イナズマイレブン 〜聖火〜   作:半田。

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第6話 意地の1点!

 

前半10分。傘美野(かさみの)中イレブンのストライカー滴之(しずくの)は、既に勝つことを諦めていた。

 

(あいつらからしたら、俺達との試合は準備運動ぐらいのモンでしかないんだろうな)

 

たった10分のうちに此方(こちら)の必殺タクティクスはほぼ攻略され、その上2失点。傘美野(かさみの)がここ数カ月重点的に鍛えてきた守備も、たった一人の1年エースに簡単に破られてしまった。ここからどう勝ち筋を見つけるというのか。

 

(後半は流水(るすい)と代えてくれないかな。あいつ試合出たがってたし)

 

2年の控えFW(フォワード)流水(るすい)。前年度の3年生が引退し、傘美野(かさみの)の2トップは滴之(しずくの)流水(るすい)の二人になるかと思われていた。しかし流水(るすい)は、新たに入部してきた有望株・1年の雨居(あまい)にスタメンを奪われたのだ。

 

「先輩、絶対取り返しましょうね!私、さっき誘い込まれちゃったんで先輩も注意してください!」

「おう······」

 

その雨居(あまい)に話しかけられ、空返事の滴之(しずくの)。そんなやる気を出しても勝てないのに······とは思うが、流石にそれを口に出したりはしないだけの分別が彼にもあった。

キックオフのボールを中央MF(ミッドフィルダー)涙島(るいじま)に預け、テクテクとゆっくり前に出る滴之(しずくの)

 

「ここは······波多野(はたの)!頼む!」

「任せろ!」

 

涙島(るいじま)は先ほどまでとは戦法を変え、必殺タクティクスは使わず、チーム1の突破力を誇る波多野(はたの)にパスを送る。ボールを受けた波多野(はたの)は悠然と敵陣にドリブルで突っ込み、必殺技で突破を試みる。

 

レイクウォーカー V2!」

 

まるで湖の水面をその脚で渡るかのような、俊敏かつ繊細なボールタッチ。しかし対峙する吹越(ふきこし)も、負けじと必殺技を発動する。

 

「ふっ!スパイラルドロー!」

「なんだと!くっ!」

 

迫りくる竜巻に水は巻き上げられ、波多野(はたの)がボールを奪われてしまう。

 

山口(やまぐち)先輩!」

 

吹越(ふきこし)からパスを貰った山口(やまぐち)は巧みなキープでDF(ディフェンス)を引き付けてから、ゴールに向けて走りこんだ吹越(ふきこし)にボールを戻す。吹越(ふきこし)はそれを前に蹴りだし、更にスピードを上げる。

 

真 マッハウィンド!!」

「ああっ!······くっ」

 

ゴール右隅を狙った高速シュート。GK(ゴールキーパー)傘蔵(かさくら)が飛びつくが、ボールは指先を通り抜けて行く。

 

「うん、決まった!」

「おー、ナイッシュー!」

「お見事」

 

間を置かず雷紋の3得点目。滴之(しずくの)から見て、勝ち目は既にどこにもなかった。

この短時間の間に、守備はパワーに蹂躙され、スピードに翻弄され、戦術でも完封されている。試合を続ける必要があるのか疑問になってくるレベルだ。

 

「くそ、すまねえ」

「ドンマイ!」

「流石に強いな」

「あの雷門と勝負できる実力······これほどとは」

「まだまだこっから!1点ずつ取り返していくぞ!」

「おう!」

 

このまま負けてなるものかと、お互いに励まし合う傘美野(かさみの)イレブン。

 

(1点か)

 

しかし滴之(しずくの)には、雷紋は簡単に取る1点も、傘美野(かさみの)が取る1点は、果てしなく遠く険しいものに思えた。

 

それから雷紋は更に山口(やまぐち)燎莉(かがり)滝ノ上(たきのうえ)がそれぞれシュートを決めて、6-0で試合を折り返す。続く後半、雷紋はMF(ミッドフィルダー)吹越(ふきこし)那須(なす)FW(フォワード)山口(やまぐち)月城(つきしろ)を交代させ、月城(つきしろ)燎莉(かがり)がポジションを入れ替えて後半に臨んだ。

