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雷門中との合同練習から約2週間の時間が過ぎ、フットボールフロンティアが開幕した。と言っても、まずは地区予選を勝ち抜く必要がある。
最初に行われるのは4、5チームによる予選リーグ。ここでのリーグ分けは完全なランダムだが、そのリーグの上位2校だけが次の予選トーナメントに駒を進められる。
雷紋は4チームでのリーグに振り分けられており、総当たり戦3試合をこの土日にこなすという日程になっていた。
「そういや今日の相手どこっすか??」
「ちょっと。話聞いてなさすぎよ。対戦相手くらい把握しときなさい」
「さーせん。······どこなのか教えて頂けはおりま···ん?···しませんでしょうか?」
燎莉の怪しい丁寧な言葉遣いに、ため息をつく野咲。現在は稲津島から離れ、本州をバスで移動中だ。陸の乗り物なら酔わない野咲が、薄い予選大会の冊子のページをめくってトーナメント表を指さす。
「傘美野中よ。確かにウチの負ける相手ではないけれど、あんまり舐めてたら足元掬われるからね?」
「ええ。基本に忠実で、丁寧なサッカーをするという印象のチームでした。隙を狙って放り込んでくる、カウンターの縦パスには気を付けたいところです」
アイマスクを付けたまま会話に混ざる安芸を一瞥して、燎莉は興味を失ったように背もたれに背中を預ける。
「そんなんどこのチームだって普通にやってくることじゃないっすか。ウチのDFなら何も問題ないすよね。アタシはシュートを決めることだけ考えときます」
そんな燎莉に苦笑する面々。後方でがっはっはと笑って腕を組むのは、三年のCB館山だ。
「全く生意気な奴だで。ま、おめーがどんだけ油断してやらかそうと、俺達でフォローしてやるさ。な、門坂?」
「ええ?う、まあ最低限DFの仕事はしますよ······」
「っかあー!弱気な奴だで。折角身長持ってんだから、もっと『後ろは任せろ』ぐらい言って見せろい!覇気が足りん」
とばっちりを受けるもう一人のCB、二年の門坂は納得がいかないという表情をしながらも黙り込んでしまう。
「CBのお二人には悪いっすけど、アタシら攻めまくるんで、暇しててもらいますよ。今日のアタシの目標はDouble Hat-Trickなんで」
座席横から後ろに向けて顔を出し、無駄に良い発音で調子に乗る燎莉。
「うわー腹立つ―」
「へっ。お前の新技には負けないぜ?」
「残念、私のあのシュートは秘密兵器なんで今日は封印でーす。私の不戦勝ですー」
隣の席の吹越も、座席の上から顔を出して燎莉を煽る。
「なんでだよ。撃たないんだから試合放棄でお前の不戦敗だろ。つか、隠すんですか?あの技」
ツッコミを入れながら、そう疑問を溢す燎莉。ただその質問を投げようとした先の安芸には、彼女の視線が見えていない。
「島での練習は研究されようがない、というのはウチの強みだからね。どうせなら然るべき試合で、敵を驚かせた方が面白いだろう?それにあの速さは奇襲性もばっちりだ」
が、間を置かずに答える安芸。
「伊澄、松風選手の技ばっか覚えてるんだからバレるんじゃないすかー?」
「最初は十分奇襲になるでしょ?」
「ちぇー。アタシもマキシマムファイア温存しとけばなー」
「んがっはっは。あの練習、もとい試合は注目度も高かっただろうな」
あの練習会は一般公開されており、非公式ではあるが、既に動画も出回っているようだ。自チームのみでの練習以外では初披露の技だったが、燎莉のマキシマムファイアも多くのチームに認識されていることだろう。
「まァいいや。知られてるからこそ、2週間でどんだけ成長したかを見せて、ビビらせてやる」
「おお、その意気だ。ほら、こういうとこはお前も見習えるで」
「······」
迷惑顔の門坂は完全にスルー。こういうことが出来る辺り、実は気が強いのではないかと燎莉は思うのだった。
「ほらほら、ちゃんと座る!先週、グループリーグの相手の映像は、チームのイナリンクにURL貼っといたでしょ?みんな乗り物酔いには強いんだから、その動画でも見てなさい」
