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前半10分。傘美野中イレブンのストライカー滴之は、既に勝つことを諦めていた。
(あいつらからしたら、俺達との試合は準備運動ぐらいのモンでしかないんだろうな)
たった10分のうちに此方の必殺タクティクスはほぼ攻略され、その上2失点。傘美野がここ数カ月重点的に鍛えてきた守備も、たった一人の1年エースに簡単に破られてしまった。ここからどう勝ち筋を見つけるというのか。
(後半は流水と代えてくれないかな。あいつ試合出たがってたし)
2年の控えFW、流水。前年度の3年生が引退し、傘美野の2トップは滴之と流水の二人になるかと思われていた。しかし流水は、新たに入部してきた有望株・1年の雨居にスタメンを奪われたのだ。
「先輩、絶対取り返しましょうね!私、さっき誘い込まれちゃったんで先輩も注意してください!」
「おう······」
その雨居に話しかけられ、空返事の滴之。そんなやる気を出しても勝てないのに······とは思うが、流石にそれを口に出したりはしないだけの分別が彼にもあった。
キックオフのボールを中央MFの涙島に預け、テクテクとゆっくり前に出る滴之。
「ここは······波多野!頼む!」
「任せろ!」
涙島は先ほどまでとは戦法を変え、必殺タクティクスは使わず、チーム1の突破力を誇る波多野にパスを送る。ボールを受けた波多野は悠然と敵陣にドリブルで突っ込み、必殺技で突破を試みる。
「レイクウォーカー V2!」
まるで湖の水面をその脚で渡るかのような、俊敏かつ繊細なボールタッチ。しかし対峙する吹越も、負けじと必殺技を発動する。
「ふっ!スパイラルドロー!」
「なんだと!くっ!」
迫りくる竜巻に水は巻き上げられ、波多野がボールを奪われてしまう。
「山口先輩!」
吹越からパスを貰った山口は巧みなキープでDFを引き付けてから、ゴールに向けて走りこんだ吹越にボールを戻す。吹越はそれを前に蹴りだし、更にスピードを上げる。
「真 マッハウィンド!!」
「ああっ!······くっ」
ゴール右隅を狙った高速シュート。GK傘蔵が飛びつくが、ボールは指先を通り抜けて行く。
「うん、決まった!」
「おー、ナイッシュー!」
「お見事」
間を置かず雷紋の3得点目。滴之から見て、勝ち目は既にどこにもなかった。
この短時間の間に、守備はパワーに蹂躙され、スピードに翻弄され、戦術でも完封されている。試合を続ける必要があるのか疑問になってくるレベルだ。
「くそ、すまねえ」
「ドンマイ!」
「流石に強いな」
「あの雷門と勝負できる実力······これほどとは」
「まだまだこっから!1点ずつ取り返していくぞ!」
「おう!」
このまま負けてなるものかと、お互いに励まし合う傘美野イレブン。
(1点か)
しかし滴之には、雷紋は簡単に取る1点も、傘美野が取る1点は、果てしなく遠く険しいものに思えた。
それから雷紋は更に山口、燎莉、滝ノ上がそれぞれシュートを決めて、6-0で試合を折り返す。続く後半、雷紋はMFの吹越と那須、FWの山口と月城を交代させ、月城と燎莉がポジションを入れ替えて後半に臨んだ。
それも大局に影響はなく、燎莉と滝ノ上、那須、渋谷の4人の追加得点で傘美野を10-0に突き放していった。
▽
その後も諦めず、果敢に攻める傘美野。外寄りの守備をする駅田を、内側に躱す傘美野FWの雨居。
「雨居!」
「これ······またさっきの」
しかし駅田を抜いたはいいものの、その先でCB門坂が待ち構えているのに気づく。
「ありゃ、バレたか。まあ結果オーライ」
「しまった!」
シュートかドリブルか、迷った隙に戻った駅田にボールを奪われてしまう。駅田から安芸、そして安芸から途中出場の那須にパスが渡る。
「そのまま持ち込め、那須」
「わかったわ。流鏑馬」
「ぐっ!」「なあっ!?」
顔の前で交差させた腕を開放するように後ろへ。那須は馬に乗って駆けるような迅さで、敵MFとDFを蹴散らす。
「アタシにくれ!!」
「聖火ちゃん!」
ボールを呼ぶ声に反応して、那須がCFWの燎莉に向けてクロスをあげる。
「また······!······ここで止める!」
しかし守備に戻ったMF村田も、放されまいと食らいつく。