それも大局に影響はなく、燎莉(かがり)滝ノ上(たきのうえ)那須(なす)渋谷(しぶや)の4人の追加得点で傘美野(かさみの)を10-0に突き放していった。

 

 

 

その後も諦めず、果敢に攻める傘美野(かさみの)。外寄りの守備をする駅田(えきた)を、内側に(かわ)傘美野(かさみの)FW(フォワード)雨居(あまい)

 

雨居(あまい)!」

「これ······またさっきの」

 

しかし駅田(えきた)を抜いたはいいものの、その先でCB(センターバック)門坂(かどさか)が待ち構えているのに気づく。

 

「ありゃ、バレたか。まあ結果オーライ」

「しまった!」

 

シュートかドリブルか、迷った隙に戻った駅田(えきた)にボールを奪われてしまう。駅田(えきた)から安芸(あき)、そして安芸(あき)から途中出場の那須(なす)にパスが渡る。

 

「そのまま持ち込め、那須(なす)

「わかったわ。流鏑馬(やぶさめ)

「ぐっ!」「なあっ!?」

 

顔の前で交差させた腕を開放するように後ろへ。那須(なす)は馬に乗って駆けるような迅さで、敵MF(ミッドフィルダー)DF(ディフェンス)を蹴散らす。

 

「アタシにくれ!!」

「聖火ちゃん!」

 

ボールを呼ぶ声に反応して、那須(なす)がCFW(フォワード)燎莉(かがり)に向けてクロスをあげる。

 

「また······!······ここで止める!」

 

しかし守備に戻ったMF(ミッドフィルダー)村田(むらた)も、放されまいと食らいつく。

 

「これで5点目!いけえ、真 ファイアトルネード!!」

「今度はやらせねえ!うおおおおおおおおお!」

 

空中でボールを蹴りあう燎莉(かがり)村田(むらた)。だが、必殺技なしで抗うには、今の燎莉(かがり)のシュートは余りにも強大な力を持っている。

 

「うぐああっ!」

 

堪えきれず、落下して地に伏せる村田(むらた)。しかし燎莉(かがり)のファイアトルネードは勢いを落とすことなく、傘美野(かさみの)ゴールへと迫っている。

 

「「ザ・ミスト!」」

アン・ブレラ!」

 

傘美野(かさみの)守備陣も必死の抵抗を見せるが、そこに奇跡は起こらない。

 

「ぐはっ!」

 

傘は根元から破壊され、燎莉(かがり)は本試合5得点目を記録した。雷紋と傘美野(かさみの)の点差は11にまで開く。

 

「あと一点······!」

 

そして燎莉(かがり)の目標であるダブルハットトリックまで残り1点。燎莉(かがり)はシュートの感覚を反芻しながら、自陣へ帰ろうとする。しかし、

 

「ぐっ······く······」

 

燎莉(かがり)と空中で競り合った村田(むらた)が、脚を押さえて蹲っていた。それに気づいた燎莉(かがり)は慌てて駆け寄る。

 

「大丈夫っすか!?······立てますか?」

「あ、ああ······いや、これくらい――ぐっ、(い")っ!」

 

燎莉(かがり)に心配されたことに驚く村田(むらた)。伸ばされた手は取らず、すぐに立とうとするが、脚に走る痛みにまた膝をついてしまう。

 

「やば、すんませーん!担架!担架ないですか!怪我っす!!」

 

普段煩いと言われる、大きな声を生かして救護を呼ぶ燎莉(かがり)。落ち込んでいた傘美野(かさみの)イレブンも、異変に気付くと急ぎ集まってくる。

ベンチでは、野咲(のざき)傘美野(かさみの)側の監督より慌てふためいて、飛び出そうとしているのを吹越(ふきこし)(なだ)められていた。

 

村田(むらた)!」「村田(むらた)先輩!」「大丈夫か!?足か?」

 

村田(むらた)のチームメイト達が周囲に群がって心配する中、燎莉(かがり)は一層不安そうな顔をしている。

 

「ちょ、先生!?」

「······見せて貰える?」

 

吹越(ふきこし)を振り切った野咲(のざき)がやってきて、道を開ける選手たち。村田(むらた)のソックスを下げ(すね)当てを取ると、患部の腫れを確認する。

 

