モブ一人称のシャニマス二次創作   作:Leysun

1 / 1
第1話

 

 『あんなクジラみたいなの、入れとく生け簀

  なんてないですよ』

 

 我ながら言いえて妙だな、とほくそ笑む。

 血相を変え、律儀に何度も断りを入れてから走り

 出した283プロダクションのプロデューサーの

 背中を眺めながら考える

 この業界で生きていくには少々不器用だ、と感じる

 彼のその狂気すら感じる真面目さは

 

 すべての物事に真面目に取り組むのが悪いこと

 ではない

 むしろ、人間はみなそういう風に生きていきたい

 ものなのだと思う。

 しかし、未来に夢を見て、未来に期待するほど

 現実ってやつに辟易とする。

 

 真面目であることが悪いことではない

 真面目であることは疲れるのだ

 どうしようもない程に

 現実ってやつは雁字搦めで生きにくい

 

 だが、それ故にアイドルという夢に魅せられるの

 かもしれない

 

 ま、芸能界も裏ではがちがちに絡まっているのだ

 から救いがない

 先日、彼に紹介したようなプライベートの

 パーティーなどが良い例だ

 仕事外でもコネをつくり、今後の仕事につなげる

 ことに余念がない

 アイドルも裏へ潜めば売り物であることに違い

 はないのだ

 

 できるだけ従順につくりあげ、それを売り込む

 それがプロデューサーという仕事であるはずだ

 しかし、彼はそうきっぱりと割り切ることは

 できないらしい

 彼女たちをできるだけ現実ってやつから守って

 いるのだろう

 

 「真面目だねぇ」

 不意に口に出る

 思わず、周りを見渡すが誰も近くにいなかった

 ため安堵する

 

 彼をみていると、つい若い頃

 まだ未来に情熱を燃やしていた頃の自分を重ねて

 しまう

 もうそんなに若くないのにねぇ、誰に聞かれてい

 る訳でもいないが、つい自重してしまう

 これも、現実に染められてしまった影響なのか

 出る杭は打たれる、喬木は先に吹かれる、

 高木は風に折らる

 似たような昔の言葉が、何個もある

 要はあんまり目立つなって話だ

 他人と違う考えを持つと、嫌でも目立つものだ

 現実に染まってしまった人間と情熱的な真面目

 人間は衝突する

 対照的だからだ

 そのうえ、圧倒的に現実に染まり切った人間の

 ほうが母体が大きい

 利口な人間はすぐにそちら側へつく

 この檻へ囚われるのだ

 私もそうした

 昔の人はいい言葉をつくってくれたものだね

 良い教訓になるよ

 いや、未だに残っているということは変わって

 いないから"今"の言葉でもあるのか

 人は昔から、今と同じようなことにも苦しんで

いたのか、と遠い過去に勝手に親近感を覚える

  

 さきほど、熱気に中てられたからなのか

 少し身体が火照っているように感じる

 気分転換と身体を冷やしに少し歩こうと思い、

 外へ向かう

 

 時刻も夕方だ

 心地よい風、はないが昼間と比べれば暑さも鳴り

 を潜めている

 暑さも利口じゃないか、と誰に伝わるでもない

 冗談を吐く

 にやけそうになる口元を隠しながら空を見上げる

 雨雲ほどではないが、大きく育った雲が空の大半

 を埋め尽くし

 雲とビル群の隙間からかすかに黄みがかった橙の

 火が漏れている

 

 空だけは、いつも変わらないように

 このビル群も、この喧噪も、この今昔にかかる檻も

 すべて包みこむようにそこに在る

 

 なにもかも見えているようになにも視えない

 全容がつかめない

 だからこそ魅せられるのかもしれない

 

 彼女、浅倉クンも

 つかめない美しさを感じることが多い

 実際、何人もの人間が彼女に魅せられていることも

 そういったことが要因なのかもしれない

 分からないことは、知りたがるのもまた人間とい

 う生き物だ

 あのワイン坊やも、驚くことを知りたがっていた

 みたいだし

 今回、浅倉クンはなにかやってくれちゃったみた

 いだからきっと喜んだに違いないだろう

 

 「クジラで空ねぇ」

 

 ますます283さんが思いやられるなぁ

 我々人間じゃ、到底飼いならせるものじゃないよ

 

 でも

 

 それは現実に染まった人間としての意見なのかも

 しれない

 妥協し、生き方を捻じ曲げた人間の捻じ曲がった

 憶測でしかない

 

 もしも、彼のように生きていたら

  

 彼のようにまっすぐでいたなら

 

 たらればの理想論を語りたいわけではない

 しかし、その生き方を諦めた人間からみれば

 ”君”も十分、十二分に夢なんだよ

 

 「楽しみにしてるよ、283さん」 

 

 思わず、口に出す

 横を通りがかるスーツ姿の現実人間に怪訝な目線

 を向けられるのを感じる

 つい顔を空に向け逸らす

 

 出る杭は打たれる、喬木は先に吹かれる、

 高木は風に折らる

 だが、打たれても折れなければ?

 だが、吹かれても折れなければ?

 だが、高く育っても折られなければ?

 

 

 「生け簀なんてものはいらないのかもねぇ」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。