群像少女アーフ・オムニバス 作:リリス
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いくらか昔の話である。
国を囲う円形の山嶺から突如強靭な魔物たちが現れるようになったという。
それらは、安穏と暮らしていた人々をたやすく摘み取っていった。
それと同じとき、ある少女が未知の力を獲得した。
現在では魔法と呼ばれるその力はその後、少女たちにのみ発現していった。
少女たちには守りたいものがあったし、それは少女たちにしか守れないものでもあった。
大切なものを守るべく立ち上がった少女たちの願いと可能性の具現化は初代魔法少女リリスの残した言葉から魔法少女と呼ばれるようになった。
魔法を操る彼女らの尽力によって少しずつ生存圏は広がり、小さくはあるが確かな安寧の地を築くに至った。
それから百と十数年。
何度も代替わりを果たした現在も少女たちは王立リリス魔法少女養成所にて研鑽に励むのであった。
「いや、いやいや!ない!ないわー!なーんでこの成績優秀超絶天才魔法美少女アーフちゃんの固有魔法が治癒系なんだよ!まーじありえねー!」
少女、アーフ・オムニバス。
彼女はいま、赤い長髪をぶんぶんと振り回しながら小柄な全身で抗議の姿勢を示していた。
激情にあふれる赤い魔力で式場の垂れ幕がぱたぱたとはためいている。
「つーかなによこの説明。『人の心に寄り添えますように』…ってふざけてんのかよ!お前はオレのママかっつーの!」
ところで、魔法少女は二つの魔法系統を持つ。
一つは汎用魔法。
始まりの魔法少女が定義づけた魔法理論を元に紡がれた魔法技術全般である。
魔法の基本として位置づけられ、すべての魔法少女はこの汎用魔法を通じて魔力、魔法のイロハを学ぶ。
一つは固有魔法。
魔法少女が一人前になったときに授かる特別な魔法である。
一説によれば魔法少女の力の源、願いや可能性といったものが表出したものと言われているが確かなことはわかっていない。
魔力と少女の意志を原動力として理屈や理論などでは測れない現象を起こす。
固有魔法は魔法少女が一定の力量を超えたときに芽生え、「祝う」というトリガーを引くことで花開く。
そのため王立リリス魔法少女養成所では進級式と卒業式を毎年「祝事」として盛大に行うことを習わしとしている。
「あれ?どしたのアーフちゃん。卒業の時ぐらい笑っていこうよ!」
「あ?セセリアか。相変わらずノーてんきな顔してんな。お前はどうだったんだよ」
「どうって?」
「固有魔法にきまってんだろ。それ以外にこの式に意味なんてねぇだろ」
「あー…ボクね、強化系だったよ!それも自分特化のやつ!嬉しいねぇ」
にんまりと垂れた目をさらに垂れさせ柔らかい笑顔を見せる少女。
彼女の名前はセセリア・ジピティ
総合席次第3席の才女だ。
「はーん。お似合いでいいこった」
「アーフちゃんは…ってその様子じゃ聞くまでもないね」
「治癒系だってよ。ありえねーっつの。もっとこう、ドカン!みたいな?そんなやつで薙ぎ払いたかったのによ」
「えー!?治癒系!?…アーフちゃんが??まっさかぁ~!」
「それがマジなんだよ。おかしいだろ。オレだぞ?」
「そうだよねぇ。あんなにいろいろやらかしてたアーフちゃんが治癒系って、誰も信じてくれないかも」
アーフは圧倒的な魔法力で実技科目、特に攻勢術式において2位以下を大きく突き放した1位を独走していた。
なお、その破滅的な態度の悪さと息をするように問題を起こすところから総合席次は2位となっている。
同級生たちの間では固有魔法を手に入れたらいよいよ手の付けられない存在になるというのがもっぱらの予想であった。
「あなた。治癒系って本当だったのね」
アーフが悪態をつきながらリリアと話していると後ろから声がかかる。
「あ?ちっ…おいセセリア。主席サマのお出ましだぜ、もてなしてやれ。」
「えぇ…。い、いぇーい!エイちゃん卒業おめでとー!」
「あなたたちもね」
しゃらんと流れる暗い青髪を揺らしながらやってきた少女。
彼女の名前はエイシス・シルフィーン
今期の総合主席である。
「んで?主席サマが下々のオレらに何の用だよ?見下しにでもきたか?」
「あら、よくわかったわね」
アーフが怒りを込めてリンを睨みつけるのをみて、セセリアは斜め上を見上げながらへたくそな口笛を吹いた。
「冗談よ、級友に挨拶をと思ってね」
「ご配慮あざーす。あいにくだけどオレは機嫌が悪いんだわ。どっか行きやがれ」
「ふぅん、でも残念ね。そうはいかない事情があるの」
「あー?なんだよ事情って」
「わたしたち、卒業後は3人一組でチームを組むことになったわ」