「少し押すわね。痛みがあったら言って」

「いやちょっと捻っただけ――()っ」

「うーん。折れてはいない、かな。ただ、残念だけど試合続行は無理だわ」

「――はい」

 

項垂れる村田(むらた)。救急箱を持った傘美野(かさみの)コーチたちも到着し、野咲(のざき)が確認した結果を伝える。

 

「骨は折れてはいないと思いますが、何かしら傷ついているかもしれません。病院での診察をお勧めします。患部は通常通り冷やして、固定しておくのが良いかと」

「ああ、ありがとうございます。貴方は―――」

「失礼しました。少々ですが、(わたくし)、スポーツ医学には見識がございまして」

「そうでしたか。······分かりました。村田(むらた)、肩を貸す。とりあえずベンチまで片脚で行けるか?」

「はい。大丈夫です」

 

傘美野(かさみの)コーチの肩を借りて立ち上がる村田(むらた)

 

「あの······」

 

そこに声をかけたのは燎莉(かがり)だ。村田(むらた)がそちらを向くと、直ぐに頭を下げる。

 

「すんませんっした!」

 

村田(むらた)は一瞬ビクつくものの、片手を上げて燎莉(かがり)を止める。

 

「いや、頭上げてくれ。怪我は俺が無理に(こら)えようとしたからで、アンタに否はなかった」

 

実際に笛は鳴っておらず、審判も反則はなかったとの判断だ。どちらかと言えば、危険なプレーをしたのは自分だと、村田(むらた)自身も考えているくらいだった。

 

「それより、そっちは怪我ねえか?」

「いえ、アタシは全然大丈夫っす」

「そうか。ならいい。こちらこそ悪かったな」

「いや、そんな」

 

怪我をした側から謝られ、どうしていいか分からない燎莉(かがり)。居心地の悪そうな燎莉(かがり)を見て、村田(むらた)は言う。

 

「······これでこの後、手を抜いてプレーするなんてのは、出来ればやめてくれ。こっちが申し訳なくなる」

「アタシはそんなこと······」

「―――それならいいさ。······お前たちの強さは痛いほど味わってるからな。手ぇ抜いたら分かるぜ?それに、次はこうはいかないぞ。こんだけ攻められてりゃ、こっちだってそっちの攻撃を覚える。次はアイツらがお前を止めてくれる。点も決めてくれる!······傘美野(かさみの)はまだ負けてないからな、1年エース!」

 

元々手を抜くつもりはなかったが、相手に対して引け目を感じてしまっていたのも事実。だがここまで言われてしまえば、絶対に日和ったプレーなんてできない。燎莉(かがり)村田(むらた)を見て、堂々と宣言する。

 

「······うす。ありがとうございます!次も、アタシが点を取って、雷紋が勝ちます!」

「はっはは、上等だ!―――お前ら、悪い。あとは頼んだぞ!」

「先輩······!」「村田(むらた)!」「任せろ······村田(むらた)

 

傘美野(かさみの)イレブンも村田(むらた)を見送りながら、改めて気合を入れなおす。雷紋から見ても、彼らの様子には動揺より熱い闘志が強く表れているように見えた。

 

だが、その中で熱くなっていない者が一人。滴之(しずくの)だ。

 

(どうしてそこまで······。怪我しなければこの後の試合も出られたのに。しかも、止めたとしてもこの試合の勝敗は変わらないじゃないか)

「おい、滴之(しずくの)ぉ!」

 

と、不意に名前を呼ばれ振り向く。見れば肩を貸したはずのコーチから離れ、片足だけで跳ねながら滴之(しずくの)のもとまでやってくる村田(むらた)がいた。

 

「バカお前ェ、足つかなきゃ良いってもんじゃねえんだよ!」

「何やってんですか先輩、危ないから早く戻って下さい」

「まあそう言うな。俺がコートを出る前に一個聞いてくれ」

 

コーチにどやされているのを微塵も気にかけず、滴之(しずくの)に肩を組ませて小声で話しかける村田(むらた)

 

滴之(しずくの)。雷紋から1点を取るとしたら、お前が一番可能性が高い。······1点でいい。1点でいいんだ。お前のシュートなら、ワンチャンぐらいあるはずだ。あそこで攻撃を止めて、カウンター気味にお前にパス出せれば可能性も高くなると思ったんだがな。すまん、止めらんなかった」

