ノクチル、散る   作:Leysun

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前後ろ向き

  写真撮影の仕事から数日後

 今日は、浅倉1人だけ仕事がはいっており

 私たちは普通どおり学校へ通っていた。

 

 なにか示し合わせたわけではないが

 3人で帰っている。

 

 福丸「そ、そういえば今日も透ちゃんは1人でお仕事なんだね……」

 福丸「すごいなぁ」

 樋口「いつものことでしょ」

 

 浅倉は

 ”アイドル”浅倉透は上辺だけみる連中に好かれる節があるのだろう

 そのうえ、幼馴染4人組ユニットというおまけもついている。

 手軽に消費されているのだ

 やつらに

 なにも知らないくせにすべてを知った気でいる

 いつものこと

 

 市川「透先輩はどんどん進んじゃうね~」

 福丸「そ……そうだね」

 樋口「……」

 市川「やっぱり透先輩にはずっと進んでてほしいな~」

 福丸「で、でも……!この前の話は?」

 市川「それはそれで楽しそうだけど~」

 市川「透先輩も進んでるし雛菜もどんどん進んじゃうよ」

 市川「方向があってるかは分かんないけどね~」

 福丸「でも、みんなで行こうって……言ってたのに」

 市川「ん~なんか~」

 市川「みんなが行きたいところに行くのがいいと思うな~」

 福丸「でも!」

 樋口「浅倉は……」

 福丸「ぴっ……!」

 

 どこに向かって走っているのだろうか

 その瞳に私たちは映っているのだろうか

 

 樋口「なんでもない」

 樋口「用事思い出したから先に帰る」

 福丸「ま、円香ちゃん!バイバイ……」

 市川「やは~またね~」

 

 先日から、考えることが多すぎて頭が痛い。

 2人に断りを入れ、一足先に帰路へ着く。

 

 右足、左足、右足、規則的な動きで前へと進む。

 2人との会話から逃げ出したのだからむしろ、後ろへと進んでいるのか?

 わからない。

 どちらへ進んでいるのか。

 どちらへ進みたいのか。

 雛菜は、小糸は、浅倉は、みつけているのだろうか

 進みたい道を

 

 樋口「あつい」

 

 知恵熱か、気温か、とにかくあつい。

 熱中症になる恐れもある

 早く帰ろう。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 樋口「なんで?」

 浅倉「なんでって。早く終わったから、仕事。」

 樋口「そもそも私の家、私の部屋」

 浅倉「まあまあ、いいじゃん」

 

 細かいことはさ、と浅倉は私の部屋を物色しながら答える

 

 樋口「あんまり荒らさないで」

 浅倉「なんか、さ」

 浅倉「樋口と話したくて」

 

 だから来た、と一瞬目を瞬きさせて

 今度はまっすぐ私に目を向けながら答える。

 

 海を彷彿とさせる水色掛かった瞳に私の顔が映る。

 一欠けらの燻りもみえないその瞳に見つめられると、

 こちらの心の中すら覗かれているような気さえする。

 

 樋口「なんでそんなこと」

 浅倉「やりたいこと、見つけたくて」

 樋口「車買って、逃げるんでしょ」

 

 やつらから

 

 浅倉「んー」

 樋口「この前話したばっか」

 浅倉「それ以外にもなかったかなって。やりたいこと」

 樋口「アイドル、続けたいの?」

 

 引きずり込まれたものに

 

 浅倉「わからない」

 樋口「それなら」

 

 私の言葉を遮り、浅倉が

 私の目を、ココロを、見据えて口を開く

 

 浅倉「樋口もわかんないんでしょ?」

 

 やりたくない

 やりたくない

 私は浅倉を小糸を雛菜を

 守るために

 この道を進んだ

 みんなのためだ

 私のためじゃない

 私は

 

 浅倉「ね?わかんないでしょ」

 

 

 樋口「もし仮に、万が一にも私が迷っているとして」

 浅倉「すごい言うじゃん」

 樋口「いいから」

 樋口「どっちが正しい道かなんてわからない」

 浅倉「そんなの私にもわからないよ」

 樋口「じゃあなんで」

 

 どうして、前へ進めるのか

 絞り出すように、なんとか口を動かす

 

 浅倉「後ろに歩いたら危ないじゃん」

 

 浅倉「前にしか進めないんだし」

 

 浅倉「多分、樋口はいろんなことを考えられるから、前だとか後ろだとか分かるんだろうけど」

 

 浅倉「私は前にしか進んでないよ」

 

 浅倉「周りの人からみたら、後ろ向きに進んでるのかも」

 浅倉「やば、危ないじゃん」

 

 浅倉透はなにもかも考えているようになにも考えていなかったのかもしれない。

 

 樋口「曲芸でもやれば?うけるんじゃない?」

 浅倉「いいね、それ」

 

 ナイス、と本心か怪しい返答をする。

 いや、本心なのだろう。

 彼女は前しか向いていないらしい。

 

 樋口「手品、練習するか」

 浅倉「勝手にすれば?」

 浅倉「今日買ってきた。手品グッズ」

 樋口「……なんで?」

 浅倉「昨日見たから、ツイスタで」

 

 彼女はバッグを漁るとトランプや棒などのグッズがいくつか顔を覗かせる

 

 樋口「浅倉、貯金はしてるの?」

 浅倉「?なんで?」

 樋口「車、買うんでしょ」

 浅倉「あー」

 浅倉「まーあるよ、最近仕事頑張ってるし」

 

 そう言うと、彼女はトランプなどをバッグの奥に押しやり財布を取り出した

 1、2、3と口にしながら所持金の計算を始める

 

 浅倉「520円は、ある」

 樋口「520円”しか”じゃなくて?」

 

 硬貨から数え始めた時点で嫌な予感はしていたが

 

 浅倉「クーポンならあと何枚か」

 樋口「はぁ」

 

 彼女の”前”は思っていたよりも”後ろ”なのかもしれない

 

 樋口「それで、どうするの?」

 

 必死に財布をのぞき込み、クーポン券を取り出している彼女に問いかける

 

 浅倉「とりあえず、この2枚は期限切れみたい」

 樋口「クーポンじゃなくて」

 

 樋口「車のこと」

 

 浅倉「あー」

 樋口「まぁまだ免許を持ってるわけでもないし、すぐは考えなくてもいいかもしれないけど」

 浅倉「んー」

 浅倉「あ、そうだ」

 樋口「なに?」

 

 

 浅倉「家出、しよう」

 

 

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