▽
(ただ動きを真似するだけじゃ、あのシュートは撃てない。でもまずはキック力を鍛えなきゃ、土俵にすら上がれない)
ただひたすらに蹴る、蹴りまくる。
「マキシマムファイア!」
(あれが決められないようじゃ、最強のストライカーなんて夢のまた夢だ。アタシも、あんなシュートを!)
その様子を校舎の一階、近くの窓から眺めるのは、雷紋イレブンが1人、2年の女性選手の
(あの合同練習から、凄いやる気ね、
と、そこで
「体調はどう?」
「大丈夫です。いつものことですし」
「まあ、そうよね。······何見てたの?」
「あそこで
「······この前の合同練習、いえ、
「あ、ごめんね。そんな分かりやすい?」
「私はベンチから皆をよく見てますから。いつもと違ったら何となく分かりますよ。
「う······」
あからさまに目を逸らす
「あはは。
「そうなのよねー。賢すぎるのも、先生としては困っちゃうわ。······私的には、
「
「んー······逆効果になっちゃったかなあ」
「やっぱり、『強いシュート!』ばっかり!になってるのが気になるんですか?」
「だいたいそんな感じねー。確かに
窓枠に肘を置き、頬杖をつく
「だから
「
「そういうこと。実際、あの練習試合でも、フリーマンとしてパスやキープの上手さは魅せてくれたしね。ただ······」
言葉に詰まる
「―――あの試合には
「······ええ。中学最強のGKとは知ってたけど、あの強さは予想外だったわ。彼の一年生の試合、前の秋大会の映像は見たことあったんだけど、その時より格段に強くなってた」
「
「ほんとにね。
はあ、とため息を吐く
しかし
「確かに私も、少し心配な気持ちはあります。でも、それ以上に······。私、あの後の
窓の外の
「私、楽しみなんだと思います。あの子がもっと凄いシュートを撃てるようになるのが」
「······なるほどね。期待、か」
「だって、
「そうだったわね」
雷紋の昨年度までのフォーメーションは4-4-2。先日の雷門とほぼ同じ陣形を使用していたのだ。
「元々のポジションに、新しく来たあの子達をどう当てはめようか考えてた私達に、当然のように言ったんですよ。『じゃあ3トップにしよう』って」
「チームの色を変えるのは、そう簡単なことじゃないわよねぇ」
「はい。でも、
「雷門の10番くんもだったけど、1年生とは思えないシュート撃つのよねえ」
「はい、本当に。······きっと大丈夫ですよ。ほら、見て下さい」
再び窓の外に目をやる
「ようやってんな〜」
「同じ
「一人で特訓はさせねえ!
「シュート練習するなら俺も呼べよなー」
「私達も混ぜろー」
雷紋の
「このチームなら大丈夫です。みんな、ちゃんと一緒に頑張ってますから」
「······そうね」
「はい!それにあの子なんかまだ中学1年生なんですよ?今、少し視野が狭くなってても、これから長いんですから、全然大丈夫です!」
グッと両手を握って
「それ、中学2年生の貴方が言うの?」
「あはは。でも、先生が不安そうにしてたら、私が偉そうにしちゃいますからね?」
「分かったわよ。そうね。私がしっかりしなきゃね」
「はい、しっかりしてて下さい!」
「もう······大人よりしっかりしてる子が多くて大変だわ」
校庭では、先程の6人の練習に、他のサッカー部員たちも集まり加わっていくのだった。
▽
フットボールフロンティア。中学サッカーの全国大会であり、その頂点を決めるため各地のサッカーチームが争う。
全国大会に出場するためには地区予選リーグ、そして地区予選トーナメントを勝ち残る必要がある。
ここ20年間で幾度となく全国優勝を果たした超名門の
そんな魔の予選を抜けた先に、全国の強豪チームとの戦いが待っている。はっきり言って、茨の道にも程がある。
それも当然、全国2000以上のチームのおよそ2/3以上が予選リーグの数試合で姿を消し、全国の舞台に立つまでに56チームにまで絞られる。そしてその全国で頂点に立てるのは1チームのみ。それ以外のチームは、
では到底無理だと、最初から全国優勝など諦めるのだろうか。思い出づくりの記念受験で、皆大会に出場しているのだろうか。
······断じて否だ。ともすれば、『勝つとは思ってない』などと口にする選手も多くいることだろう。しかし、大会に出ない、そもそもサッカーをしないという選択もあるのだ。
それでもサッカーをやっている。フットボールフロンティアに出場する。それは皆、サッカーに懸けるものがあるからなのだ。それは自身の欲望、希望、あるいは他者からの期待や重圧、もしくは全く別の何か、なのかもしれない。
―――兎も角。全国2000チーム、5万人近くの中学生達が想いを懸ける大会が、始まろうとしている。
▽
明くる日、太陽が沈みかけの夕暮れ。赤く染まる空に少女たちの声が木霊する。
「疲れたー!足いてー!」
「そりゃあんだけシュート蹴りゃあな」
「歩くのが辛い······」
そう言って島のなだらかな長い坂道を下るのは、雷紋サッカー部の1年生組、
「おいおい、明後日だぜ?ウチの初戦は。そんなんで戦えんのかよ」
「元はといえば、
「はっ。途中からアタシより夢中になってたじゃねえか」
「いやー、新しい技の感覚の感覚掴んじゃったら、そりゃ夢中にもなるって。ああ、痛いー。全身が痛いー」
そんな
「試合はベンチで休んでてもいいぞ?