「これで5点目!いけえ、真 ファイアトルネード!!」
「今度はやらせねえ!うおおおおおおおおお!」
空中でボールを蹴りあう燎莉と村田。だが、必殺技なしで抗うには、今の燎莉のシュートは余りにも強大な力を持っている。
「うぐああっ!」
堪えきれず、落下して地に伏せる村田。しかし燎莉のファイアトルネードは勢いを落とすことなく、傘美野ゴールへと迫っている。
「「ザ・ミスト!」」
「アン・ブレラ!」
傘美野守備陣も必死の抵抗を見せるが、そこに奇跡は起こらない。
「ぐはっ!」
傘は根元から破壊され、燎莉は本試合5得点目を記録した。雷紋と傘美野の点差は11にまで開く。
「あと一点······!」
そして燎莉の目標であるダブルハットトリックまで残り1点。燎莉はシュートの感覚を反芻しながら、自陣へ帰ろうとする。しかし、
「ぐっ······く······」
燎莉と空中で競り合った村田が、脚を押さえて蹲っていた。それに気づいた燎莉は慌てて駆け寄る。
「大丈夫っすか!?······立てますか?」
「あ、ああ······いや、これくらい――ぐっ、痛っ!」
燎莉に心配されたことに驚く村田。伸ばされた手は取らず、すぐに立とうとするが、脚に走る痛みにまた膝をついてしまう。
「やば、すんませーん!担架!担架ないですか!怪我っす!!」
普段煩いと言われる、大きな声を生かして救護を呼ぶ燎莉。落ち込んでいた傘美野イレブンも、異変に気付くと急ぎ集まってくる。
ベンチでは、野咲が傘美野側の監督より慌てふためいて、飛び出そうとしているのを吹越に宥められていた。
「村田!」「村田先輩!」「大丈夫か!?足か?」
村田のチームメイト達が周囲に群がって心配する中、燎莉は一層不安そうな顔をしている。
「ちょ、先生!?」
「······見せて貰える?」
吹越を振り切った野咲がやってきて、道を開ける選手たち。村田のソックスを下げ脛当てを取ると、患部の腫れを確認する。
「少し押すわね。痛みがあったら言って」
「いやちょっと捻っただけ――痛っ」
「うーん。折れてはいない、かな。ただ、残念だけど試合続行は無理だわ」
「――はい」
項垂れる村田。救急箱を持った傘美野コーチたちも到着し、野咲が確認した結果を伝える。
「骨は折れてはいないと思いますが、何かしら傷ついているかもしれません。病院での診察をお勧めします。患部は通常通り冷やして、固定しておくのが良いかと」
「ああ、ありがとうございます。貴方は―――」
「失礼しました。少々ですが、私、スポーツ医学には見識がございまして」
「そうでしたか。······分かりました。村田、肩を貸す。とりあえずベンチまで片脚で行けるか?」
「はい。大丈夫です」
傘美野コーチの肩を借りて立ち上がる村田。
「あの······」
そこに声をかけたのは燎莉だ。村田がそちらを向くと、直ぐに頭を下げる。
「すんませんっした!」
村田は一瞬ビクつくものの、片手を上げて燎莉を止める。
「いや、頭上げてくれ。怪我は俺が無理に堪えようとしたからで、アンタに否はなかった」
実際に笛は鳴っておらず、審判も反則はなかったとの判断だ。どちらかと言えば、危険なプレーをしたのは自分だと、村田自身も考えているくらいだった。
「それより、そっちは怪我ねえか?」
「いえ、アタシは全然大丈夫っす」
「そうか。ならいい。こちらこそ悪かったな」
「いや、そんな」
怪我をした側から謝られ、どうしていいか分からない燎莉。居心地の悪そうな燎莉を見て、村田は言う。
「······これでこの後、手を抜いてプレーするなんてのは、出来ればやめてくれ。こっちが申し訳なくなる」
「アタシはそんなこと······」
「―――それならいいさ。······お前たちの強さは痛いほど味わってるからな。手ぇ抜いたら分かるぜ?それに、次はこうはいかないぞ。こんだけ攻められてりゃ、こっちだってそっちの攻撃を覚える。次はアイツらがお前を止めてくれる。点も決めてくれる!······傘美野はまだ負けてないからな、1年エース!」
元々手を抜くつもりはなかったが、相手に対して引け目を感じてしまっていたのも事実。だがここまで言われてしまえば、絶対に日和ったプレーなんてできない。燎莉は村田を見て、堂々と宣言する。
