ノクチル、散る   作:Leysun

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『纏檻』

 先日快諾した、写真撮影の日

 写真のコンセプトは『暑い夏こそ旅をせよ!旅先で感じる抒情』

 旅行雑誌の撮影だ。

 なんとも、タイミングが良すぎるような

 彼には私たちが考えていることが筒抜けのような、まだ君たちはこどもなんだと

 嘲笑われているようにすら感じる。

 

 浅倉「おー旅かぁ」

 P「どうした透、興味あるのか?」

 浅倉「いいじゃん、なんか。旅って」

 P「曖昧だなぁ」

 市川「透先輩が行くなら雛菜も行く~」

 P「みんなで行けばどこでも賑やかになりそうだな」

 浅倉「アイスもあるしね」

 P「?」

 樋口「浅倉はアイスが食べたいそうです」

 P「はは、そういうことか。暑いもんなぁ」

 P「この撮影が終わったらアイス食べに行こうか」

 浅倉「いいね、ナイス」

 P「みんな、暑いけど体調にはきをつけてくれ」

 浅倉「おーけー」

 市川「は~い」

 福丸「わ、わかりました!」

 樋口「はい」

 

 今回は、海へ旅行できた4人組という設定で撮影するらしい。

 キャンプ用のテントやランタンなどの小道具もある

 それとキャンピングカー。

 いざ撮影が始まり、海水をかけあったり、ビーチバレーもどきを行ったり、

 バーベキューしたり、1つのテント内で寝転がった。

 できるだけ自然体で撮影したいので特になにも意識はせずに、との指示だったので

 ありのままで行動する。

 小糸がビーチバレーの際、砂に足を取られ転んでいたが大丈夫だろうか

 昼過ぎからの撮影だったが、すっかり周囲には朱色雑じりの暖気が

 まとわりついている。

 

 最後は夕焼けを背景に数枚写真を撮れば今日の仕事は終了となるが

 現在機材準備のため、休憩時間となっている。

 特にやることもないため辺りを見回す。

 雛菜、小糸は何やら談笑しており浅倉は少し離れたところで海を眺めて

 いるようだ。

 

 その瞳にはたしかに眼前に広がる海が映ってはいるが

 果たして本当に彼女はそれを見ているのだろうか

 漫然と揺蕩うその瞳、その姿、その纏う空気には

 私には視えていないその先まで視えているような気配さえ感じる

 私は本当に彼女の隣に立てているのだろうか。

 

 P「お疲れ、円香。どうしたんだ?」

 

 不意にPが話しかけてくる。

 浅倉に気を取られていたため動揺したが、彼にそのような姿は見せたくないため

 いつも以上に落ち着いた素振りで返答する。

 

 円香「特に、なにも」

 P「はは、それならいいんだが」

 

 その後彼は、熱中症には気をつけてくれよ、と付け足す

 

 円香「この暑い中でさえ、そんなものを着ているあなたこそ気をつけて下さい」

 P「あぁ、スーツのことか。こればっかりは仕事だからなぁ」

 

 困ったような顔で眉を下げ、いつもより些か幼げに笑う

 

 円香「それで、なにか用ですか?」

 P「いや、特になにもないんだが」

 円香「そうですか」

 

 動揺を隠せていたことに安堵し、特に用もないようなので浅倉たちの元へ行こうと

 断りを入れようとしたところ

 

 透を見ていたんだけどさ、と彼が唐突に話を切り出す

 P「今回の仕事内容もあってか、以前のパーティーの時のことを思い出してな」

 P「いや!あの時のことを責めてる訳じゃないんだけど」

 P「もし、本当に決めてみんな”が”みんな”で”遠くに行ったとしたらそれはそれで良いことなのかもしれないなぁって」

 P「って、ごめん円香!こんな話聞かせたかったわけじゃ」

 円香「もしまた、私たちがこの世界から逃げ出したとして」

 円香「あなたは放っておいてくれるんですか」

 P「!」

 P「……わからない」

 円香「……無責任」

 P「すまない」

 P「でも、俺は。みんなを守りたいとは思ってる」

 円香「その身に余る正義感と人身御供精神で?それこそ無責任では?」

 P「はは、手痛いな」

 P「それでも、みんながまた帰ってきたい時に帰ってこれるように居場所を守って待っていることしか、俺にはできないから」

 円香「利他主義もそこまでいけば、まるで英雄のようですね」

 P「利があるからやっている訳じゃないさ」

 P「強いて言うなら、このみんなを世界へ引きずり込んだ”贖罪”みたいなものかもしれないな」

 円香「引きずり込んだのは正確に言えば浅倉だけ」

 P「それでも、さ」

 P「みんながアイドルという道を選んでうちに来てくれた以上、引きずり込んだみたいなものだ」

 円香「……」

 P「また以前みたいに、逃げ出したくなるようなこともたくさんあると思う」

 P「逃げてもいい、また戻ってきてもいい」

 P「できれば、俺がいることだけでも覚えておいてくれたら助かるかな」

 

 困ったような顔をして無理やりつくった笑みを顔に貼り付けこちらの顔を覗いてくる。

 

 円香「あなたに会いたくなくて逃げ出してしまった場合は?」

 P「はは、たしかにその場合もあったな」

 

 そのときは、合図でもつくっておかないといけないかな?

 

 彼はその張りぼてのような顔のまま笑った。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 休憩が明け、最後の撮影に取り掛かる

 夕日を背景に4人で談笑する姿を撮る

 写真に声は入らないため、会話の内容は雛菜による

 おすすめのお菓子の話ばかりとなっている。

 そうとはつゆ知らず、この写真をみた人は

 『やっぱりノクチルは”こう”だよな!』

 『浅倉透の雰囲気やば』

 『ずっと仲良しってやっぱエモいわ』

 有り余る想像力で顔も知らない誰かが知ったように賞賛し囃し立てるのだろう。

 なんとなく想像はつく。

 

 それが、私たち”ノクチル”の価値だから

 ずっと仲良しノクチルとか笑えるけどね。

 

 まぁ、今となってはそうなる未来のほうが近いのかもしれないけど

 

 どちらにせよ、思いのほか早く良い画が撮れたのか

 撮影開始早々に今回の撮影が終了したことを告げられる。

 

 浅倉「ふぃーつかれた」

 樋口「お疲れさまでした」

 浅倉「おつかれさま、でした」

 市川「ありがとうございました~」

 福丸「お、お疲れ様です!ありがとうございました!」

 

 P「みんな、お疲れ。いい写真ばっかりですぐ終われたそうだ」

 P「これもみんなのお陰だな、約束通りアイス食べに行くか?」

 浅倉「しゃー」

 市川「雛菜、イチゴのやつがいい~」

 福丸「い、いいんですか?プロデューサーさん、ありがとうございます……」

 樋口「私はなんでもいいです」

 

 彼が運転する車に乗り込み、雛菜が提案するお店へと方向を定める

 そのお店も例に漏れず写真映りが良さそうな華やかな見た目のものだった。

 それが彼らの価値なのだろう。

 

 ほんとにわかっているのか?

 見た目だけ、関係性だけ、視ていないか?

 やつらと同じ……?

 

 

 樋口「美味しい」

 浅倉「うん、サイコー」

 福丸「お、美味しい……」

 市川「うん~」

 

 いや、私はわかっている

 

 

 

 ”やつら”とは違う

 

 

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