野咲の指示に「はーい」と答える面々だったが、
「あい、着きましたよ。竜宮サッカー場前〜」
運転手から到着のアナウンスが流れる。当然ながら動画を見る時間は0だ。
「タイミングよ」
「流石っすね」
「あはは、意外と近かったですね」
バスはゆっくりと止まったのに、ガクリとずっこけて見せる野咲だった。
そして、バス側面のトランクに積まれていた荷物を受け取り、サッカー場へと向かう雷紋一同。
「うおマジか。ひっろ!」
「奇麗だな〜」
「な。流石都会」
四方をネットで囲まれた市民サッカー場は、綺麗なトイレや運営設備など快適な環境が作られていた。サッカーコートも4面あり、それら含め周囲の運動が出来そうな広場まで全て青い芝生が茂っている。
「広。そして人多っ」
「ひえー。この地区の予選リーグの半分のチームが来てるんでしょ?そりゃ多いわ」
燎莉と吹越が話しているように、サッカー場は既に多くの選手や関係者達が集まり、ごった返しと言うに相応しい状況だ。
「荷物置いたらすぐ集合。私達は1試合目からだから、早くアップとるよー」
野咲の号令で、選手たちは上着を脱いで、白を基調とした雷紋のユニフォーム姿になる。そしてキャプテンの安芸主導のもと、コートの外周でランニングと準備運動を行う。そして、空いたコートでボールを蹴り合っていると、すぐに試合の時間は訪れた。
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雷紋中:フォーメーション
FW
11 滝ノ上昇太(3) 9 山口透(2) 10燎莉聖火(1)
MF
13 吹越伊澄(1) 6 天羽隆弘(3)
7 安芸創士郎(2)
DF
5 渋谷紡来(2) 2 駅田裕司(2)
4 館山大貴(3) 3 門坂千尋(2)
GK
1 多井國次(3)
ベンチ 12 月城源(1) 8 那須日凪子(2)
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傘美野中:フォーメーション
FW
11 雨井結衣(1) 10 滴之水青(2)
MF
9 村田晴彦(3) 14 波多野順也(2)
7 涙島 颯太(3) 6 水沢滝人(2)
DF
4 堀池浩二(3) 5 川端滉介(1)
2 霧島潤(2) 3 露草彩香(3)
GK
1 傘蔵透真(2)
ベンチ 8 星野渚(2) 12 流水連汰(2)
13 霞 凛子(1) 15 道成燈斎(1) 16 小川和登(1)
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本日の雷紋の初戦は、傘美野中との試合。
傘美野中のキックオフで試合がスタート。中央MFの涙島にボールを預け、FWが上がっていく。
山口の軽い当たりをパスで躱す。マークの薄いDFラインでボールを何度か回すと、再び涙島の下にパスが渡る。涙島はトン、と軽く足の甲でボールを持ち上げると、チーム全体に伝わるよう宣言する。
「必殺タクティクス!涙天の攻!」
試合開始早々、手札を切ったのは傘美野中だ。ボールを地に落とさないようなパス回しで、雷紋中を翻弄していく。
「うお、ボール奪れん」
右SBの駅田がマークに付く雨井にパスが渡り、駅田もプレッシャーをかける。しかし、胸トラップでボールを動かしてからの、空中パス継続で雷紋にボールを触らせない。
「いくよ」
そしてボールの戻る先、涙島が浮いたパスをそのままボール下を滑らせるようにキック。山なりのパスが渋谷の前、傘美野右FW滴之との間に飛んでいく。
(この飛び方なら俺が先に触れ―――)
「釣り出されるな!」
「!」
安芸の声に、その場で留まる渋谷。
「ちっ」
ボールは地に着くと、まるで水たまりに着水したかのように急激にスピードを落とした。
「バックスピンがかかっていたのか」
飛び出していたら、対応できずに抜かれていただろう。滴之は止まるボールに合わせ、ぴったりの地点でパスを受け取る。
しかし、安芸の指示で、ボール保持者とDFの間に適切な距離の間合いができている。
