浅倉「家出をしよう」
市川「へぇ~?」
福丸「い、家出……!?」
樋口「……」
先日、告げられた時と同じように
雛菜と小糸にも唐突に提案している。
樋口「説明なさすぎ」
浅倉「大丈夫でしょ」
樋口「そんな」
市川「雛菜はいいよ~!」
福丸「で、でも迷惑かけちゃうよ……」
浅倉「大丈夫、夕飯までには帰るから」
市川「それ家出っていうの~?」
浅倉「家は出てるし」
市川「たしかに~」
福丸「そ、それなら……」
先日
浅倉『家出、しよう』
樋口『は?』
浅倉『わからないんでしょ?なにしたいか』
浅倉『じゃあやろうよ、とりあえず』
樋口『520円しかないのに?』
浅倉『それはまあ、経費削減というわけで』
樋口『はあ』
浅倉『いいじゃん、お願い』
樋口『どうせまた、映画かなんか観たんでしょ』
浅倉『バレてたか』
樋口『分かりやすすぎ』
浅倉『でも、樋口も満更でもないんでしょ?』
樋口『さあね』
浅倉『ふふ、了解』
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思い返してみれば、私にもそこまで説明していたわけではなかった
今更気にしても仕方ないか。
浅倉「それじゃ、行こうか」
福丸「え!も、もう……?」
浅倉「オフ、今日くらいしかないし」
市川「あは~、お仕事頑張るっていっちゃったもんね~」
浅倉「そういうこと」
各々家出もどきをする準備を済ませる
まぁ簡単な手荷物を持つだけだが
浅倉「よーし」
浅倉「お母さーん、家出してくるー」
浅倉母「夕飯までには帰ってくるのよ~」
浅倉「わかってるー」
樋口「親公認の家出ってなんなの?」
浅倉「かわいい子には旅させよって言うし」
樋口「それ使い方違うし」
市川「やは~いってきまーす」
福丸「い、いってきます……!」
樋口「行ってきます」
浅倉母「はーい、みんなも気をつけてね~」
浅倉家を後にし、歩を進める。
福丸「そ、そういえばどこに行くの?」
浅倉「海に出よう」
浅倉「もっかい、みんなで行きたかったんだ」
樋口「いいんじゃない」
樋口「予行演習も兼ねてるんだし」
市川「雛菜、コンビニ寄りた~い」
浅倉「いいね」
樋口「520円しかないのに?」
浅倉「貯金箱に310円はあったからほぼ1000円はある」
樋口「小学生?」
福丸「透ちゃん、貯金はしておいたほうがいいよ!」
福丸「なにがおこるか分かんないんだし」
浅倉「ま、こっちの方が良いかもしんないし、大丈夫だよ」
福丸「そ、それはそうだけど……」
コンビニに到着し、飲み物や軽食を買う
これは予行演習だし、本番はまだ先だ
貯金などはあまり気にせずともいいだろう。
財布と商品を交互に睨み、恐らく所持金の中で最大限の買い物をしようと
悩んでいるところであろう浅倉を横目に会計を済ませる
結局、浅倉だけ10分ほど時間を要し、コンビニを後にする。
浅倉「しゃあ、海行くか」
どうやら単価が安い駄菓子を大量に買ったらしく大きく膨らんだレジ袋を提げ
指揮を執るように高らかに宣言した。
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夏、猛暑、東京某所
熱気が行き場を求め、空へ向けどこまでも伸びている。
太陽から向けられる熱気や陽射しには辟易とする。彼が言ったように、まるで居場所を守られているようだ。
いつもより鬱陶しい程に陽光が眩しく感じる。
つい、目を逸らす
目を逸らした先に、記憶に新しい車が私たちの横を通りすぎて行くのが目につく。
樋口「あ」
市川「あ~この前のアイス屋さんだ~」
浅倉「ずる、私たちも乗せろー」
福丸「と、透ちゃん!迷惑かけちゃダメだよ……!」
浅倉「大丈夫、タクシー代は払うから」
樋口「何円あるの」
浅倉「…………26円」
よほど、計算がうまかったみたいだ。
樋口「小学生以下」
浅倉「でもお菓子はある、いっぱい」
樋口「じゃあ1ついただき」
浅倉「あ、こらー」
浅倉が提げている袋に手を入れ、無作為にお菓子を1つ取る
市川「雛菜ももらうね~」
浅倉「こらー」
市川「はい、これ小糸ちゃんの分~」
福丸「と、透ちゃん……いいの?」
浅倉「んー」
浅倉「いいよ、安かったし」
福丸「あ、ありがとう……!」
4人でいつも通り
歩く
歩く
その行先が各々にとって前か後ろかも分からずに
歩く
歩く
今は海へ
少なくとも私は浅倉の隣を目指してただ歩く
浅倉「あ、海」
市川「涼しい~!」
福丸「き、きらきらしてる……」
陽光が海に反射し、まばらに瞬く星のように輝いている
無限にもみえる、その星団を眺めれば星座のようなものさえ見つかるんじゃないかと
錯覚しそうになる。
水平線の先を見れば、書店で見かけたことがある本のタイトルに似たような表現があった。
限りなく透明に近いブルー
たしかに、ある
その本の内容はその美しさにそぐわない、醜い現実じみた話で早々に読むのを辞めた覚えがある。上辺だけで
見えた気になるのは最早私らしいのか、と嘲笑する。
『私は前にしか進んでないよ』
ふと、浅倉が言っていたことが脳裏をよぎる。
ここからでは上辺しか見えないがあれが私の”前”なのかもしれない。
太陽に照らされた、光を反射させる道が視える
それが、前か後ろなのかも分からない
だが、どうやら私は進むしかないらしい
お隣さんは、彼女は、浅倉は、透は
絶えず前を向いている
絶えず前へ進んでいる
絶えず私を置いていく
彼女にはこの道がどう視えているのだろうか
顔をお隣さんへやる。
そこには無限にもみえる光が反射した瞳があった。
そして、意を決したように口を開く
浅倉「わかった」
樋口「なにが……?」
浅倉「限りなくブルーに近い透明、だ」
樋口「は?」
浅倉「海みてたら、思い出した」
浅倉「なんか見たことある、本のタイトル」
樋口「それ」
間違いを指摘しようと口を開いたが、やめる
本のタイトル、としては間違いなのかもしれないが
浅倉透が視た世界の見え方、としてはそちらのほうが正しいのだろう。
樋口「いや、なんでもない」
浅倉「なに」
樋口「そんなことより、いつまでここにいるの」
浅倉「あー」
浅倉「見つかるまで、でいいんじゃない?」
道ってやつが。
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ぼくたちがみてる海
ぼくたちのみえない海
その前《さき》で52ヘルツの叫びがきこえる
ぼくたちはここにいる
ぼくたちはいきている
ぼくたちはすすんでる
前にも
後ろにも
上にも
下にも
みえないみらいの目の前に
ぼくはきょうもすすむだけ