時間あった上で遅れるとか正気かこいつ。
「すみません、ちょっと宜しいですか?」
戦闘終了後、ベルナが少し顔を顰めて話しかける。
私ではなく…横に座っているファウストに。
「何でしょうか。」
私達は今、戦闘を終えて再び移動を開始した所だった。
銃で撃ったり刀で斬ったりしていたけど…あのヘルメット達は何故か目立った傷も無く生きていた。
道端に避けといたから、車で轢かれたりすることはないだろう。
「私は入社条件の一つとして、"可能な限り人を傷つけないこと"を挙げた筈です。」
「この戦闘は、明らかに無視できるものでした。その上で戦闘を行ったことに対する正当な理由を求めます。」
話を聞くに、何か契約違反の様なことをしてしまったらしい。
それに対してファウストは…
「一つ目の理由は、ダンテに指揮を覚えてもらうことです。」
「いつであれ、実践に勝る訓練はありませんから。」
ベルナは険しい表情を崩さず、次の言葉を紡ぐ。
「何故戦闘に慣れた方を管理人として指名しなかったのですか?そもそも、予め本社で訓練しておくといった方式も取れたでしょう。」
「それが必要な事項だったからです。機密事項の為、理由の開示は不可能です。」
「…はぁ。」
ため息を吐いて、ベルナは頭を振る。
どうやら呆れているらしい。
「…それで、他の理由は?」
「二つ目は、このバスの燃料に関わっています。」
…戦闘が、燃料?
〈どういうこと?〉
「このバス、メフィストフェレス2号機は、エンジンの起動に神秘を必要とします。」
「そして、キヴォトスの生徒達は気絶する際に微弱な神秘エネルギーを放出します。」
〈つまり、戦闘で気絶させないとエネルギーが補給できないってこと?〉
「はい。囚人達を気絶させることでもエネルギーは補給できますが、無用な確執と苦痛を生むだけでしょうから推奨はできません。」
「…どうしてそんなシステムにしたんですか?他の燃料を用いることも可能だった筈です。」
確かに、普通のバスであれば燃料はガソリンを使う。
何故こんなシステムにしたんだろう?
「必要だったからです。」
「まさかファウストが、メフィストフェレスをただのスクールバスとして作ったとでも思われましたか?」
そう言うとファウストは立ち上がり、運転席へと向かった。
着いてこいと言われている気がして、後ろに続いて運転席へ移動する。次いでベルナが怪訝そうな顔で着いてきた。
ファウストは運転席へ向かうと、幾つかのレバーやボタンを操作する。
少しして、運転席に備え付けられた箱から物音がした。
「バスが神秘を『摂取』する際に発生する副産物…」
「皆さんはそれを通じて強くなることができます。」
「ダンテ、中身をご確認下さい。」
開けてみると、バラの様にも脳の様にも見える謎の物質が入っている。
〈花みたいだけど、なにこれ?〉
「それは狂気です。」
〈…狂気って精神状態のことを言うんじゃ無いの?〉
「その認識で合っています。」
「これは、人の抱く狂気を物質として具体化したものです。」
試しに触れてみると、空気に溶ける様にして狂気は消えてしまった。
それと同時にPDAから軽快な音が鳴る。
見ると、"LUNACY"と書かれた項目の数が1300増えていた。
「無事に取得できた様ですね。」
「では、次はこちらに。」
バス後方の扉を開いたファウストに続いて、扉の中へと入って行く。
いつの間にか、ベルナ以外にも何人かが後ろに着いて来ていた。
「なになに〜私達が強くなれるって?」
「気になるな、俺らも連れてけ。」
扉の中はどこまでも続く廊下だった。
その果ては見えず、ただ延々と扉とランプが続いている。
しかし、ある程度の場所でテープが引かれていたことから、入っても碌なことにはならなそうだ。
ファウストは『人格抽出』と書かれた扉を開くと、私に入る様促した。
「こちらへ、ダンテ。」
その中は、不思議な空間だった。
光を内包した鎖の球が、何本もの鎖で吊り下げられている。
鎖は常に蠢いており、生き物の様にも見えた。
「手を伸ばして下さい、ダンテ。」
そう言われ、鎖の中の光へと手を伸ばす。
数多の可能性が私の頭を駆け巡る。
幾つもの手が私の手を擦り抜け、或いは跳ね飛ばし、或いは弾き返す。
その中からなんとか一人の手を掴み、こちらへと引き摺り出した。
引き摺り出したと思ったその手は、元から無かったかの様に消えていて…