「······うす。ありがとうございます!次も、アタシが点を取って、雷紋が勝ちます!」
「はっはは、上等だ!―――お前ら、悪い。あとは頼んだぞ!」
「先輩······!」「村田!」「任せろ······村田」
傘美野イレブンも村田を見送りながら、改めて気合を入れなおす。雷紋から見ても、彼らの様子には動揺より熱い闘志が強く表れているように見えた。
だが、その中で熱くなっていない者が一人。滴之だ。
(どうしてそこまで······。怪我しなければこの後の試合も出られたのに。しかも、止めたとしてもこの試合の勝敗は変わらないじゃないか)
「おい、滴之ぉ!」
と、不意に名前を呼ばれ振り向く。見れば肩を貸したはずのコーチから離れ、片足だけで跳ねながら滴之のもとまでやってくる村田がいた。
「バカお前ェ、足つかなきゃ良いってもんじゃねえんだよ!」
「何やってんですか先輩、危ないから早く戻って下さい」
「まあそう言うな。俺がコートを出る前に一個聞いてくれ」
コーチにどやされているのを微塵も気にかけず、滴之に肩を組ませて小声で話しかける村田。
「滴之。雷紋から1点を取るとしたら、お前が一番可能性が高い。······1点でいい。1点でいいんだ。お前のシュートなら、ワンチャンぐらいあるはずだ。あそこで攻撃を止めて、カウンター気味にお前にパス出せれば可能性も高くなると思ったんだがな。すまん、止めらんなかった」
「······それで、あそこまで?どうしてそんな。そんな頑張ったってこの試合は······」
「ん?ああ、お前やっぱそんな風に考えてたのか。まあ、いいや。そりゃあ、こっから勝つのは確かに現実的じゃないかもしれねえ。それでも1点が欲しいのは······こいつら相手に1点取れたら、今後に自信がつくとか、探せば色々理由はあるんだろうけどよ。結局のところ―――」
村田の言葉の続きに耳を傾ける滴之。自分が分からないこの負け試合を頑張る理由を、この先輩は持っているのだと信じて。
「悔しいからだよ。だってそうだろ?頑張って練習してきた守備をあんな簡単に突破されて、こんなに点取られて。確かに勝てねえかもしれねえ。でも悔しい。このまま終わるのは嫌だ。なんか一矢報いたい。······そしたらやっぱ、点とるのが一番だろ?」
「な······」
だが、村田の話した理由は、滴之にとって予想外のものだった。そしてそんなことのために······という滴之の考えにも、変化は訪れない。その気持ちは変わらない、が······
「頼むぜ、エース。傘美野の意地、見せてやってくれよ。······後は託したぜ」
そう言って、コーチに怒られながら肩を借りてコートを去る村田。そして、滴之は――
▽
村田と交代の選手がコートに入ったことを確認すると、審判が笛を吹く。
傘美野のキックオフで試合が再開。涙島にボールを渡した滴之は、しかしまたゆっくりと前線へ上がっていく。左右に首を振って、周囲の選手たちの位置を注意深く観察しながら。
「波多野!」
「レイクウォーカー V2!」
「うっ」
ドリブルが得意の波多野が那須を抜き去り、左サイドを駆けあがる雨居にスルーパスを送る。その先で雨居と駅田の1対1になるが、雨居は2度引っかかってしまった罠が頭をよぎりそれ以上進めない。
「こっちだ!雨居!」
涙島が大胆に中央をオーバーラップし、ボールを呼ぶ。雨居はすかさずパスを出し、涙島はそれをダイレクトで右サイドへ。
(撃ったら、捕まる)
そこへ走りこむのは滴之だが、シュートコースには渋谷、館山、門坂の3人のDFが待ち構えている。試合中断中にあれだけ意味深に話していれば、何かしらの警戒はされて当然だ。実のところは作戦でもなんでもなく、悔しいから1点取って欲しいと頼まれただけなのだが。
(だったら······)「雨居!!」
滴之は飛んできたボールが地に着く前に、再び逆サイドへと蹴り返す。しかし結構な威力で、到底パスとは思えないボールだ。だがその代わりに、滴之を警戒していたDF3人は反応できない。
そして、逆サイドの雨居は、駅田が先ほどの守備で外側に寄っていたおかげで、全くのフリーになっている。
(速いボール······一度トラップしてから――でもトラップしたらDFが間に合ってしまうかもしれない······!)
