今回から1章突入です。
1-1 : 初任務
あれから数日。
私は囚人達に色々と教えて貰いながら、延々と経験値採光や不良の撃退を続けていた。
不良の撃退といっても、そんなに襲撃が多かった訳ではない。
2日もすれば私達の噂が広まったのか、向こうから吹っかけてくる様な奴らはとても少なくなっていた。
まあ、それでも襲ってくる不良達には事欠かなかったけど。
「えりゃー!」
「ゴフッ…。」
レイが銃で直接殴っている様子を見ながら、もうこんな状況にも慣れたなと思う。
ここはブラックマーケット。
なんでも学園どころか連邦生徒会も手を出せていない、言わばスラム街の様な場所らしい。
学園に入れず追いやられた不良から、組織立って動く危険組織まで選り取り見取りなこの場所で、私達は狂気集めを続けていた。
あの後、残った狂気で
今はまた狂気を集めている最中だ。
幸い20連目に手に入れた人格が優秀なお陰で、今のところは圧倒できてるけど…この先どんな敵と戦う羽目になるかわからないし、備えておくに越したことはない。
私は紐採光でそれを学んだ。
ファウストに聞いた話だと、紐採光で戦った
自我だけで実在性を保っているとか、心そのものを具現化した存在とか色々言われたけど…要約すると、「E.G.Oの様な力を振るってくる怪物」という認識でいいらしい。
「終わったよ、管理人。」
不良を倒し終えたナナが、私に報告してくる。
今の彼女からは黒いツノと翼が生えており、尻尾がない事を除けばその姿は悪魔の様に見えた。
〈うん、お疲れ様。〉
「…ん。」
PDAに"戦闘勝利"の表記が出ると同時に、ナナの人格が剥がれていく。
後に残ったのはがらんどうを人の形に押し込めた様な人形だけだった。
〈もうバスに戻って良いよ。もう夕方だし、今日はおしまい。〉
「…」
返事を返す事なく、ナナはすたすたと歩いて帰っていく。
〈他のみんなもお疲れ様。今日はこれでおしまいだよ。〉
「やっと終わったか…飯…」
「今日もお疲れ様、ダンテ!」
「えー、もうおしまい?ちょうど温まってきた頃だったんだけどなぁ…」
「休む事も仕事だよ。明日に備えるがいいさ。」
一人、また一人とバスの中に戻っていく。
全員が席につく前に、いつもの台詞を言うことにした。
〈囚人の業務終了を承認します。〉
囚人達は席につくことなく、そのまま奥の部屋へと戻っていく。
ファウストを除いて。
ファウストは運転席の機器を起動すると、幾つかのレーダーや画面を確認し始めた。
そういえば、メフィストフェレスには"黄金の枝共鳴と硝子窓を活用した自動運行システム"を搭載してるらしくて、行くべき場所に勝手に向かってくれる…みたいだけど、正直よく分からない。
ファウスト曰く、「案内人の代わり」らしいけど…本来なら案内人が居たのだろうか。
何かを確認し終えたのか、ファウストは操作を止めて顔を上げる。
「…もうそろそろですか。」
〈何がそろそろなの?〉
後ろから機材を覗き込んでみたが、素人では何もわからなかった。
「ダンテ、このバスはブラックマーケットを離れることとなりました。」
〈え?どういうこと?〉
唐突すぎてよく分からない。
「以前、あなたの役目について話した事を覚えているでしょうか。」
頷きを返す。
確か、黄金の枝とかいうのを集めること…らしい。
黄金の枝についても説明を受けたが、直接見ていないからかあまりピンとこなかった。
「メフィストフェレスが、向かうべき精髄の在処を捕捉しました。」
「初任務ですね。」
〈大分景色も変わってきたね?〉
段々とビルや人工物が減り、代わりに砂や廃墟が増えてきた。
以前は栄えていたのだろうこの街並みも、今となっては砂嵐に吹かれて寂しげな表情を覗かせるばかりだった。
〈ここはどこなの?〉
「ここはアビドス自治区、キヴォトスでも最大規模の砂漠です。」
ファウストが返答を返す。
囚人達の様子は、外を楽しげに観察したり、手元の端末に集中していたりと様々だった。
ただ一人を除いて。
「……はぁ。」
明らかに気落ちした様な顔が心配になり、ルナへ声をかける。
〈大丈夫?凄い顔色してるけど…〉
「…あぁ、管理人さん。大丈夫です。はい。」
ぽつぽつと絞り出される様に出てきた声は、隠しきれない憂鬱と悲しみを含んでいた。
たった数日間だけの付き合いとはいえ、こんなあからさまな落ち込み方をするのは初めてだった。
〈本当に大丈夫?〉
「…いえ、大丈夫じゃありません。だけど、どうにもならないことなので。」
諦観に満ちたため息を吐く彼女に、何かできることはないかと考える。
だけど、記憶を失ったこの頭には何も浮かんでは来なかった。
突如、バスの中に警報が鳴る。
と言っても、襲撃された時の様なけたたましい音ではない。少しうるさい程度だ。
〈何かあったの、ファウスト?〉
警報を聞くや否や即座に立ち上がり、運転席を見に行ったファウストが呟く。
「バスの前に、人が倒れていた様ですね。」
〈え?こんな砂漠で!?〉
それって死体じゃ…
嫌な予感がよぎった私は、ベルナに声を掛けながら外に出る。
前に倒れていたという人を見ると同時に、何か違和感を感じたけれど…とりあえずは生存確認だと、体を起こした。
「…この人、ヘイローがありません。それだけじゃない、管理人さんと同じ大人です。」
……?