「······それで、あそこまで?どうしてそんな。そんな頑張ったってこの試合は······」

「ん?ああ、お前やっぱそんな風に考えてたのか。まあ、いいや。そりゃあ、こっから勝つのは確かに現実的じゃないかもしれねえ。それでも1点が欲しいのは······こいつら相手に1点取れたら、今後に自信がつくとか、探せば色々理由はあるんだろうけどよ。結局のところ―――」

 

村田(むらた)の言葉の続きに耳を傾ける滴之(しずくの)。自分が分からないこの負け試合を頑張る理由を、この先輩は持っているのだと信じて。

 

「悔しいからだよ。だってそうだろ?頑張って練習してきた守備をあんな簡単に突破されて、こんなに点取られて。確かに勝てねえかもしれねえ。でも悔しい。このまま終わるのは嫌だ。なんか一矢報いたい。······そしたらやっぱ、点とるのが一番だろ?」

「な······」

 

だが、村田(むらた)の話した理由は、滴之(しずくの)にとって予想外のものだった。そしてそんなことのために······という滴之(しずくの)の考えにも、変化は訪れない。その気持ちは変わらない、が······

 

「頼むぜ、エース。傘美野(かさみの)の意地、見せてやってくれよ。······後は託したぜ」

 

そう言って、コーチに怒られながら肩を借りてコートを去る村田(むらた)。そして、滴之(しずくの)は――

 

 

 

村田(むらた)と交代の選手がコートに入ったことを確認すると、審判が笛を吹く。

傘美野(かさみの)のキックオフで試合が再開。涙島(るいじま)にボールを渡した滴之(しずくの)は、しかしまたゆっくりと前線へ上がっていく。左右に首を振って、周囲の選手たちの位置を注意深く観察しながら。

 

波多野(はたの)!」

レイクウォーカー V2!」

「うっ」

 

ドリブルが得意の波多野(はたの)那須(なす)を抜き去り、左サイドを駆けあがる雨居(あまい)にスルーパスを送る。その先で雨居(あまい)駅田(えきた)の1対1になるが、雨居(あまい)は2度引っかかってしまった罠が頭をよぎりそれ以上進めない。

 

「こっちだ!雨居(あまい)!」

 

涙島(るいじま)が大胆に中央をオーバーラップし、ボールを呼ぶ。雨居(あまい)はすかさずパスを出し、涙島(るいじま)はそれをダイレクトで右サイドへ。

 

(撃ったら、捕まる)

 

そこへ走りこむのは滴之(しずくの)だが、シュートコースには渋谷(しぶや)館山(たてやま)門坂(かどさか)の3人のDF(ディフェンダー)が待ち構えている。試合中断中にあれだけ意味深に話していれば、何かしらの警戒はされて当然だ。実のところは作戦でもなんでもなく、悔しいから1点取って欲しいと頼まれただけなのだが。

 

(だったら······)「雨居(あまい)!!」

 

滴之(しずくの)は飛んできたボールが地に着く前に、再び逆サイドへと蹴り返す。しかし結構な威力で、到底パスとは思えないボールだ。だがその代わりに、滴之(しずくの)を警戒していたDF(ディフェンス)3人は反応できない。

 

そして、逆サイドの雨居(あまい)は、駅田(えきた)が先ほどの守備で外側に寄っていたおかげで、全くのフリーになっている。

 

(速いボール······一度トラップしてから――でもトラップしたらDF(ディフェンス)が間に合ってしまうかもしれない······!)

 

雷紋の守備のレベルの高さは、雨居(あまい)もその身をもって知っている。ダイレクトでシュートするには難しいボールだが、撃つしかない。

 

「先輩が信じてくれたこのボール、絶対に決める!」

 

傘美野(かさみの)中1年生FW(フォワード)雨居(あまい)。彼女には、2年の流水(るすい)からスタメンを奪っただけのセンスがある。

 

レインボーループ V3!!」

 

明るい日が照らすフィールドに、短く、しかしその7色を色濃く輝かせる虹が架かる。雨居(あまい)は難しいボールに合わせ、完璧なシュートを放って見せた。

 

