するしのぶ。先日の櫛田同様、柱に匹敵する迫力だ。

 

 

「ま、待ってくれ胡蝶さん。まだ誰の仕業かはっきりしていないし・・・」

 

 

平田が宥めるが効果なし。まあ、アイツじゃこの程度が限界だろう。

 

 

「そんなの、男子の仕業に決まってるじゃない!」

 

 

女子の仕業というオチも期待していたのだが、さすがにそれを口にするほどズレてはいないつもりだ。

 

 

すると、怒髪天のしのぶが鬼の形相でこちらを睨みつけてきた。いやだからなんでそこでこっちを見る?

 

 

「素直に名乗り出たら、その心意気に免じてひと思いに斬殺してあげる!!」

 

 

そりゃまた有り難いことで。鬼は斬れなくとも変態なら斬れるってことか。ま、本人には絶対言わないがな。

 

 

「落ち着きなさい、しのぶ。いくらなんでも言い過ぎよ」

 

 

カナエが諌めるが、なおもしのぶは収まらない。この展開、まずいな・・・既に鬼の接近を感じ取っていたオレは、仕方なく口を挟んだ。

 

 

「それくらいにしておけ、しのぶ」

 

 

「一番怪しい貴方に言われたくないわ!!」

 

 

しかし、オレの警告を遮ったしのぶの叫びに地鳴りが重なる。そして茂みの向こうから現れたのは、多数の手を生やした巨大な鬼だった。雑魚鬼とは明らかにレベルが違う。レギュレーション違反だろ、これ。

 

 

「小僧、今は明治何年だ?」

 

 

と、不意にヤツが問い掛けてきた。てか、なんでオレ?

 

 

「ん?今は令和だが・・・」

 

 

思わず答えてから間違いに気付いたが、まあいいか。どうせこれから斬り捨てるのだから。

 

 

「アァアアア!!年号がァ!!年号が変わっているぅ!!」

 

 

そして、なぜか悶絶するヤツの頭には真っ白な肌襦袢が引っ掛かっていた。てかお前だったのかよ!

 

 

「水の呼吸壱ノ型、水面切り!」

 

 

「水の呼吸弐ノ型、水車!」

 

 

オレが黙ってツッコミを入れている間にも、衝撃から立ち直った冨岡たちが次々と技を放つが、効果は無い。何本もの腕に阻まれてこちらの攻撃は届かず、肉体の再生速度も桁違いで歯が立たないのだ。初心者向けの採用試験だったはずなのに、いきなりハードモードとか難易度調整間違ってるだろ、運営。

 

 

いや待てよ?これはあれか。いわゆるピンチになったら覚醒する主人公のパターンなのか?だがしかし、当の()()()()()にそんな気配は全くない。こりゃアイツが目醒めるのを待ってたら、こっちが全滅するぞ。

 

 

「くっ!綾小路くん、頼む!」

 

 

手鬼の圧力を受けて後退して来た平田が、いまだ攻撃を行っていないオレに向かって叫ぶ。いやしかし、そう言われてもな・・・

 

 

「なぁ平田、技の名前って絶対言わなきゃダメなのか」

 

 

「そ、そんなことより早く攻撃を・・・!!」

 

 

目の前で狐のお面を付けた少女、真菰が手鬼に足を掴まれバランスを崩した。はぁ、さすがに仕方ないか・・・軸足を踏み込むと、流れるような動きでオレは抜刀した。ええい、ままよ!

 

 

「お茶の呼吸壱ノ型、焙煎!」

 

 

次の瞬間、オレを除く全員がその場でズッコケたのだった。

 

 

 

 

 

 

* * * * * * *

 

 

 

 

 

 

「俺の手を握ってくれよ、いつものように・・・」

 

 

小さな声で呟きながら、手鬼が崩れてゆく。きっと人間だった頃の記憶が甦っているのだろう。まぁ、オレが屠った相手ではあるが、せめて安らかに眠れ・・・

 

 

「・・・兄ちゃん兄ちゃん、手ぇ握ってくれよぉ・・・たわばっ?!」

 

 

なんと、今際の際に爆裂したっ?!まさか捨て身の血鬼術か?!

 

 

「ごちゃごちゃ言わずにさっさと逝きなさい、この変態!」

 

 

いや、単にしのぶが手鬼の頭を踏み潰しただけだった・・・しかし容赦ないな・・・コイツも未来の柱候補かも知れん。うん、やっぱりこの姉妹は怒らせちゃダメだ・・・(確信)

 

 

 

 

 

 

最終選別は終わった。オレたちは犠牲者ゼロで乗り切ったのだ。鬼殺隊史上初の快挙らしい。下着泥棒も同時解決(被疑者死亡)したし、まずは文句なしの結果と言えるだろう。その後、隊服の採寸や日輪刀の素材選びを終え、オレはいよいよ原作(鬼滅の刃)のスタートラインに立ったのである。ようこそ実力至上主義の鬼狩りへ。

 

 

 

 

 

【大正コソコソ噂話】

例の十万円だが、かなりの額を手元に残しておいたのに、隊服代と日輪刀製作費の名目で全部持っていかれた。なぜだ。

 

 

あと、伝令役として充てがわれたのは『鈴音』という名の、無愛想な雌の鎹鴉だった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだ、少しは本気を出せたか?」

 

 

「は?何時だってオレは本気ですよ?」

 

 

「フッ・・・やはりお前は喰えんヤツだ」

 

 

そしていま、無事帰還したオレは残念な師匠(茶柱佐枝)に事の顛末を報告しているところだ。しかし、まだここに転生?してから1ヶ月あまりしか経っていないとは、ご都合主義にもほどがあるな・・・

 

 

「そう言えば師匠」

 

 

「なんだ?」

 

 

ひと通りの報告を済ませると、オレは前々から気になっていた疑問を投げかけた。

 

 

「師匠は現役時代、何柱を拝命していたんですか」

 

 

「・・・私にそれを聞いてきたのは、お前で二人目だな・・・」

 

 

ため息混じりに呟くと、妙な間を空けてから彼女は口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「茶柱だ」




おわり
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