雷紋の守備のレベルの高さは、雨居もその身をもって知っている。ダイレクトでシュートするには難しいボールだが、撃つしかない。
「先輩が信じてくれたこのボール、絶対に決める!」
傘美野中1年生FW雨居。彼女には、2年の流水からスタメンを奪っただけのセンスがある。
「レインボーループ V3!!」
明るい日が照らすフィールドに、短く、しかしその7色を色濃く輝かせる虹が架かる。雨居は難しいボールに合わせ、完璧なシュートを放って見せた。
しかし、相対する雷紋GKの多井にだって意地がある。これが今日初めて、雷紋ゴールに飛んできたシュートなのだ。守備を纏めてシュートを撃たせないこともGKの仕事とはいえ、一度しか飛んでこなかったシュートからゴールを守れなかったら、GKとしての存在意義が疑われる。そして何よりも、プライドがそれを許さない。
「天和 改!!!」
ギュルリと回転するアッパーパンチが虹を砕く。雨居の進化したシュートは少しの間拳に抵抗したが、守護神の意地に負け、直上に打ち上がる。
「そんな······!」
それを多井は両手でキャッチし、そのままパントキックで大きく前に蹴り出す。
「······戻るぞ。まだ時間はある。次は決めよう」
「······!はい!」
珍しくそんな言葉をかけてきた滴之を見て、ほんの少しだけ溢れてしまった涙を腕で拭い、雨居も再び走り出す。
「マイ・キャンバス」
多井からのボールを抑えた安芸がチームの指揮を執って攻める。安芸から天羽。天羽から燎莉、そして燎莉から月城へボールが渡る。月城には傘美野DFが必死の形相でチェック。
「行かせない!」
「月城、よこせ!!」
「······!」
燎莉がボールを呼び、月城は少しの逡巡の後センタリングを上げる。
「決める!!真 ファイアトルネード!!」
全身全霊のファイアトルネードで、村田のガッツに応える。ただ今度は、傘美野DFが意地を見せる番だ。
「「「絶対に止める!!」」」
「ザ・ミスト V2!」「ディープミスト!!」
霧島は技の進化で、露草は新たな必殺技でシュートにぶつかっていく。しかし、それだけでは燎莉のファイアトルネードは止まらない。霧を抜けた先で、GK傘蔵が吼える。
「うあああああああ!アン・ブレラ 改!!!」
ツギハギだらけのオンボロ傘が回転し、シュートの威力を弱めていく。そして、バチンと弾かれたボールが、コートに返る。
だがボールは不運にも雷紋のMF天羽の方へ。
「うおあああ!っ繋げ!」
そこに涙島がダイビングヘッドで飛び込み、コースの変わったボールが、守備に戻った雨居へ。雨居は安芸と競り合いながらも、なんとか先に一歩を踏み出し、村田と交代で入った星安にダイレクトパスを送る。
ボールを受け取り、星安が前を向く。そしてこのカウンター、得意の縦パスで繋ぐ先は一つ。
「いけ!滴之!!」
「滴之先輩!」
雨居の説得で一人前線に残った滴之に、パスが渡った。
「滴之!!」「いけ!」「決めろ、滴之!」
ベンチの村田やコーチ、そして流水からも激が飛ぶ。
(このボールだけは――)
滴之水青はサッカーが好きだ。好きだから、去年の秋大会予選で雷門に絶望的な差を見せつけられて尚、サッカーを続けている。
滴之水青は傘美野サッカー部が好きだ。好きだから、自分一人では諦めてしまっても、仲間に託されたのなら応えてやりたいと思ってしまうのだ。
滴之の前にSBの渋谷が立ちはだかる。試合時間は残り僅か。ここで時間をかけるわけにはいかない。すぐさま両脚でボールを挟み、ジャンプする。
「クワグマイア V2!」
「その技は、研究済みだ!」
渋谷は、自分の足場が悪くなる前に一足飛びでボールへ足を延ばす。渋谷のつま先が滴之の両脚に挟んだボールに触れ、後方へ抜けていく。
(――絶対に諦めない!)