しかし、相対する雷紋GK(ゴールキーパー)多井(たい)にだって意地がある。これが今日初めて、雷紋ゴールに飛んできたシュートなのだ。守備を纏めてシュートを撃たせないこともGK(ゴールキーパー)の仕事とはいえ、一度しか飛んでこなかったシュートからゴールを守れなかったら、GK(ゴールキーパー)としての存在意義が疑われる。そして何よりも、プライドがそれを許さない。

 

天和(テンホウ) 改!!!」

 

ギュルリと回転するアッパーパンチが虹を砕く。雨居(あまい)の進化したシュートは少しの間拳に抵抗したが、守護神の意地に負け、直上に打ち上がる。

 

「そんな······!」

 

それを多井(たい)は両手でキャッチし、そのままパントキックで大きく前に蹴り出す。

 

「······戻るぞ。まだ時間はある。次は決めよう」

「······!はい!」

 

珍しくそんな言葉をかけてきた滴之(しずくの)を見て、ほんの少しだけ溢れてしまった涙を腕で拭い、雨居(あまい)も再び走り出す。

 

マイ・キャンバス

 

多井(たい)からのボールを抑えた安芸(あき)がチームの指揮を執って攻める。安芸(あき)から天羽(あもう)天羽(あもう)から燎莉(かがり)、そして燎莉(かがり)から月城(つきしろ)へボールが渡る。月城(つきしろ)には傘美野(かさみの)DF(ディフェンス)が必死の形相でチェック。

 

「行かせない!」

月城(つきしろ)、よこせ!!」

「······!」

 

燎莉(かがり)がボールを呼び、月城(つきしろ)は少しの逡巡の後センタリングを上げる。

 

「決める!!真 ファイアトルネード!!」

 

全身全霊のファイアトルネードで、村田(むらた)のガッツに応える。ただ今度は、傘美野(かさみの)DF(ディフェンス)が意地を見せる番だ。

 

「「「絶対に止める!!」」」

ザ・ミスト V2!」「ディープミスト!!」

 

霧島(きりしま)は技の進化で、露草(つゆくさ)は新たな必殺技でシュートにぶつかっていく。しかし、それだけでは燎莉(かがり)のファイアトルネードは止まらない。霧を抜けた先で、GK(ゴールキーパー)傘蔵(かさくら)が吼える。

 

「うあああああああ!アン・ブレラ 改!!!」

 

ツギハギだらけのオンボロ傘が回転し、シュートの威力を弱めていく。そして、バチンと弾かれたボールが、コートに返る。

だがボールは不運にも雷紋のMF(ミッドフィルダー)天羽(あもう)の方へ。

 

「うおあああ!っ繋げ!」

 

そこに涙島(るいじま)がダイビングヘッドで飛び込み、コースの変わったボールが、守備に戻った雨居(あまい)へ。雨居(あまい)安芸(あき)と競り合いながらも、なんとか先に一歩を踏み出し、村田(むらた)と交代で入った星安(ほしやす)にダイレクトパスを送る。

 

ボールを受け取り、星安(ほしやす)が前を向く。そしてこのカウンター、得意の縦パスで繋ぐ先は一つ。

 

「いけ!滴之(しずくの)!!」

滴之(しずくの)先輩!」

 

雨居(あまい)の説得で一人前線に残った滴之(しずくの)に、パスが渡った。

 

滴之(しずくの)!!」「いけ!」「決めろ、滴之(しずくの)!」

 

ベンチの村田(むらた)やコーチ、そして流水(るすい)からも激が飛ぶ。

 

(このボールだけは――)

 

滴之(しずくの)水青はサッカーが好きだ。好きだから、去年の秋大会(ホーリーロード)予選で雷門に絶望的な差を見せつけられて尚、サッカーを続けている。

 

滴之(しずくの)水青は傘美野(かさみの)サッカー部が好きだ。好きだから、自分一人では諦めてしまっても、仲間に託されたのなら応えてやりたいと思ってしまうのだ。

 

滴之(しずくの)の前にSBの渋谷(しぶや)が立ちはだかる。試合時間は残り僅か。ここで時間をかけるわけにはいかない。すぐさま両脚でボールを挟み、ジャンプする。

 

クワグマイア V2!」

「その技は、研究済みだ!」

 

渋谷(しぶや)は、自分の足場が悪くなる前に一足飛びでボールへ足を延ばす。渋谷(しぶや)のつま先が滴之(しずくの)の両脚に挟んだボールに触れ、後方へ抜けていく。

 

(――絶対に諦めない!)