…!
言われてみればそうだ。
何故違和感を感じたのか、それは
確か、キヴォトスには基本、大人は居ない筈じゃ…
そんなことを考えていると、目の前の男性は呻きを発した。
「…!意識は戻りましたか、大丈夫ですか!?」
声を張り上げて、ベルナは叫ぶ。
その声を聞いたのかどうかは分からないが、男性はぽつりと呟いた。
"み……水………。"
〈…とりあえず、バスに運び込もうか。〉
このまま放置するのも、外で処置するのもなんとなく嫌になり、バスの中で水を飲ませることにした。
〈ベルナ、左抱えて。私は右抱えるから。〉
「わかりました、せーのっ…!」
なんだか涼しい。あと暗い。
砂と太陽に焼かれて熱くなっていた体には、その両方がありがたいものに思えた。
突如、口に何かが押し込まれる。
ゆっくりと流し込まれる冷たい水に、これがペットボトルなのだと理解した。
水かぁ…。
水?
見知らぬ人からひったくるようにしてそのペットボトルを掴み、ごくごくと音を立てて一息に飲み干す。
水に反応して目覚めた意識について行く様にして、段々と視界も明瞭になっていった。
"ぷはっ…ありがとう!助かったよ!"
ペットボトルを口から離しながら、目の前の子に感謝を述べる。
見た感じ、どこかの生徒かな?
少し驚いた様子で、綺麗な黒髪の子は私に微笑む。
「え、えぇ。大丈夫ですか?砂漠で倒れてましたけど…」
"うん、水貰えたからね!"
周囲に目を向ける。
見た所、ここはバスか何かの車内だろうか。
黒と赤を基調としたデザインの車内は、どこか見覚えがある様な気がした。
誰も座っていない運転席に、後部に取り付けられた謎の扉。
窓から見える景色から、ここが先ほどまで倒れていた場所と同じなのは明白だった。
"ところで、君の名前は?"
「黒淵ベルナです、どうかしましたか?」
"ちゃんと名前付きで感謝を伝えてなかったなって思って…"
"ありがとうね、ベルナ。"
そう言いながらこちらが笑えば、ベルナも笑みを返してくる。
「どういたしまして。それで、あなたはどうしてこんなところに?」
"アビドス高校に向かってる最中だったんだけど、水とか食料が無くて倒れちゃって…。"
シャーレを出る前に、『多分なんとかなるでしょ』とか考えていた自分を殴りたくなる。
本当に危なかった。
「でしたら、送っていきましょうか?」
"いいの?"
「はい、と言っても管理人さんに許してもらえればですが…」
「あなたを見て真っ先に出て行ったのも、管理人さんなんですよ。」
どうやら、管理人という人物がいるらしい。
その人にも挨拶しとかなきゃな。
「あ、ちょうどいらっしゃいましたね。」
「管理人さん、さっきの人起きましたよ!」
私の後ろに向かって、ベルナが声を掛ける。
自分も挨拶しようとして振り向くと…
そこには、時計の頭をした大人が立っていた。
"うわぁ!?"
なんか先生のエミュ上手く行かなかった気がする…
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次回の投稿は6/8を予定しております…が、予定が多く、遅れる可能性大なのであまり期待はしないで下さい。
戦闘描写ショボくていい?
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時間かかってもいいからちゃんと書いて
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削っていいから早く投稿して