滴之は反射的に後ろ足を伸ばし、踵でボールを蹴り自分の前へと送る。体勢を崩しながらも、浮いたボールに向かってオーバーヘッドキックの踏み切り。
「っ!!······やるじゃん」
「決める!!レインドロップ G3!!!!」
ググっと脚に気を溜めて、一気に放つ。仲間の思いを乗せたシュートが唸る。ボールは雷紋側ゴールへ一直線······とはいかない。
「あんな気合入ったDF見せられたら、こっちも燃えてくるで!なあ、門坂ァ!」
「······そうですね。止める!」
「「ビルディングスウォールズ!!」」
地面からせり上がるビル群がシュートの行く手を阻む。館山と門坂の合体必殺技だ。
先ほどはGKの出番を作ってしまったが、雷紋CB二人も続けてそうやすやすと攻撃を通すつもりはない。それに試合前には、俺達で燎莉のフォローはしてやると言ってしまったのだ。燎莉のシュートが防がれて始まったこの攻撃、先輩として守備らないわけにはいかない。
「くおっ!いいシュートだで!」
「······ッ!でも、先輩が燎莉さんのフォローしてやるなんて言うから、止めるしかないじゃないですか」
「分かってんでねえか!気張るで!門坂!」
「······はい!」
「「おおおおおおおおお!!!」」
館山と門坂がいっそう強く踏ん張り、遂にシュートの威力を殺しきった。
「くっ!」
「コイツはお前が決めろぃ!燎莉!」
「はい!!」
そして館山が強く蹴り出したボールは直接FWの燎莉の下へ。
「止める!!止めてもう一度滴之に繋ぐんだ!!」
傘美野も必死の抵抗を見せる。燎莉の前には、MF涙島とCBの2人。
さっきは止められた。······からこその、再度の中央突破!
「安芸先輩!」
「燎莉!」
ヒールでバックパス、安芸がそれをダイレクトで打ち上げる。涙島を躱し、その先でここ1番の跳躍を見せる燎莉。
燎莉とゴールの間には当然、2人のCBとGKが待ち構えている。
「決めて見せる!絶 ファイアトルネード!!!」
「ザ・ミスト V2!!」「ディープミスト!!」
「アン・ブレラ 改!!」
先輩達にお膳立てされたこのボールは、絶対に決めなければいけない。そして良い相手には、最後まで全力のサッカーで応える。
燎莉の進化したファイアトルネードが、傘美野の意地を捻じ伏せる。傘美野の3人を吹き飛ばし、ボールがゴールネットを揺らした。
得点と同時に試合終了の笛が鳴る。燎莉は目標としたダブルハットトリックを達成。そして、雷紋中のFF予選リーグは、12-0の快勝で幕開けとなった。
「はあ······」
滴之は両膝に手をついて呼吸を乱したまま、スコアボードの数字を見る。始めての公式試合出場にして、雷門に完膚なきまでに敗れたあの時よりもマシな点差だ。でも、負けた。あの時も、今回も、1点も取れずに負けた。そんな現実を前にしても、彼は涙を流さない。それでも
(ああ、なんだ。俺はあの時も今も······)
「―――ちくしょう······!」
(ちゃんと悔しいと思ってたんだ)
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☆何度も誘いに乗っちゃう将来の有望株雨居ちゃん。