「なんっ…でだよ!オレは一人で申請を出して通ったはずだろ!それがチームだぁ?!足手まといと組む気はねぇぞ!」
寝耳に水なアーフは思わずエイシスに怒鳴りつける。
エイシスはそれを受け、楽しそうに笑顔を浮かべ答える。
「あなたの固有魔法が治癒系だからよ」
知っているでしょう?とエイシスが続ける。
「治癒系統の魔法少女は貴重よ。間違っても一人で遊ばせていていいものではないわ。それにあなたのお得意な汎用魔法だって治癒系とは相性が悪いわ」
「…だからなんだよ。それで俺が心配ってか?余計なお世話だ!」
「それを決めるのはあなたではないわ」
「はん!優等生サマは違うな!お偉いさんの言いなりってか!」
「えぇ。それが一番効率的だもの。まぁ、あなたが以前と同じだけの能力があれば…ねぇ?」
憐れむような、勝ち誇ったようなそんな表情で見つめるエイシス。
その瞳にアーフのなけなしの理性も完全に吹き飛ばされた。
「試してみるか?!」
「これまであなたに勝てる子は誰もいなかった。けど、今はどうかしら」
すっと伸び始めた青い魔力に負けじとアーフも負けじと自身の魔力をエイシスへと伸ばす。
二人の中心でぶつかり合った赤と青が志向性を持って押し合いを始める。
だが中心線の均衡は数瞬と持つことは無く、あっという間に崩れじりじりと青が押し込み始める。
「う、そだろ!?」
「驚いたわ。あなた相手に負ける気がしないなんて」
困惑する赤い魔力が勢いに乗った青い魔力に勝てる道理はなくそのまますべて塗りつぶされるーーーーー。
「はい!いい加減にしようか二人とも!いま、卒業式ね!」
その直前にセセリアが強引に割って入った。
「あらごめんなさい。少し遊びすぎたわ」
エイシスは悪びれることなくさらっと謝るが、アーフは何も言わず俯いている。
「アーフちゃん大丈夫?…あ、あっちにアーフちゃんの好きなかまぼこあったから食べよ?」
「…うるせー、さわんな」
「あっ…」
見かねたセセリアが慰めに入るがアーフは手を払ってどこかへと歩きだしてしまう。
アーフちゃん元気出してー!とその背中に声をかけエイシスへ向き直りひそひそと会話を始める。
「それで?どういうつもりなのエイちゃん。あんなにいじめてかわいそうだよ!」
「ごめんなさい。弱そうなあの子をみるとなんだかよくわからない感情が沸き上がってしまって」
「…あー、そういうタイプだったかぁ。とにかく!これからチームになるんだからもう駄目だよ!」
「えぇ、出来る限り我慢するわ」
と密談する二人に声がかかる。
「おい」
「わわっ!…あれアーフちゃん。どしたの?」
「…かまぼこ、どこだよ」
「あぁ!かまぼこ、かまぼこね。B卓…えーっとあっちにあったよ!」
「…そうかよ」
セセリアは指を指したままの体制で去っていったアーフを最後まで見送り、ふー。と息を吐きながら額を拭う。
「聞かれてなかった?よかった~。とにかくそういうことだから!気を付けて!」
「えぇ。わかっているわ」
薄い笑みを浮かべながら答えるエイシスをみてジトっとした目を向けざるを得ないセセリアだった。
アーフは暗い表情でかまぼこをかじっていた。
いつもは率先的に騒がしくするアーフだが、今は周りの歓声や笑い声が酷く煩わしく聞こえた。
「いじめて、とか弱そう、とか好きかって言いやがって」
身体能力も素質に見合ったものを持つ彼女はしっかりと二人の密談を聞いていた。
だが、それに突っかかっていけるほどの元気は持ち合わせていなかった。
「まーそんなことはどうでもいい、いやどうでもよくねーけど。それよりなんなんだよこの固有はよ」
魔力の押し合いをした時に感じた違和感。
これまで体の一部のように動かせていた魔力が言うことを聞いてくれない。
まるで、魔力自体が攻撃を忌避するような気持ちの悪い感覚。
「5%がいいとこって冗談じゃねーぞ」
いくら治癒系が汎用魔法と相性が悪いからといってここまで弱体化することは無いだろうとごちる。
曲がりなりにも総合次席をとれる程度には座学もしっかりとこなしていた彼女の知識と照らし合わせてみても明らかな異常である。
治癒系の魔法少女の傾向でいうと汎用攻勢魔法の出力は3分の1、悪くても5分の1程度である。
それが20分の1だ。質の悪い何かにとりつかれているといっても過言ではないだろう。
「…あーくそ。願いとか叶えるっつーんならもっと派手な奴よこせよな。」
彼女のつぶやきは誰に聞かれるでもなく中空に解けていった。
「でもよかったわ。チームに治癒系がいると何かと楽そうじゃない。自給自足って感じかしら」
「デリカシーとかどこに捨ててきたのエイちゃん。それ絶対にアーフちゃんの前で言わないでよ」
適度に更新できればな
と思っています。