「いやいや、遠慮しときます。本当に疲れ切ったら交代してあげるから、先にベンチ
「つか
「ぐっ······。だったら
「悪ぃが脚が折れようと、試合が終わるまでアタシはコートを出ない。正々堂々スタメンは奪ってくれ。ま、来年
「ぐぬぬ······」
容赦なく
ポジションの関係もあり、現状雷紋で試合に出場する
「悪いなー。チームのフォーメーションを変えちまうほどの実力の持ち主が同級生で!」
そうなのだ。同時期にチームに加入した
悔しければ、結果を出して見返す他にないのだ。彼女の努力と想像を超えるしかないのだ。
「見てろよ、この大会中にお前をギャフンと言わせてやるからな」
「言うかよ。ま、楽しみにしとくわ。今大会の背番号10はアタシだけどな」
適当に受け流す
「あー、ユニフォームも配られたね。流石に10番は滝ノ上先輩のままだと思ってたからびっくりしたよー」
「雷紋のストライカーはもうアタシってことよ。
「うん。ていうか、他は誰も変わってないよ。普通はわざわざ変えなくていいしね」
「ぐぬぅ」
それはつまり、背番号さえ変えるほど、チーム全体に
「でもユニフォームと言えばさー、ウチのエンブレムダサくね?なんなんだ、あのぐるぐる巻き」
「えー、なんかかわいい寄りでいいじゃん。私は嫌いじゃないけどな」
「お前ら知らないのかよ。地名にもなってる"雷紋"は、元々はああいう模様の事を言う言葉なんだよ」
豊作や吉祥の象徴とも言われ、それが昔に地名や学校名として使われたのも納得のいく話だ。
「へー、そうだったんだ!」
「しらねー」
「お前らなあ······」
「あ、
自分で言い出しておいて、マークの成り立ちにはあまり興味のない
「一瞬これも持っといてくれ」
「あ?おい!」
「こんちゃー!おばちゃーん、棒のアイスまだあるー?」
「おーん、
「あぶねー、丁度じゃん」
ここは雷紋中に通う多くの生徒の通り道に近く、下校時にはよく菓子などが買われていく。暑くなり始めるこの時期ともなれば、アイスはかなりの人気商品になる。
「うん、ぴったりね。毎度ありぃ」
「後で払う」
「あっ私が出すよ、持ってもらってるし」
「そんなつもりで持ったんじゃねえ」
「別にいいわこんぐらい」
受け取りながら
「あれ、おばちゃん。この商品、場所ズラされてるぜ。あと、これ。同じ商品で数も少ないのに、そっちの棚にも並べられてた。移動させちゃっていいか?」
「あら、そうかい?じゃあお願いするよ」
「値札はこのままで大丈夫ですか?」
「ありがとねぇ。それはわたしが後でゆっくりやっとくよ。アイス先に食っちゃいな」
「「はーい」」
先に外のベンチに座っている
談笑しながらアイスを食べる3人の様子を微笑まし気に見るお婆さんは、しんみりと言葉を漏らす。
「ほんと、
「ん?なんで?別に全国大会行ったとしてもすぐ戻ってくるっすよ?」
あっけらかんと言葉を返す
「
「マジかよ」
「安心しぃ。あと一年くらいは続けるから」
お婆さんは笑ってそう言うが、
「いや、それはありがたいっすけど。そういう話じゃないっすよ······」
「そう言って貰えるのは有難いし、出来れば代々継いできたこの店も無くしたくないけどねぇ。私らももう歳だから」
「······おじさんも入退院を繰り返してるって聞きました」
「あの人は、もう。自分も歳だってのに、張り切るからよく腰をやるんだよ。あんま気にしないでおくれ」
呆れたように言いながら、よっこいしょと立ち上がるお婆さん。彼女の夫であるお爺さんもこの店の従業員なのだが、ここ最近はその顔を見る機会が減っていた。
「つっても。大変なことには変わりないじゃないっすか」
アイスを齧りながら、うーんと唸る
「―――そうだ。アタシ達、手伝いますよ!ずっとは無理でも、交代で朝来て手伝うとかなら······!」
「いや、
「う、そうだった」
「それにそんなんじゃ、根本的なとこは解決しねえだろ。そんな簡単な話じゃねえ」
正論に挟まれ、ぐうの音も出ない
「そうさね。アンタ達がどうこうする問題じゃない。だからそう気にしなさんなぁ。世の中どうにもならないことはあるもんさ」
「でも······」
「サッカーの大会があるんだろう?そっちに集中するこったね。何かしてくれるっていうなら、この島に嬉しい報告を届けておくれよ。よく分からなくても、若者の活躍は私らのようなジジババには嬉しいものだからねぇ」
「·····分かっ、りました」
「じゃあさ。おじさんにも言っといてくださいよ。アタシ達、絶対に全国大会に出て、テレビに映るようにしますから。楽しみにしててくれって。だからアタシたちの試合、見てくれよ」
地区大会はテレビでの中継はない。島の多くの人が気軽に見られるような中継があるのは、全国大会の試合からだ。
「そうだな。俺達にできるのはそれくらいしかねぇ」
「うん!へっはい、えんおふいいひあふ!」
「そうかい。伝えとくよ。私も楽しみにしておくからねぇ」
お婆さんの言葉に、にっと笑顔を返す。だが、
「それより、もう暗くなったけど、帰らなくて大丈夫かい?」
「あっ、やべえ」
「あっふあひゃん!」
「急ごうぜ!」
「おい、お前は自分のバッグは持てえ!」
わちゃわちゃする3人を、お婆さんは優しい顔で見送るのだった。
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前半 雷紋 万能坂
2 - 2
7分
16分
21分
28分
雷紋:
万能坂: MF
後半 雷紋 万能坂
4 - 0
2分
6分
6分 万能坂: DF
20分
27分
計 雷門 万能坂
6 - 2
☆
雷紋=渦巻き=ファイア