「ふっ!」
滴之のトラップの隙を狙って渋谷が足を出す。つま先にボールが触れ、ボールがタッチラインを割った。
「OK、OK。ナイスカット」
「安芸、サンキュ」
「油断なくいこう」
傘美野のスローイン。再び滴之がボールを受けるが、渋谷に慌てる様子はない。
(これじゃ抜けないな)
そう判断した滴之は一度中盤にボールを落とす。涙島がボールを浮かせ、空中でのパス回しが再び始まる。
「あ~面倒くせぇ」
燎莉はボールをキープされている状況に愚痴を溢す。
「急に戻ったりするなよ、燎莉」
近くの山口に釘を刺される。ただ燎莉も今はまだ陣形を崩すべきでないことは分かっていて。
「分かってますよ。雷紋のDFならすぐ慣れんでしょ。それはそれとして、早くボール触りたいっす」
「ならいい。もう少しの辛抱だ」
「うす」
燎莉はいつボールが来ても良いように、ボールの行方を目で追っていく。
「行け、雨井」
と、そこで状況が動く。涙島のバックスピンがかかったパスを受け取った傘美野左FW雨井が、駅田にドリブルを仕掛ける。
「駅田、外側は抜かせるな。10番のマークは外すなよ、館山!」
「了解だで!」
「······分かりました!」
GK多井からの指示で、駅田が少し外側に寄る。しかし、
「クワグマイア!」
「ぬおっ!?」
雨井がボールを両足に挟み、両腕で反動をつけそのままジャンプすると、駅田周辺の芝がぬかるみへと変貌して足を取られる。
立ち幅跳びの要領でぬかるみを飛び越え、着地した先でシュート体勢の雨井。バウンドしたボールに、七色の光が集まっていく。
「はあっ!レインボーループ V2!」
雨が止めばそこには虹がかかる。雨井のシュートが雷紋ゴールへの軌跡を描いた。が、そこには門坂が割って入る。
「止めます。ビルディングウォール V3」
高層ビルが行く手を遮り、そこで虹は途切れてしまった。門坂の必殺技によって、シュートは威力を失う。
「―――撃たされた······!?」
「ナイスDF!そのまま真っ直ぐ攻めろ!」
多井からの指示がとび、門坂はそのままボールを前に蹴り出す。それを抑えた天羽が続けて必殺技を発動した。
「真 フェザーラッシュ」
「ぐぅっ!」
空を舞う天羽が翼となった腕を振るえば、次々と羽根が敵DFを襲う。
「······決めろ、燎莉」
「待ってましたあ!行くぜ!!マキシマムファイアG2!!」
フリーでパスを受けた燎莉がゴールを狙う。素早い速攻で、傘美野は守備が全く機能していない。
強力なシュートの存在を知っていようとも、対策を打つ余裕がなければ意味はないのだ。
「うわああっ!」
傘美野GKは必殺技を発動すらできず、ボールごとゴールネットへ吹き飛ばされる。雷紋の先制点が決まった。
「おっしゃ!」
「ナイスシュート」
「こっからどんどん点決めますよ!DFももう大丈夫そうだし」
「んだな〜」
傘美野の必殺タクティクスを使った攻撃を耐え抜いた雷紋DF陣も、盛り上がっていた。
「おーし、いい守備だったぞ。駅田、門坂!」
「はい!」「ありがとうございます」
多井の誉め言葉を受ける駅田と門坂も、得点を喜びつつ先ほどのプレーを振り返る。
「駅田、もう少し外寄っても良かったかも。大外も捨てきれなかったから」
「お、そうか。·······でもやり過ぎるとバレそうだしな」
「うーん、まあバレてもいいんじゃない?攻撃を躊躇ってくれれば」
「そうなんだけどさ。俺せっかくなら嵌めるとこまで行きたいんだよなあ。ま、次は相手が忘れた頃にやるとして、もうちょい外側のギリバレなさそうな位置を狙ってみるわ」
「分かった」
ベンチでも、野咲から月城へのレクチャーが行われていた。半田監督に倣い、戦術ボードを使用している。
「月城くん、今の分かった?守備のほうね」
「えー、駅田先輩が抜けるコースを内側に限定して、その先で門坂先輩が止める·······であってますか?」
「そうそう。多井くんが声出してたけど、ああやって守備を統率するのもキーパーの仕事なのよ」
「うす」