 

滴之(しずくの)は反射的に後ろ足を伸ばし、(かかと)でボールを蹴り自分の前へと送る。体勢を崩しながらも、浮いたボールに向かってオーバーヘッドキックの踏み切り。

 

「っ!!······やるじゃん」

「決める!!レインドロップ G3!!!!」

 

ググっと脚に気を溜めて、一気に放つ。仲間の思いを乗せたシュートが唸る。ボールは雷紋側ゴールへ一直線······とはいかない。

 

「あんな気合入ったDF(ディフェンス)見せられたら、こっちも燃えてくるで!なあ、門坂(かどさか)ァ!」

「······そうですね。止める!」

「「ビルディングスウォールズ!!」」

 

地面からせり上がるビル群がシュートの行く手を阻む。館山(たてやま)門坂(かどさか)の合体必殺技だ。

 

先ほどはGK(ゴールキーパー)の出番を作ってしまったが、雷紋CB(センターバック)二人も続けてそうやすやすと攻撃を通すつもりはない。それに試合前には、俺達で燎莉(かがり)のフォローはしてやると言ってしまったのだ。燎莉(かがり)のシュートが防がれて始まったこの攻撃、先輩として守備(まも)らないわけにはいかない。

 

「くおっ!いいシュートだで!」

「······ッ!でも、先輩が燎莉(かがり)さんのフォローしてやるなんて言うから、止めるしかないじゃないですか」

「分かってんでねえか!気張るで!門坂(かどさか)!」

「······はい!」

「「おおおおおおおおお!!!」」

 

館山(たてやま)門坂(かどさか)がいっそう強く踏ん張り、遂にシュートの威力を殺しきった。

 

「くっ!」

「コイツはお前が決めろぃ!燎莉(かがり)!」

「はい!!」

 

そして館山(たてやま)が強く蹴り出したボールは直接FW(フォワード)燎莉(かがり)の下へ。

 

「止める!!止めてもう一度滴之(しずくの)に繋ぐんだ!!」

 

傘美野(かさみの)も必死の抵抗を見せる。燎莉(かがり)の前には、MF(ミッドフィルダー)涙島(るいじま)CB(センターバック)の2人。

さっきは止められた。······からこその、再度の中央突破!

 

安芸(あき)先輩!」

燎莉(かがり)!」

 

ヒールでバックパス、安芸(あき)がそれをダイレクトで打ち上げる。涙島(るいじま)を躱し、その先でここ1番の跳躍を見せる燎莉(かがり)

燎莉(かがり)とゴールの間には当然、2人のCB(センターバック)GK(ゴールキーパー)が待ち構えている。

 

「決めて見せる!絶 ファイアトルネード!!!」

ザ・ミスト V2!!」「ディープミスト!!」

アン・ブレラ 改!!」

 

先輩達にお膳立てされたこのボールは、絶対に決めなければいけない。そして良い相手には、最後まで全力のサッカーで応える。

 

燎莉(かがり)の進化したファイアトルネードが、傘美野(かさみの)の意地を捻じ伏せる。傘美野(かさみの)の3人を吹き飛ばし、ボールがゴールネットを揺らした。

 

得点と同時に試合終了の笛が鳴る。燎莉(かがり)は目標としたダブルハットトリックを達成。そして、雷紋中のFF予選リーグは、12-0の快勝で幕開けとなった。

 

「はあ······」

 

滴之(しずくの)は両膝に手をついて呼吸を乱したまま、スコアボードの数字を見る。始めての公式試合出場にして、雷門に完膚なきまでに敗れたあの時よりもマシな点差だ。でも、負けた。あの時も、今回も、1点も取れずに負けた。そんな現実を前にしても、彼は涙を流さない。それでも

 

(ああ、なんだ。俺はあの時も今も······)

「―――ちくしょう······!」

(ちゃんと悔しいと思ってたんだ)

 

 

==================

☆何度も誘いに乗っちゃう将来の有望株雨居(あまい)ちゃん。

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