いつの間にか、私の手の中には硝子でできた謎の立方体だけが残っていた。
〈…なにこれ?〉
手に入れたはいいものの、これが何なのかさっぱりわからない。
サイズや形状は麻雀牌に似ているだろうか。
「それは、人格牌です。」
「ダンテ、PDAの横に差し込み口があります。そこに挿入して下さい。」
言われた通り、PDAには確かに差し込み口が存在していた。
いつからあったんだろうか。
人格牌は差し込まれると同時に飲み込まれていき、内側で硝子の割れる様な音を響かせる。
一瞬のロード時間を挟んで…
《救護騎士団 ベルナを獲得しました》
画面には、服装と武器を変えたベルナの姿が映っていた。
「…なんですか、これ?」
「それは、あなたの異なる可能性です。Limbus Companyでは人格と呼称しています。」
「ダンテ、囚人の設定画面を開いて下さい。」
開いてみると、ベルナだけ別の人格を選べる様になっている。
試しに選択してみたけれど…効果は一瞬で現れた。
鏡が割れる音と共に、ベルナの姿が変化する。
羽織っていたコートは消え、背中からは白い翼が生えて。
頭にはナース帽、内側に着ていたシャツもナース服に変化していた。
「わ…凄いですね、これ。」
今までの怒りは何処に行ったのか、感嘆した様子でベルナ?が呟く。
〈えっと…ベルナ、だよね?〉
「はい、あなたのベルナです!」
笑顔を浮かべながら、ベルナがこちらに向き直る。
見に纏う雰囲気から喋り方の癖まで、その全てが変化していた。
「鏡の世界にいる私たちの全ての可能性のうち一つを引っ張り出すので、記憶が少し上書きされている筈です。直に慣れるでしょう。」
「それ、大丈夫なの…?いつか私が私じゃなくなる日が来るんじゃ…」
それを聞いて、
赤い瞳と、鋭い視線。
それが何なのかは思い出せなかったけど、とても重要なことな気がした。
「みなさんは、テセウスの船ではありません。」
「人格と記憶を借りてはいますが、主導権を失う様に設計はされていません。」
「ファウストが保証します。」
ファウストは、説明を終えるとベルナに対して嘯く。
「これが二つ目の理由です。納得して頂けましたでしょうか。」
元の姿に戻ったベルナは、葛藤と不満の表情を行き来した後…
「……まぁ、良いでしょう。納得する様にします。」
…その理由に納得した。
よっぽど先程の人格が良かったらしい。
それを聞いた後、ファウストは私に向き直る。
「私たちがどう成長するかはダンテさん次第です。」
「鏡の世界の多様な可能性を、最も効果的なタイミングで上書きする仕事をなさるでしょうから。」
「さながらメタモルフォーシスの様だな。いや、実際にそうであるからこそ、この感想を抱いたのだろう。」
「メタモルフォーシスって?」
「えっと、確か変身って意味です。古い言葉だから知ってる人は少ないですけど…」
「よく知ってるわね、二人共。」
「変身ねぇ…」
囚人各々が、異なった反応を見せる。
不安そうな表情を見せる囚人も居たが、大半は好奇心を唆られた様な顔をしていた。
「さて、そろそろバスに戻りましょう。暫くここに用事はないでしょうから。」
そう言うとファウストは、バスの中へと戻る扉を開く。
ぞろぞろと囚人達は出ていき、扉を開いたまま横に避けていたファウストと私だけが廊下に残った。
「ダンテ、まだあなたには説明すべきことが沢山あります。」
「ここは何処なのか、あなたは何をすべきなのか、ヘイローとは何か、その手鏡は何なのか…」
「それでも、一先ずはこの言葉を贈りましょう。」
「"ようこそ、キヴォトスへ"。管理人。」
次回から1章…と見せかけて、もう1話だけ挟みます。
といっても大分短いので、二本同時に投稿する予定。
明日から少し忙しいので、本編の投稿は6/6となります。
モチベーションにもなっている為、面白いと思った方は感想及び評価、お気に入り登録よろしくお願いします。
(追記 6/5 6:14 タイトル番号を変更しました。)
戦闘描写ショボくていい?
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時間かかってもいいからちゃんと書いて
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削っていいから早く投稿して