海原「幻想御手(レベルアッパー)?」   作:アルケミスト

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第四話

 海原の返答を聞いて、心理定規は薄く笑うと男の懐から奪った真幻想御手(レベルアッパー)の小包を手に取って立ち上がる。

 

「その覚悟があるならついてきなさい、命の保障はできないけれど」

 

 立ち尽くす海原にそう声をかけると、心理定規は軽快な足取りで壊滅した取引所(マーケット)から出ていき、それを少し遅れて海原が追いかけるのであった。

 

「出して」

 

 取引所(マーケット)の外に出ると、そこには一台の車が止まっており心理定規が近づくと自動で扉が開いた。彼女がその車に乗り込むのを見て、海原も乗り込むとまた自動でドアが閉まり発振する。

 車内には横向きのソファが二列置かれており、端にはミニ冷蔵庫まである改造車であり海原と心理定規は低いローテーブルを挟んで向かい合わせに座った。

 

「さて、これからについて話し合いましょうか」

 

 その言葉とともに心理定規は海原にかけていた能力を解いた。ただ海原を利用するだけであれば、このまま親しい友人であるかのように振る舞っていれば心理定規にとってメリットの方が大きいだろう。

 だが、"グループ"という組織は表の人間を一時的に利用することはあれど、こちらから表の人間を引き釣りこんだり危害を加えることはあまり好まない。他の暗部組織では、その力を使い表の人間に積極的に、己の欲を満たすために力を振るうようなものもいるが、リーダーの方針でグループでは禁じていた。

 

(まあ、そのルールも律儀に従う義理もないんだけどね)

「私たちはお互いの目標のために一時的に協力関係になる、それでいいわね」

「もちろん。といっても、私が教えてもらうことの方が多そうですけれど」

 

 二人がお互いの目的を伝えたところで心理定規の方から口を開いた。

 

「さっきは助かったわ。あれは貴方の能力かしら?」

「ええ、彼の能力は物理的に接触しないと発動しないようなので、僕の念動力で空中に固定して防いだんですよ」

 

海原光貴の能力は大能力(レベル4)の念動力。約230万人の能力開発を受ける学生がいるなかで、強能力(レベル3)からエリート扱いされることから、海原の能力が強力なものであることが分かる。

 

「そういえば貴女の目標は何なのですか? これを使わなくてはならないってことでもないでしょう」

 

 海原が目線を移したのは、心理定規の小脇に置かれた真幻想御手(レベルアッパー)の小包。

 

「半分は正解。私が服用するわけではないわ……ここから先は中で話しましょ」

 

 いつの間にか車が止まり、自動でドアが開いた。心理定規は小包を手に取ると先に降り、それを追いかけるように海原が車から降りると、送ってくれた車はまたどこかに行ってしまった。

 

「あんまりジロジロ見ない方がいいわよ、私はともかくこういうところに来ているのはそういうの嫌いな輩が多いでしょうし」

「あ、すみません」

 

 心理定規が入っていったのは高級マンションの中。海原も初見というわけではないが、異常な状況に巻き込まれて心が浮ついているのだろうか、少しばかり周りを見渡して逸る心を落ち着けようとしたのをたしなめられてしまった。

 

「これが私の目的よ」

「こ、これは……」

 

 心理定規に案内され、とある一室に入った海原。中はファミリーで暮らしたとしても十分な部屋と広さがあり、さらにその一室に入った海原の第一印象は"白"であった。見渡す限り、壁も床も不気味なほどの白が埋め尽くしていた。

 ただ家具や壁紙を白で統一しているだけなら、そういうものだと納得することもできただろう。しかし、この部屋は中心に繭のような巨大な白い塊が鎮座しており、そこから白い糸のようなものが伸び部屋を覆うことで白く染まっていたのだ。

 

「これはもともと生命維持装置だったものよ」

「生命維持装置?」

 

 ”ただの繭にしか見えませんが”という言葉が出るより先に、心理定規がその繭の表面を撫でるように糸を軽く剥ぐと電子モニターが僅かに顔を出した。

 

「この生命維持装置は、入った段階での生命維維持を全力で行い治癒は自己治癒力をサポートして行うをコンセプトに作られたものよ」

(確か、ドーピングに引っかからない治癒をとかいう技術で見たことがありますね)

 

 海原の記憶では、まだ試作段階として話には上がっていただけの技術のはずだが、それが形になっているのはさすがの暗部といったところか。そう納得していると心理定規が白に埋もれていたモニターを指さす。

 

「この装置でのバイタルよ、結果は見てのとおりね」

 

 そのモニターは中にいる人物の生命活動のレベルを表示しているのだが、その値はゆっくりと死に近づいているのが素人の海原でもわかる。それはこの生命維持装置の力では、中の人間をサポートしきれないということなのだろうか。

 

(真幻想御手(レベルアッパー)を?)

 

 そんな考えを海原が巡らしていると、心理定規は小包から真幻想御手(レベルアッパー)を取り出すとアルミの薬包に包まれたそれを一シート分”繭”の上に落とした。すると、繭はその表面からまるで捕食するかのように糸を伸ばすと、真幻想御手(レベルアッパー)は飲み込まれてしまう。

 

「この結果は……」

「これで分かったかしら、この生命維持装置のエネルギーはこ(・)れ(・)なのよ」

 

 真幻想御手(レベルアッパー)が飲み込まれてから、生命活動を示すグラフがゆっくりと上向いていく。心理定規は繭の表面を小さく撫でると、海原の方に視線を向ける。

 

「これで貴方が知りたいことは知れたかしら? それならお茶でも出すから向こうにいきましょう、私の方はまだ二、三ほど聞きたい事があるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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