隣の那須も戦術ボードを覗きながら、会話に交じってくる。
「キーパーは、一番後ろからコートを見られるからね」
「なるほど」
「GK含めて、ボール持ってない時のみんなの動きは参考になるから、よく見といてね」
「は、はい!」
FW側の話したいんだけどな、と思いつつ頷く月城。
コートでは傘美野ボールで試合が再開している。中盤からFWの滴之にパスが送られるが、
「ほっ」
「ナイスカット。行くぞ、マイ・キャンバス」
読んでいた渋谷がインターセプト。安芸にボールを渡し、今度は雷紋が必殺タクティクスで攻め上がっていく。ポン、ポン、ポンと軽快なパス回しで、前線の滝ノ上までボールが繋がる。
「流石に燎莉へのマークは厚くなっているな。それなら······」
安芸の腕の動きに従って、コートというキャンバスに新たな線が引かれる。左から中央へと折れる線は、CFWの山口へと伸びている。
「いっけぇ、追加点!」
「決める。ブルーアーク 改」
その場で一回転しながら、大きく振りかぶった脚でダイレクトにシュートを撃ち込む。ボールは青い弧の軌跡を残し、傘美野ゴールへと飛んでいく。しかし、その前に二人のDFが立ち塞がった。
「させない!「ザ・ミスト」」
傘美野の二人のCB、霧島と露草が同時に技を展開。2つの霧が合わさり、より濃く深い霧となる。濃霧のオーラによって、シュートのスピードが削がれていく。
「アン・ブレラ!」
GK傘蔵も今度は必殺技で応戦する。正面に傘をバッと開くように腕を伸ばすと、展開した傘がシュートを弾く。弾かれたボールがゴールバーの上を越えていった。
「む。止められたか」
「あれ霧野選手の技っすよね、確か」
先ほど傘美野のCB2人がシュートの威力を弱める為に使った必殺技、ザ・ミスト。それは日本代表にも何度も選出されている、松風世代の名DF霧野蘭丸が使用している技だ。
「そうだな〜。代表戦でもよく見るやつだ」
「不覚」
シュートを打った山口は、いつも通りに表情は変わらずだが、悔しさは感じている様子。
「まあまあ。コーナーキックだし良しっすよ。アタシだったら決めてますけど」
「これは素だろうか」
「怪しいとこだな〜」
コーナーキックは天羽が蹴るようで、良い場所を探りながらコーナーフラッグの横にボールを設置している。そんな天羽に、燎莉は大きく後退しながら声を張り上げる。
「天羽センパーイ!アタシにください!」
「······おお。わかった」
「く、舐めやがって」
当然燎莉にマークはつけるが、他のマークまで外すわけにはいかない。燎莉の前には傘美野MF村田が立ち、CB二人は燎莉のシュートコースを塞ぎつつ他の雷紋攻撃陣をケアできる位置についた。
コーナーキックのため助走を取る天羽に合わせ、燎莉も走り出す。
「······いけっ」
ボールが蹴られると同時に踏み切り、回転し炎を纏う燎莉。
「なっ!高ぇ!」
「決める!真 ファイアトルネード!!」
マークについていた村田だが、燎莉の速い動きと高い跳躍力の前に置いていかれてしまう。
「「ザ・ミスト!!」」
CB二人もシュートブロックに入るが、数秒と持ちこたえることは叶わず霧が霧散する。
「アン・ブレラ!!おおおおおおおお!」
GK傘蔵も必死にシュートに抗う。しかし、空から飛来する火球を、傘では受け止めきれない。
「うわああっ」
傘を突き破り、燎莉のファイアトルネードがゴールネットに突き刺さった。
「っし!」
山口のシュートを止めた、DF二人のブロックとGKの必殺技。それらを打ち破って得点を決めた燎莉は、拳を握ってガッツポーズだ。
試合開始からたった10分。燎莉は早くも2得点を決め、目標と言っていたダブルハットトリックが口だけでないことを証明する。
彼女のシュートには、練習の成果が如実に現れていた。
そんな燎莉を、傘美野のFW滴之は遠くからじっと見つめるのだった。
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☆クワグマイア<Quagmire>=ぬかるみ、泥沼
☆ブルーアーク:ただの青い弧を描くシュート。